ライフステージと働き方をリンクさせる
新しい雇用の形
世界最大級の規模を誇る総合人材サービス企業のランスタッド社。そのスケールを生かし、あらゆる方のキャリア支援を行えるインフラ構築に力を入れている。さらに、短期労働市場という新しい働き方・新しいサービスの創出にも取り組み始めている。同社が見据える労働市場の今後と、描く戦略を猿谷氏に伺った。
あらゆる人のキャリア支援をワンストップで実現
最近、御社が特に注力している事業領域を教えてください。
私たちが強化しているのは、派遣社員のキャリア創出をワンストップで支援できるインフラの整備です。2011年にフジスタッフグループと統合してから、人材紹介領域でマネジメントに携わる人材、スペシャリスト人材、エグゼクティブサーチなどの人材紹介事業を取り扱う部門を立ち上げました。その部門との連携により、派遣社員が次のステップとして正社員になり、さらにハイポジションに就けるサポートを始めています。また弊社のスポット派遣(アルバイト)で働く学生が、就職や転職する際の就業支援も行っています。
各事業部が密に連携し、学生から、若年層の正社員、派遣社員からミドル層の中堅社員、さらにはハイクラス人材まで、キャリアアップはもちろんのこと、出産や家族の介護などで働き方を変えなければならない方へ、新しい働き方を提案できることを目指しています。
総合人材サービス企業は、どうしても縦割りのイメージがありますが、事業部ごとにどう連携しているのでしょう。
弊社においても人材紹介、人材派遣、スポット事業(短期派遣)が事業体としてわかれており、基本的には各部門のマネージャーが積極的に各部門との情報交換を行い、各部門のコーディネーターが求職者のキャリアサポートを行っています。ランスタッドとしてワンストップで求職者といかにロングタームで関係性を築くか、などディスカッションを行っています。時間をかけて、最適な方法を引き続き検討していきます。
派遣事業では、どのようなKPIがあるのですか。
サービスを人に薦めたいかの指標となるNPS(ネット・プロモーター・スコア)を企業と求職者からフィードバックを頂戴しています。コーディネーターやコンサルタントの対応に満足してもらえないと、ロングタームの関係性は築けないので、いかに高い数値でNPSスコアを推移させていけるか、全拠点の共通指標として改善活動に日々取り組んでいます。そのほかの数値では、結果として雇用を創出した指標として「入社数」、 さらには継続してランスタッドで働きたいと評価頂いた結果である「再就業率」も大切な指標として捉えています。
今後は派遣事業でどのような戦略を考えているのでしょう。
引き続きサービスレベルの底上げを行っていきます。現在におけるランスタッドの派遣部門において、製造派遣と事務派遣が近い割合で占めています。工場での生産管理から事務職、技術者まで幅広く対応できるので、製造メーカーからはワンストップにて対応できるサービスをご評価いただいています。しかし、日本における派遣市場はまだまだ非常に大きいことから、同一労働同一賃金といった大きなマーケットイベントもありますが、市場と向き合いながら最適なサービスの提供により、より一層の拡大を目指していきます。
市場の変化に対応できるよう社内の働き方をを刷新
同一労働同一賃金にはどう対応していきますか。
企業にとっては労務費増につながり、企業の人事戦略に大きな影響を与えることが想定されます。一方で、派遣社員や有期契約社員の待遇改善につながり、また働き方の選択肢も増え、派遣という働き方のステータスも上がる絶好の機会です。私たちはこの環境変化について企業に丁寧に説明を実施し、十分にご理解いただき、パートナーシップを構築していくことが大切です。適切な対応が実施されないと、人材が採用できないといった機会損失にもつながる恐れもあり、企業様と同じベクトルで対策を進めることがとても重要だと考えています。
AIなどテクノロジーの発展に伴い、一般事務などの仕事は減っていくと言われていますが、派遣スタッフのキャリア支援は行っているのですか。
なくなる仕事がある一方、新しく生まれる仕事もあります。企業からのオーダーや求める人材・条件も変わっていきます。例えば、今までの需要の高かった受付といったスタッフが、従来と違ったスキルを必要とされつつあり、求められるプロファイルも変わってきています。例えばRPAを操作できる方、といったのも最近の傾向でしょうか。本人の希望やキャリアプランが大事ですが、これから必要となるスキルを磨ける機会を用意し、次のステージやポジションへご案内していけるように努めていきます。
オフィスのリノベーションなど、社内での働き方改革も進めています。
