無期転換や同一労働同一賃金直面する変化に人材サービス会社はどう向き合っていくのか

2018年から実施された「無期転換ルール」や、2020年4月から施行される「同一労働同一賃金」など、派遣会社が対応すべきことは多くある。法改正や環境の変化に対応しながら、業界最大手のアデコ社はどのように事業を推進していくのだろう。COOの平野健二氏に聞いた。

高まる無期雇用へのニーズ

まずは御社が近年、派遣事業のなかで特に注力されてきた取り組みについて教えてください。

弊社が掲げている「キャリア開発があたりまえの世の中をつくる。」というビジョンを軸として、優先的に進めていったのが、有期から無期への雇用者を増やしていくことです。これは2018年に行われた派遣法改正の趣旨に沿った施策でもあります。派遣スタッフを無期で受け入れることで、安定した雇用を生み出すと同時に、キャリア開発を支援していければと、改正法施行のタイミングとなった2018~2019年にかけては特に力を入れて取り組んできました。2018年には、4000名近くの有期雇用派遣スタッフを無期雇用へと転換しました。

無期雇用への転換は、コストの増加などネガティブな面もあります。

確かに無期雇用はわれわれにとって待機リスクがあるとも言えますが、想定していたよりもだいぶ低く抑えられています。それだけお客様からのニーズがあるのだと考えています。また法改正の趣旨や、無期雇用になることで定着率が高くなる旨を派遣先企業であるお客様に伝え、メリットを理解していただいていることもその要因のひとつだと思います。

派遣スタッフとして2・5年以上継続して就業している方が、御社の無期雇用派遣に応募できる「ハケン2・5」と言う取り組みもされています。

お客様から、「他社の派遣スタッフが、長く働きたいけれど無期雇用になれないと言っている」と聞くことがありました。そういった状況と、法改正の趣旨やわれわれのビジョンと照らし合わせたとき、弊社が取り組むべきことだと考えて始めました。

これからの時代に必要な働き方を支援

御社は派遣スタッフのキャリア開発に力を入れていますが、その理由と基本的な方針を教えてください。

まずお客様をサポートする営業がすべきことと、派遣スタッフをサポートするキャリアコーチがすべきことを明確にわけています。キャリアコーチは、派遣スタッフ一人ひとりに向き合い、スキルはどのくらいか、足りないスキルは何か、どんなトレーニングが必要か、そもそもどういうキャリアを進みたいか、まで踏み込んでカウンセリングをしています。

登録者が減少しつつある派遣市場で、スタッフの定着率を高め、長期の就業者を増やすことは、われわれが事業を運営するうえでの差別化要因にもなります。実際にキャリアコーチ制度を導入した2016年以降、NPSが向上していますし、更新率やリピート率の向上にもつながっています。

具体的にどのようなスキル開発を行っているのでしょう。

弊社の派遣事業の中心はジェネラルスタッフィング(事務派遣)です。テクノロジーが急速に発展し、事務系の派遣スタッフが携わる仕事や求められるスキルも大きく変化するのではないかと言われています。そうなったときにも弊社のスタッフが活躍できるよう、例えばAIやRPAといった新しい技術を扱えるようなスキルを身に付け、よりニーズが高い仕事にシフトしていける機会を提供するべく取り組んでいます。

カウンセリングやトレーニングは、以前は営業担当者が行っていましたが、人によって得手不得手がありますし、ほかの業務との兼ね合いで時間的な制約もあります。そこで営業担当とキャリアコーチをわけました。営業担当者は顧客と向き合う時間を作り、信頼を獲得する。一方でキャリアコーチは、スタッフのキャリア構築支援を専門的に行います。組織も独立させて、各営業本部を横断できるような仕組みを整えています。

キャリアコーチにはどのような教育を行っているのですか。

マーケットの変化やこれからの時代に求められるスキルを理解したうえでスタッフをサポートできるようにしているほか、マインドセットに変化をもたらすようなトレーニングも充実させています。

