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人に寄り添うことが成功の法則

アジアはインド、南部の都市チェンナイで生まれたクリシュは、常にトップを走り続けている。中学~大学まで首席で卒業し、1996年から携わっている人材ビジネスの世界でも、圧倒的な成績を残し続けた。プライベートで突如降りかかった悲しみを乗り越え、新天地でこれまで以上の輝きを放つ彼は、確固たるビジネス哲学と成功を手繰り寄せるテクニックを持つ。世界標準のコンサルタントは、ロジカルに、情緒的に、ときにユーモアを交えながら、言葉を紡いでいった。

ITと金融の知識を生かしてトップコンサルへ

本当は自分自身について語ることは苦手なんです。インタビューの冒頭、クリシュはそう口にした。その理由として続けた言葉が、彼の性質を表しているようだった。

「自分のことよりも、私の師やクライアント、求職者や仲間について話すことの方が好きなので」そう言って笑顔を見せる。でも観念しますよ、何でも聞いてください、と言わんばかりに。

大学で経済学を専攻していたクリシュは、在学中に株式市場や資金調達に興味を持ち始め、授業が終わると株取引のサブ・ブローカーの仕事に従事した。大学卒業後はITの世界に関心を持ち、金融業界向けのシステム開発に携わる。そんな中、ITと人材ビジネスを行っている企業から声をかけられ入社し、二つの業種に携わることになった。人材ビジネスの分野でクリシュが担当したのは、アメリカのIT企業への人材紹介。平均で年に40~60件の成約を挙げていたという。ITの分野でも、金融機関向けのソフトウェア開発のプロジェクトに関わるうちに、クライアントから金融に関する知識を認められ、金融業界の人材を紹介して欲しいと依頼されるようになった。2001年にはシンガポール拠点の立ち上げメンバーに抜擢。新拠点をゼロから設立して軌道に乗せるも、同社とのビジネス観の相違から転職することに。その後はシンガポールのアウトソーシング会社へ転職し、ITや金融分野にフォーカスして派遣スタッフの管理を行った。インドネシアに初めて訪れたのもこの頃だった。当時、人材派遣のマージンは大きく、売上げも収入も拡大。シンガポールが気に入り市民権も取得した。全てが順調に進んでいたが、クリシュはまだ満足していなかった。

喪失を乗り越え、インドネシアで新たな人生がスタート

 そこで私の旅は終わりませんでした。彼独特の言い回しで、クリシュは自らの転機について語る。

「全てにおいて自身で行き着けるところまでたどり着いたので、これ以上は成長できないと感じたのです。そんなとき、友人から『自分でビジネスを始めたらいいじゃないか』と勧められ、迷った挙句、友人数名と会社を始めました」

2007年7月のことだった。事業はコンサルティングとエグゼクティブ・サーチ。ITと金融に強みを持っていたクリシュだったが、様々な業界に関わるうち、あらゆる分野で学習曲線が伸びていった。同時に人材ビジネス向けのソフト開発も行い、2008年から販売をスタート。オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、インドネシア、タイ、マレーシア、香港に2000社以上のユーザーを抱えるようになった。

だが2013年8月、彼は唐突に歩みを止める。妻の死という、人生で最も大きな挫折に直面したことが原因だった。3歳のときに知り合って以来、ずっとクリシュを支えてきた妻。その喪失感は言い表せないほど大きく、くじけてはいけないと幾ら言い聞かせても、その思考は停止したままだった。翌月、所属していた会社から離れ、休暇を取ってジャカルタを訪れたクリシュは、ソフトのクライアントであり、知り合いでもあったJACインドネシアのマネージング・ディレクターに連絡をする。事情を知った彼女は、無条件でクリシュを雇用した。多忙な仕事が、結果的に彼を早く立ち直らせることになった。

「彼女は私をとても忙しくさせました(笑)。けれど、おかげでようやく私の集中力も戻ったのです。私はインドネシアに来て間もないですし、それほど人脈も持っていませんでした。そのため時間と努力を費やして、最初の成約を一ヶ月で挙げたのです」

危急の際の友こそ誠の友である、という言葉がある。その通り、サポートが必要なときに、支えてくれる人を非常に尊敬しているのだとクリシュは話す。自らの育った文化や家庭が、まさにそうだったからだという。現在、彼は同社でチームを率いるリーダーの一人だ。任せられる仕事も多く、目標を達成しなければいけない責任もある。だが、もう立ち止まってはいない。「何が起きても人生は続きます。それに、私はここにいることをとても誇りに思っていますから」

常に言い聞かせるのは“お客様は神様である”

お客様は神様である。日本人にとって馴染み深い言葉だが、実はクリシュも、マントラ(神秘的な威力をもつ呪文)として自分に何度も言い聞かせているのだという。お客様とは、クライアントと求職者、双方のことを指す。

「この業界では、一方でクライアントと、もう一方では就職希望者と親しくする必要があります。例えば私たちは、クライアントから送られてきた1枚の紙からだけではなく、『なぜ、どのように、どこで、誰と、何を』と多くの質問をして、たくさん知識を得ようとします。交流を通じ、『私たちはあなたのそばにいます』と伝えることで、彼らから信頼を受け、それが多くの成功に繋がるのです」

