人々の生活を守ることがコンサルタントの使命。3.11がもたらした変化にどう対応するべきか?

杜の都・仙台に位置するトライアローの東北支店。 ここの支店長を務める男こそが、2013年上半期のコンサルタントランキング(一気通貫型)で1位に輝いた小岩だ。ひょんなことから人材ビジネスに関わるようになり、たちまちトップの座に上り詰めた彼は、どのようにスキルを身に付けてきたのだろう。また東日本大震災が彼や人材ビジネスに与えた影響とは?一見物静かでクールに見える小岩が、熱く本音をさらけ出した。

エンジニアからコンサルタントへの転身

キャンディデイトとどれだけコミュニケーションを取ったかに尽きる。2013年の上半期、23名の成約実績を持つ小岩は、成約を上げる秘訣についてそう言い切った。

「働き方の希望や、将来はこうなりたいというキャリアや目標を、ちゃんとヒアリングできているかどうか。キャンディデイトのことをどれだけ知ることができるかが勝負です。できなかったときは必ず失敗に至りますね。もちろんスキルチェックだけではなく、その方の性格や、クライアント先の環境にマッチするかもイメージしながら面談をします」

コンサルタント歴10年。実績を評価されて6年前から支店長を務めている小岩は、元々電話交換機の検査や解析をしていたエンジニアだった。エンジニアの派遣事業も行っているトライアローにも、コンサルタントではなくエンジニアとして入社予定だった。派遣先も決まっていたが、就業直前に上司から「営業をしてみないか?」と打診される。当時、小岩は二十代半ばだった。結婚をして小さな子どももいた彼は、妻と相談した結果、その提案を受けることに決めた。理由は二つあった。エンジニアとしての派遣先は県外だったため、住み慣れた家から引っ越ししなくてはならないのが一つ。もう一つは、小岩自身、ステップアップのために営業職にチャレンジしたい思いがあったからだ。

「エンジニアをしていたときは、人と話すことが苦手でした。ただ、これからはコミュニケーション力がないといけない。ですので、自分を鍛えるために、営業の仕事を選ぼうと思っていました。実際に、物流会社で営業をしていた時期もあったんです」  こうして、小岩は導かれるようにコンサルタントとなった。トライアローは、エンジニアの派遣と紹介を行っている。そのため、エンジニア出身の小岩には、彼ら彼女らがどういう思いで応募をしてきたか、どんなニーズを持っているか、今後どんな業務やキャリアを希望しているかなど、面談しているととてもよく理解できた。そのため、慣れないコンサルタント業でも辛さを感じることはなかったという。加えて良い上司の存在も、コンサルタントとしての彼を成長させた。

「当時、現在の上司が、ビシビシと営業を一から叩き込んでくれたんです。それが3年くらい続いて、営業のノウハウを吸収していきました。たたき上げに近い感じで成長していきましたね」

キャンディデイトの人生設計を最優先する

小岩が身に付けたノウハウは、冒頭にある通り、コミュニケーションを大事にすることが中心にある。例えばキャンディデイトと面談をする場合、本人が何を一番優先するかを把握しなくてはいけない。特に複数のエージェントに登録している場合は、トライアローを一番に選んでもらうために、コミュニケーションを重ねてヒアリングしていくのだ。ただし、最も大事なのは、成約よりもキャンディデイトの人生だ。

「宮城県内には、競合のエージェントが約300社ほどあります。当然クライアントが被ることも多く、一つの案件に対して大体 3社はバッティングしますね。キャンディデイトには、当社で就業してもらうよう、無理やり説得することは可能だと思うんです。けれどそれをしたために、キャンディデイトの人生設計が間違った方向に進んでしまった場合、取り返しのつかないことになってしまう。ですので、無理なことはしないです。メリットやデメリットを伝えて、本人に納得してもらった上で就業してもらうことが前提です」

派遣就業中のエンジニアでも同様だ。クライアント先に常駐していることが多いため、帰属意識が薄れがちになってしまう。それを解消するため、定期的に帰社日を設けて、顔を合わせてのコミュニケーションを取るようにしているという。

「仕事を通じてこういうスキルが身に付いたとか、これまでできなかったことができるようになったとか、そういう声を聞くのが何よりの楽しみですね。またクライアントにも、成長度合いを伝えたり、こういう業務を希望しているが実現可能か? 可能であればスキルアップのためにこういう業務も任せてもらえないか? とお願いしたりして、できるだけ本人の希望が叶うようにしています」

東北支店では、地元密着型のスタイルを大事にしている。クライアントはほとんどが地場に根付いた企業で、採用する人材もできる限り地元の人だ。Uターン採用も多いという。派遣就業では期間も長い方が多く、12年以上働いている方もいるそうだ。一方で、雇用を維持できなかったときは「本当に残念で悔しい」と小岩は話す。

東北における一気通貫型のメリット

「地域密着型」「エンジニアの紹介と派遣」という二つの特徴を持つトライアロー東北支店では、コンサルタントが最も力を発揮できるのは一気通貫型だという。営業から採用までロスが少ないほかにも、一気通貫型には様々なメリットがあると小岩。

