人と社会の役に立つことだけに注力する組織づくりシステム活用で派遣先・スタッフ・社員を面でつなぎ幸せにする

トヨタグループの人材サービス会社として、愛知県で事業展開を行うサンスタッフ。人材派遣・紹介事業のほかIP(知的財産)、緑化事業など領域は幅広い。また女性管理職比率が28%と、女性の活躍推進にも力を入れている。そこには同社の設立から変わらぬミッションがあった。今後のビジョンについて、そしてシステムをどう活用していくのか聞いた。

シニア・女性の活用をミッションに設立

まず御社の創業から現在までの歴史についてお聞かせください。

丸山弊社は豊田自動織機のグループ会社として1990年に創業しました。当時は定年が60歳。ただ、その後も働きたいという社員がたくさんおり、一方で経験やスキルを生かせる職場もグループに多くありました。そこで定年後の社員の受け皿として、グループへ人材を供給するべく、派遣会社として設立したのがサンスタッフです。

当時、世間では女性社員へのサポート制度が現在ほど整っておらず、出産・育児などを機に退職してしまうことが多くありました。そこで、お母さんがお子さんを預けて働けるよう、1991年に保育園事業を開始。グループだけでなく、他社のお子さんも預かってきました。2000年代後半にトヨタグループで保育園を作る動きがあり、保育園事業は発展的に解消しましたが、「シニア・女性の活用」というミッションを掲げて創業したのがサンスタッフです。

現在はさらに事業を広げ、人材派遣や紹介なども行っています。

丸山2003年からエンジニア派遣を始めて、グループ会社の技術部門に人材を派遣しています。あとは教育・研修事業や、トヨタグループの「トヨタ流ものづくり」のノウハウを教える「ものづくり改善支援」。特許の出願前の調査や申請業務を行う「IP事業」、工場内の敷地や公園・公共施設などで造園・芝生の管理などを行う「グリーンサービス事業」などがあります。

売上高は年間約37億円。内訳として、8割が人材紹介と人材派遣、そのほかがIPや緑化事業、教育研修などです。

90年代前半から女性の活躍を支援していますが、貴社内の女性活躍も厚労省より「えるぼし企業*」としても認定を受けています。

丸山会社として女性活躍推進法の制定を機に女性が育成・活躍できるプランを設け、現在は管理職比率が約28%です。弊社の事務職の派遣事業は、登録スタッフも女性がほとんど。彼女たちの気持ちを理解し、きめ細かなケアが可能ということで、営業リーダーやメンバーも女性が多く活躍しています。

売り上げ10億円の壁

クラウド型マッチングCRMシステムの導入に至った経緯を教えてください。

増田派遣事業の基幹システムは、以前より市販システムをカスタマイズして利用しておりまして、勤怠管理や給与計算、請求などは十分に行えているものの、工数削減や生産性の向上になかなかつながりませんでした。例えば、過去に登録したスタッフのマッチングが、収集する情報として制限などもあり、システム上でできないため、コーディネーターがそれぞれ頭のなかで行っていました。また、いいマッチングが思いついても、データは約2万人分が紙ベースで保管されているため、キャビネットにファイルを取りに行ったり調べたりする手間がかかる。これらを解消するために、HRビジネスクラウド(HRBC)を導入したのです。

基幹システムはカスタマイズを繰り返し、置き換えが非常に難しい作りになっていましたので、基幹システムはそのままに、マッチングや生産性向上の部分を切り出す形でシステム導入を行う方向性となりました。導入の際には、システムのアップデートをそのまま享受でき、発展的なシステム連携も可能となるクラウドであることを前提条件とし、複数のツールを検討した結果、HRBCの導入に至りました。

派遣会社の売り上げは、ある一定の規模までは、やればやった分だけ伸びていきます。二けた成長も十分可能です。ただ過去の経験からも10億円を境に、同じ伸び「率」を継続するには、やり方を変える必要がある。弊社の場合、2017年度に登録型派遣事業の売り上げが10億円を超えたため、それ以上の成長を可能にするにはシステムで生産性を上げていく必要があったのです。そして社員には、人と社会に役に立つ仕事だけをしてほしい、だからこそ属人的な仕事や単純作業、繰り返し作業を将来的には減らしていき、広範囲に効率的な運用になることで、より仕事に対する意欲を高められるようにしたかったのです。

マッチングを、ベテランコーディネーターの属人的なノウハウ・知識に頼っていると、その人がいなくなったときに品質の低下が起きる可能性があります。また客観的に見たとき、本当にベストマッチできているのか、という不安を解消したい思いもありました。

そのほか、社員や登録スタッフの満足度向上のために、行っている取り組みがあれば教えてください。

丸山弊社ではシステム導入時のもそうなんですが、改革改善をする際に社員でプロジェクトをつくり、推進します。自分たちが作り上げたものは印象に残る。働く場所づくりも同じでして、社内でプロジェクトを立ち上げ、オフィス改革を行っています。以前は無機質なオフィスだったのを、温かい雰囲気の内装にし、照明はダウンライトに。音楽も流すようにしました。お子さんのいる女性が登録に来た際、預けられるようにキッズルームも設けました。ほかには、社員が交流できるカフェコーナーを作ったり、フリースペースを入れたり、デスクワークの多い職種の社員には長時間の作業に合った椅子を導入したり。社員同士が話し合って、主体的に意見を出し合いながら進めています。

