仕事の原点は相手の目線に立つこといかに選択肢を広げ、相手から選んでもらえるようになるか?

求職者はどんな思いを抱えて紹介会社に相談するのだろう?どんな仕事に就きたくて、どんなキャリアを歩みたいのだろう?相手の目線に立つということは、言葉にするよりはるかに難しい。しかし相手と常に本音で向き合い、きめ細かに実践しつづけてきたトップコンサルタントこそが、今回登場していただく大島佐和子だ。

ユニークな偶然を通じて天職に出会う!?

華麗なる転身、と書くと少々大げさだろうか。けれど、実際その通りなのだから間違いではない。月刊誌の編集者として働いていた大島が、人材業界に転身したのは2002年の春。トップコンサルタントとして長きに渡って活躍した後、昨年の7月に現場を離れてからは、マネージャー職に就いて医療職の人材紹介を手がける営業部全体を統括している。そもそも、どういう経緯で人材紹介のコンサルタントに転身したのだろうか。

「新天地で仕事をしたいと思って紹介会社に相談したんです。そうしたら、紹介された先がメディカル・プラネット、つまり紹介会社だったんです」

当時のことを大島は振り返る。紹介会社に紹介会社をマッチングされるという、なんともユニークな偶然だが、それで天職に出会えたのだから、もしかしたら必然だったのかもしれない。また、担当をしてくれた紹介会社の真摯な姿勢は、これから人材業界に飛び込む大島にとって少なからず刺激になったのだという。

「担当の方がとても熱意のある方で、色々希望を聞いてお話をしてくださって、これが紹介会社の仕事なんだなと実感しました。本当にゼロからのスタートでしたが、自分にもできるかも…という気持ちが不思議と芽生えました」

こうして紹介会社のエージェントに転身した大島。前職との共通点はほとんど無いように思えるが、意外なところで編集者時代のスキルが活かせたのだそう。

「編集者時代、私は仕事の中で取材をしておりましたので、ヒアリング能力は鍛えられていたと思います。求職者に初めてヒアリングをしたとき、「これって取材に似ている!」って感じました。また弊社のスタイルは一気通貫型なのですが、希望を聞いて紹介先をマッチングするという過程がおもしろく感じましたね。紹介から採用までの流れが側面から見えますし、とてもやりやすかったです」

ちなみに余談になるが、メディカル・プラネットには大島以外にも、不動産業界や看護師など人材サービス業とは異なる様々な業種から転身してきたコンサルタントがいるのだとか。それぞれが刺激し合い、吸収し合いながら頑張っている環境は、とても頼もしく感じますと大島は笑顔で話してくれた。

業界知識がなくても紹介業の目的は果たせる

大島がメディカル・プラネットに入社した2002年当時、医療業界特化型の紹介会社に一つの転換期が訪れていた。医療機関への医療専門職の派遣が派遣法で禁止されていることもあって、それまでは医療業界への人材供給は紹介かパートが中心で、派遣という就業スタイルは今ほど浸透していなかった。ところが、大島が担当していた薬剤師の場合、調剤薬局やドラッグストアへの派遣は認められていたため、派遣が徐々に増えつつある時期だった。

そんな慌しい背景の中、人材業界未経験なのに加えて、医療業界という専門的な分野で働く難しさはなかったのだろうか?

「分からない部分はその都度調べましたし、社内にも薬剤師がいたので教わりながら学んでいました。けれど、医療や薬の知識があるに越したことはないですが、もしなかったとしても紹介業の目的は果たせると気づいたんです」

大島がそう言う背景には、急増していた派遣スタッフとの絶妙な距離感があったそうだ。

「派遣スタッフは同世代の女性が多かったですし、長く勤めていただける方も多かった。その分、登録者との距離が縮まりやすかったんです。そもそも私の仕事は薬剤師ではなく、仕事を紹介することだと認識していましたので、分からないことがあってもそれとなく登録者に質問できましたね」

また一般的にはインターネットが普及していても、自宅にインターネット環境を持たない薬剤師の方が多かった中で、新たな人材を獲得するためには、薬剤師の国家試験会場の前でチラシ配りをするなどのアナログな営業活動も必要だった。その分業界の経験が短くても、汗をかきながら、濃密な経験を身に付けることができたのもプラスになったのかもしれない。大島はクライアントに対して紹介と派遣という2つの提案を使い分け、トップコンサルタントとしての道を歩んできた。

医療資格さえあれば就職に困らない時代は過ぎ去った

改めてだが、コンサルタントをしていて一番嬉しいのはどんな瞬間なのだろう。現場を離れてからまだ一年足らずの大島は、体験した数々の思い出がよぎったのか、目を細めながら語ってくれた。

「やはり求職者が心を開いてくださったときですね。私はこれまで、仕事ではビジネスライクに接するのが当たり前だと思っていたんです。けれど、例えば社会人になったばかりで不安だらけの応募者に対して、ただ淡々と接するのは良いことではない。相手と同じ目線に立って、本音で向き合ってこそ信頼関係ができるのです。こちらが良かれと思って行った提案でも、相手のことを知らないと正しい提案にならないかもしれない。ミスマッチをしてしまってからそう気づいたことがありました」

口調も表情も穏やかな大島は、向かい合っていると安心感のようなオーラを感じる。彼女でもミスマッチを経験してきたという事実に思わず驚いてしまうが、それを反省点として後に活かしてきたからこそ今の大島があるのだろう。

