ものづくりの進化と、顧客ニーズの変化
人材会社が作るべき次世代のビジネスモデル

製造業に特化した人材サービスを行っている日総工産。AIやIoTの導入など、製造現場のデジタル変革が進む中、人材サービス企業が顧客から求められるニーズも変化している。日総工産の清水社長は、製造業の現在や今後をどのように見ているのか。変化に対応すべく行っている取り組みや戦略と併せて聞いた。

変化する業務内容と顧客ニーズ

最初に御社の事業概要について教えてください。

弊社は製造業に特化した人材派遣や業務請負、職業紹介を行っています。職種は主に設計・開発・組立・検査などのさまざまな工程に配属しており、特徴として「実務に即した教育・研修制度」があります。全国に9か所の教育訓練施設を持ち、一週間~二か月ほどかけて人材をトレーニングし、お客様先に配属しています。施設は二種類あり、一つ目が「テクニカルセンター」で、自動車や半導体の製造に関する汎用的な知識・技術を学べます。二つ目は「トレーニングセンター」で、大手クライアントのやや専門的な業務に合わせた研修を行っています。一部の施設では実際に製造現場で使う装置を用意しており、配属後にすぐに操作できるようにしているほか、メーカーのOBの方にカリキュラムづくりに協力いただいたり、安全管理やオペレーターがかかりがちな腱鞘炎を予防するストレッチなどを教えたりしています。実務的な教育をここまで行っている同業他社の数は少ないかと思われます。

教育・研修制度に力を入れているのは、どういった背景があるのでしょう

例えば、かつて派遣スタッフが担当する業務といえば、ベルトコンベア的な製造工程のライン作業が主流のイメージでしたが、近年は製造工程の自動化に伴い、製造装置に不具合が発生しないよう、メンテナンスを行うのも大事な役割になってきました。仕事内容がより複雑になり、技術的な要素や、装置の知識も必要になったのです。

業務プロセスと顧客ニーズが変化する中、必要な知識・技能がないと、生産性や品質に影響が出てしまいます。対応できる人材をいかに育成するか。その仕組みづくりが、これからの人材サービス業に求められる機能だと考え、教育に力を入れてきました。面接をした方に簡単な基礎教育をしてマッチングする、基本的なビジネスモデルから一歩踏み込んだ形です。教育への先行投資をした甲斐があって、現在は育成コストに見合った人的価値が相応のフィーをいただけるようになっています。

4月から大企業では同一労働同一賃金の関連法がスタートします。これまで、製造系の派遣社員は概ね有期雇用で処遇も固定的でした。ただ今後は、しっかりした人事制度を整備して優秀な人材をそろえられない人材会社は、生き残りが厳しくなるでしょう。

メーカーが量産をアウトソースする時代に

具体的にどのようなキャリアの例があるのでしょうか。

例えば、派遣スタッフとして働いた後、派遣先のメーカーに転籍する人もいます。弊社を介さずに応募すると、経歴やスキルが応募要項に見合わず、不採用になってしまう人でも、現場での活躍を評価されて派遣先の直接雇用社員になるケースがあります。これもキャリアパスのあり方の一つです。人材の流動化が進むこの時代、多様なキャリアの選択肢を追求し続けることが、派遣スタッフへの大きなメリットになります。

          

今後、製造業において、クライアントのニーズはどう変化していくでしょう。また、御社はどう対応していくのか教えてください。

メーカーが、自社で製造そのものを行うウェイトが低い時代になるのではないでしょうか。自社で研究開発や販売を行い、メーカーの社員が行っていたコアな製造領域も弊社など外部業者に任せるという、EMS(※1)やOEM(※2)に近い形になっていくと思います。また、弊社もメーカーの開発担当とやり取りしながら、メーカーの国内工場でお客様の設備を借りて量産体制を構築していく、という請負契約も行っています。

人材派遣の仕事は今後も需要がありますが、行く末の製造系人材ビジネスを極める形としてメーカーに続く「第二製造部」として、量産体制を引き受けられる組織を目指していきます。また、その先には海外展開も考えています。日本は就業人口が減っていくため、製造現場で外国人の労働力が必要です。その外国人たちを活用し、国内と同じ製造請負の仕組みを、ほかの国にも展開していく可能性もあると思います。

