クリエイターをサポートしたい その気持ちが、人を動かす

このコーナーの特性上当たり前なのだが、またもや素晴らしい人物をご紹介することになる。クリエイターに特化した紹介サービスを行う、ブリッジ・ワークス率いる榎本だ。外見とは裏腹に人を引き込む不思議な魅力を持った人物の、仕事に対する想いを聞いた。

企業は必ず、欲しい人材像を持っている

細身の男は礼儀正しく、丁寧に名刺交換をしてくれた。シャイな雰囲気は一見、大人しい印象を与えたが、その実、凄まじいエネルギーの持ち主で、一本筋が通っていた。

 

榎本の売上げ目標は月額平均380万円、一人単価90万~95万円を月に4件紹介すること。4月、5月は6人と、目標を余裕でクリアしている。最近の実績では6月末に面談した候補者を7月中旬に紹介した。その間、僅か2週間。数字といい、スピードといい、トップと呼ぶに申し分ないだろう。

 

なぜそれほどの売上が出せるのか?率直に聞いてみた。「コンサルタントとしてクリエイターのサポートがしたいだけです」。何度となく聞かされることとなったこの言葉は榎本の行動力の源泉であり、揺らぐことのない本質でもあった。

 

優秀なコンサルタントのご多分に漏れず、榎本もヒアリングには力を注ぐ。ブリッジ・ワークスが特化しているのはクリエイティブ業界。求人企業に赴けばそこでどんなプロジェクトがあり、予算はいくらで、どんなチームを組む予定なのか。片っ端から聞いていくという。社員と同じか時にはそれ以上の情報を共有し、課題を自分のことにするのだ。場合によっては「そのプロジェクトであれば、こういった人材を採用したほうが得策では?」と求人票にない職種を紹介することもある。

 

一次、二次の面接を免除されることも珍しくない。「その代わり、1を聞いたら10応える必要がありますけどね」。信頼される分、求められるものも大きくなる。マッチングの精度に自信があるという榎本によれば「企業は欲しい人材の答えを、必ず持っています」とのこと。詰め将棋のように論理的に、正確に、その答えを導き出すと教えてくれた。

 

だが、もし自社に相応しい人材がいなかった場合には、ためらうことなく他社を紹介する。なんと、高潔な!クリエイターはもちろんのこと、クリエイティブ業界全体をサポートしたいのであろう。そう考える榎本にとって、自社の利益は二の次で構わないのだ。「よく『変わってる会社だね』って言われます」

実績に頼らず、つくる側から支える側へ

変わっている点は他にもあった。同社ではゲームや商品開発の、企画段階から携わることもあるのだ。これこそが、榎本の目指す本当のコンサルタント業務である。もちろん、それにはこれまでの経歴に拠るところが大きい。榎本は大学卒業後、世界的ゲームキャラクター ポケモンを生んだゲームフリーク社で企画や開発、営業に6年ほど携わる。ゼロからモノづくりを行い、売るところまで考えられる強みを持っていた。

 

5万本売れればヒットとされるゲームソフト業界の中で、ポケモンは500万本の売上を記録。「正直、ライバルはいませんでした」。前作をいかに越えるかが自分にとっての目標だったという。

 

榎本の人柄を表すのにぴったりな、ゲームフリーク社時代の想いを語ってくれた。「版権を使用していただくことでロイヤリティ収入を得る立場なのに、ほとんどの版権元が偉そうにしていたんです。私の会社ではどれだけ売れても、使ってもらってありがとうございます! その気持ちだけは忘れずに仕事をしていました」。いまだにヒットを続けている要因は、きっとキャラクターのカワイらしさだけではないのだ。謙虚な気持ちは、風貌から滲み出ていた。

 

輝かしい実績を残すと、次第に「つくる側から支える側になりたい!」と思うようになる。話すことやコミュニケーションが好きだったことから、気になったのが人材業界。派遣業は知っていたが、紹介業の行うコンサルティングが「単なる御用聞きではない」という点に惹かれた。人材というフィールドでありながら、クリエイティブ業界のコンサルティングにトータルで関わりたいと思うのは、榎本が紹介業を選んだ時点で当然のことだった。

謙虚さと力強さが信頼を得る

転職した先では、それまでの会社の事業内容をがらりと変えてしまった。「入った紹介会社が広告業界には強みを持っていたのですが、例えばゲームクリエイターを求められても積極的な対応をしていなかったんです」。それではクリエイターをサポートしたいという自分のポリシーに反すると、榎本自信もゲーム以外のクリエイティブ業界について勉強しながら、顧客を広げていった。また、榎本の入社以前に関係が悪化してしまっていた企業へは、それまでの無礼を詫び、取引を再開させたこともあったという。

