200人以上の社長を 輩出した男。

「簡単な道と困難な道があると、何も考えずに困難な道を選ぼうとする変なヤツ」これが修行憲一の自己分析である。
持論は「逆張り。みんなが張るのとは逆に張っていった方が成功する」。世の中の常識を信じない。もちろん、人材紹介業界の常識も、だ。全て自分の価値観に照らし合わせ、思考し行動する。その結果が約5000社のコンサルティング、200人以上の社長の輩出になった。

企画フィーが10億円を超えたビッグ・プロジェクト

わずか4ケ月で延べ2万人にも及ぶ採用を行った「コムスン2万人採用プロジェクト」。

 

壮大なスケールという表現よりも、途方もない無理難題の方がふさわしいと思える、このプロジェクトを成功に導いた人物、それが今回の主役・修行憲一である。

プロジェクト推進のキーマンの役割を担っただけでなく、企画そのものの立案も修行自身が行った。彼は、なぜここまでの高いハードルを自ら創出し、挑まなければならなかったのか、当時の心境を振り返ってもらった。

 

「僕は、リクルートでの企画・開発部門や人材紹介の事業立ち上げを経て、30歳の時に当時まだベンチャー企業の一つでしかなかったグッドウィル(現ラディアホールディングス)に縁があって参加しました。入社とほぼ同時に、人材派遣・紹介事業を行う株式会社グッドウィル・キャリアの立ち上げを常務取締役として行い、1999年、31歳の時に同社のCOOに就任しました。グッドウィル・キャリアを短期間のうちに軌道にのせてはいましたが、さらに上のステージに行くためのきっかけを模索していたのです。その頃、世間に注目されていたのが翌2000年の4月から開始の介護保険制度。この社会的意義と潜在的な可能性のあるビジネスを逃す手はないな、と考え、グッドウィル・グループ役員会への提案を決意したのです」。

 

役員会は、月に1回行われていた。次に開催される10月の役員会で稟議をとらなければ、翌年春からの介護保険制度スタートに遅れをとる、そう考えた修行は役員会の日程が迫る中、プレゼンのための企画書づくりに没頭した。

 

「それまで僕は数えきれないほどの企画書を作ってきましたが、これは最高ランクの難易度でしたね。ビジネスの規模が大きいし、それに介護を取り巻く現実や介護保険制度の中身をリサーチする必要もありましたから。夜を徹して完成した企画のフィーは10億円を超えていました」。

 

この修行のプレゼンに対し、数々のビッグ・プロジェクトを成功させてきたグッドウィル・グループの会長も当初は「もう少し規模を絞れないか…」と苦し気に漏らしたという。

 

「しかし、最終的に会長は僕の企画を承認してくれました。その時の状況を今でも鮮明に覚えています。役員会が終わってからしばらくたって携帯電話に会長から連絡があり『あの企画のままでいい。採用に関しては修行に任せる』と。その言葉を聞いた瞬間から必要なメンバーを招集し、採用プロジェクト推進に着手しました。僕は入社後の教育やフォローは請け負わずに採用だけを担当したのですが、なにしろ2万人という膨大な人数ですから…」。

 

主要都市での統括責任者の配置などプロジェクトの骨格づくりを進める一方、修行の業務は全国エリアの求人媒体の選定・制作のマネジメントにまで及んだ。4ケ月で2万人を達成するために、1週間で約100名のコールセンター要員を採用することさえあったという。

全て自身の体験に基づくベンチャー企業への処方箋

介護保険スタートの2000年春、「コムスン2万人採用プロジェクト」は無事成就する。

 

この5年後にコムスンは、訪問介護分野で国内シェアのトップを占めるまでに躍進するが、修行はそれを見ることなく2002年、グッドウィル・キャリアCOOのポジションから離れ、経営層に特化した人材紹介会社「株式会社ジェイブレイン」を創業する。その頃、既にベンチャーではなく、東証一部上場を果たしていたグッドウィル・グループのグループ会社COOのポジションを手放すことに周囲の誰もが異を唱えた。しかし、本人に言わせると、にべもない。

 

「僕がいなくても機能する体制をつくることが出来たと感じていました。だからもう大丈夫だろうと。ただそれだけのことです」。

 

結果は、修行を頼みとする顧客は増える一方という状況だった。現在、修行をメンター、ファウンダーとする経営者は実に多い。相談役にとどまらず、経営者の産みの親になることも少なくない。彼が輩出してきた社長はこれまでに200人以上。M&Aによる買収企業の社長になった方、アライアンスにより誕生した企業の社長に就いた方、修行が背中を押す形で起業した方。それに最近では幹部として入社しその後、社長になった方も多い。

