誰もしないことをせよ
求められる以上のものを与えよ

日本とアメリカ、二つの国の言語と文化をバックボーンに持つそのコンサルタントは、流ちょうな日本語で、生い立ちやこれまでのキャリア、成功哲学などを語った。リラックスした雰囲気に反して、表情や口調には自信が満ちている。彼の最大の強みはそのメンタリティ。「自ら築く」という強い意志は、アンソニー自身はもちろん、求職者や企業、チームメンバーたちの未来をも築いてきた。その内面と、成功を左右する重要なキーワードに迫る。

ラーメン屋店主からヘッドハンターへ

栃木県佐野市にあるラーメン店。トップコンサルタントの原点は、醤油味のスープの湯気に包まれた場所にあった。当時20歳だったアンソニーは、このラーメン店の売り上げを、1年間で220%アップさせるというミッション遂行のため、住み込み・完全歩合制で働いていたのだ。一見、人材ビジネスとは無関係に思えるが、アンソニーは「私が人生の中で最も大きく成長できた場面は二つあります。その一つがラーメン店での勤務です」と振り返る。

イギリスの大学に入学して、インターナショナル・ビジネス・マーケティングを学び、MBA取得を目指していたアンソニー。しかし、財団の事情で奨学金の支給が止まり、休学して帰国することに。所属していた盛和塾の知人から依頼を受けて、ラーメン店を再建させることになった。

そして、見事ミッションを達成。今度は自らがオーナーとなり、横須賀でラーメン店を開業した。しかし、同エリアの将来的な発展が見込めないことから、2年後の契約更新を機に閉店。新たな職業として選んだのが、コンサルタントだった。

「ラーメン屋では、10人のお客さんが来たとき、何人を笑顔にできるかいつも考えていました。自分にとって、8~9人を笑顔にできる仕事は何か。そう考えたとき、ヘッドハンティング会社にたどり着いたのです」

少年時代、アンソニーは父の仕事の都合で、日本とアメリカを行き来していた。その環境の中で、どんな人ともすぐ仲良くなれる能力が自然と身に付いた。また、日本滞在中はアメリカンスクールに通い、日米それぞれの言語とカルチャーを習得。ヘッドハンティング会社で働いていた母の友人の勧めもあり、2003年に人材業界でのキャリアをスタートさせたのだった。

ほかのコンサルタントにはないバリューは何か

当初は小さな企業に就職したが、実績を積むうちに、フォーチュン500・ビリオンダラーカンパニーからヘッドハンティングされ転職。約2年半の在籍期間のうちに、アンソニーは人生で二度目の「成長」を体験する。リーマンショックだった。

「コンサルタントが百数十名いたのですが、毎週減っていって、最後は13人になりました。けれど私は最後まで残ることができて、前年よりも売り上げを出すことができた。リーマンショックを乗り越えることで、大きく成長できたと思います」

その後は大手外資系エージェント会社など2社を経て、2014年にPALに入社。主にコンサルティング業界を担当し、同時に日本人コンサルタントチームのマネージャーとして5名を率いている。

これまでのキャリアの中で、目標が未達だったことは一度もない、というアンソニー。その仕事術にはいくつかのキーワードがある。まずは「バリュー」。例えば候補者は、多いと10社ものエージェントと会っている。その中で、ほかのコンサルタントがしないことをして、求められる以上のバリューを提供できれば、ナンバーワンになるのは難しくないという。

例えば面接の準備や対策を、アンソニーは1時間もかけて行っている。それもキャンディデイトの適正に合わせて、口頭で伝えたり、ホワイトボードに書きながらだったり、最も効率的な伝え方を見極め実践しているのだ。もし面接が通らなかったとしても、そのトレーニングが生きて、ほかの案件で成約になることも多い。