※1:受託生産  ※2:委託先商標による受託製造

企業をまたいでシニアが活躍できる仕組み

そのほか、これから行っていく取り組みについてお聞かせください。

メーカーで働く中高齢の方の活用をする仕組みを考えていきたいです。豊かな経験があり、もっと活躍の領域を拡げていきたい方を、弊社が雇用することで、企業をまたいでそのスキルや経験を発揮することができます。例えば中規模の企業で監督者になるなど、さまざまな価値創出が行えるでしょう。  弊社は2020年1月、(株)ニコンの子会社である(株)ニコンスタッフサービスと、合弁会社を設立しました。スマートフォンのカメラが高性能化し、デジタルカメラの市場構造も大きく変化しました。ニコンで活躍していた人は、応用分野が広い光学技術を持っているため、他の産業領域でも十分に活躍できる。そういった人を再配置したい、という思いが発足の趣旨にあったため、提携にいたったのです。キーワードは「キャリアチェンジ」。持っている技術を少し加工し、新しい技術としてアウトプットできれば、キャリアが広がり、成果に見合う処遇が期待されます。また、高い技術を持った中高齢の方を弊社がトレーナーとして育成し、指導層が薄い中小メーカーの社員に教育・研修を行うなど、人材育成の仕組みを外部に提供していきます。

テクノロジーにより製造業が進化する中、最先端の技術やノウハウをどう取り入れているのですか。

製造現場は、スマート工場や、モノづくりの見える化など、日々進化しています。そういったソリューションを、人材とともに提案できるよう、同業の中にはAIのベンチャーなどに出資する例も聞いています。この業界では今後も、人材業界では持ちえない技術を持つ企業には積極的に投資をし、ノウハウを得ていく傾向があるのではないでしょうか。

外国人を適正な処遇で活用していく

製造業も人手不足は深刻ですが、どのように対応していくのでしょう。

製造現場で働く人材は圧倒的に少ない、という前提でものづくりをしないといけません。先にお話ししたように、テクノロジーに投資をし、製造工程の効率化を進めています。すると、かつてライン作業で流れ作業をしていた人が製造装置のオペレーターへキャリアチェンジを遂げて、更にその人々が今度は、AIやロボを動かしながら、新しい時代の生産技術とマネジメントを学んでいくのです。そういった人材は今後、外部労働力でも必要になるため、弊社で育成していきます。

日本の教育では、新しい時代に必要な理系のカリキュラムのある大学が少ないように思えます。例えばインドの優秀な大学生には、電子やAIなどの分野では日本人より秀でたものがあります。これからは私たちも、アジアを中心とした外国人人材を活用しないといけない。当然、能力・実績に応じた外国人人材への適正な処遇も必要ですし、そういった環境を整備しないと、他の国に行ってしまうかもしれません。日本では確保が難しいスキルを持った外国人に対しては、今までの日本の人事制度も見直す必要もあります。

また製造系作業で働くのに少し距離を感じていた女性の中でも、即戦力になる人はたくさんいます。製造現場の変化によって、個人の体力差に関係なく各々が活躍できる環境になってきています。実際、保全業務であれば特段体力が必要な仕事でもないので、女性でも十分に活躍できます。弊社でも現在、2割が女性ですが、さらに活躍してもらえるような仕組みを作らないといけません。

最後に、御社の今後のビジョンについて教えてください。

人材サービスは、顧客のニーズに、必要な人材をマッチングする基本フレームが存在します。例えば製造業の派遣では、従前の「期間社員的な顧客ニーズ」と「これからの労働市場の実態」とがやや離れている気がします。そこを補正すべく、弊社は人材の育成や、チーム全体での改善活動などを行っています。この領域をさらに強化するため、外部企業とのアライアンスや、新しい仕組み作りへの投資に本腰を入れていきます。その先には、培った教育・研修やマッチング、現場のマネジメントなどのノウハウを、新たな分野でも展開していきます。