ドクターの数だけあるそれぞれの人生に寄り添うコンサルタント

優秀なことに変わりはない。けれど、企業のエグゼクティブ人材とも違う。ドクターという孤高のスキルや経験、使命感や責任感を併せ持った人材への転職支援は、独特な部分が大きい。そんな難解な領域で、ドクターの人材紹介に携わり続けてきた江湖(えこう)は、どのようにしてトップコンサルタントに上り詰めたのだろう。医師や病院の信頼を得て、好成績を出し続けてきた秘訣を語った。

経歴から読み解くドクターのスキル

「ドクターの方にもいろいろな先生がいます。まず、皆さんがドクターXではない。そしてお子さんを育てながらだったり、高齢の親御さんの面倒を見ながらだったり、ドクターにもそれぞれの人生があるんです」

そう話す江湖は、ドクターに特化したコンサルタントだ。前職は化粧品メーカーに勤務し、営業として皮膚科の医師と日々接していた。2008年にリクルートメディカルキャリアに入社し、医師に特化した求人誌の営業を1年経験した後、現職へ。約8年のキャリアの中で、これまで約800名のドクターに会い、転職支援を行ってきた。

それぞれの人生がある、という江湖の言葉通り、転職を希望されるドクターの思いや状況は、まさに十人十色。転職理由についてもさまざまだが、江湖によると主に4つに大別されるという。

「一つ目は有名病院に移りたい、希望する症例を担当したい、資格取得したい、などキャリアアップ。二つ目は給料アップなど待遇改善。三つ目は当直が無いなど、負担の少ない病院や診療科へ移りたいという労働環境の変更。そして四つ目は、家庭の事情などで今まで通りに働けないけれど、医師を続けたいという方です」

スキルについても幅がある。先に出たドクターXのようなスーパードクターばかりではない。本人が「開腹手術ができる」と申告しても、実は、縫合が苦手だった……というような例もあったという。そのあたりの見極めについて、江湖はまず経歴から分析している。例えば「A病院で、Bの症例を任されていた」という方であれば、相当に優秀なことがわかる。一方で、「C病院で、Dの症例しか任されていなかった」では、転職先の病院は限られる……と判断しているのだそう。

「全国的に医師不足なので、圧倒的に売り手市場です。ドクターの方も、行きたい病院へ行けると思いがちな方が多くいらっしゃいます。けれど、実際はそうじゃない。同じ内科でも、急性期で慌ただしい病院と、慢性期でゆったりとしている病院とでは働き方が全く違いますから」

しかしそういったことを、江湖は自らの口ではっきりと言うことはしない。医師のプライドを尊重しているからだ。そのため、「転職して有名病院に移った方や、高度医療に携わっているドクターには、相応の経歴がある」ことをデータや事例で示し、間接的に伝えている。もしくは面接で一緒に病院に行った際、事務長などに言ってもらうように事前の打ち合わせが欠かせないという。というのも、ドクターは学生時代にトップの成績だった方ばかりで、誇りを持っていることが多い。そのため気分を害さないよう、間接的に現状を伝えたうえで、改めて本人の意向をヒアリングし、支援するのが江湖のスタイルだ。

ドクターの経歴に合わせた転職支援

ドクターは、自社サイト「リクルートドクターズキャリア」経由での登録者が大半を占める。そして希望する勤務エリアによって、各支社のコンサルタントに振り分けられる。そのほかは、過去に転職支援した方から直接コンサルタントに依頼が来るか、転職希望の医師を紹介されるか、だという。転職時期もさまざまで、すぐに転職したいという方もいれば、来年以降という方もいる。いい病院があれば移りたい、と漠然と考えている方も少なくない。成約までの期間も、1週間~3年など実に幅広い。そういった中で、コンサルタントの介在価値は重要だと江湖は言う。

「ドクターは売り手市場なので、約8割はご自身のルートでも転職可能です。けれど、弊社に相談に来てくださるということは、何かしら背景があるということ。そういった方々に、これまでのドクターたちの転職事例をもとに、的確なアドバイスをする必要があります」

 

今すぐ転職したい、という若手ドクターに、「もう少し待った方がいい」とアドバイスをしたこともある。現在の診療科で資格を取得しておけば、50~60代になっても転職市場で有利でいられることを見越してだった。

求職者の経歴やスキルを見て、病院に診療科の新設を提案することもある。例えば救急科がなかった病院に、対応可能なドクターを紹介し、「救急科を新設しませんか?」といった風に。ただその際も、「病院にどんなメリットがあるか」「患者に迷惑がかかることはないか」を説明することは忘れない。いきなり本採用が難しければ、最初はアルバイトでの雇用を勧めるなどして、不安を解消していく。そのようにして実際、江湖の地元で救急科が新設され、地域の方たちに喜ばれた事例があったという。

「そういった提案をするためには、地域の病院の事務長とのつながりが大事です。勉強会などに参加して、つながりを作ることを意識しています。もし情報がなければ、自分で病院を調べて電話をしたり、知り合いに相談したりして、つながりを作るようにしていますね」

医師や病院とやり取りし、的確な提案を行うには、もちろん医療知識が欠かせない。江湖がどのように知識を身に着けてきたかというと、「教えてもらう」こと。ドクターや事務長と同じレベルに到達することは、勤勉なコンサルタントであっても難しい。であれば、「わからないことは聞く」「そのあとに自分で勉強する」を心掛けたうえで、それでも不明なことは、いさぎよく本職の方に聞いた方が効率的であるからだ。

こういった心構えや取り組みの結果、江湖は2015年から、難易度の高い案件に携わる「ハイミッションプレーヤー」という職域に就任した。

目標達成のための二つの拘り

江湖は目標達成のために、二つの観点を重視しているという。まず、一つ目は転職時期。ドクターは転職希望時期もバラバラで、担当するドクターの三分の一が翌年以降に転職希望、ということもあり得る。だからこそ、早期の転職希望者を把握し、面談を早めに組むなどして、成約までのスケジュールにムラがないようにしていくのだ。

二つ目は納得感を醸成すること。「予算1000万円で、23区で家を買おうとすると難しい。けれど、その前提を理解してもらったうえで、23区外の家を提示すれば、買ってもらえる確率は高くなる。だから私は、有名病院から地域密着の病院まで、幅広く事前に準備して、転職希望のドクターに提示しています。そして現実を知ってもらったうえで、どうしたいか判断を仰いでいますね」

そして「現状」と「提案内容」に納得してもらったうえで、紹介を行っているからこそ、成約率が高くなっているのだ。

最後にコンサルタントとして、今後の医療マーケットをどう見ているかを聞いた。江湖は転職率が下がり、現在のような売り手市場ではなくなると指摘する。

「来年からドクターの専門医制度(※)が変わります。医大の卒業者がサラリーマンとして働いた後、医者になる。高度医療ではなく、地域医療に従事する医者が増える。また国策で在宅医療も普及しています。ドクターにそういった流れが起き、転職率は落ちるでしょう」

※これまでは各学会が専門医の認定をしていたが、2018年からは第三者機関が統一的に認定を行う

そんな中で、江湖はドクターの伴走者として、しかし謙虚さを持って常に一歩引き、その人生や思いに寄り添い続けている。また転職支援だけでなく、地方の開業医の後継者不足解消など、全国的な医療不足の緩和にも取り組んでいる。そういった様々なことに携わり、これからもコンサルタントとしての幅を広げていきたい。江湖は笑顔でそう話す。ドクターXが活躍する裏側で、実は彼女のようなコンサルタントも活躍している。そんな事実やきめ細かな取り組み・心配りにも、ぜひ注目していただきたい。