“大胆女子”がつかんだトップの座。「出会い」「対話」が育んだ自分流スタイル
その若さと対照的に、対峙すると不思議な落ち着きと安心感を覚えるトップコンサルタント・松井かおる。物柔らかな笑顔と口調が印象的だが、実は好奇心と積極性に溢れていることが、幾つものエピソードを通して伝わってきた。現在だけでなく、未来も見つめているかのような眼差しの奥に秘められた彼女の思いとは? コンサルタントとしての原点や、今後の目標についても深く迫った。
2度の大胆な決断を経てコンサルタントへ
大胆という言葉を、インタビューが始まって早々、松井は口にした。しかも、2回も。
「昔から語学に興味があって、英語を勉強したいと考えたんです。駅前留学するよりは現地に行った方が早いと思って、仕事を辞めてワーキングホリデーでオーストラリアに行ったんです。振り返ると、無鉄砲な決断だったかもしれないですね」
当時、三重県で製造業向けの大手派遣会社に勤めていた松井の、一回目の“大胆”は仕事を辞めての渡豪だった。滞在期間を一年と決めて、必ず英語を身に付けるという思いで語学勉強に励んだ松井は、その甲斐あってビジネスレベルの英語力を習得。帰国後は故郷でもある三重県を離れて上京し、再び人材ビジネスに着くべく就職活動を始めた。二回目の“大胆”はこのタイミングにあった。
「東京は世界でも経済の中心ですし、どうせ働くなら大きいマーケットの方がビジネスの醍醐味を味わえそうだと思い、三重を離れました。ただ、当時は09年で、リーマンショックが終わってすぐの厳しい時期。結果的には良かったですが、思い切った決断でしたね… 」
松井が門を叩いたのはロバート・ウォルターズ・ジャパン。リーマンショック後の厳しい状況下であったが、内定を得ることができた。当時を振り返って松井は苦笑する。
「オーストラリアでは主に勉強をしていたので、世の中が大きく変わったことを体感できていませんでしたが、転職時に東京に来て初めて、世の中の経済が大変なことを肌身で感じました」
入社後、松井は派遣・契約・紹介予定派遣紹介を扱うコントラクト部門に配属される。同期入社の社員はいなかったが、その分マネジメント層やディレクタークラスの先輩がマンツーマンで指導してくれる機会が多かった。松井の言葉を借りれば「マーケットは厳しい状況でしたが、ロバート・ウォルターズ流の親身になった指導があり、恵まれた環境と感じていた」という日々の中、彼女は2度目となるコンサルタントの道を歩み始めた。
人材ビジネスで必要な2つのスキル
だが、松井はいきなり大きな失敗をした。紹介予定派遣の案件で、企業から内定を受けた候補者がいた。候補者は当時、正社員として就業中の方。彼女も企業に興味を持っていたが、松井は背中を押し切ることができず、結局クロージングには至らなかった。
「候補者は企業からカウンターオファーをいただいていたのですが、私はコンサルタントとして真意を突くようなフォローアップやコミュニケーションができておらず、実際は的外れな紹介をしていたことに後から気づきました。しかも、それまで担当していた派遣は、数日~数週間で成約することが多いのに、そのときは約半年近くかかりましたが結果的に成立せず、落ち込みましたね」
だが、学んだことも多かったと松井は笑顔を見せる。
「雇用形態に関わらず、転職というのは大きな決断です。その重要さを再認識して自己啓発し、細やかなフォローアップスキルを上げていかないと、候補者の方に納得してもらえないことに気付きました」
その後も失敗や成功を繰り返すうちに、コンサルタントとしての実績を積んでいった松井。元々現状に満足しない性格で、自己評価は常に厳しめ。謙虚さを常に持って、日々向上を心がけているストイックさも、彼女をトップコンサルタントに成長させていった。人材ビジネスで活躍するのに、大事なスキルは2つあると思います、と話す。
「一つ目は対人スキルです。どのように候補者やクライアントにアプローチをして、本音の話を引き出した上で、相手の心を動かせるか。日々仕事をする中で、同僚や先輩、後輩、上層部からそのスキルを学んでいくことが大事です。また社外でも、私の場合はネットワーキングイベントやセールスセミナーに参加して知り合いを作って、対人スキルを身に付けようとアクティブに行動しています」
そして二つ目は、マーケットのトレンドを読み解くスキル。
「マーケットの動向は、新聞やテレビなどのメディアだけでは、マクロな視点からしか見られません。ですので、人に直接話を聞くことを大事にしています。例えば社内の同僚に聞いたり、社外では企業のCEOや役員・上層部の方々、またトップマネジメントの方々がご存知でないことをスタッフレベルからも話を聞いたりして、ミクロな視点から企業やマーケットを読むようにしています」
マネージャー一年生が語る難しさと喜び
そのほかに、松井が大事にしているのは準備だそう。会社で設定されている3ヶ月ごとの目標に対して、進捗状況を常に把握して、日々すべきことをリストアップするのが日課だという。
「私のいるチームは総勢6名で女性ばかり。プライベートの時間も大切にしたいので、できるだけ残業を減らしたい風土があります。一日の勤務時間8時間の中で、いかに自分のしたいことをできるか。そのために、私は毎朝15~30分くらい時間を作って、目標の進捗管理やその日のすべきことリストを準備してから出社します。そして、一日が終わった後にどこまで終わったかをチェックしています」