柔軟な働き方を派遣スタッフにも適用

派遣事業ではどういったKPIを設定しているのでしょう。

全体的に重視しているのは終了率、リピート率、NPSです。最近はマーケティングオートメーションのツールであるマルケトを使い、個々へのメッセージングを最適化し、生産性をどう上げるか、インサイドセールスをどう強化するかという施策を推進しています。そのほかに重視しているのは派遣スタッフへの処遇で、マーケットの平均時給以上を維持できているかを常にチェックしています。もちろん仕事を紹介する場合は時給だけではなく、派遣スタッフの成長につながる会社や業界であるかを分析し、一人ひとりのキャリア開発にになる仕事を紹介するようにしています。

NPSはどのように確認しているのでしょう。

就業先とスタッフにそれぞれ、年一回アンケートを行っています。また四半期ごとに簡易的な調査をしています。スコアはもちろんですが、コメントを一つひとつ分析して、課題として挙がってきたことを改善するべく取り組んでいます。

今後の中長期的な戦略について教えてください。

ひとつは外国人の活用です。弊社がグローバルカンパニーである強みを生かし、外国人材の紹介や入社後の定着支援、日本語や文化理解のトレーニングなどを組み合わせ、お客様にソリューションとして提供していきます。また、シニアの方がより長く活躍できる場や機会も増やすための取り組みも積極的に行っていきたいと考えています。

子育てや家族の介護などを行っている派遣スタッフが、リモートワークなど柔軟な働き方ができるような環境も広げていきたいです。弊社はここ2年半ほど、『Future Way of Work』というプロジェクトのもと、社内における柔軟な働き方を推進しています。その一環として促進しているリモートワークの実施率はすでに88%に達し、実際に社員のエンゲージメントも高まっています。社内アンケートでは、77%が「働き方がより柔軟になっている」と回答しています。より普及させるために、書類を減らす、固定電話をなくす、セキュリテイを向上させるなどの施策も行ってきました。ここで培ったナレッジを派遣スタッフに応用することができると実感しており、派遣スタッフに活躍の場を提供すると同時に、顧客企業にもその導入のノウハウを提供することで労働力不足という社会課題の解決にもつなげていきたいです。

同一労働同一賃金への対応

安定した労働環境のために、業界・企業への働きかけは行っているのでしょうか。

私たちの事業は、企業と働く人々の双方に成功をもたらすものでなくてはいけません。弊社にはEAP(従業員支援プログラム)サービスがあります。EAPコンサルタント資格を持った営業担当者が、派遣先企業の職場環境に関する課題をアセスメントし、どのように改善すれば良いかアドバイスを行います。派遣スタッフが定着しにくい企業は、職場環境に何らかの課題を抱えている場合が多く、それを改善することは全体としての生産性の向上にもつながります。弊社ではこの施策がどのように成果につながったかをモニタリングし、ベストプラクティスとして共有することで、お客様の課題解決の重要性を社内にも徹底しています。

2020年から「同一労働同一賃金」が施行されますが、御社ではどのように対応していくのですか。

同一労働同一賃金には、「派遣先均等・均衡方式」「労使協定方式」があります。おそらく「労使協定方式」を選択する人材サービス会社が多くなるのではないかと思いますが、その場合、賃金は厚生労働省から提示されたガイドラインに沿う形になります。その際、スタッフひとり一人の能力をアセスメントすることが求められますが、弊社は2016年からキャリアマップを活用し、スタッフのスキルレベルとレベルごとの賃金をすでに可視化していますので、スムーズに対応できる見込みです。

また今年の5月から、お客様に向けたセミナーを実施しています。法改正や制度を深く理解した専門の担当者が担当しているため、参加された企業の皆様から非常に好評を得ています。

「同一労働同一賃金」には、「改正労働者派遣法」だけでなく、「改正パートタイム・有期雇用労働法」も関わってきます。

 「同一労働同一賃金」の導入は、日本の雇用・労働市場にとって非常に大きな変化です。現時点ではどのような影響が出るか不透明なところも多く、引き続き注視していくつもりです。しかし、われわれの「キャリア開発があたりまえの世の中をつくる」というビジョンには今後も変わりはありません。今回の法改正も、ビジョンを実現するための良い機会と捉えて積極的に動いていきます。