今年のGWにオフィスを改装しました。これはABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)という概念を取り入れ、フリーアドレスを導入し、集中したいときは静かなエリア、リラックスしたいときはお茶を飲みながら作業できるスペース、テレフォンブースやちょっとしたミーティングができるオープンスペースなど、業務内容によって働きやすい環境を選べるようになりました。デスクは部門ごとに固まっていたのが、好きな席に座れるように変更しました。服装も節度があり、TPOに沿ったものであれば自由にし、自分がモチベーション高く仕事ができるスタイルを選択できるようにしました。また、コアタイムを設けないスーパーフレックス制度も導入しました。ある社員は「一度スーパーフレックスを経験するともうこの働き方を辞められない」と言っており、働きやすさを実感してくれているのだと思います。環境や制度を整備することで、社員一人ひとりが顧客や求職者の方により一層寄り添うことができ、ポジティブな評価を頂戴することでビジネスのパフォーマンス面でも効果が出てきています。
どういった背景でオフィス改装を行ったのでしょうか。
スピーディに変化する市場に合わせて、私たちも常に対応できるように変化の許容度のレベルを高めないといけない、ということを社員と一緒に分かち合いたかったからです。従来のスタイルのオフィスを意図的に変えることで、変化に対してより敏感になってもらうことが狙いです。一人ひとりが最大のパフォーマンスを発揮できるスタイルを主体的に考えてもらうことや、自分自身のタイムマネジメントを自発的に実施していくことも同様です。コミュニケーションの在り方もそうです。マネージャーは、部下たちが前にいると、仕事をしている気になるものです。それがフレックスタイムやフリーアドレス、work from anywhereという考え方を導入すると、これまでは「その場にいて何かをしている」という勤怠そのものを見ていたものが、「何をどこまで進めたか」というアウトプットを見る必要が出てくる。一人ひとりにそれぞれの環境で仕事をしてもらいつつ、全体ミーティングや個別ミーティングにて進捗確認やディスカッションを行うなど、コミュニケーションの中身を変える必要があります。そういった環境の変化に対応し、最大のパフォーマンスを自分自身で確立していけるようになることが大きな目的です。
フルタイムで働けない方に活躍の場を提供
働くうえで魅力的な企業を表彰する「ランスタッドアワード」を、福岡と仙台でも開催しました。
これまで東京で開催してきましたが、地方都市では初の取り組みです。このアワードは、無作為に選出された約7000名にアンケートを取り、評価の高い企業を表彰するというものです。この調査は外部機関に一任しており、弊社の意図は一切入っておらず、報告を受けるまでどの企業が受賞したかもわかりません。特徴として、例えば景気が多少落ち着いた時期には財務体質のしっかりした企業が上位になるなど、その時世やマーケットの環境によって選ばれる企業が毎年変わります。つまりは求職者が重んじる項目も状況により毎年変化しているということです。求職者が求めていることに関するレポートも顧客に提供することで、地域に沿った人材サービスが提供可能になります。この地方におけるアワードの取り組みは可能な限り継続して実施していきたいと考えています。
今後、人材サービス全体ではどのような戦略を考えていますか。
人手不足に直面している日本の労働市場で、女性とシニアの活躍は不可欠です。企業は短時間で働きたい方、育児や家族の介護など制約を抱えてフルタイムで働けない方などをいかにリソースとして社内に取り入れるかを考える必要があります。その対応ができないと、2020年における同一労働同一賃金といった法改正や、東京オリンピックといった人材需要の増加する様々なイベントを控えるなかで、適切な人材リソースが確保できず機会損失につながる恐れもあります。必要なときに必要な人材を確保することは、企業にとって非常に大きな人事戦略となります。
正社員、契約社員、派遣社員など雇用形態は、求職者そして雇用主にとって大きな差がなくなりつつあります。求職者が求める働き方に合致するメニューを用意し、クライアントのニーズを開拓できるか。そう考えたとき、人々がライフステージと働き方をリンクさせながら活躍できる、新しい領域のサービス、新しい雇用の形を創出していく必要があります。クライアントや求職者と向かい合ったサービスを提供し続けることで人材派遣や、人材ビジネス業界全体への認識が改善し、人材業界に携わる方々にとっても今まで以上に充実感・使命感を感じていただけるようになると確信しています。