 

「僕がベンチャー企業の経営層と深く関わる中で、新規ビジネスの立ち上げや人材紹介でここまで実績を残せたのは、他のコンサルタントと比べて明らかに有利な点があったからということが言えます。

 

リクルート時代の新規事業立ち上げ、グッドウィル・キャリアでのCOO経験、ジェイブレインの創業、この3つの経験を合わせ持っているので、どのステージの方の気持ちも深く理解できます。自分の体験をもとに一人称でお話しできるので説得力が違うようですね」。

 

新規事業・起業においてあらゆる経験を持つ修行は、ベンチャーで将来的に起こる問題を容易に予測でき、多くの引き出しから具体的な解決策を提示する、実践コンサルティングが行えるというわけだ。

 

修行はベンチャー企業の経営者が苦しむパターンの一例として、人材定着の問題を挙げた。

 

「僕がグッドウィル・キャリアを立ち上げた頃、1年後の社員定着率は10%前後でした。大量採用しても次々に人が辞めていく。その時の僕はベンチャーの経営者にありがちな『できる人にはいくらでも払えるし、できない人には一切払えない』『このままだとお互いに不幸だから辞めておいた方がいい』という台詞をよく口にしていたんですね。

 

しかし、経営を続けていくうちにベンチャーにとっての人材の定着とは、エントリー・マネジメントであることに気づいたのです。はじめからベンチャーに向き・不向きなタイプがあり、スキルとは関係なく、はじめの段階でこの傾向を見極めることがポイントです」。

 

また、コンサルティングを通して、数多くの起業家と関わってきたことで、成功する経営者の思考パターンも明確になったと修行は言う。

 

「まず、柱となるのが『自分の軸をしっかり持っているか』。これがベースにあって、即断即決できるスピード感覚がある、周囲への感謝の気持ちを常に忘れない、素直さと前向きな心を持っている、小さなきっかけを最大限に利用できる、などの要素を合わせ持った人物像が経営者の理想です。

 

そして最終的に、成功する経営者になれるかの分かれ道は、その人が商売人ではなく事業家になれるかどうかにかかっています。僕が考える事業家とは、収益はあくまでも手段であり、その使い道を社会貢献に結びつける思考を持っているということ。これがなければ、今の時代に成功を手にすることは難しいでしょう」。

キャンディデイトとのコミュニケーションでも、役立つのはやはり自身の体験だ。

 

「大手企業からベンチャーに転職する時、妻に反対されてその道を断念するキャンディデイトが少なくない。その善処策として、僕自身のことをよくお話しします。

 

リクルートからまだベンチャー企業だったグッドウィルに転職する時、僕も妻に猛反対を受けました。その時、僕は『社長になるのは僕が小学生の時からの夢だった。死ぬ時に家族のために自分が犠牲になったとは思いたくない』『もしこの転職を失敗しても、どんな仕事をしてでも毎月決まった額を渡す』と妻を説得しました。それ以来、反対攻勢はピタリと止みました。

 

このような体験をお話しすることでキャンディデイトは、これから先に家族のどのような反応があるか、それをクリアするためにどのような説得をすれば良いかの心構えができるというわけです」。

 

つまり、修行は経営する会社と自分自身の人生をモデルケースにして、検証・改善を繰り返すことで、独自の実践コンサルティングの理論を組み上げてきたのだ。

 

修行は1時間以上のインタビュー中に机上の理論を一切口にしなかった。語られるのは全て自身の体験による独自の理論のみである。現実に即したベンチャー企業の処方箋を提供できることこそが、修行にとって何よりの強みである。

過去のキャリアという服を脱がし丸裸にする

もう一つの修行の特殊性は、関係構築のスタイルにある。

 

どのクライアント企業とも完全なビジネスパートナーの関係を結ぶ。経営者や幹部クラスと共に経営戦略を一緒に練り上げ、新たなビジネスを生み出したり、アライアンス・M&Aの推進役となる。そこで必要になった人材が修行に委ねられるのは自然な成り行きだ。

 

商品・サービス開発などビジネスの根幹に関わることも多く、中には石川遼が高校生時に優勝した大会で使用していたゴルフクラブといったものまで手がけている。

 

