関西弁のカナダ人コンサルタント「クライアントとの信頼関係が何より大事」
映画俳優かモデルのようなルックスの、長身で精悍なカナダ人ビジネスマン。だが口を開けば、飛び出すのはコテコテの関西弁というギャップが何ともユニークだ。それでもビジネスにかける思いは、勤勉と言われている日本人よりも真摯で熱い。初の登場となる外国人トップコンサルタントに、仕事術からプライベートまで迫った。
関西弁を話すカナダ人コンサルタントの誕生
1997年.カナダから大阪に向かう人生初フライトの途中、ニールは数年後の自分が、日本でトップコンサルタントとして活躍していることなどまるで想像していなかった。大阪に住んでいる親戚や兄弟を訪ねて、ちょっと観光をしたら帰ろう。そのくらいの軽い気持ちで大阪に向かっていたのだ。当時、ニールは24歳。カナダのビジネススクールに4年半、ほぼ休みなく通っていた彼は、卒業を機に羽を伸ばして日本を満喫するつもりだった。ところが初めて訪れた異国の地・大阪の居心地の良さに、しばらく腰を落ち着けることとなる。 「お姉さんとおじさんといとこが大阪に住んでいたので、生活の土台ができていて、すぐに馴染むことができました。しばらくは高校や大学で英語を教える仕事をしていたのですが、そのうちに東京に出てビジネスをしたいと思い始めたんです。カナダで私の帰りを待っていた家族と友達は残念がりましたけどね」
そして2004年。すっかり日本語もマスターしたニールは、大阪から上京。翻訳や営業など幾つかの選択肢の中から選んだビジネスは、リクルーティングだった。
「リクルーターとして様々なクライアントと接することで、日本のマーケットにある業種や職種、企業、ビジネスの状況などを身に付けられる。仕事を通して自分も成長できるという期待から、リクルーティングビジネスを選んだのです」
入社したのはウォールストリートアソシエイツ(現 en world Japan)。採用面接では合計11時間も費やしてニールという人物のことを知り、同時に自社のことを伝えようとする同社の創業社長や採用担当者の姿勢に惹かれた。流暢な関西弁を話す、カナダ人コンサルタントの誕生だった。
信頼が生み出す成功のサイクル
今でこそ社員数160名規模のen world Japanだが、ニールが入社した当時は社員25名~30名の小さな会社だった。だが、先輩コンサルタントたちとの距離が近いその環境が、ニールを急成長させていった。
「非常に優秀な先輩やメンターが周りにいて、書籍をもらったり、付きっきりでトレーニングをしてくれたりなど、多くのことを教わりました。またオフィスにいれば、先輩たちがどのように電話をしているのかを目の前で勉強できますし、分からないこともすぐに聞くことができます。その中で自分なりのスタイルを見つけていきました」
en world Japanでは成功報酬型サービスのほかにリテインド・サーチ型サービスを扱っている。当時は、リテインド・サーチの多くをニールが担っており、彼はシニアレベルのHRリクルーティングを専門とし、実績を積んでいった。コンサルタントとしてのモットーは、「顧客に無駄な時間を費やさせることなく、企業課題を解決するための最適な人材ソリューションを提供する」こと。そのために何より必要なのは、クライアントから信頼されることだという。
「Fortune500にランクインしている世界的に有名な金融機関から、ディレクターからシニアスタッフレベルまで人事部をゼロから構築してほしいという依頼を受けたことがあります。本件は独占案件でリテインド・サーチという形で行われました。このような機会をもらえたのは、会社同士の信頼や、私以外のチームが勝ち取ってきた信頼のおかげです。これらがあってはじめて、私の提案も聞いていただくことができたのです」
ニールは謙虚な笑顔でそう語る。「en world Japanには、創業者が育み、現社長が守り続けてきたチームワークを大切にするカルチャーがあります。当社のコンサルタントは自分に利益がなかったとしても、誰かのために協力するという思いを常に持っています。このカルチャーを引き継いでいくことが、私たちが目指している一つのゴールなのです」
チームワークを大事にすることは、結果的にクライアントの利益に繋がる。そして信頼を集め、さらに大きな成功へと結びつく。そんなサイクルの中で、ニールは会社と共に成長してきたのだ。