本音だからこそ、ケンカと仲直りの繰り返し

もちろん、クライアントと接するときも、バリューを意識するのは同様だ。アンソニーがメンバーによく伝えているのは、「何度も会いに行きなさい」ということ。人は顔を合わせれば合わせるほど、親しみがわく。そして本音を引き出すことができ、より的確な提案ができるようになるからだ。また、多忙な候補者や人事担当の時間を必要以上に奪わないよう、「タイム・イズ・マネー」を心がけている。必要なことにはきちんと時間を割く一方で、不要なことは極力削る。それも大事なバリューになっている。

「オープン」であることもキーワードの一つ。アンソニーは、選考でNGになった場合、理由を候補者に伝え、その上でアドバイスを送っている。

「多くの候補者は、面談で通らなかったとき、NGの理由を教えられません。失敗から何も学べないのです。だから、私は完全にオープンにしていますね。また候補者には、あえて70~80%マッチする仕事を進めています。合わない部分があり、失敗しても、それが経験値になる。そして本当のキャリアアップに繋がるのです」

ときには失礼と思われるような言葉も、アンソニーは臆さず口にする。例えば企業の担当者が、どう考えても難しい人材をリクエストしてきたとき。「あなたが探している方は、火星にならいるかもしれません。一度行ってみましょうか?」などと返し、現実を把握してもらうのだ。

「右手で握手して、左手でジャブを打つ関係ですね。そのやり方で13年もやってきたので、ケンカして仲直りして、の繰り返しです(笑)」

現在だけでなく未来も見据えたマッチング

マッチングをする際、アンソニーは常に未来も見据えている。日進月歩でテクノロジーが進化し、仕事も働き方もビジネスモデルも変化し続けているこの時代。転職できても、10年後にその業界や職業はどうなっているか? 候補者が30歳だったら、今はすぐに決まるかもしれない。けれど10年後、40歳になったときに、転職市場で価値ある人材でいられるか? そういったアドバイスをできるよう、アンソニーは日々勉強を怠らない。

「2005年からクラウドの時代だと言われてきました。当時はほとんどの人がクラウドのことを知りませんでしたが、その中で勉強してきた人が現在活躍できています。2015年からはAIやIoT、ビッグデータがトレンドですが、この先にまた新しいテクノロジーが出てくるでしょう。それは人材業界の流れとも直結しているので、求職者にこれから何を学べばいいか、コンサルティングするためにも勉強が必要なのです」

実際に数年前、レガシーシステムの開発に携わっていた40代の候補者がいた。これから生き残るために、アンソニーはAI開発の勉強を勧める。その結果、候補者は現在、大手企業のAI部門で活躍しているという。

あらゆる業界で今後、機械やコンピューターが人間に置き換わっていく。人材業界も例外ではないとアンソニー。これまでコンサルタントが行っていた業務も、テクノロジーに代替されていく。しかし、人間にしかできないことも必ずあるはず。それは何か? コンサルタントは今後、人材ビジネスにどのように関わっていくべきか? 常にイメージし、どん欲に学び続けている。

「成功の秘訣があるとすれば、育てられ方でしょうか」とアンソニーは半生を振り返る。厳しかった父のもとで育てられた少年時代。自転車で走る友人たちに、いつも自分の足で走ってついていった。みんながサッカーチームで練習しているとき、独学用のビデオを見て負けないほどの技術力を身につけた。そんな経験から、「何かを成し遂げるには、自分で築くしかない」というメンタリティが育っていったという。

「ビジネスの世界でも同じです。企業から信頼されるのを待つのではなく、自ら築かないといけない。候補者のキャリアアップを待つのではなく、築いていかないといけません」

小さな紹介会社でキャリアをスタートさせたアンソニー。結果を出し続け、まさに自分の手でキャリアや人生を築いてきた。同時に、チームのメンバーや求職者、企業の未来も築いてきた。いつの時代も変わらない。心をオープンにし、本音でぶつかり合う。そして学び続け、バリューを生み出し、提供し続ける限り、アンソニーのトップコンサルタントの座は揺るがないだろう。