狩猟民族でなければ人材ビジネスはできない。求職者をいかに鼓舞するかで成約は決まる

謙虚で寡黙な紳士。それが小林の第一印象だ。コンサルタントとして優れた成績を上げ続けている小林だが、インタビュー中はあくまで低姿勢を貫き通し、必要以上に多くを語ろうとしなかった。それでも、内に秘めた情熱やクライアントへの思いは、言葉の端々からにじみ出ている。彼もまた、紛れもなくトップコンサルタントの一人だった。

再就職支援と人材紹介の違いとは

46.75%。この数字は、小林の2012年上半期における新規求職者の決定率(*)だ。トップコンサルタントに相応しい、堂々たる数字である。小林が担当している再就職支援とは、企業が早期退職者を募ったときなどに依頼を受けて、社員の再就職の支援を行うサービス。クライアントは主に金融・IT・製造業が多く、求職者の年齢は30代~60代と幅広い。

「通常のエージェントは、企業からのオーダーに沿って人を探しますが、私たちは人からのオーダーに沿って企業を探します。生命保険の代理店が色々な商品を扱っているように、自社案件だけでなく、提携エージェントや公的機関などを通じて、求職者に合った様々な案件や転職方法を求職者に情報提供するところから始まります。求職者の希望する企業に対して、直接売り込みも行いますね」

再就職支援と通常の人材紹介の違いを、小林はそう話す。中でも力を入れているのは、求職者自らが行動を起こすようにすること。コンサルタントが求職者本人に代わって案件探しをしたり、ほかの紹介会社とやり取りをするよりも、本人が主体的に仕事探しを行うようにサポートするという。

「求職者の多くは大企業にいた方で、就職活動は新卒のときにしただけという方がほとんど。そのため、書類を出せば内定が取れるものだと思い込んでいる人が多いのですが、現状は違います。当社に登録したばかりの頃は、一週間に20社ほどの再就職先を提示できるのですが、制限があって成約に繋がらない案件も多い。エントリーをしてもレスポンスがなかったり、提示できる案件も減っていったりするうちに、求職者の気持ちが落ち込んでしまうんです。そこをどのように支えるかは常に気にしています。求人開拓担当のコンサルタントと3者面談をしたり、ときには臨床心理士にカウンセリングをしてもらったりして、本人を鼓舞するようにしていますね」

人事を尽くして天命を待つ

転職経験がない方は、再就職をすることになっても、自分の年齢やキャリアなどを踏まえたマーケットバリューを分析するのが難しく、容易に転職できると思い込んでいる方も少なくない。それをどう伝え、最適なキャリアに導いて転職に繋げるかが、再就職支援の難しいところだという。

「私たちが労働市場の現状をはっきり伝えていいのか。それは難しいところです。前職の年収・仕事の通りに再就職する方もいらっしゃいますが、人によっては大胆なキャリアチェンジが必要になる場合もあります。待遇や給与が今までと変わる場合は、最終的には求職者が理解するまで待つしかありません。求職者と信頼関係を保ちながら、最善の着地点にたどり着くことを目指しています」

これまでに、日米それぞれの会社での勤務経験があるほか、経営者をしていたこともある小林。会社目線と求職者目線、両方の視点を持っていることが、コンサルティングでも生きている。とはいえ、やはりコンサルタントはあくまでサポート役。年齢制限でエントリーできる求人案件が限られたり、スキルや経験が合わなかったりするケースも少なくないが、その中から再就職先を見つけ出すため、求職者が自分から行動できるようにアドバイスをする。

「再就職は狩猟だと思います。獲物が通りそうな場所を見つけ出し、仕掛けを設置してジッとかかるのを待つイメージです。人脈や職歴を活かして、一桁より二桁と多く応募の仕掛けをすることが大切です」

そのように、人事を尽くして天命を待つ姿勢が、46.75%もの決定率に繋がっているのだという。

業界が変わっても生かせる経験値

再就職支援のコンサルタントは、キャリアカウンセリング、案件の紹介、再就職先の探し方、応募書類の書き方、面接の受け方の指導、再就職後のアフターケアなど、求職者のサポート全般を行う。その内容は非常に手厚い。例えば模擬面接はビデオに撮って、それを見ながらコンサルタントがマンツーマンでアドバイスを行う。応募書類作成に関しても、苦手な求職者が多いため、セミナーと個別添削を行い、時間をかけて作りこむ。ほかにも外部講師による独立開業セミナーを開催するなど、退職後のセカンドキャリアを成功させるためのあらゆることを行っている。その結果、求職者の入社先の企業から別の求人案件をもらえることにも繋がり、良いサイクルを生み出していくのだ。

小林の支援によって、キャリアチェンジに成功する例も多い。小林が担当した中で印象深いのは、外資系の金融機関から大手製菓会社へ転身した案件だという。

「その方は50代の求職者でした。年齢が高めですが、非常に優秀で、MBAを取得しており、とても柔軟に物事を考える方です。金融業界を離れ、今後は事業会社で働きたいと希望し、ご自身の経験が生きる仕事を研究し、強みと志向性が両立できる大手製菓会社の海外支店管理の仕事に再就職なさいました。」

業界が変わっても、視点を変えれば新天地でも役に立つ経験が必ずある。小林はそんな確信を持っている。

成約数より大事にすべきもの

小林は現在進行形で就活中の方を、常に35名は担当している。会社で定めている成約目標はあるが、あまり考えたことがないという小林。その理由は、あくまで求職者のキャリアを優先しているからだという。

「再就職支援業界でも、成約数を重視する傾向が出ていますが、ただ数字を上げればいいものではありません。早期再就職決定のために、入りやすい会社に押し込んだり、派遣社員でもいいからと無責任に勧めたりすることは、絶対にありません。」

再就職支援は、登録時に料金を受け取り、再就職まで支援するビジネスモデルのため、早期の再就職決定や成約数を重視する企業が増えている。しかし、支援期間や成約数にこだわり過ぎると、再就職先が合わずに離職し、再度の再就職支援が必要になってしまうリスクが高いのだ。そんな小林は、再就職支援ビジネスの今後も冷静に見つめている。

「ある程度の規模の製造業は、円安になったからといって、海外進出を止めはしないでしょう。国内の業績は相変わらず厳しく、製造業全体の従業員数は一千万を切っています。この先も、製造業出身の方の再就職を支援させていただく機会が増えるでしょう」

影響が大きい製造業の見通しを、小林はそう分析する。これまでは、企業が赤字のため、帳尻を合わせるための人員削減だったが、この先は海外進出のための雇用調整が増えていくという見通しだ。最後まで謙虚に、小林は再就職支援のノウハウを語ってくれた。人材ビジネスには通算20年、再就職支援には約15年関わっているというベテランは、今日も再就職支援で蓄積されたノウハウを発揮し続ける。