ソツなくこなすジェントルマン 目指すものは“上質なサービス”

首都圏の許認可第1号。
創業48年、老舗紹介会社のトップコンサルタントというからには、さぞかし頑固で自己主張が強いタイプなのだろうと思っていた。
しかし、今回ご紹介する小礒徹は違う。穏やかで柔和なのだ。人によっては頼りないと思うかもしれない。
だがインタビューが進むにつれ、それを最大の強みとしていることに気づかされた。53歳、業界経験わずか5年の小礒がなぜトップコンサルタントになれたのか。
まずは紹介業に入ったキッカケから話を聞いた。

無限の可能性がある、人材

大学卒業後、小礒は外資系のコンピュータメーカーに入社した。25年の在職期間中、前半は営業、後半はマーケティングに携わる。ただ、四半世紀という長い間には、色々な変化があった。製品はどの企業も似通って付加価値を訴求できなくなっただけでなく、インターネットの普及によってWEBからの注文が多くなり、担当者としての付加価値も希薄になった。畳み掛けるように、社内に吹き荒れるリストラの嵐。

「このまま会社にしがみつくよりは、自分をもっと活かせる場所が他にあるだろう」。思い切って転職へと踏み切った。淡々と語る小礒からはそれが苦渋の決断だったことは感じられなかったが、家族を背負い、しかも47歳という年齢での転職。相当な覚悟だったに違いない。その後、一旦は外資系の映画用プロジェクターメーカーへ入社するが、ビジネスとして時期尚早と判断。1年で退社した。

 

コンピュータメーカー時代から自問自答していた、これからの付加価値のあり方について。答えがずっと見つからないままでいた。焦燥感を覚える中、ようやく一つの答えにたどり着く。「そうか、人だ」。モノは価格オンリーになりがちだが、無限の可能性がある人材は違う。人材業界こそ、自分が自信を持って付加価値を提供できる業界なのではないかと。

大事なのは個人の尊重

紹介会社を何社か見て回った中でもケンブリッジに決めたのには、コンピュータメーカー時代の同僚が働いていた、という縁もあった。加えて落ちついた社風が自分に合っている。また、社員を信じ個人裁量に任せている点や、一気通貫型にも共感できたという。

 

入社後は、すぐにコンサルタントとして動き出す。全く初めての業界であったため、「候補者に対しては指導的な立場でいなくては」と思っていたという小礒だが、すぐにそれではダメだと気づく。「個人を尊重することが大切だ」。候補者の将来について、一緒に考えてあげられるコンサルタント。ヒアリングに重点を置き、安心感と信頼感を与える今のスタイルがすぐにでき上がった。そういう小礒は、企業の面接にもできるだけ同席しているという。

 

企業であっても、結局は人との付き合い。候補者と同じ様に、個人を尊重している。単純に候補者のスペックだけではなく企業との相性もあるし、人事として言えない部分もあるはず。「想像力をフルに使ってより高いレベルでマッチングをしようと努力しています」と教えてくれた。

 

小礒は、学生時代からずっと競技ダンスをしてきた。候補者と会っていても姿勢が気になってしまうというほどだが個人を尊重するという考え方は、ダンスで培った『紳士たれ』という、お互いを尊重する想いから自然に出てきたことなのだろう。

ソツなくこなす優等生

初めての成約は入社してから約3ヶ月後。「これで終わり?」物足りないと感じるほど、あっけなく決まったという。その後も安定して業績を上げ、これまでを平均すると年128%で目標金額を上回ってきた。売上を公表できないのが残念だが、今年度はCFOや営業支店長をはじめ、部・課長クラスを含む22名の決定を見込んでいる。

 

さぞかし長い労働時間なのだろうと思いきや、会社には9時に出社してほぼ19時には退社しているという。そんな簡単に売上がつくれるものか。不思議に思ってよくよく話を聞けば「毎朝5時半には起きてますよ」と、さらり。メールチェックをほぼ家で済ませて出社するという。また、新聞などから世の中の動きを把握することにも余念がない。小礒が好成績を上げているのは、不景気でも比較的業績のよいヘルスケアや海外進出企業などに的を絞っているからだ、ということも付け加えておきたい。

