目の前にあるしたいことやすべきことを全うしていった先に、自然とキャリアは作られていく。

インタビュー場所の会議室は早々に“吉田色”に染まっていた。一見ごく普通の若手女子社員といった印象の吉田。しかし内に秘めた積極性と好奇心が、言葉と一緒に次々と溢れ出したのだ。面談にやって来た求職者が、リラックスして相談する様子が目に浮かぶ。そんな吉田に仕事の取り組み方からプライベートまで話を聞いた。

社内コミュニケーションが成果に結びつく

「うーん、成約のイメージが浮かぶかどうかですね」

少し考えた後、吉田は口を開いた。09年度は見事に年間の売り上げ目標を達成。今年も昨年を上回るペースで成約を決め続けている吉田に、好成績の秘訣について質問したのだ。

「先週オープンしたばかりなのに今週にはクローズになるなど、求人の動きは本当に激しい。なので、注力できる求人企業をまず見極めます。その後に成約のイメージが浮かぶ求職者の洗い出しを行いますね。いらっしゃればそのままご紹介しますが、そうでないときは求職者のスカウティングをしたり、RAと連携して他に注力できる求人を探したりします」

シンプルなことしかしていませんよ、と吉田は笑顔で付け加える。彼女の仕事ぶりの特徴は、とにかくマッチングの精度が高いこと。毎月成約見込みの案件を8~9件挙げ、そのうち5~6件が当月中に成約している。中期的に見れば、ほとんどが成約に至っているのだという。月間の成約件数は平均5~6人、売り上げは前期(2009年10月~2010年9月)が約3300万円、今期(2010年10月~)が約2500万円という数字からもそのすごさが分かるだろう。

話しながら表情がコロコロ変わり、飾らず親しみやすい雰囲気の吉田からは、トップコンサルタントというよりムードメーカーのような印象を受ける。そして実際、自分ひとりで成果を挙げていることを否定し、周囲とのコミュニケーションを大事にしていることを明かした。

「自分ひとりではどうしても限界があるので、社内コミュニケーションはすごく大切にしています。例えばRAと話しているうちに『こんな視点もあるんだ』『こういう切り口もあるんだ』という気づきを与えられて、それが成約に結びついていると思いますね」

何かあればすぐにRAに相談をする一方で、「吉田なら決めてくれるはず!」という期待と信頼でRAから求人企業を紹介されることもしばしば。持ち前の人柄を発揮して、風通しの良い環境を完全に築いているのだ。分業制の場合、意思の疎通がうまくいかないとデメリットとなってしまうが、連携をきちんと取れば1+1が2以上になる。そのお手本のような例だ。

「頑固に自分のやり方を貫き通すコンサルタントもいますが、吉田は色々な意見を柔軟に取り入れて、自分の中で噛み砕いた上でアウトプットするタイプです。その辺も成果に繋がっているのでしょう」とコメントしたのは、インタビューに同席した同社社員。吉田は少し照れたようにはにかみ、場の空気はますます和んだ。

「企業や求職者のため」という気持ちはどこに?

吉田が人材業界を志したのは大学生の頃。留学やバックパッカーで何度も海外に行った経験が原点にある。日本人は勤勉で優秀と言われているが、海外を放浪した吉田が出会ったのは、仕事に対する日本ではなかなか出会えない価値観だった。

「多くの外国人は自分のしたい仕事を選んでいます。少なくとも、お金のためだけに仕事を選んでいる方はほとんどいません。ハッピーに働けているかどうかで、その人の人生がハッピーか決まるくらい大事だと思うようになりました」

自分自身も好きな仕事を選びたいし、人が好きな仕事に出会うサポートもしたい。そう考えて吉田は人材紹介会社に就職。ITチームにRAとして配属されるまでは良かったものの、課せられたのは2週間の飛び込み営業キャンペーン。辛くて泣いたこともあり、さすがに音を上げそうになったと吉田は苦笑しながら振り返る。  その後も成果を上げるために、わき目も振らずRAとして働く中で、現在の吉田に大きな影響を与えた出来事があった。

「担当していたクライアントから、求職者に内定を出したと連絡があったんです。ただ求職者側が即決したくない様子だと聞かされたので、では面談をセッティングしてくださいと人事の方にお願いしました。面談をすることで、求職者が入社の意向を固めてくれれば良いなと思ったんです」

要望通り面談は実施された。が、求職者が入社に至ったのかどうか、吉田は覚えていない。ショックな出来事が起きたため、まるで記憶に残っていないのだという。

「後日、企業から私の上司宛に電話があったんです。担当者を変えてくれ、とのことでした。吉田さんの熱意は分かるけど、やり方があまりにも一方的だと」

実は企業の人事担当はまだ新人。面談をして欲しいと迫る吉田に圧倒され、言われるがままに実行したものの、その経緯が強引と取られてクレームとなったのだ。吉田はショックを受けると同時に、改めて自分を見つめ直すこととなった。