「エンジニアは自分の技術に自信を持っていて、悪く言えばガンコな方が多くいます。そのため、性格や考え方を理解していないと、クライアントへの提案が難しい。そういう意味で、一気通貫は最適なのです。また、大手紹介会社などでコンサルタントが転勤したときに、クライアントから『人材会社の営業は転勤が多いよね』『また担当者が変わったんだ』とよく話を聞きます。私たちはコンサルタントの転勤がなく、地元に密着した営業活動を展開するためにも、一気通貫型を採用しているのです。実際に、クライアントは既存の企業から信頼を得ることで、お取引中のクライアントから新規のクライアントを紹介してもらうことが多く、地域で新規営業も多いんです」

2013年度前半、小岩が成約をした職種は、ソフトウェア・ネットワークエンジニア、建設の施工管理、通信関係など。年齢は30代前半から60歳(2013年度上期は)までと幅広い。人材が不足しているため、60歳でも若いという感覚でクライアントには受入れてもらっているそう。また年齢が高い方は経験豊富なため、若手の指導に当たってほしいということでニーズがあるという。人材開拓は基本的に有料媒体やネットは使わず、ハローワークに求人を掲示することで集めている。他には就業中のエンジニアの紹介や、既存の登録者へ連絡をして掘り起こしを図って採用を行っている。

東日本大震災がもたらした変化

2011年3月11日14時47分、東北地方のみならず、日本中に忘れられない出来事が起きた。東日本大震災である。トライアロー仙台東北支店も、当然受けた影響は大きかった。

「何も情報が無くて、翌日になるまで状況が分りませんでした。津波が来て、私が住んでいた場所も玄関まで浸水していました。まず行ったのはエンジニアの安否確認です。幸い、全員が無事だと確認が取れました。一人だけ、業務で沿岸に行っていて、10日間経っても連絡が取れない方がいました。もうダメか…と思っていたのですが、携帯の電波が繋がらず、移動無線の基地局を積んだ車が来て、ようやくつながり安否の確認が取れたという経緯がありました」

エンジニアの無事は確認できたものの、何も身動きを取ることができず、東北支店の閉鎖も危惧したという。だが冷静に考えたとき、街中が崩壊している状態では、間違いなく仕事はあると判断。震災の2日後には人集めに専念した。コンサルタントという仕事に、最も大きな影響を与えた出来事だった。

「私たちの仕事は人の生活を守ること。そこに使命感を持っています。最近、東北の有効求人倍率が非常に高くなっていますが、実際は沿岸の建設現場やがれき処理、原発除染などもそうですが、空いているところに求人が出ているだけで、求人がアンバランスで求職者の望む職種は少なく、求職期間が長くなるのが現状でマッチング率としては非常に厳しい。そこで人材のスキルチェンジをして、新しいスキルを身に付ける環境を整えることが私たちにできることなのです」

震災以降は、人材不足が続き経験者の採用をほぼしておらず、育成に力を注いでいる。例えば未経験者やフリーターを技術職として採用して、育成していくスタイルを取っているのだ。ほかにも、震災以降に変わったことはいくつもある。求職者サイドでは、県外ではなくて地元で働きたい方、Uターン希望者が増えたこと。企業サイドでは、人材不足のため、契約期間が長めになったこと。賃金の単価が上がったこと。建設業を中心に、派遣社員から正社員への切り替わりが増えたことなどだ。

10年後の自分を見据えたとき、大事にすべきこと

復興需要を受けて、2012年の業績は歴代で最高の数字を上げた。今後5年間くらいは復興需要が続き、高い業績を維持できる見通しだが、その後の計画を立てていく必要があると小岩。

「今後、労働法や派遣法が改正され、企業側は雇用の確保や解雇がしやすくなると考えています。私たちにとって、向かい風も追い風も両方あるのです。それにどう対応するかで、私たちの動き方は全然変わってきますし、特に雇用の確保という点では、私たちの業界の役割は重要です。阪神大震災後の神戸では、復興が終わった途端に企業があっという間に倒産した、という話を聞きました。復興需要がいつ終わるかも見越して、雇用の維持ができる環境整備をしていかないと厳しいですね」  震災以降、福島を中心に、色々な地域に人が流れている。現在は人材流動の数を調べて、そこから失業率や有効求人倍率を調べて、求人を出すことに力を入れている。雇用の創出を通じて、「求職者の生活を守る」という使命を実現し続けているのだ。

トップコンサルタントは、週末もアクティブに動き続けている。と言っても、仕事のことは忘れて、アウトドアで体を動かしているのだ。子どもが所属している野球チームでコーチと審判をこなしているかと思えば、キャンプに行ったり釣りをしたりと、太陽の下で体を動かすことで、リフレッシュを図っているのだ。そしてまた月曜日からは、支店長として、コンサルタントとして、キャンディデイトやクライアント、部下など多くの人々と接し続ける。

「今の自分と10年後の自分では、仕事のやり方がまた変わってくると思います。年を重ねれば重ねるほど、人脈は増えると思う。それをいかに活用するかがポイントでしょうね」

コンサルタントの仕事は自分に合っていると思う、という小岩。そのためにも、人脈をいかに作るかを常に意識しているという。かつて人と話すことが苦手で、自分を追い込むために営業職を志した面影は、そこに全く見当たらない。クールな表情に、少しだけ笑顔が浮かんだ。2013年上半期、ナンバーワンに輝いたトップコンサルタントは、決しておごることなく、今後も前を向いて走り続けるだろう。