心を揺さぶるストーリーをいかに作るか。
応募・採用につながる企業ブランディングの方法

エージェントや媒体を使って採用活動をしても、そもそも求人企業に魅力がないと人材は集まらない。ポテンシャライトの山根社長は、エージェントとして500社以上の採用支援を行ってきた実体験をもとに、ブランディングに特化した採用コンサルティングを行っている。ほかにないオンリーワンの魅力を引き出す方法とは。また実際にどのような効果が現れるのか、詳しく聞いた。

ネガティブな要素もブランディングにする

最初に御社の事業概要を教えてください。

採用のコンサルティング全般を行っています。内容は主に三つあります。一つ目がブランディング。企業が採用活動をするうえで、どうすれば他社に勝てるかを設計しています。二つ目がエージェントと提携しての採用支援。端的に言うと、自社のファンになっていただくようなコミュニケーションを取ることがミッションです。どの企業よりも先にこの企業を紹介したい、と思っていただけるよう、ブランディングした企業情報を伝えています。 最後が媒体での採用支援です。WantedlyやGreenなどの媒体で求人を出す際、どのように打ち出せば応募者が増え、入社決定につながるかをアドバイスしています。

企業のブランディングは、どのように行うのでしょう。

ブランディングの目的は企業を魅力的に輝かせること。それがないと応募も来ないですし、採用もできません。私の場合は、ブランディングのためのポイントを「設立背景」「社長の想い」「ビジネスモデル」など15項目に分類し、それに沿って経営者にヒアリングしていきます。そして、コンサルタントとして、500社以上もの企業の採用支援をした経験の中で、どこが最もキャッチーか相対比較します。他社にはない内容だと感じれば、そこを打ち出すようにしていきます。

【採用ブランディング15項目】
① 設立背景
② 社長の想い
③ 社長の経歴
④ 社名の由来
⑤ 役員・社員の特徴(実体験団)
⑥ 事業に特徴があるor競合他社がいない
⑦ 事業の多面性を打ち出す
⑧ 競合他社と明確に違いがある
⑨ 取引先に特徴がある企業
⑩ ビジネスモデル
⑪ 事業方針
⑫ 福利厚生
⑬ 社風
⑭ プロジェクトX(過去の失敗を改善→躍進)
⑮ 調子良いように見えて実態は堅実な企業
※上記の何にスポットを当てるか決定する

これまでに山根様がブランディングを行った企業の、具体的な事例を教えてください。

エンジニアに特化した人材会社様の事例を紹介します。同社は15年ほど前、突然リストラを敢行したんです。社内から猛反発があり、取締役会で社長は解任。売上げも下がり、大混乱に陥った中、次期社長に当時お若かった社員が名乗りを上げました。実は彼の同期が最も多くリストラ対象にされ、もうそんなことを繰り返したくない、という強い思いがあったのです。

新社長が最初にしたのは、「絶対にリストラしない」「サービス残業なし」「IT業界で最大の研修施設の設立」など、社員へ7つの約束をすることでした。結果的に売上げは2.5倍に伸び、離職率も下がって、今では世界でも指折りの人材派遣会社のグループになっています。

そこで私は、同社の経営者と相談したうえで、面接ではあえて「問題発生→業績悪化→解決→今」というストーリーを話してもらっています。「設立背景」にスポットを当てることで、ブランディングをした例ですね。

まず見るのは業界内でのポジション、競合の有無

ネガティブな部分を強みに転換したのですね。

そうですね。ブランディングの際はストーリーを作ることが多いです。このストーリーのことを「OPRF」と呼びます。採用を成功させるには、求職者の感情を変化させることが必要です。当社は優秀な人が集まる、労働環境がいい……といっても響きません。困難があってどう乗り越えたか、というストーリーを作り、面接用に文面ベースで伝えると、とても喜ばれますね。

テレビドラマ、映画の流れをイメージしてください。登場人物の簡単な自己紹介があって、その後何か困難がある。その困難を乗り越えようと努力をして、最後はハッピーになる、という流れが多いかと思うのですが、ここでもし「困難」がなかったとすると、あまりにアッサリしてしまいます。ですので、困難をあえて入れることによって企業ブランディングもできたりするんです。

