常にトップだけを見続けるストイックな男が見据えるサバイバル・マーケット

世の中のニーズが高い分野である介護・医療業界。多くの人材ビジネス企業 が参入し、競争を繰り広げている。そんな中、驚異的な成績を上げ続けているのが、看護師向けの人材ビジネスのパイオニア・株式会社エス・エム・エスの吉田だ。看護師マーケットならではの特徴や傾向、そして仕事をする上で軸となっている、上司から受け継いだ信念を明かしてくれた。

登録者の9割が女性のマーケット

2年間。これは吉田が、エス・エム・エスでトップコンサルタントの座を守り続けている期間だ。彼が紹介事業に関わり始めたのは2年10ヶ月前。当初の 数ヶ月を除いて、約2年間に渡ってトップを走り続けている。2013年の上半期 も、その勢いは加速するばかり。半年間で割振られた新規登録の求職者は約 240名のうち、70名強が成約という驚異の決定率を誇る。

「一番しか狙っていないので、それ以外の順位は見ていないですね」

吉田はそうクールに言い放った。エス・エム・エスは高齢者に特化した情報 インフラの構築など、高齢社会に特化した事業を中心に行っている。その一環 として、介護・医療施設で就労希望する方への人材紹介、求人広告の提供、就 職イベントの開催などがある。同社の名古屋事業所に所属する吉田が担当して いるのは、看護師に特化した人材紹介だ。

看護師の特徴は、年齢も生活環境も希望の働き方も様々な人がいることだと吉 田は言う。資格は正看護師、准看護師と2種類あり、年齢も20代前半~60代以 上と幅広い。独身者も既婚者もいれば、フルタイムで働きたい方や、家庭と両立して働きたい方もいる。最も大きな特徴は、9割が女性ということだ。

「看護師の9割以上が女性で、家庭を持っている方も多いので、条件には色々と縛りがあります。例えば通勤時間。男性であれば、良い職場なら2時間かけても通いたいという方もいますが、女性はワークライフバランスを大事にする方が多いので、通勤時間が長いと敬遠されがちです。『勤務地は30分圏内』などの縛りがある中で、いかにその方にあった仕事を紹介するかが大事です」また、条件や待遇について伝えるときは、主観を入れず定量的に伝えるようにしているという。

「例えば『この病院はすごくいいですよ』と伝えるのではなく、その方が現在働いている病院と比べて『給料は何万円上がります』『残業は月に0~1時間程度です』と伝えています。このとき、口頭では分かりづらいので、メールでも必ず送るようにしています。後はスピードですね。スピーディに連絡が取れるよう、送り先は基本的に携帯電話のメールです。忙しい方が多いので、面談も直接会うのではなく、電話でお話をさせて頂いて時間を短縮することもあります」

吉田は月に平均40名の登録者と面談を行っている。それでも、たくさんの求職者にアプローチをかけるよりは、一人の方を絶対に決めるという意識で行動しているという。案件は基本的に出し惜しみせず、複数を一気に提案する。また、競合他社にも登録しているか、進行中の案件はあるか、なども確認した上でマッチングを進めている。

看護師の紹介ビジネスは全く異なる

登録から成約までの期間は、早ければ1ヶ月、標準的なのは2~3カ月。ただ、過去の登録者に再アプローチするケースもあり、その場合は1~3年かかること もあり、実に様々だ。

「登録者に電話をしたり、メールやDMを送ったりしてアプローチをすることもあります。看護師は一カ所に5年間も勤めていれば長い場合で、多い場合だと10カ所も職場を変える方もいます。そういった方への再アプローチが成約に繋がることもあります」

新規の登録者と接する際も、過去の登録者と接する際も、共通して心がけていることがある。それは基本的なことではあるが、頻繁に連絡をすることだという。

「皆さん不安な部分があるはずなので、連絡は頻繁にしています。希望の仕事がなかなか見つからないときでも、『今、探していますので、もうしばらくお待ちくださいね』と連絡を入れるだけで、安心してくださるはずです」

特殊なことは何もしていません、と吉田は言うが、こうした細かい心遣いが、求職者から信頼され、一ヶ月に平均12~13件の成約をコンスタントに上げ続けているのだ。もちろん、成約に至らないケースも決して少なくない。その理由として最も多いのは、勤務時間や休日など、細かい条件が合わないこと。また、看護師が売り手市場という背景があるため、ハローワーク経由で決まってしまうケースも多いのだ。

それでも、看護師人材紹介のニーズは上がっているというのが吉田の見通しだ。看護師はかつて、新聞広告で人材募集をすることが多かったが、エス・エム・エスは看護師人材紹介のマーケットを作った先駆者である。エス・エム・エスは看護師人材紹介に限定しても、47都道府県すべてに求人事業所・求職者を確保している。登録者数も業界最大規模で、膨大なDBを保有している強みも、吉田が活躍する追い風となっている。

「今後、看護師人材紹介は淘汰の時代に入っていくでしょう。多くの求人や登録者などの情報インフラを持っている、ある程度大きい企業が残っていくかと思います。また通常のホワイトカラーと看護師の紹介は全く違うので、医療に関する知識が必要です。新しく参入した企業が、いきなり経験・知識無しで太打ちするのは難しいでしょう」

常に目標の3倍の数字を追い求めている

他のコンサルタントと最も違うのは考え方。吉田はそう言い切る。その背景には、会社から与えられた目標とは別に、自分自身の中で高い目標設定をしていることにある

「目標を達成しても、私は全く嬉しいと思いません。達成率150%を出しても同様です。それは、常に目標の3倍の数字を上げようと思っているからです。

目標を達成した後も、いかに数字を積んでいけるか考えていますね」ストイックに数字を追い続ける吉田。実は、かつては目標を達成できない時期が続いていたという。転機は、現在のチームに所属して、上司に指導を受けたこと。その教えは、一ヶ月という長い期間よりも、日々すべきことにコミットしてやりきることだ。

「日々すべきことをして、日々勝ち続ける。そんな上司の考えを教わったからこそ、今の私があります。これまでは『何となくこうやろう』『できなくてもいいや』という考えがあったと思いますが、まるで変りましたね」

時間の使い方も、吉田は特徴的だ。午前中か夕方に電話面談をし、その他の時間は看護師と主にメールでコンタクトを取ることに費やす。そんな業務スケジュールの中で、例えば夕方にある30分の休憩中は、一切稼働しない。どんなに忙しくても、20時30分には必ず帰宅する。こういったメリハリをつけることで、業務への集中力をより高めているのが吉田流なのだ。

エス・エム・エスのコンサルタントは20~30代が中心で、人数規模も最大級であるが、今後の課題は、人材育成だという。

「私が幾ら成果を上げているとはいえ、自分しかできないのでは意味がありません。社内の誰もができるようにノウハウとして落とし込んで、水平展開していくことに力を入れていきます」

吉田はトップの成績を出し続けているにも関わらず、自己評価も厳しい。100 点満点だとは全く思っていない、自己評価は70点程度だと言い切る。常に謙虚で向上心を持ち続け、さらなる高みを目指しているトップコンサルタント。その背中を追うコンサルタントたちも、彼のノウハウだけでなくDNAを受け継いで、エス・エム・エスを支えていくのだろう。