“やりきる男の哲学
目の前のことを一生懸命やることで必ず道は開ける”
精悍な顔立ち。スマートに着こなしたシワ1つないスーツ。愛読書は「マッキンゼー式 世界最強の問題解決テクニック」。いかにもデキる男のオーラを放っている外見だが、口を開けばざっくばらんとした関西弁が飛び出し、たちまち場の空気を和ませる。知性と思慮深さを併せ持ちつつも、同時に「転職とは最終的に覚悟」と言い切る情熱家でもあるトップコンサルタント・高本尊道の素顔に迫った。
エグゼクティブ人材の流動化を促進する目的で創業
「何をお話すればいいですか? 何でも聞いてくださいね」
そう言って浮かべる人懐こい笑顔に、好印象を覚えない人はいるのだろうか? 愛想笑いでも作り笑いでもない、相手との距離をたちまち縮めてくれるその笑顔は、無機質な会議室でさえも居心地のよい空間に早変わりさせる。
高本は学生時代、自らベンチャー企業を起こし、人材業界大手のパソナに入社。営業、事業企画で約10年間働いた後に、数人の同僚たちと創業したのが現在のプロフェッショナルバンクだ。社名の通り、プロフェッショナルなエグゼクティブ人材に特化した紹介事業を行っている。
「パソナでは主に女性や若手を中心とした人材事業を行っていましたが、当時業界を見渡すと、30~40代のマネジメント層の流動化が確立されていませんでした。一方で、アメリカではその層の流動が日本と違って盛んです。日本でもエグゼクティブ人材の流動化を促進させたい。そんな目的で、2004年10月にプロフェッショナルバンクを立ち上げました」
仕事の話になると、高本の表情は精悍なそれに変わる。堂々とした語り口からは、頼もしさと信頼感が溢れている。コンサルタントとしての高本は、自身が事業企画を行っていた経験から、事業企画、経営企画、経営ブレーン層の紹介には絶対の自信を持っているという。さらに、パソナで派遣事業にも携わっていた経験も、現在の紹介事業で大きく活きているそうだ。
「私たちは人材派遣の営業を経てきたメンバーがほとんどです。ですから、求職者に対してウェットに接することができるのですね。通常、紹介業は成約を終えると『さよなら』となりがちですが、派遣は成約後のフォロー業務が全体の6割ほどあります。人材をモノではなくきちんと人として見て、相手の立場に立って接してきた経験がすごく役立っていますね」
高本をトップコンサルタントへ導いた要素は、積み重ねてきた経験だけではない。プロフェッショナルバンクでの業務を通じて出会う企業や人材との交流が刺激となり、自然と自分磨きを心がけるようになったのだという。
「日頃私がお付き合いしている人はプロフェッショナルな方が多い。キャリアカウンセリングを通じて知り合い、転職をしてからも知人としてお付き合いしている方もたくさんおります。皆様素晴らしいキャリアや実績を築かれている人ばかりなので、私たちが浅薄な知識しか持っていないと信頼していただくことができません。常に勉強しながら成長させてもらっていますね」
人が人を育てるという言葉があるが、互いに切磋琢磨しあうことで、プロフェッショナルがプロフェッショナルを育て上げている。人材業界で20年近い経験を積んでも、トップコンサルタントと呼ばれるようになっても、決しておごらずに向上心を持ち続ける姿勢こそ、高本の大きな強みなのかもしれない。
転職は、最後は「覚悟」を決めて判断する
プロフェッショナルバンクを創業してから、高本が一番最初に成約した案件。それが、いまだに忘れられない感慨となって胸に残っているのだという。求人企業は大手メーカー。当時大きな負債を背負い、産業再生機構によって再生支援を受けていた会社だった。
「日本全体の景気が低迷しているときでした。再生案件に紹介を行うことで、日本の経済成長が回復する一役を担えたのはうれしかったですね。ちなみに私がご紹介した方はその後、関連会社の社長になって、成長戦略を実行し続けています」
大企業だけではなく、人材を紹介したベンチャー企業が急成長していく様を見届けたこともある。
「社員が3人しかいないベンチャー企業に人材を紹介したことがありました。その方は、600万円の年収から200万円ほど下がってしまう転職となったのですが、入社した会社はその後の4年間で急成長して、今では社員数が約100人。紹介をした方は取締役になって、今では年収もかなり増えているようです。もちろん、その方が自分で覚悟を決めて入社を決めたのですが、その彼が原動力となって会社が100人規模に成長してIPOも視野に入ってきた。そこに関われたことは本当に忘れられない思い出ですね」
会話の中に登場した「覚悟」という言葉。この言葉を高本は非常に大事にしているのだと語ってくれた。
「転職とは最終的に覚悟なんです。例えば不動産選びと一緒で、ドアの取っ手が好きじゃないとか、内開きなのが嫌だとか、100%満足できる物件に巡り合えることはほとんどない。転職も同じで、100%満足できる仕事に巡り合えないかもしれませんが、内定をもらう前から躊躇していては何も始まりません。面接を受けることにリスクはないのですから、どんどん受けるべきです。いざ入社してから合わない点は出てくるかもしれませんが、入社前からわかるわけはないので、覚悟を決めて判断するしかないのです」
高本の言葉に力がこもる。彼自身、大手人材会社を退社し、新しく会社を立ち上げる際には、相当な覚悟が必要だったはずだ。大きなターニングポイントで経験した覚悟の大切さを、高本はときに厳しくキャンディデイトに伝え続けている。