2019年3月に弊社は優良派遣事業者認定を取得しましたが、その際も事業部横断プロジェクトで推進しました。この認定取得のための記録項目の管理もHRBC導入の一因となっています。

システム導入後のKPIは「候補化率」

派遣事業ではどのようなKPIを設定しているのでしょう。

増田いろいろとKPIはありますが、システム導入後に見ているのは「候補化率」です。お客様から10件の求人をいただいたとき、実際に決まる・決まらないはありますが、候補となる方10人をご紹介できることを目指しています。5人しか紹介できなかったら候補化率は50%となり、期待して依頼をくださったお客様には謝罪をしないといけません。HRBCを導入してからは、100%はもちろん難しいですが、この数字が100%に近づけるように運営しています。

あとは、案件に優先順位となる基準を設け、営業はできるだけ基準の高い求人を獲得するよう目指しています。基準を高めるにはコンペがない、当社スタッフの方が多く居住する勤務エリアのほか、「残業なし」「週3日~OK」「短時間勤務可」など、スタッフに人気の高いポイントを6つほど設け、それによって決めています。

登録スタッフとは、継続率や満足度を高めるために、どのような工夫をしているのですか。

丸山弊社では派遣スタッフ、派遣先企業、営業・コーディネーター、弊社のマネジメントの関係を、三角錐としてとらえています。立体にすることで面が生まれます。スタッフ、企業と直接接している営業・コーディネーターが、それぞれの線を強くするだけでなく、私などのマネジメントも参画し、派遣先とスタッフを、そして弊社社員を面でさらに面ごとに何ができるかというところを考えながら取り組んでいます。

増田企業側には、スタッフの更新時は営業が契約書を持参して、できるだけ直接お渡ししています。また、スタッフ向けに年一回謝恩会を開催しています。女性スタッフ向けには、お子さんがいる方でも参加しやすい週末に開催し、クイズで近隣エステのチケットなどをプレゼント。シニア向けには、お酒好きの方が多いので、金曜の夜などに開催しています。スタッフの皆さんの日頃の頑張りに感謝するとともに、さらなるご紹介等の促進にもつながっています。

一方で派遣先企業の担当者と営業・コーディネーター、そして私どもマネジメントとの結びつきを強めようと、社内バンドのライブに、20社ほどの企業の担当者たちをお誘いしたこともあります。普段は営業がコンタクトポイントとなっていますから、会社全体としておもてなしすることで、反響は大きく、サンスタッフがどういう会社か印象づけられましたし、忌憚ない意見も聞けましたね。

丸山 私たちは地場型の人材サービス会社なので、全国チェーンの大手とまともに勝負しても勝てません。今後もさらに競争が激化していくでしょうから、地元に根差した会社ならではの泥臭いやり方を続け、結果として信頼される会社として、当社のことが広まり、ファンが増えていけばと思っています。システムはもちろん、SNSなどの新しいツールも活用しながら考えていきたいです。

柔軟な働き方とIT活用で社員・スタッフも活躍する組織に

システムは今後、どのように活用していくのでしょう。

増田派遣スタッフとコーディネーターや営業のやり取りを、SNSやコミュニケーションツールを使いながら、気になるキーワードなどがAIなどで自動で拾われたり、リーダーやマネージャーに自動共有されたり、システムと連携できると良いですね。そうすれば、組織の風通しや業務効率化にもなる。コーディネーターや営業も、人の役に立つことだけが自分の仕事だと思えるようになり、日々が楽しくなるでしょう。

最後に御社の今後のビジョンについて教えてください。

増田派遣スタッフは「派遣先で働いている」という意識が強いと思います。そうではなく、派遣先・派遣元が半分ずつという意識にしていければ。派遣元は給料を支払ってくれるところ、ということのほかに、サンスタッフだから登録している、と思ってもらいたいですね。そのためにも、スタッフの日常的なケアや能力開発のサポートを行い、顧客満足度も上げることで、長く活躍してもらいたいです。

丸山労働人口が減り続けているなか、フルタイムだけでなく、「週2~3日」「午前もしくは午後のみ」といった働き方にも対応していきたい。現在、進めているのはBPOで、グループの各工場で発生している入力業務などを、BPOセンターを立ち上げて請け負っています。

その派生として、労働マーケットに入ってきていない障がい者の方々や、これまでの知見を基に更なる女性活用に挑戦したり、外国人の技能実習に関しても、サンスタッフならではの自動車産業に特化した製造現場の教育をしっかり行って、クオリティの高いサービスを提供していきたいと考えています。

*『えるぼし』とは?

女性活躍推進をしている企業に対して、一定の基準を満たした場合に厚生労働大臣が認定する制度とその認定マークの愛称です。女性が働きやすい環境を整え、活躍推進に努めてきたサンスタッフ社は、女性の活躍推進に関する取り組みの実施状況が5つの評価項目(①採用 ②継続雇用 ③労働時間 ④管理職比率 ⑤多様なキャリアコース)のすべての要件を満たす企業として、2018年8月14日付で厚生労働大臣から「えるぼし」認定段階3(最高段階)の認定を受けました。