コンサルタント時代、求職者に職務経歴書を書いてもらうことを大島は率先して行っていたというが、これは当時の医療業界では珍しいことだ。

「医療現場で働く人材を紹介する場合、職務経歴書が必要なことは少なかったのですが、書くことで自分に向き合い、なぜ自分はこの仕事をしたいのか?将来何をしたいのか? を面接できちんと伝えられるようになると思うのです。自分が本当に働きたい場所で働くには、選ばれて当たり前という意識は捨てて、相手から選ばれるように変わらないといけません。相手から選ばれてはじめて、自分で選ぶことができるのです。

以前は医療資格さえあれば就職に困ることはありませんでしたが、今は状況が違います。資格とプラスアルファの部分がない限り、企業は採用に対して慎重になっているのが現状なのです」

大島は職務経歴書を書くことの他、社会人としての基本マナーから面接対策まで教えるようにしている。医療業界という広くない世界の中だけで過ごしてきた求職者からは、「面接にはスーツを着ていった方が良いですか?」「面接のときは質問をした方が良いのですか?」など、世間では常識とされているマナーについて聞かれることも少なくない。その度に、大島は答えだけではなく、相手に選ばれるようになるという観点で丁寧に答えているのだという。

「スーツを着るのも着ないのも、質問をするのもしないのも自由です。ただし相手に選ばれるようになるには、スーツを着て積極的に質問した方が良い印象を与えられますよね。そうお伝えして、少しでも自分の可能性を広げるお手伝いをして差し上げています。

私の原点は相手の目線に立つことです。例えば私が求職者で、ワガママな希望を伝えて「合う仕事はありません」とだけ言われたら納得できるだろうか? だったら譲歩してでも選択肢を広げた方が良いはず。そう考えて最適な提案をすることが相手の目線に立つことだと思っています。求職者もお客様なので、提案するのはドキドキしますが(笑)、提案をしない方が罪なのではないでしょうか」

「選ばれて当たり前と言う意識は捨てて、相手から選ばれるように変わらないといけません」

エージェントの生命線は「提案力」

「選ばれる」というキーワードは、求職者のためだけの言葉ではない。大島自身も求人企業から選ばれるエージェントであり、選ばれる紹介会社でなければいけない。終始穏やかな口調で話す大島だが、その言葉には高いプロフェッショナル精神が込められている。

「紹介会社が乱立していく中で、求人企業側の目線に立ったら、メディカル・プラネットだけから採用をするのはリスクがあるでしょう。だったらたくさんの紹介会社を選択肢として比較した上で、その中から本当に良い会社や人材を見極めて採用した方が良い結果になるはずです。弊社は喜んで選択肢の一つになりますよ。  そのときに必要なのは、求められる人材を紹介できれば一番ですが、できない場合に選択肢を広げられる提案力だと思います。このスキルを持っているコンサルタントこそ、人材業界で活躍できるのではないでしょうか」

大島はきっぱりと言い切る。確かにニーズに合った人材を紹介するだけが仕事なら、母集団が多い大手に中小が太刀打ちできる余地はなくなる。そこに入り込む提案力は、唯一と言っても過言でないくらい大事な生命線なのかもしれない。

「年収800万でこういったスキルの人材が欲しい…と言われたことがありましたが、完全に一致する人材がいませんでした。なので、少々スキルは及ばないですが、年収600万で抑えられる人材をご紹介したことがありました。先方はその人材を「とても努力して働いてくれている。大きく育つ有望な可能性を持っていて楽しみ」と評価してくださっています。少しは貢献できたのかなと嬉しく思いましたね」

大島が挙げてくれた実例からは、提案力の大事さと同時に、エージェントとしてのやりがいと喜びがひしひしと伝わってくる。良い仕事をした充実感がモチベーションになり、さらに良い仕事を生み出していく。そんな循環も、大島がトップコンサルタントとして活躍してきた一因なのかもしれない。

永久に不滅の人材ビジネス。その中でコンサルタントがすべき仕事とは?

平日は忙しなく働いている大島だが、オフの日でもアクティブに動き回っていることは変わらない。

「多摩川沿いのジョギングコースを10キロ走ったりします。走って無になっていると、色々なことが考えられるのが良いですね。あとは温かい季節になるとゴルフに行ったり、喫茶店に行って本を読んだりします。相手に良い印象を与えるコツなど、女性向けの自己啓発書を読むことが多いですね」

オフは体を動かしてリフレッシュしつつも、勉強に時間を費やしてしまう辺りは、やはりコンサルタントが天職だったという証拠なのだろうか?

「今は医師や看護師、薬剤師によって業務領域が分かれていますが、今後は少しずつ混在していくと思われます。医療業界は人材が不足しているので、スキルミックスにより全体でフォローしていかないといけない背景があるのですね。例えば患者に問診や触診などの診察を行うのは医師しか許されていませんが、今後は簡単な初期診療は看護師ができるようになるかもしれない。薬剤師は基本的に患者に触れてはいけませんが、バイタルサインチェックを行う動きが広がってくる可能性もあります。弊社も歯科衛生士の紹介事業を開始する予定がありますし、広い意味でのメディカルを展開していきたいですね」

今後の展望についてそう語る大島。最後に人材業界に対しての熱い思いをメッセージに込めてもらった。 「人材ビジネスは永久に不滅だと思っています。世の中に会社がある限り、優秀な人材はいつの時代も必要とされます。その中で質の良いサービスと人材を提供し、業界全体を発展させていくのが、私達のするべき仕事だと思っています」