キャンディデイトの年収は自分たちで作るもの
トップコンサルタントといえば、気になるのはやはり成約実績だ。だが登録人材の紹介だけでなく、サーチビジネスや採用代行などを組織的に行っている同社は、個人の実績を算出することが難しいそうだ。例えばサーチの場合、成約したのはヘッドハンターだけでなく、リサーチャーの力でもあるので、成果を個人に紐付けることはしていないと高本は明かした。
「参考までにお伝えすると、2011年4~6月までの3ヶ月間で、先付けも含めた私の売り上げは約3000万円強です。案件として、最近は投資ファンドの再生案件が多いですね。彼らが投資する企業の社長やCFOの人材が多いです」
そして高本は、求職者のために必ず行っているという年収交渉についても話してくれた。
「企業が年収800~1000万円という条件を提示したとします。その場合、1000万円を出してくれることは実は稀で企業はボトムで採ろうとします。紹介する人材に自信があれば、必ず1000万円で交渉を行うべきです。そのためには、この人材の価値はこうで、御社がこういう風に成長していくためには必ず必要だというロジックと、それを裏付ける企業と人材への非常に深い理解が大事です。キャンディデイトの年収は待っているのではなく、自分たちで作るものなのです」
年収だけでなく、年齢も同様。例えば企業が希望する年齢をオーバーしていても、コンサルタントの熱心な推薦によって、企業が考えを変えることはよくあることだそうだ。
「弊社にはキャンディデイトマーケティングという非常にスタンダードな言葉があります。つまり、求職者のために動くということですね。具体的な案件がなくても、ご紹介する人材によって潜在的な案件を顕在化する。年齢や年収がオーバーしていても、本当に必要だったら企業は採用するものですよ。私の売上の30%~40%はそれです。」
そんな高本は、多くのエグゼクティブ人材のスカウト、キャリア相談に毎日乗っているが、自身のキャリアについては明確に描いていないそう。だが、その代わり彼が見つめているのは今現在だ。
「私は現在39歳。『将来的にこうなりたい』『こうなろう』という思いで昔は動いていましたが、今は逆ですね。人間ついつい隣の芝生が青く見えてしまうものです。しかし人生やキャリアに飛び道具はありません。目の前のすべきことに一生懸命取り組むことで未来が開けると、心から思っています。一生懸命することで道は開ける。そういう意味で、中長期的にどうこうというのは考えていないですね」
プロフェッショナルバンクは最近、「エム・アール・アイ・ジャパン」というグローバル人材の紹介会社を買収した。今後、さらなる幅広い展開が期待されるが、高本個人はあくまで目の前のすべきことに全力で取り組むことで、会社の発展と共に未来を切り開いていきたいのだと宣言した。
「『企業は人なり』ということを会社はもっと本気で知るべき。
伸びている会社は事業内容以上に、採用力があるからなんです」
「企業は人なり」ということを 会社はもっと本気で知るべき
創業当初は休みもろくに取らず、ひたすら仕事に打ち込んでいたという高本。何でも日曜日の夜に「サザエさん」を見ると、普通のサラリーマンにありがちな心情とは逆に、翌日の出社まで待っていられず、会社に駆けつけて仕事をしていたのだという。そんな高本も現在は一児の父親。休みもきちんと取るようになり、家では今流行の“イクメン”になっているのだとか。
「子どもは女の子で、まだ0歳です。こんなに可愛いと思いませんでしたね」
そう言って見せる笑顔は、トップコンサルタントではなく父親の笑顔に戻っていた。仕事の疲れを家庭に持ち込んでしまうこともたまにはあるのかと思いきや、プロフェッショナルバンクの創業以来7年間、仕事上のストレスを感じたことは全くないのだと言う。
「仕事をしているというより、ライフワーク的に紹介業をしている感覚がありますね。それと僕には“自分一番幸せ論”という考えがあるんです。例えば外国に行ったら、ご飯をろくに食べられない子どもたちがいたり、明日をどうやって暮らそうと考えたりしている人たちがいる。それに比べたら、僕はこうやって仕事をすることができて本当に幸せなんです」
最後に高本は、紹介会社に所属する立場でありながら、あえて求人企業に向けて苦言とも取れるメッセージを送った。
「最近、採用力のない企業が多すぎるように感じます。だからこそ紹介会社は供給力を求められるのかもしれませんが、あえて言うなら『企業は人なり』ということを会社はもっと本気で知るべき。伸びている会社は事業内容以上に、採用力があるからなんです。採用担当も社長も頭ではわかっていても、実際の行動をしている会社は本当に少ない」
高本は真摯な面持ちで言葉を続ける。
「こちらが紹介した人材に対し、不採用だったからとNGの理由も出さない企業は、本当に採用する気があるのかと思います。その点、採用に力を入れている企業は、紹介会社をきちんとパートナー扱いしていますね。もちろん紹介会社も若い社員が多いので、私たちも含め、きっちりとリテラシーを磨いていかないといけませんが」
同社が掲げる人材の流動化と、天職に出会うサポートを実現するためには、求人企業の協力も不可欠だ。高本はライフワークである人材事業に、本物の覚悟を持って挑み続けている。