日経グループで連携を図り、ビジネスの多角化と利益基盤の構築を目指す

ビジネスを成功させるには戦略が必要だ。紹介事業としては後発で、規模も決して大きくない日経HRだが、「日経ブランド」や「日経グループ」という、強力な武器がある。それらをいかに活用し、独自の展開をしていくか。求人広告から人材紹介まで経験し、メディアの活用法を熟知した山田が、日経HRならではの戦略を語った。

メディアを活用した採用戦略で成果を上げる

2013年度下半期のコンサルタントランキングで、山田は一気通貫型の求人決定率No.1に輝いた。新規求人30件のうち、決定人数は13名、求人決定率は43%という数値を残した。元々、大手ノンバンクで営業をしていた山田は、25歳のときに求人業界に転身。2年間求人広告の営業をした後、紹介会社に転職した。一気通貫型のコンサルタントとなったが、当初はクライアントを持っていなかったため、ゼロからあらゆる業界の企業で開拓をしていった。その中で目を付けたのは、求人媒体を主に活用している大手自動車メーカー。文系・理系問わず、年間800人くらい採用していたその企業に、媒体を活用して人材を集め、紹介することで成果を積み上げて行った。

「人材を集めて、まとめて紹介する方が企業に喜ばれますし、効率もいいため、当時の方法を今も継承しているところがありますね」と山田は言う。実際に日経HRに転職後も、日経の転職メディアを活用して候補者を集め、クライアントにまとめて紹介している。

媒体を保有している日経グループならではの方法だ。実績をあげるとすれば、例えば未経験MR採用プロジェクトで、メディアバイイングからプロセス管理まで全て日経HRで行った。成約すれば、一社で何十人も決まるため、売上額も大きい。この方法は元々、日経HRが紹介事業をスタートした当初の2008年、なかなか成果を上げることができず、試行錯誤の末にたどり着いた方法だった。

「元々は月に何件面接をすれば何件通過し、何人が成約する、という統計データでプロセスマネジメントをしていました。しかしその統計は、数が少ないとあてにならないのです。当時はコンサルタントが7~8人しかいなかったため、プロセスの絶対量が足りなかったんです。面接が一件で決まることがあれば、十件でも決まらないことがある。方法を見直す中で、アウトソーシング系の紹介にたどり着いたんです」

事前にどのくらいの期間で人材の母集団を集め、どのように話を進めていき、いつまでに内定を出すかを決めた上で紹介を進めていく流れは、ヘッドハンターがリテーナーをもらって進めていく方法と変わらない。登録型の仕事にヘッドハンティングの仕事を持ち込んだようなものです、と山田は言う。採用戦略に対してメディアでどう訴求するか。求人広告の販売も人材紹介も経験した山田にしかできないアプローチなのだ。

最も大事なプロセスは書類通過数

紹介のプロセスの中で、山田が最も重視しているのは書類通過数だ。求職者はなんと9割近く書類通過するという。

「クライアントが求める通りの人材を紹介すれば、書類選考では落ちません。落ちるとすれば、コンサルタントのヒアリング能力に問題があるか、求める人材と異なるのに無視して紹介しているか、クライアント側の事情で採用基準が変わったか、の3つしかありません。紹介業界では、これらの点を深く考えていないコンサルタントも存在している印象を受けます」

一方で、山田はできるだけ、独占的に取引出来るように、クライアント企業との交渉に深く注力しているという。紹介会社の主な人材開拓データベースは、リクナビNEXTやビズリーチなど基本的に同じ。そのため紹介会社とのコンタクトを増やしてもあまり意味はないので、コンサルタントの力を見極めて選んでほしい、とクライアント企業に伝えているという。また、紹介フィーのレートなども交渉の条件として用いているそうだ。例えば、一定の売り上げグロスが見込めると判断すれば、「一ヶ月間、当社独占で取引していただけるなら、5%下げてもいいですよ」などと交渉を進めるのだという。契約を取るだけではなく、紹介の進め方として、自社の有利なようにどう持っていくかをこだわっているという。

時間管理の方法も独特だ。出社後、最初に行うのはスケジュールを確認し、優先順位を決めること。ただし、メールは確認しないという。メールを開くと、対応しないといけないタスクが10~15は出てきてしまい、時間を奪われてしまうからだ。また日経HRでは、残業時間の上限を設定し、それ以上超過できないようになっている。そのため、コンサルタントは限られた時間の中で、自然と成果を出すような行動・思考になっているのだ。

いかに信頼を築くかは永遠のテーマとして考えていきたいですね

強みは日経グループでの連携が可能なこと

日経HRでは、問い合わせを誘導するプル型の仕掛けも数多く行っている。日経新聞電子版のIDを持つ方向けに、日経グループとリクルート社が共同運営する「エグゼクティブ転職」を紹介することで、ミドルクラス以上の人材を日経HRで確保している。

「リーマンショック以降、課長や部長の管理職は、まとめて転職や早期退職をするようになりました。例えば電機メーカーでしたら、技術を持ったエンジニアが何百人も市場にでるのです。そういった層の方は、理系・文系問わず、ほとんど日経新聞を読んでくださっています」

また日経新聞の日曜日に掲載される求人欄に広告掲載すると、40~50代のミドルマネジメント層にリーチできる強みもある。そのため、40歳以上で職種を問わない求人があれば、日経HRにお問い合わせくださいというプロモーションも積極的に行っている。40代以上は転職が難しいという概念を覆したアプローチとなっているのだ。

また多くの企業の経営者も日経新聞を読んでいるため、「日経HRに幹部採用をお願いしたい」と直接問い合わせが来るようにもなった。これらの複合的な方法で、2011年頃から求人が集まるようになっていったという。

メディアを活用したこれらの手法から分かるように、日経HRの最大の強みは、日経グループでの連携が可能なことだ。日経新聞や自社で運営している転職サイト「日経キャリアNET」と連携し、特に30代半ば~50代のミドルクラス以上の人材に対して転職サービスの告知を行っている。さらに今後は、アジアの学生のグローバル新卒紹介、医師転職支援会社向けポータルサイト『日経メディカルキャリア』の運営など、幅広いシナジー効果でサービス拡大を図っていく。規模的に、他の紹介会社とただ競争をするのでは不利になってしまうので、あくまで自分たちの有利な条件で進められる案件を集中して手掛けて行く。そのために多角なビジネスモデルを構築し、利益の基盤を固めていくのが同社の展望だと山田は話した。