「ある経営者から『修行さん、これをどうにか出来ませんか…』とゴルフクラブの特許を持っている方を紹介されたのがきっかけです。必要なブレーンを集めてこのゴルフクラブの商品化・販売を行う会社の立ち上げを行いました。単純に人材の話から入ると、それは小さな人材の話で終わってしまします。しかし、ビジネスパートナーを入口に設定すると、経営戦略の先にある人材の話に大きく広がっていくのです」。

 

キャンディデイトに対してのコンサルティングも独特のフォームで行われる。修行の前ではどのような人間も過去のキャリアという服を脱がされ丸裸にされてしまう。

 

「カウンセリングでは、どのような方でも一度、白紙の状態になっていただきます。大事なのはその方が、今後どのような生き方をしていきたいかを明確にすることです。僕と出会ったことで、自分のしたいことを理想の環境で叶えていただきたいと強く思っています。

 

それを引き出すために、幼少期のことを伺うのが僕のやり方です。その人の根幹の部分というのは幼少期の体験に残っていることが多いものです。そこを丹念に辿っていくことで、その人本来の人間性や価値観、真に希求しているものが徐々に見えてきます。成長期以降の思考は左脳でつくられた理屈であって、その人の本来の姿ではないと思っています。その人のことをよく知るということは、そこに信頼関係が自然に生まれるということでもあるんです。

 

信頼があってはじめて本音を相手に伝えられるものでしょう。信頼関係のない相手に言えるのは、表面上の個人情報だけです。そんなの全く意味ないですよね」。

 

また、キャンディデイトから信頼を得るために、修行は「推測をしない。事実を言う」ことをジェイブレインの社員に指導している。推測で情報を伝えてしまうとキャンディデイトが混乱する原因になる。この推測をしなくても済む経営環境をつくるためには「経営者と直接合うことが理想」と言う。

 

人材戦略は経営戦略の一部でしかない。「経営戦略という背景をきちんと知れば推測することなど必要なくなる」と話す。

究極のサービスの提案が紹介業界発展の近道

記事の構成上、クライアント企業・キャンディデイトと区分けをしたが、修行にとってそれはあまり意味のないことのようだ。

 

クライアント企業がキャンディデイトになることもあり、キャンディデイトがクライアント企業になることもある。

 

とにかく何より彼が大切にしてるのは「縁のあった人々とビジネスパートナーの関係を結ぶ」という一点である。そのきっかけとなったのはリクルートエイブリックに籍を置き、人材紹介事業を行っていた時のある体験だった。

 

「マッチングを担当して入社された方に後日、連絡をしても最終的には『転職はもうしないのでもう大丈夫ですよ』というコミュニケーションになってしまうんですね。つまり、相手は転職の時だけの関係だと思っていたわけです。

 

せっかく出会ったのに生涯関係が続くわけじゃないんだ、と寂しい気持ちになりました。それを解決するには、関係性を逆転させるしかないと考えたのです。転職するために僕と出会ったのではなく、僕とまずビジネスパートナーとしてつきあっていただき、その延長線でたまたま転職したという順番です。

 

これを実行することで多くの起業家や経営層の方々とビジネスパートナーの関係を構築してきました。そのことによって僕が知ったのは、真のプロフェッショナルにはある共通項があるということです。

 

それは、『真実を見抜く力を持ち、決して妥協はしない』ということ。分野はそれぞれ違ってもプロフェッショナルは、必ずこの傾向を持っていらっしゃいます」。  異端以上の存在。

 

その独特な人材紹介ビジネスに対する考え方に加え、すでに計5冊の書籍の執筆を手がけ(自著3冊、共著2冊)、過去に文部科学省のWG研究員のポストに就き、また2007年春よりデジタルハリウッド大学の准教授となった修行は、人材紹介の別次元にいる人間と言ってもよいかもしれない。

 

その修行の視点で俯瞰すると、これからの人材紹介業界の先行きはどのように見えるのか。

 

「今後、過去の常識を踏襲した人材紹介会社が生き残るのは難しいでしょう。存在するには、そこに意味が必ず求められるはずです。この意見には、読者の大半が同意見だと思います。では、生き残りのキーファクターはいったい何か。

 

私個人の意見で言いますと、これからの人材紹介業は『個の時代』に突入すると見ています。ジェイブレインのCEOという立場上、全てを語ることはできませんが、弊社では個人支援を強化した『究極のサービス展開』を新たに始動させようと考えています。

 

各社が自社にとっての究極のサービスは何かを模索し、それを形にしていくことが、人材紹介業界を活性化させる一番の近道なのではないかと強く想っています」。