 

結果、8人いたコンサルタントの売上を合わせても、榎本の売上が勝るという状態に。軋轢は生じなかったのかと尋ねると「多少あったのかもしれませんが、気になりませんでしたね」。前職で、目標は自分で設定して自分でクリアしていくものだと学んだ榎本。職場は変われど、学んだことに変わりはない。クリエイターを支えたいという一心は、余計な雑音までもシャットアウトした。

 

その後、会社は派遣にシフトするようになる。取締役に物申したが「派遣のほうが利益率は高いんだ」という言葉を聞き、2年勤めた会社を辞める決心が着く。「独立するか、また雇われになるかでは、かなり悩みました」。キッカケはある会社での面接。「なぜ、エージェントを使わないの?」と聞かれた時だった。「自分に自信があった」という榎本は、他人に転職を頼むぐらいだったら自分で起業した方がいいと、2009年、独立に踏み切る。

 

「自分に自信がある」? 一瞬耳を疑ったが、謙虚さだけではなく力強さも併せ持っているのが、この男の魅力だった。インタビュー中も「自分以上のコンサルタントには出会ったことがない。誰よりも一番働いている自信がある。体が持つなら3、4日徹夜してでも転職をサポートしたい。紹介業は天職だ」という強気の発言が、しばしば顔をのぞかせた。言おうと思えば誰でも言えるが、この迫力は行動や思考が伴っていなければ出せないだろう。全く自慢や大口に聞こえなかったのも、不思議だった。

 

求人企業に対しても強気だ。時にはぶつかることもあるが、その企業や紹介する候補者のためを想うからこそ、「違うものは違う!」とはっきり言う。ただし、指摘やクレームを受けた時は別だ。誠実かつ素直に対応する。が、「絶対にごめんなさいとは言いません」とのこと。「叱っていただけることは、ありがたいことです。だから、必ず『ご指摘ありがとうございます!』と言っています」。ここまで来ると、「さすが、榎本らしいな」と感じた。

 

独立してからのクライアントは前職からの付き合いが半分、新規が半分。新規のうち、3割は口コミによる紹介だという。

「23時から面談をすることもあります。 頼まれれば、 夜中の3時とかでも平気ですね」

サポートしたい想いは仕事以上のつながりを生む

では、求職者とはどういう付き合いをしているのだろうか? 「23時から面談することもあります」。夜が遅い、クリエイター事情を理解する榎本にとって、相手の都合に合わせてあげるのは当然のこと。「頼まれれば、たとえ深夜3時とかでも受けちゃいますね」

 

面談はおよそ一時間だそうだ。何が出来、どういう志向を持っていて、将来どうなりたいのか? クリエイターと一緒になって考えてあげる。進むべき道に迷っている求職者に対しては一般的なキャリアアップの道も教えるが、絶対にそれを押し付けたりはしない。クリエイターは間違いなく、本音で相談できるだろう。抱える人材はスカウトが半分、転職に成功したクリエイターの口コミによる紹介が半分だという。

 

求職者には、企業のいい部分も悪い部分も全て伝えることを心がけている。いいことだけを伝えて無理に転職させても、求職者も企業も榎本も、誰もWINできない。ミスマッチを避けるよう細心の注意を払っている訳だが、それでも「月に1件は内定辞退があります」とのこと。この数字は少々意外であったが、失敗があるから、成功があるのだ。

 

半年後、1年後に「この会社に入って本当によかった」と言ってもらうのが一番だと語る榎本。うれしそうに、1枚の手紙を見せてくれた。榎本を通しての紹介ではなかったが、就職が決まったというクリエイターからの、報告の手紙だった。自分のことを本当に考えてくれているのか、ただの数字としか見ていないのかは、求職者も接していれば分かるはず。心からサポートしているからこそもらえる贈り物は、光って見えた。

 

インタビューは2時間に及んだが、まだ聞き足りないというほどあっという間だった。最後に、今後の目標について聞くと「他の業界に手を出すつもりはありません。クリエイターを正社員として転職させる、トップ企業になりたいですね」。会社を大きくしていきたい? という質問には「できればそうしたいですが、満足度を第一に考えています。うまく行かなければ縮小も辞さない覚悟です」。聞いていて、何とも心地よい歯切れのよさ。

 

自分が何のためにこの仕事をしているのかという本質がブレないからこそ、目先のことには執着しないのだ。こういう一本筋の通った男には、ぜひ人材ビジネス業界をリードして行ってもらいたい。