「契約を決めたいがために、独りよがりになっていたことに気づきました。企業や求職者のためと思っていたはずなのに、その気持ちはどこに行っちゃったんだろう……ってすごく反省しましたね」

けれど、今ではその出来事があって良かったと思います。吉田は優しい表情でそう言った。

CAが一律に自分らしさを持ちすぎていてはうまくいかない

約3年弱勤めた後、現在の毎日キャリアバンクに転職した吉田。一度キャリアをリセットしてゼロからスタートしたかったのと、求職者と直接触れ合うCAとして働きたい思いがあったからだ。

らとはまた違った楽しさがある分、難しさもあるCA。吉田が日頃心がけていることはあるのだろうか? 「求職者は年齢や性別、性格や価値観によって私に対しての接し方が異なります。なので、一律に自分らしさを持ちすぎていてはうまくいかない。私は相手にお会いした印象から、対応を個別で変えるようにしていますね」

あくまで傾向としてだが、吉田は性別によって異なる求職者の特徴を教えてくれた。

「A社が良いと言っていたのに、翌日にはB社が良いと言うなど、女性には感情的な方が多い気がします。私も女性で同じ部分があるから分かるのかもしれないですが(笑)。なのでそういう方には、否定したり論理的な話を求めたりせずに、ひたすら聞き手になって安心を感じてもらうよう心がけています」

一方の男性は、技術者という職人的な職業の特性なのか、顕著な傾向を感じるという。

「素直で純粋で、まっすぐなタイプの方が多い気がします。そういった方には、しっかりヒアリングを行った上で、『ではこうしましょうね』と引っ張っていくように提案やアドバイスをするようにしています」

とにかく好奇心が旺盛で、人と話すことが大好き。バックパッカーに行った際も、現地の見知らぬ人と触れ合うことが何より楽しみだったという吉田は、コミュニケーション力だけでなく、冷静に人を分析する能力も養われているのかもしれない。

大枠とトレンドをつかんでおけば対等に話ができる

「国内のIT市場は、今後飛躍的に伸びることはないでしょうが、その分企業の海外進出が増えています。海外に拠点を置く企業の、業務系システムの開発が特に増えているので、英語が話せるグローバル人材のニーズも高まっていますね」

吉田はそう見通しを語ってくれたが、実はそれほどITに強いわけではないのだという(内緒ですと前置きして、家や会社でパソコンを壊したことがあると明かしてくれた)。元エンジニアの同僚から教えを請ったり、ウェブサイトや新聞などで業界のトレンド情報を追いかけたりはしているものの、それ以上の知識が必要だと感じたことはこれまでないのだそう。

「大枠を捉えていれば求職者と対等に話すことができます。私達は仕事や技術についてではなく、あくまでも転職の話をしているので、問題を感じたことはないですね。分からないことがあれば、素直に求職者の方に聞いてしまいます。技術者の方は喜んで教えてくれますし、信頼関係が崩れるとか、下に見られるとかいうようなことはないですね」

知ったかぶりをしてやり過ごすようなことはしない。しかしコミュニケーションを大事にして、周囲と見事な連携を図っている吉田だけに、ここでもその人柄が活きているのだ。

「相手にお会いした印象から、対応を個別で変えるようにしています」

キャリアは偶発的。日々を目一杯生きることが信条です

毎日のように求職者と面談をし、キャリアや目標についてヒアリングしている吉田。20代後半の現在、自身の今後をどのように考えているのだろうか? 「前の会社の同僚に教えてもらった、すごく印象的な言葉があるんです」

吉田は身を乗り出すようにして言う。

「それは『キャリアは偶発的』だということ。もちろん、何かを目指して計画を立てて進むのも大事なことです。けれど一方で、先のことは誰にも分からない。目の前にあるしたいことやすべきことを全うしていった先に、自然とキャリアは作られていく。その話が心にグサッと刺さったんです。私もきっとそういうタイプなんですよね」

これからどういうキャリアを進むのか。本人にも分からないそうだが、それを不安ではなく楽しみと捉え、日々を目一杯生き続けているのが吉田なのだ。趣味は旅行とお酒。そして、幼少から高校生まで続けていた書道を、最近再び始めたのだという。

「墨の匂いが好きなんです。落ち着くなぁって気持ちになれるんですよ。仕事とは別の世界でも、何かをすることで一歩ずつ歩んでみたかったのが始めたきっかけです」

今、好きなことを書いてと言われたら何て書くだろう? 尋ねると、吉田はこの日一番の笑顔を浮かべて言った。

「相田みつをさんの言葉の『いまからここから』です。実は今年結婚を控えているんですよ。そこからまた私の新しい人生が始まると思うんです」

いまからここから。それは吉田が自身に贈る言葉であると同時に、新たなキャリアをスタートする転職者たちにも贈り続けてきた言葉なのかもしれない。