毎朝目標設定を行うことは、モチベーションを保つ手段にもなっているという。そして2012年10月、これまでの実績を認められた松井はマネージャーに昇格し、5名の部下を持つことになった。これまではプレイヤーとして活躍し、自分の成果を追求してきた彼女だけに、初めての挑戦となるマネジメントでは戸惑うことも多かったという。
「最初はプレイヤーとしての気持ちが抜けなかったですし、他人の成果のためにサポートをすることがいかに難しいかにも気づきました。メンバーと接するとき、どうすれば自分のメッセージが伝わるのか、日々模索しています」
そう吐露するが、これまでは味わうことがなかった、マネージャーとしての喜びについて、松井は目を輝かせた。
「部下が成果を上げたとき、こんなに嬉しいんだ! ということに気づきました。まるで親になった気分です。今後の目標は、いかに自分のチームメンバーの個々の能力を引き出すか。そして新たなリーダーを作っていけるかが、私にとってのチャレンジです」
まだまだマネージャー一年生、と謙遜する松井だが、その笑顔から不安や迷いは見えない。
まだ伸びしろがある派遣・契約マーケット
ロバート・ウォルターズ・ジャパンでは、2006年にコントラクト部門がスタートした。現在コントラクト部門は、IT、経理・財務、ビジネスサポートの大きく3チームに分かれており、ヘルプデスクから人事総務・秘書、各種アシスタント、営業・マーケティングまで幅広い案件を扱っている。ITの中でもインフラやデベロップメント、HR、セールスマーケティングなどに細分化。チームは人事総務、秘書、受付、アシスタントレベル、セールスマーケティングなどの分野に分かれている。
「正社員の就職支援は、ご成約するまでの期間に主なプロセスが集約されています。けれどコントラクトの場合は、労務関係を含め、お一人おひとりのお仕事の状況を定期的にフォローしていくため、その方がスキルを磨かれていく姿を肌で感じることができます。コントラクトの魅力はそこにあると思います」
松井はそう語る。さらに昨年、シドニーに出張で行ったとき、現地のコントラクトマーケットの成熟さに直面して、大きな刺激と驚きを得たという。
「シドニーではそれぞれの業界ごとにコントラクト部門があり、職種の専門性によって細分化されています。どの職種も、その専門性におけるプロフェッショナルリズムで評価されます。男女・年齢問わず正社員でなくコントラクトの雇用形態で就業される方も多く広く認知されていて、給料形態も日本とはかなり違いましたね。また現地では、スピード重視で的確な方を紹介していたのも印象的でした。オーストラリアの良い部分が、今後日本のビジネスに取り入れられて行けたらと思いますし、それが日本で機能するかも見届けて行きたいです」
まだ伸びしろがある人材紹介サービスとしていかに広げていくかに、今後松井は取り組んでいく。全体で考えても個体で考えても、まだポテンシャルがある業界だと松井は力を込めて語った。
「いかに自分のチームメンバーの 個々の能力を引き出すか。そして新たなリーダーを作っていけるかが、私にとってのチャレンジです」
コンサルタントの技術は出会いや経験から学んだ
オフの日も、松井はアクティブに行動し続ける。元々趣味が多く、旅行に行ったり、写真を撮ったり、買い物をしたりと、気持ちの切り替え方法には事足りない。また2012年4月から、松井はコンサルタントとしてさらにステップアップすべく、新たな挑戦を始めた。
「社会保険労務士の資格を取りたくて、通信制の短大に通い始めたんです。派遣スタッフの管理をする中で、有給や保険などについてスタッフから聞かれることが多いのですが、その場ですぐに答えられるようになりたいと思ったのがきっかけです」
学校では、思わぬ出会いや再会もあったという。
「実はクライアントが通っていて、驚きました(笑)。また、米国公認会計士やファイナンシャルプランナーなどを目指す様々な業界の方も通っているので、ネットワーキング作りにも役立ちます。転職したいので当社に登録したい、という方との出会いもあります。仕事の傍ら資格取得への準備は簡単ではありませんが、勉強の過程や取得後に得るものが大きいので、これからも日々目標を高く持ちたいですね」
多くの人との出会いや得た経験は、コンサルタント業にも確実に役立っている。候補者の履歴書では見えないパーソナルスキルを伝えたり、企業の魅力を伝えたりという技術は、彼女の場合公私に渡るコミュニケーションを通じて身に付けてきたのだ。
「目標に対していかにクリエイティブな仕事をしていくか。そのやりがいや楽しさがモチベーションを上げてくれます。クライアントの方々、同僚や上司など、多くの話から学び、試行錯誤を繰り返しながら自分のスタイルを確立し、今後も精進して行きたいです」
松井の自分流スタイル。それはときに大胆に映るかもしれない。だが、多くの出会いや出来事から経験値を吸収し、自分の力に変えるスタイルで、松井はここまで成長してきた。何より彼女自身、そんな自分流スタイルを楽しんでいるはずだ。