計画がなければコンサルタントはできない。
楽観的でなければトップにはなれない。

リクルーターになるなんて思ったことは一度もなかった。かつての自分をそう振り返る彼女の職業はリクルーターだ。しかも、ランスタッド香港でトップクラスの。その笑顔が示すように、明るく社交的な性格で、楽観的である一方、計画性も重視する慎重さを併せ持つ。そんな彼女の仕事術は、我々に何を示唆してくれるのだろう?

自分はうまくやれると確信した瞬間

「マーケティングは自分に合っていると感じていたんです」と話すように、留学先のカナダの大学ではマーケティングを専攻。卒業後は香港に戻り、貿易会社に入社してマーケティ ングに従事した。そのままキャリアを築いていくのかと思いきや、マネージャーや重役ポジションの人々と接するうちに、キャリアに対して興味を持つようになった。

「何がモチベーションを上げ、どんな経験が影響して、彼ら彼女らは現在のポジションに就いたのか。成功したビジネスマンをそばで見ているうちに、人々のキャリアプランについて考えるようになったんです」

3年ほど働いた後、エグゼクティブ層に特化した紹介会社に転職。シニアコンサルタントのアシスタントとして候補者探しや面談を行い、経験を積んでいった。しかし、任されるのはあくまで候補者の呼び込みや面談日の設定など、限定的な部分ばかり。企業とのマッチングなど、その後のプロセスも全て任せてもらえるコンサルタントになりたい、と考え、銀行やノンバンク系に特化したローカルのサーチファームに転職した。結果から言うと、コンサルタントの仕事は、マーケティングより合っていたようだ。社交的で、人と話すことや、関係を築くことが大好き。そんな天性の明るさを持っているアンドレアは、HRビジネス業界が初めてにも関わらず、たちまち頭角を現した。「一年目から、私はすでにかなり成功していました」

自信に満ちた表情でアンドレアはそう言い切る。最初の3ヶ月間でコンサルタントとしての基礎を学び、目標売上を達成して表彰された。この時点で、自分はうまくやれることを確信したという。

「もちろん、給料も上がりました。働き始めた頃は、一年でこんなに成果が出るとは思っていませんでしたね。その給料で、家族を旅行に連れていくこともできたんです。そんなことができるなんて思ってもいなかったのに!」

そして今から2年前、彼女はランスタッドに転職し、ここでも成果を出し続けた。もちろん、生まれ持った性格だけで成果を出せたわけではない。コンサルタントとしての彼女の考えや仕事術に迫っていくと、緻密かつロジカルな手法が明らかになっていった。

年間100万ドル売り上げるための営業計画

最初に必要なのは、クライアントのビジネスを知ることです、とアンドレアは言い切る。基本的なようだが、会社のことはもちろん、そのマーケットの動向、最近のニュースやトレンド、今後の動き、リスクやコンプライアンスに関する規定、業務で関わる地域のことなど、押さえるべき範囲は実に幅広い。さらに小規模な会社であれば、ライン・マネージャーと会うことも勧める。特に小さな会社においては、ライン・マネージャーの役割は重要なため、その会社の性格を深く知ることができるからだ。一方で、候補者の強みを把握し、企業へいかに推薦するかも重要だ。学校で素晴らしい成績を残してきた優秀な人であっても、そのほとんどはライフコーチがいない。そのため、自分がどれぐらいの市場価値を持っているか把握している人は多くない。

「私たちはクライアントに、候補者のスキルを深く理解したうえでキャラクターを売り込まなければならないときがあります。例えば『彼女はとても社交的で、リーダーの資質があります』といった風に。クライアントが求める人材に適していると評価し、証明しなければならないのです」

候補者の開拓には、JobsDBやCareer Times、Linkedlnなどのジョブポータルを活用。求人とあった年代や職歴で、候補者を簡単に見つけることができる。特にLinkedlnは、香港エリアにおいて最も活用できるという。

そして、目標数字の達成のために最も重要なことを、彼女は「営業計画」だと断言する。営業計画こそが、売り上げの予測と、自分自身の安定した収入を確保するためのキーになる。それに、良い四半期と悪い四半期があるより、常に安定した数字を残せる方が、コンサルタントのメンタリティにとっても健康的ですから、とアンドレアは笑顔を見せた。

ランスタッドでは、一人ひとりのコンサルタントがカスタマイズされたKPIを持っている。マネージャーに設定されるのではなく、自分自身で決めるのだという。「例えば、年間で100万ドルを売り上げたいのならば」とアンドレア。

「毎月約8万ドルを売り上げる必要がありますね。ではどうやって8万ドルを売り上げるか。ランスタッドにはその実現のために、どれだけのアクションをすればいいのか教えてくれるシステムがあります」

一人ひとりのコンサルタントの能力や経験値によって変わる変換率(conversion rates)に基づいて、目標達成のためにすべき活動の数、例えば一日にかける電話の数などが伝えられる。その数字を指標として、活動を進めていくわけだ。

