求職者にとって唯一無二のコンサルタントであるためにシステム活用は欠かせない。

管理部門やスペシャリストに特化した人材紹介を行っているMS-Japan。幅岸はコンサルタントとして活躍しながら、後輩の育成にも力を入れているプレイングマネージャーだ。成果を出すために、大切なことは求職者や企業、メンバーとの関係づくり。具体的に実践している方法や考え方、また業務効率を格段に上げるシステムの活用方法に迫った。

青リンゴが好きな人に赤いリンゴは喜ばれない

例えば美味しそうな赤いリンゴが5個あるとします、と幅岸は身振り手振りを交えて話す。

「リンゴが欲しいという相手(=求職者)にその中のどれを勧めても、実はそもそも青リンゴが好きだったら喜ばれない。“他と比較して1番良い”ではなく、自分のオファーが求職者の希望と如何に合っているか、その話をできるかに尽きます」

求職者は転職活動をする中で、方向性が変わることがある。当初と現在の考えはどのくらい変化しているのか把握し、その上でコンサルティングをすることが大事だという。また、優秀な求職者ほど、複数のエージェントに依頼することが多い。その中で選ばれるには、多くの引き出しを持っている面白い人だと思われること。雑談から入って転職の話になり、最終的には人生相談になることもあるという。その積み重ねがあってか、同社の登録者は転職成功者からの紹介が多い。

「優秀な方の友達はやはり優秀。特に会計士などの有資格者はネットワークがある。広告宣伝よりも確実に候補者を獲得できていますね」 一方で、意識が求職者寄りになりすぎないことも心がけている。リクルーティングアドバイザー(RA)として意識しているのは、クライアントの採用を成功させるにはどうしたらいいか、ということ。「そのために、人事責任者や社長との信頼関係を構築することを大事にしています。リレーションを築けた会社ではある程度書類選考も任せてもらっていますし、私が“この求職者とは会った方がいいです”とお伝えすれば、100%時間を取ってくれます」

そのような関係性を構築するために、決して特殊なことはしていないと幅岸。心がけていることがあるとすればスピード感だという。求人案件が来た瞬間、まずは思い当たった候補者に電話連絡し、社名や業務内容を伝えて面接を打診。時間のロスを防ぐため、求人票は後から作成して送る。そして瞬時に候補者の提案をし、「幅岸に頼めば早い」というブランディングを構築しているのだ。

優先順位は1、3、2の順番で対応する

幅岸がMS—Japanに入社したのは4年前。元々、地銀に新卒入社したが、トレーニーで上海へ行ったことが後の転職に大きく影響した。終身雇用が根強い日本と違い、転職してキャリアアップをしていくのが当たり前の環境で、人材ビジネスに興味を持つ。銀行でも、誰がどのタイミングでどこに配置されるかで、組織に大きな影響を及ぼす面白さを感じていたこともあり、MS—Japanに転職した。

現在はプレイヤーだけでなく、メンバーのマネジメントも担当している。モノを売っているのではないから、という理由で細かいKPIの設定はしていない。大事にしているのは、優先順位の付け方だ。

「優先順位が1、2、3とあれば、肝なのは3です。すぐに対応しなくても済むがために、放置して忘れてしまうことがある。なので、1、3、2の順番で処理するように指導していますね」

求職者やクライアントへの連絡や問い合わせ対応など、先延ばしにしてクレームになってしまうと、処理に時間がかかり、ポジティブな仕事に費やすべき時間を割くことになる。少々変わった優先順位の付け方は、その防止に繋がっているのだ。スケジュールを詰め込み過ぎず、余裕を持つことも大事だと幅岸。求職者からの突然の電話で、一時間を費やすこともあるが、それも余裕があるからこそ。「忙しいから、と断ってばかりいると寒い結果になってしまう」という。そうして求職者と深く向き合うことで、マッチングの精度を上げているのだ。

部下に対しては、「気づき力」を駆使して、常に様子を見守っている。表情が曇っていたり、普段より口数が少ない者がいたりすれば、話しかける。すると、大体悩みを抱えていることが多いという。「数字が上がっていなくて悩む者もいれば、数字が上がっているのに悩んでいる者もいる。このまま数字だけを追っていていいのか…など。そういうときは面談や食事に行って、どういう人間になりたいかを聞くようにしていますね。気づけないと、上司は自分のことを分かってくれない、と思ってしまう。僕も若いころはそうでしたから(笑)」

幅岸流プロ・エージェントの活用法

そんな幅岸は、ポーターズが提供するプロ・エージェントのユーザーでもある。特に便利だと感じているのは進捗管理の機能だという。「忙しい時は10~15人の候補者とやり取りをするので、進捗管理やステータス変更、取引履歴などを記録しています。特に、直前でどのようなやり取りをしたかきちんと記録しています。私たちは多くの候補者と接していますが、先方にしたら担当コンサルタントは一人。『このあいだの話ってなんでしたっけ?』と言っている場合ではないですから」

また、ほかのRAとのやり取りも記録することで、記憶違いや認識のズレがなくなっている。また、「一次面接設定待ち」などで数日間止まっている案件があれば、「どうなっているの?」と確認することも。忙しいコンサルタントは、日中は外出しているため、顔を合わせられるのは朝と昼のみ。そんなとき、コミュニケーションを補完するツールとして活用もしているのだ。「担当が作った求人原稿もプロ・エージェントでチェックしています。顔が笑顔でも、日本語が下手だとブランドの低下に繋がりますから」と幅岸。同じポジションの求人でも、他社と差別化を図るために、社長や人事のコメントを充実させたり、「幹部候補も募集しているので別途ご相談ください」との一文を盛り込んだり、求人の見せ方には力を入れている。そういった観点からも、原稿をいつでも確認できるプロ・エージェントは役に立っているという。

スキルマッチングだけでなく、企業の熱意や思い、求職者の悩みをヒアリングし、付加価値が高い仕事をできるかどうか。

人材業界は活況だがエージェントは二極化する

トップコンサルタントは、オフもアクティブに行動している。社会人2年目に買ったソアラに現在も乗り続けており、洗車、ドライブを楽しんでいる。ジョギングや音楽やお酒を楽しむこともあれば、経済誌や中国語の勉強をすることも。メリハリをつけて、休日であっても時間を有効に活用しているのだ。そんな幅岸は、日本の人材ビジネスは今後も活況が続く、と見通す。転職への考え方や、人材紹介の活用もスタンダードになりつつある。政府も女性やシニア、外国人人材の就労支援に取り組んでいるため、国と目指す方向が同じという稀有な産業でもある。しかし同時に、人材業界は二極化していくだろう、とも言及する。

「AIにはできない高度なコミュニケーションが必要になります。スキルマッチングだけでなく、企業の熱意や思い、求職者の悩みをヒアリングし、付加価値が高い仕事をできるかどうか。それを意識できるエージェントは残り、そうでないエージェントは淘汰されていくでしょう」

企業や求職者や人材ビジネスへの熱い思い、積み重ねてきたやスキルと経験、それにシステムというツールが加わることで、幅岸はトップコンサルタントの座を揺るぎないものにしている。ときにはその言葉で、ときにはその背中で、部下たちにコンサルタントとしての在り方を示しながら、この先も走り続ける。