雅な女性コンサルタントが貫く仕事術目の前のすべきことをやりきれば結果は生まれる

物静かで上品な雰囲気の新美は、インタビュー中も終始丁寧な口調で質問に答え続けた。だが仕事の哲学や、目標を達成し続ける秘訣について尋ねたときは、その口調に力がこもり、強い意志を感じる光が目に宿った。語る内容には少しもぶれない軸があり、彼女が紛れもないトップコンサルタントであることを実感させる。人材ビジネスとの出会いから業界の今後、そして将来の目標まで伺った。

迷いの中で出会った人材ビジネス

毎日が充実している、かのように思っていた。新卒で生命保険会社に入社。赴任先の名古屋で、地元の有力電力会社、ガス会社、メーカーなど様々な業界の法人契約を担当し、様々な人と触れ合って、毎日を忙しく過ごしていた。だが新美は、どこかで満たされない思いを抱えていた。

「いろいろな企業に関わることができていたのですが、私が担当できるのはあくまで契約の部分だけ。その会社がどんな展望を持っていて、今後どうなるかまではなかなか踏み込めない部分でした」

当時のことを新美はそう振り返る。できればもっと深い部分で企業と繋がり、役に立ちたい思いがあった。また毎月高いノルマが設定され、数字を追いかけることが仕事の中心になりつつあり、「この仕事は自分のしたいことではないかも……」という思いは年々強くなっていった。本当は何をしたいのか、まだ見えてなかったが、自分を見つめなおすために新美は退社した。入社して7年目のことだった。

「一回、整理しようと思ったんです。今は世の中にどういう会社があって、自分はどういう方向性に進みたいのか、じっくり向き合いたいと思ったんです」

考えた結果、新美が選んだのが人材ビジネスだった。仕事は生涯続けて行きたい、という思いを持ち続けている彼女が、その仕事選びで「自分は何がしたいんだろう?」と悩んだ経験を、仕事にしようと思ったのだ。営業としてパソナに入社し、企業担当をするようになった。当時、パソナは派遣部門のみしかなかったが、新美が入社して5年後に人材紹介部門を作ることになった。それを知った新美は、迷うことなく立ち上げメンバーに立候補した。

「派遣社員は期間が決まっていますが、正社員は無期限です。仕事選びに悩んだ自分の経験も踏まえて、求職者がこれまで何をしてきたか、これからどうしていきたいか、を支援したいと思い、人材紹介に関わることになったんです」

立ち上げメンバーはたった5人。企業側も求職者側も両方の営業を担当した。転職は、その人の今後の人生を左右する大きなイベントでもある。大きなプレッシャーと責任を背負いながら、新美が軸にしていたのは一つ。求職者が今後20~30年をどうしていきたいのか、きちんと踏み込んで聞くことだった。

人材ビジネス会社の発展には強みの業界や分野が必要

人材紹介部門で働きだして数年が過ぎた頃、転機がやって来た。当時、新美が担当していた大手自動車メーカーグループの部長から、「ドイツの自動車内装部品のサプライヤーが、プレゼンのために来日する。歓迎パーティもするので、君も参加しないか」と誘われた。大学時代、新美がドイツ留学経験があることから招待されたのだった。個人的興味で参加したパーティの席で、サプライヤーの役員は、日本にも法人を立ち上げる計画があるが、営業が足りないという話を新美にした。初めは自分がその立ち上げに参加することなど考えていなかったが、後日その会社から熱烈な誘いを受けて、営業担当として転職した。2006年のことだった。

転職先の日本法人は順調にビジネス展開をしていたが、なかなか実績を出せないまま、業績が悪化し、その後日本から撤退。そのときに、人材紹介会社の方から「メイテックネクスト」の紹介を受け、同社に入社した。メイテックネクストの立ち上げから2年が経った頃で、立ち上げに近いメンバーとして将来を期待された。最初の1年は、名古屋支社立ち上げのため名古屋に配属され、その後東京本社で勤務。当初はメカもエレクトロニクスも化学もIT系も建設系も、あらゆる分野の業種を扱っていた。エントリーがあった方には全てお会いして、見合う求人を片っ端から開拓してマッチングしていたという。

「立ち上げたばかりのときは、認知度のある紹介会社にしたいと思って頑張ってきました。ただ強みの分野や業界がないと、人数を増やすことはできても、維持して発展させていくのは難しいでしょう」

そしてメイテックネクストは、エンジニアに特化した紹介会社としてのブランディングを確立。また全社を上げエンジニアからの支持NO1を目指し邁進する中、新美は現在、メカトロ分野の人材部門を担当している。

すべき指標をやりきることで結果は生まれる

3ヶ月のクォーターごとに、コンサルタント一人ひとりのキャリアや経験値を踏まえて目標成約人数を決め、達成を目指していく。それがメイテックネクストの方針だ。新美の場合、クォーターの目標は10~15人。東京に赴任してきた2009年の4月以来、新美は全クォーターで目標を達成し続けている。新美のスタイルは、最終的な数字をあまり意識しないことだという。

「現在の面談ペースや求人数を踏まえて、この求職者がこのくらい応募すればこれくらい内定をもらえるだろう、と経験値で分かっていますので、そこから予測を立てることはしています。ただそれよりも、面談をした方とできるだけたくさんお会いして、その方がどういう方なのかを理解することにフォーカスしていますね」

日中は企業担当との求人情報のすり合せや、人材開拓を行っている企画担当との人材情報の共有などを行い、夜の時間に求職者との面談をこなす。面談が多いのは週末で、土日に平均3~4名、多ければ5~6名と会っているそう。KPIは会社が設定したものではなく、自分自身で設定した数字を逆算している。例えば新美が担当するメカトロ分野の場合、月に10名成約させるには、週に5~6人の面談ペースが必要だと、経験値で把握しているのだ。