急を要する候補者は一日で探す

コンサルタントとしてのアンドレアの一日は、8時45分、自分のデスクでコーヒーの香りと共に始まる。担当する業界のニュースを確認した後、メールチェックや面接を終えた候補者のフォロー、クライアントへの電話など様々だ。その中で、多く時間を候補者探しに費やしている。

「特に私は、急を要する候補者探しに集中しています。候補者を見つけるには、1日しか時間かけません。なぜなら3日も経ってしまったら遅すぎますから。候補者が見つかったらスクリーニングし、面接の設定をします」

面接は全て、ランチタイムか終業後に設定している。在職中の候補者が休みを取らなくても行えるからだ。同時にアンドレア自身も、面接のために仕事から抜け出さなくて済む。効率的な時間の使い方を常に意識している。終業後の面接も、19時以降は入れないようにしている。近頃は時間管理がうまくなったんですよ、とアンドレア。

「候補者の数も把握していますし、担当する市場のことも分かっているので、間違った候補者を扱うような時間の無駄はしません。ですので、19時までには仕事を終えるようにしているんです。確かに、長く働けばいい結果が出るときもあります。でも、それよりバランスが大事です。疲れ過ぎたり、病気になったりしてしまいますから」

コンサルタントを長く続けて、継続的に成果を出し続けるためには、ワークライフバランスが大事。そのために、仕事の効率やスピードを重視している。かつては遅くまで働いていた時期もあったが、長く働くからといって決して成果に繋がるわけではない、と身を持って実感してきたのだ。

リーマンショックの中、忘れられない候補者

世界中の市場に大きな影響を与えた2009年のリーマンショック。銀行でマネージャーをしていた一人の男性も、その余波で解雇となった。パトリックという名のその男性は、2014年8月現在、別の外資系銀行で30人~40人の部下を率いるリーダーとして活躍している。その過程で彼を新しい環境へ導いたコンサルタントこそアンドレアだった。

「最初、その銀行で働くことは、彼にとって理想ではありませんでした。しかし、ほかの中国系銀行の状況が良くない中で、私が紹介したのは唯一拡大している銀行であり、良い環境であることを説明したのです。こんな経済状況の中、すぐにほかの仕事を見つけるのも難しい。それに同じ額の給料をもらえるということもあり、彼は入社を決めたんです」

転職したパトリックは活躍し、3年ほどでマネージャーへ昇進。アンドレアにとても感謝し、時々チョコレートを贈ってくれるのだそう。この話の最もすごいところは、とアンドレアは続ける。

「私と会った時、彼はまだ独身だったんです。新しい銀行に入ってマネージャーになり、結婚もしたんです。今は可愛い子供たちと良い家と車に囲まれ、とても幸せに暮らしています。私は彼のことを思うととても幸せになれるんです!」

自分はコンサルタントとしてアドバイスをしたが、最終的に成功へ繋がったのは彼自身の努力。企業を解雇された人が、再生して幸せをつかんだ物語。私にとってすごく感動的な話なんです、とは振り返る。コンサルタントとしてキャリアを重ねる中で、彼女は経験やスキル以外にもたくさんの財産を手に入れてきた。それは多くの友人たちだ。「実際のところ」とアンドレア。今、最も仲の良い友人の一人は、私が扱った候補者なんです、と感慨深げだった。

候補者を見つけるには、1日しか時間かけません。 なぜなら3日も経ってしまったら遅すぎますから

楽観的であることが成功の秘訣

アンドレアは現在、チームリーダーとして、ジュニアコンサルタントの育成も行っている。自らの経験を共有し、成長のためのトレーニングやサポートを供給しているのだ。だが、まだマネージャーになることは考えられない、と苦笑する。

「なぜなら、私は一人のコンサルタントであるからです。もしマネージャーになったら、仕事上で友達を持てるだろうか? 候補者は私をこれまでと違った風に扱うだろうか? と色々考えてしまいます。いつ管理職としての道を進むべきかは……分かりません」

ランスタッドという世界的な人材会社でマネージャーになることの責任感や重圧は、これまでに経験がないことだ。それでも、いつかは挑戦してみたいんですと、前を見つめながら言った。

それ以外にも彼女には目標がある。実は、彼女がランスタッドに入社したのは、その目標の実現が一つの理由でもあった。大学時代過ごしたカナダに、いつかまた戻りたいと考えているのだ。

「ランスタッドは国際的な会社で、カナダのトロントやバンクーバーにも支社があるんです。私はカナダの雰囲気やライフスタイルが好きで、いつか結婚して子どもが生まれたら、家族でカナダに暮らしたいと思っていますね」

ポジティブで楽しいことが大好きなアンドレア。仕事に厳しく真剣に取り組む反面、楽観的な一面もある。実はそれこそが、コンサルタントにとって最も大事なことだという。求人のオファーがあったとき、「きっとできる、うまくいく!」と楽観的に考えることから始めているのだ。そして、もう一つの成功哲学は、人脈作りやストレス解消などの様々な意味合いで、毎週金曜日に開催している飲み会なのだそう。「そういえば今日は……」とアンドレアはカレンダーを見る。「金曜日ですね! よければ一緒にいかがですか?」と、笑顔を弾けさせた。