こんな事例があった。ある大企業が営業マンを求めていたとき、クリシュは適切な候補者を探し、企業との面談を設定した。三度のインタビューは問題なく進み、このまま成約に繋がると思っていたところ、最終面接で社長がNOを出した。その理由を知るために、電話やメールではなく、直接会いに行って尋ねたのだという。「このマッチングは完璧で、100%大丈夫です。理由を教えていただけませんか?」すると、求める人種ではなかったから、という理由が明らかになった。人種差別に繋がる可能性のあるデリケートな理由のため、通常であればメールや書面はおろか、電話でも明かされることはないだろう。しかし会いに行くことで信頼関係を築き、初めて知ることができた情報だったのだ。同様に、求職者に対しても信頼関係を築き、良いサービスを提供することで、新たな求職者を紹介してくれるメリットがある。その場合、電話で人材開拓をするより、1000倍も上手くいくという。そして、さらに人脈が広がっていくことが見込めるため、お客様を神様のように大切に接する必要があるのだ。

やり取りはメールではなく、基本的に電話

また、トップコンサルタントとしての成果を出すために必要なのは、時間管理。それができないと、何も成し遂げられないとクリシュは断言する。一日を4等分し、タスク管理を行うのが彼のやり方だ。例えば1日の労働時間が8時間の場合、2時間ごとに区切って、抱えている全ての案件にフォーカスできるよう、行動目標を立てるのだ。ちなみに優先度の高い仕事は、朝一番に設定する。優先度の高さとは、その仕事が緊急なものであるかどうか。すなわち、自分がある場所にいる必要があるかどうかということ。例えば、クライアントに重要なものを届ける必要がある場合などだ。また、私個人の意見であると前置きをした上で、「朝7時~9時の間は誰もが話をすることができる時間である」とクリシュは言う。そのため、全てのフィードバックはその時間内に処理するのだそう。しかもメールを避け、できる限り電話で。

「メールで人間の感情を説明することはできない、というのが私の揺るぎない持論です。話をして相手の声を聞いてこそ、どんな感情や状態なのか理解することができます。ですので、私は頻繁に電話をすることを自分に課していますし、会いにも行きますね」

会って直接話をするという、最も原始的なコミュニケーションは、インドネシアでビジネスを行う上で非常に重要なのだという。それはあまり自分の意見を発さず、心を許すのに時間がかかる、インドネシア人の国民性による。

「多くのインドネシア人は、仲間だと思わないと心を開きません。それには時間がかかるため、直接コミュニケーションをとることが必要です。そのため、求職者へのフィードバックや、クライアントへのインタビューのリマインドなどを行なう際、私は必ず電話をします。人材ビジネスでは、人間的な感触が重要になってくるからです」

もし5つの案件があり、それぞれに5人のエントリーがあれば、コンサルタントは25通の履歴書を受け取る。そして1社につき25通を送ると、合計125回のやり取りが必要になるが、それでもクリシュは直接コミュニケーションを取るスタイルを崩さない。もちろん、一社あるいは一人だけのためのコンサルタントではないが、人材ビジネスでは人間的なやり取りが重要であることを、誰よりも知っているからだ。

後輩には決して怒らず、クライアントには謙虚に頭を下げる

トップコンサルタントが時間管理以外にフォーカスしていること。それがロードマップの設定だ。ただ目標設定するだけではなく、現状の案件数、優先順位、成約見込みなどを分析する必要がある。その上で、会うクライアントや求職者の数、クライアントに送る履歴書の数、面談の設定数などKPIを設定し、きっちりこなしてこそ成約に繋がるのだ。クリシュはロードマップの重要さを、後輩コンサルタントにも教え込んでいる。そうでなければ、どの案件にフォーカスすればいいのか、迷ってしまうからだ。

また、彼は後輩に指導するときに重要なこととして、彼らがミスをしたときに怒らないことを挙げる。

「私はあなたのそばにいるよ。そう言って後ろに立ち、背中をポンと押して、過ちを直してあげるのが上級メンバーの役割です。指導をするには、人間味が必要なのです。同時に、自分がクライアントのところに出向き、謝罪することも大事です。誤りに対し、謙虚になって頭を下げること。その行動の持つ価値は、私の師匠から教わりました」

ビジネスは謙虚で我慢強く、情熱を持ち、自分がしていることを好きでなければならない。そうでなければしない方がいい。なぜなら、決して成功しないからだ。師がクリシュに伝えたそんな言葉は、彼の胸の奥深くに根付いている。実は彼の師とは、亡き妻の父。つまり義父にあたり、大学時代に最初に働いた会社の上司でもある。

「グル(*師匠)はいかに人生を素晴らしく生き、幸せを広めるかを教えてくれました」と、トップコンサルタントは目を細める。そしてもう一人、彼の一番の支えとなっているのは、最愛の妻にほかならない。

「彼女は私の隣にはいませんが、心の中では生きています。彼女は私にとっての幸運でしたし、これからもそうあり続けると信じています。ほら、こうしていつも一緒なのですから」

そう言ってクリシュは、幼き頃の妻の写真を取り出し、感慨深げに眺める。人が生きること、喜ぶこと、幸せであることは、どれだけ素晴らしくて大事か。それを誰よりも知っているからこそ、トップコンサルタントはこれからも人に寄り添い続ける。