 

何の問題もなくすんなりこの業界に溶け込んだように思える、エリート肌の小礒。それでも苦い経験はあった。「いいなと思って紹介した企業がとんでもなかったんです」。初出社した候補者に向かって「何で入社してきたんだ?」と社員が言ってきたり、机が用意されていなかったり。「1週間も経たずに辞めてしまったんです」。初めて取引する企業だったため、社長とも会って問題ないと判断した結果だったが「残念ながらその人の人生を狂わせてしまいました」と、本当に申し訳なさそうな表情を浮かべた。

高いスカウト返信率に自信あり

「4割は外、6割は中で仕事をしています」。コンサルタントとして、平均的な時間配分であろうが、「本当はいろんな名目で求人企業に行きたい」と語る。

 

社内で実務を行う上ではスピードを大切にしているという。企業と候補者が主役である以上、コンサルタントが時間ロスの媒介になってはならない。成功を収めている企業家や経営者はこぞってスピードの重要性を説くが、小礒もまた同じだ。そのスピードを活かして得意にしているのが、候補者のピックアップ。小礒はケンブリッジに蓄積された豊富な人材だけでなく、独自の人脈を駆使することで、候補者選定のスピードに精度をプラスしている。

 

候補者のピックアップと合わせて自慢なのがスカウト返信率の高さだ。平均的紹介会社の返信率が5~6%に対し、ケンブリッジでは約10%を誇る。さらに小礒は、それを上回る15%ほどだという。ぜひ読者にもそのコツを教えて欲しいと頼んでみたが、「文面だったら教えられるのですが、あいにく経験や勘に頼る部分が大きいので、他人に教えられないんです」。ただ、長い歴史を誇るケンブリッジには深い関係にある企業が多く、独自の案件も紹介できることが強みとなっているようだ。

長い歴史に吹き込んだ協調という新たな風

紹介業に携わって、僅か5年でトップコンサルタントと呼ばれるほどの実績をつくってきた小礒。「そこまで目立たないが、平均点の高い優等生タイプなのでは」と自己分析する。一人だけ、がむしゃらに上を目指せば歪が出る。ずば抜けた成績を収めるよりも、周りをリードしつつ「会社全体をよくしていきたい」と語ってくれた。紳士たらん、小礒らしい考えである。

 

その言葉通り、特にここ1~2年は社内外での『協調』に力を入れている。48年という歴史を持つケンブリッジでもそういった動きは少なかったが、小礒が新しい風を吹き込んだのだ。自分がいい成績を挙げてこられたのも、協調による周囲からの刺激やサポートが大きかったという。「決して一人でやっているとは思っていません」。

 

そのためには周りへの働きかけを怠らない。例えば、とかく個人プレーに陥りがちなコンサルタント業にあっても、案件や人材を全てオープンにしている。それをキッカケに周りと話をするのだ。「大事なのは一人で抱え込まないことです」。周囲を巻き込み、巻き込まれることによって自らを成長させる。ただ、決してそれを強制はせず自分が率先してみせることで、周囲に行動を促す。

単なる候補者紹介だけに留まらず仕事の創出まで

人材紹介業の魅力について聞くと「社会的意義も感じるし、やりがいのある仕事」だと語ってくれた。もちろん、これからも続けていきたいという。さらに今後は、「何とか力を貸してもらえないか?」と、本当に頼りにされるコンサルタントを目指すのが目標だ。理想は、求人企業とビジネス以上の関係を築くこと。「もっともっと企業や人事担当の懐に入り込まなくては」と内に秘めた情熱が、若干荒い語気になってあらわれた。

 

さらに、「ゆくゆくはベンチャー企業とつながるとか、仕事を作り出すとこまでいけたらいいですよね」と付け加えた。本当にこの仕事が好きなのだろう。ただのマッチングには留まらず、もっともっと上流を見据えていたのには驚いた。