自分の能力を過大評価せよ
心を揺さぶり、キャリアを切り拓く手法
トップコンサルタントに必要なスキルは何だろう。人によって回答は変わるかもしれない。しかしチャドが挙げるとあるスキルは、その有無によって成約率が50%は変わるという、非常に重要なものだった。またテクニック以外にも、コンサルタントに求められる要素とは。米国で生まれ、日本で活躍するチャドが明かす仕事術と、今後のビジョンに迫った。
運命を変えたアドバイス
「チャド、あなたはこの仕事に受からないよ」
2002年、ある企業で面接を受けたとき、面接官はそう言い放った。またか、とチャドは落胆した。それまでも転職活動をしていたチャドだったが、結果は芳しくなく、不合格の連続だった。しかし、そのときの面接官はこう続けた。「私がこれから教えることは、あなたの今後のキャリア形成にきっと役立つよ」と。当時のことを、チャドはこう振り返る。
「面接はそこで打ち切られてしまったのですが、その後に面接の受け方について助言をもらったのです。それは、インタビュアーがヒントにしている特別な言葉やキャッチフレーズでした。そのアドバイスを生かして次の面接に挑んだところ、採用となったのです」
そのときの助言は、後にコンサルタントとなった上でも役立っているという。いや、もしかしたら、その助言がチャドをトップコンサルに成長させたのかもしれない。
三方を幸せにするのがコンサルタントの仕事
チャドは事例を挙げる。ある企業との面談を前に、女性候補者にトレーニングを行った。企業が求めているのは、情熱的で自信のある人材。彼女を採用することで、どのようなメリットがあるのか、明確に伝わるような面接対策を行った。
「例えば、『私はサプライチェーンに対して情熱があり、能力に自信もある。さらに高みを目指してキャリア形成をしたい。起業家精神もあるし、今回のポジションで会社の価値を上げることも可能です』という風に、先方が反応するであろうキーワードを並べて面接に臨めば、面接官の目に留まります。それが私の取り組んできた手法です」
面接で企業は、あなたはなぜ当社で働きたいのか、あなたを採用することで当社はどのようなメリットがあるか、などを尋ねる。そのときに使う言葉やキャッチフレーズで、結果は大きく変わってくるという。簡単に言うと、自分の能力を過大評価するような特殊な手法ですね、とチャド。このスキルを活用しなかった場合、契約成功率は50%ほど下がると断言する。ただ、チャドがトップコンサルタントになったのは、そのスキルだけが要因ではない。
「人材業界のコンサルタントは、まず自分自身を候補者とクライアントそれぞれに売り込みます。そのうえで、さらに2つをセットにすべく売り込みをする。その基本スキルは、“人は自分の気に入った人から買う”という基本的な習性を利用したものなのです」
提案する人材や求人がいくら素晴らしくても、コンサルタント自身に魅力がなければ、成約にはなりづらい。そのため、コンサルタントはまず、自分という人間をPRする必要があるのだ。
「また候補者と企業の間に、いち早く共通項を探し出すことも重要です。ゲームのようなものでもありますが、最終的にはクライアントと候補者にとって何がベストか、ということが求められます。だからこそ、お互いの気が済むまで何度もセッティングし、三方でWIN-WIN-WINの関係をつくる。それが私たちの仕事です」
つまり、人が好きであることが、この仕事をするうえで大切なんです。チャドはそう言ってほほ笑んだ。
クライアント数の少なさ=つながりの深さ
彼は米国カリフォルニア州出身。大学を卒業した後、1999年に来日。2年半、日本で英語教師をした後、米国に帰国した。人生を変えた面接は、このときに経験している。カリフォルニアで数年間働いた後、とある人材会社から、日本支社立ち上げに伴い、ヘッドハンティングされる。そして2004年10月にふたたび来日し、人材業界に携わるように。何社か人材会社での勤務を経て、現在はゼンショーで活躍している。
同社のクライアントは、主に日本国内の外資系企業だ。チャドは5社ほどの企業を担当している。決して多い数字ではないが、「外資系企業は常に人材不足ですし、現在も日本への進出が続いており、需要が大きい。5社でも多いくらいだと感じています」と話す。また、同社の人材紹介のスタイルも、クライアント数の少なさを十分に補うものとなっている。
「私が担当しているクライアントの一社は、社長や重役、人事担当など全員と会っています。その分、企業文化も深く理解しています。それは大きなアドバンテージです。多数クライアントを抱えている競合他社が、そこまで深い繋がりを持っているとは思えませんし、企業理解のために割く時間もないでしょう」
2~3社の優良なクライアントがいれば、他社の10社分くらいになる、とチャド。広く浅くではなく、深く狭い関係性があるからこそ、クライアント数の少なさは全くマイナスにならない。むしろ強みとして、クライアントや候補者に対し、全面的に打ち出しているという。
米国に戻ってコンサルタントを続けたい
求職者開拓にも力を入れている。手法として、自身や会社の持つネットワーク、過去に紹介した人材やその紹介、LinkedInや媒体なども活用している。ただし、たくさんの人を紹介することが重要ではない、とチャドは続ける。
「うちの会社は少数の業界・企業に絞っているので、クライアントは的確な人材に巡り合って成約にいたることが多いです。僕から10のレジュメが届くことはまずありません。紹介する1~2人のどちらかが、確実にその企業の求めている人材なのです。KPIを重視している企業であれば、『週に10人~20人のレジュメを送ってくれ』と言いますが、スペック外の人材を数合わせのために紹介しても、お互い時間の無駄ですよね」
そのような行動原則があるため、クライアントから信頼を寄せられているという。チャド自身も、多くのクライアントに一般的な対応をするよりも、数社と徹底的に向き合いたい、という信念を持っているのだ。
アポに追われていないため、スケジュール管理も比較的自由となっている。チャドの場合、日々抱えている案件や、業務の量から、1日5時間もあれば十分だという。基本的に出社時間も自由で、予定がない場合は、ジムに行ってから出社することも可能だ。
「私は明日から、両親に合流するためにハワイに行きます。普通の会社でそんなことができますか? 事前に申し出ていないからダメ、と言われることがほとんどですよね。弊社ではそんなことはありません」
チャドはそう言って笑う。同社では、長野と米国からリモートワークをしている社員もいるという。毎回、クライアントや候補者に対面する必要性もなく、Skypeなどアプリを活用することで業務管理ができるからだ。今よりクライアントを強化して、いつか米国に戻ろうと考えています、とチャドは話す。妻と子供が、故郷であるカリフォルニアで暮らしているのだ。といっても、転職をする気はない。あくまでキャリアの最後は、Zensho Agency Inc.で終えようと考えている。
「私が今までいた会社でも、クライアントとの関係性や働き方など、今のような状態を目指していました。どの会社も近いところまでは達成できましたが、どこかで頭打ちになる場合が多かった。Zensho Agency Inc.では持続もできていますし、その状態で成長を続けることができます」
この会社のために働きたいんです、とチャドは続ける。最高の会社での勤務や、働き方を実現したトップコンサルタント。かつての面接で助言をもらったのは、遠い昔のことだ。しかしそのときに学んだスキルは、チャドを躍進させる重要な要素となり、後輩のコンサルタントや候補者へも受け継がれている。三方だけでなく、かかわるすべての人を、トップコンサルタントはハッピーにし続ける。