「成約はあくまでプロセスの結果。KPIという絶対にやらないといけない指標に対して、確実にやりきることは徹底しています。遠大な目標を立てるとプレッシャーになりますし、今やるべきことを短いスパンで一生懸命やっていますね。私の強みは確実性で、やると決めたら必ず最後までやり切っているので、それが結果に繋がっているのだと思います」

求職者への求人情報の案内は、何件も送る場合もあれば、一件ずつ送る場合もある。汎用的なメカトロのエンジニア経験がある方なら、当然案件の幅は広がるので、その辺りは分野や求職者の経験によって使い分けているという。

今でこそトップコンサルタントとして活躍中の新美だが、たくさんの失敗もあると明かす。文系出身の新美は、エンジニアの専門用語や、業務で使うソフトやツールの名前が分からず、つい知ったかぶりをしたことも。後になってから、求職者に「違いますよ」と指摘を受けたことがあった。またせっかちな性格のため、面談中に求職者の話を聞きながら、つい口を挟みたくなってしまうそう。意識的にこらえながら、話を聞くことに集中することで、適切なマッチングに繋げているという。

新美を育てたメンターである女性

トップコンサルタントに成長した新美に、大きな影響を与えた人物がいる。意外なことに、人材業界の方ではない。新美がかつてパソナに在籍し、大手自動車メーカーを担当していたとき、経理部のトップをしていた女性だった。

「結婚も離婚も経験されている方で、『女性が一生仕事を続けていく場合、どのような考え方で向き合えばいいのか?』『組織の中で自分のポテンシャルを発揮して、貢献しながら長く続けるにはどうすればいいか?』などを教えてもらいました。間違っていることがあれば、『間違っている』とストレートに言ってくれる方だったんです」

人材業界での経験が浅かった新美は、行き詰ったときに何度も彼女に相談した。例えば、新美が最適だと思って紹介した企業に対し、求職者が難色を示したときがあった。どうしてなのか分からずに悩む新美に、彼女は温かくも厳しく叱咤激励してくれたのだという。

「どの会社に行くかは本人が決めること。あなたがベストだと思った会社と、本人がベストだと思う会社は違う。それが分からないのならコンサルタントは止めた方がいい、とまで言われたんです」

当時を振り返って、新美は苦笑する。

「確かに求職者からしたら、私は成約することばかり考えていて、自分の要望を何も分かってくれない、と感じていたかもしれません。人材ビジネスは扱う対象が人です。人の心は形として見えないので、それに対してどう接すればいいのか、的確なアドバイスをいつもくれました」

その方は、今から2年前に60歳で定年を迎え、リタイヤするつもりだったが、役員クラスの方から「何としても残って欲しい」と留意されたそう。

「この話はその方とは直接関係のない話なんですが…」と前置きした後で、新美が登録者とのエピソードを話してくれた。

以前担当した登録者が、私のお勧めする会社ではなく、ご自身で決められた会社に入社されましたが、後に再び転職するということで、新美のところに相談に来てくれたという。 「以前にメンターの女性に叱られたことが頭にあったので、『あのときは私が自分の考えに固執してすみませんでした』と謝るところからスタートしました(笑)。初めは怖い人だと思っていましたが、話すうちにそうでないことが分かって、今では親兄弟のように分かり合えている方ですね」

そういった登録者への対応ひとつとっても、そのメンターの女性の教えが生きているのだろう。

「プロがどんな姿なのか?それは日々探していますが、まずは業界に関する知識をもっと付けないといけません」

自動車業界の活況は来年以降も続いていく

メイテックネクストが扱っている求人数は、リーマンショック時と比較して、1.5倍ほどに増えているという。そのため求職者が不足し、人材開拓に苦労していると新美は話す。

「成約している方が多いのは自動車業界です。一番は完成車メーカーで、次に一次サプライヤー、二次サプライヤーなどの部品メーカーですね。どの業界も完成車メーカーと関係があるので、紐づく部品メーカーも必然的に求人が増えるという流れになっています」

来年以降も、自動車業界の活況が引き続き続いていく、というのが新美の見通しだ。自動車の開発スパンが短いことや、経済的な状況を含めると、メーカーも「今できることは今のうちにしておく」という傾向にあるという。また、国内工場を海外に移転させる動きはこれからもっと加速するが、対応できる人材が足りていないので、その層も開拓も強化していくそう。

トップコンサルタントとして十分すぎる実績を持つ新美だが、今後はプロとしてさらに成長していきたい、と目標を話す。

「プロがどんな姿なのか? それは日々探していますが、まずは業界に関する知識をもっと付けないといけません。それと英語力や交渉力ですね。今後は日本の企業だけでなく、進出してくる外資系メーカーも増えるので、立ち上げから採用のサポートをすることもあり、日本語だけでは通じないメーカーも増えるでしょう。そこに入り込んで、今後のビジョンや必要なニーズをヒアリングした上で、『当社をぜひ使ってほしい』というくらいの交渉やプレゼンができることも必要になってくるかと思います」

そんな彼女は、オフでも家でじっとしていることは少なく、ドライブや旅行など、どこかへ出かけることが多いという。学生時代から洋楽が好きで、好きなバンドがジャパンツアーで来日した際は、大阪までライブに行くほどの行動派でもある。

自らが進路に迷ったことで出会えた人材ビジネスという天職の舞台でも、彼女はじっとしていることはない。現在だけではなく未来を見据え、業界の流れやグローバル化への対応も視野に入れて、トップコンサルタントとして進化し続ける。