【「OPRF」の作成】
エージェントが求人紹介をするときの台本のようなイメージ。
ストーリーの作り方として、以下の頭文字を並べて「OPRFの概念」と呼ぶ。

Opening(始まり)
Problem(問題)
Resolution(解決)
Future(未来)

他社との差別化ポイントはどのように見つけるのでしょう。

その企業が業界内でどのポジションにあるか、競合はいるか、は常に意識しています。競合他社がたくさんいる場合は、競合他社との違いを色々な角度から明確にしなくてはなりません。事業内容ではなく社長や設立背景、ビジネスモデル、営業戦略など様々な角度からアプローチします。逆に競合がいなければ、企業というより業界をブランディングしていきます。業界に魅力を感じていただければ、すなわちその企業の魅力と同じになりますしね。

こちらも具体例を教えていただけますでしょうか。

先日カケハシという、調剤薬局向けにクラウドサービスを提供する企業のブランディングを行いました。ただ医療×ネットで見ると、すでに強い企業がいるため勝てません。そこで、市場がブルーオーシャンであることを打ち出すことにしたのです。

医療×ネットという領域ですとやはり有名なのは、エムスリー様とエスエムエス様。皆さんお名前はご存知かな、と思います。エムスリー様は主に医者向けのサービスを。エスエムエス様は介護、看護などの領域に向けたサービスです。

カケハシは「調剤薬局向け」のクラウドサービスなんです。ここが明確に医療×ネット系企業との違いで、この領域に向けてクラウドワービス展開をしている企業は他にないんです。ここにスポットを当ててブランディングをしました。

また、そのほかの情報もキャッチーな企業様です。実は全国に薬局数は5万7000店舗あり、コンビニの数を上回ります。そこで人々が処方箋をもらう回数は、年間5億6000万枚と言われています。つまり、コミュニケーションの機会もそれだけあるということ。しかし、ユーザーや処方箋を管理するために使われているのは、15年ほど前に開発されたレガシーシステムです。そんなブルーオーシャンで、5億6000万回のコミュニケーションを変えよう、というブランディングを行いました。

勝たせるべき企業の採用支援をしていきたい

採用コンサルティングは、どのような料金体系で提供しているのでしょう。

会社ごとに異なります。エージェントのマネジメント、求人広告の運用、ブランディング、オペレーションと分けており、例えば運用だと月20~30万円。エージェントの開拓、マネジメント、商談代行は30万円。オペレーションは10~15万円ほどです。契約は月単位で、月末に必ず継続するかどうか、確認してから進めていますね。

将来的にどんなビジョンをお持ちなのですか。

どこに出しても恥ずかしくない人材マンを育てたいです。そして弊社の社員たちで、日本の人材業界の仕組みを変えていきたいですね。現状、エージェントが注力する採用企業は「採用人数が多く」、「知名度のある企業」に集中しています。

しかしこれでは、本当に良い会社は台頭していかないでしょう。弊社は非効率であっても、「成長意欲のあるベンチャー企業」、「勝たせるべき会社」の採用支援をしていきたい。利益最重視ではなく、想いを大事にしていきたいと思っています。理想論であることは理解しているのですが、人材紹介業はものすごく利益率が高いビジネスで、人材紹介を行う上で、利益重視になるのは好ましくないと個人的には思っています。提携しているエージェントも、こういった考えに共感してくださることが多いので、今後も啓蒙していきながら、同じ思いの方を増やしていきたいです。

ありがとうございます。最後に自社採用についての方針を教えてください。

私たちの思いやビジョンに共鳴してくださる方とは一緒に働いていきたいと思っています。人材業界経験者でなくとも良いかと思っています。ポテンシャライトのビジョンに共鳴いただける方であればお仕事をご一緒して、日本のベンチャー企業様、勝たせるべき企業様に注力するような人材業界の世界観を築いていただければと思っております。ご興味をお持ちの方はぜひご連絡ください。