全てのコンサルタントがクリアすべきKPI
ニールが所属していたHRリクルーティングチームは、スタート時は2名だったが、現在は10名以上の大きなチームにまで成長した。長年プレイングマネージャーとして活躍していたニールも、現在は各拠点のシニアマネージャーの統率に専念している。目標数字はコンサルタントによって異なるが、全員がクリアすべきKPIの設定をしているそうだ。優秀なコンサルタントの場合、KPIを用いてベーシックな活動内容を強化することで、月5件以上もの成約を決めることもあるという。
「東京とブランチオフィスでは環境が違いますし、担当する業界によっても規模が異なるため、目標数字はそれぞれ違います。ただ、日々の営業活動の中では、全てのコンサルタントがクライアントへの電話や面談の回数など、サポートスタッフとともにクリアすべきKPIを明確に設定しています。 私たちは何件電話をかけて、何通履歴書を送ればマッチングする人材が見つかるか、大体の経験で把握しています。そこからKPIを割り出しているのです」
設定されているKPIは、厳しい目標数値に思えるが、ニールはこう説明する。
「コンサルタントを採用するプロセスの中で、様々なことを並行して行えるスキルがあるかをしっかり見るようにしています。そのため、当社に入社するのは優秀な人材ばかりという自負があるので、あえて全員に高めのKPIを設定しているのです」
明確な目標のもとで優秀なコンサルタントたちが努力し続け、en world Japanを成長させてきたのだ。ニールは今後の展望として、この成長をいつまでも継続させたいと意気込む。
「大きな会社を目指そうというよりは、継続的な成長を続けた結果、成功を手に入れたいですね。そのためにはやはり、クライアントから『この人だったら任せてもいい』と思われることが何より大事。顕在化しているニーズに対して行動を起こすのではなく、ソリューションをこちらから提供することで、信頼関係は築かれていくのです」
数字はもちろん大事。ただし、信頼関係が築けていない状態で、固執はしない。信頼関係を築き上げ、コンサルタントとしての仕事をしっかりこなせば、自然と数字はついてくる。多くの日本人が忘れがちな原点の考えを、ニールは見失わずに持ち続けている。
「ソリューションをこちらから提供することで、信頼関係は築かれていく」
半年間の休暇というビッグプレゼント
en world Japanに入社して7年半が経った頃、ニールは半年間の休暇を取って、世界中を旅した。セールスのプレッシャーと戦い続けた彼への、会社からの大きなプレゼントだった。
「頑張り続けて、さすがに疲れて休みたかったんです。会社はどんなことでもサポートすると言ってくれたので、休みをもらってヨーロッパを中心に20ヶ国を回りました。オンとオフがはっきりしているのも当社のカルチャーの一つ。みんな色々なプレッシャーを抱えているので、オフは思いっきり楽しむべきというのがen world Japanの考え方です」
その言葉通り、ニールはとにかく多趣味だ。前述した旅行のほか、スポーツが大好きでゴルフやジョギングなど、時間を見つけて体を動かしているのだそう。社内のメンバーと一緒にスポーツをし、コミュニケーションを図ることもあるそうだ。スポーツの観戦も趣味で、中でも野球観戦が好きだというニールは、大阪暮らしが長かった彼らしく、大の阪神タイガースファン。
「大阪にいる叔父が阪神ファンで、カナダに来るときはいつも阪神グッズをお土産に買ってきてくれたんです。なので、日本に来る前から阪神のことは知っていましたね」
ほかにも料理や食べ歩きなど様々な趣味を持つニールのポリシーは、プライベートであっても、アポイントは必ず守るということ。どんなに忙しくても、約束は反故にしたらいけないという考え方なのだ。トップコンサルタントは、人間的な魅力も溢れていることが伝わってくる。
日本語が流ちょうなニールだが、今回のインタビューは彼の希望で、通訳を介して英語で行われた。ビジネスや会社に対する思いを、あますことなく表現したいからだそうだ。その真摯な姿勢と熱い思いは国境を越えて、若いコンサルタントたちに間違いなく受け継がれているのだろう。