“目の前の候補者のことを考える”をただ全力で
ハイスコアを生み出す気遣い、言葉遣い

未経験からキャリアアドバイザー(CA)に転身し、わずか1年ほどでトップコンサルタントに上り詰めた女性がいる。彼女はその後も躍進を続け、今やパソナ社の戦略の最先端を担う存在となった。どのような心構えや取り組みが、成果につながっているのだろうか。また、彼女をさらに成長させた勉強会UCBの効果は。終始明るい笑顔と等身大の姿勢で、トップコンサルタントが語った。

友達のようなCAを目指した

月間MVP、全社売上2位、平均目標達成率120%超……。これらは小川が達成した記録の一部である。それも未経験からCAになり、わずか1年ほどの短期間で。パソナに在籍する約400名のコンサルタントの中で、わずか15名ほどしかいない、売り上げやNPSなどをもとに認定されるエキスパート社員でもある。

「前職も営業をしていたのですが、今はまったくスタイルが違います。数字を追うことは同じでも、“目の前の候補者のために”と考えて動けるようになりました。これは、人材サービス業界に転職したからです」

小川は明るい笑顔でそう話す。前職はエンタメ総合商社での法人営業。新卒で入社し、4年ほど働くうちに、営業としての意味を見出せなくなる。売れるかどうかは商品の良し悪しが大きく、営業の役割は値引き交渉が主と感じたからだった。キャリアプランの相談をしようとパソナに登録し、面談を受けたところ、CAから「人が好きならこの業界が向いている」と同社に誘われ、2016年4月に入社した。それから約5年間、CAとして、管理系のエグゼクティブ人材を中心に転職サポートを行っている。

では、小川はどのようにトップコンサルタントに成長していったのか。まず意識したのは、「友達のようなCAになること」だと明かす。

「業界や職種のことは候補者の方が詳しいので、私は面談で十分に話を聞いて、『パソナに来てよかったな』と思われるアドバイザーを意識しました。そのために、大事にしていたのは距離感です。例えば、連絡はメールよりも電話。メールの場合でも早くレスポンスするために、一時間に一回はメールチェック。後はできるだけ会う回数を多くします。候補者が面接対策など、私に会う以外の用事で来社されていても、挨拶だけでもするように。私がサポートをする候補者で、会ったことがない方を少なくしようと心がけていました」

売上げもNPSも目標達成率も高い秘訣

とはいえ、アドバイザーであるからには、厳しい意見を言わないといけないことも。その際も、小川は細心の気配りを怠らない。具体的には、初回の面談では関係性ができていないため、意見は控えめにし、代わりに意識して雑談をする。その内容をメモし、二度目以降のやり取りで会話に盛り込むと、相手との距離が縮まりやすいという。

「毎週決まった曜日に、ジムに通っている方がいたとします。その曜日に連絡を取ったら、『今日はジムですか?』と一言伝えると、覚えていたことを喜んでくれる。すると、言いたいことをストレートに伝えても、相手に不快に思われにくくなるんです」

このような気配りを、さりげなく散りばめているのが小川のスタイルだ。

「転職活動って、書類選考や面接で落ちる度にめげてしまいますよね。なので、候補者がへこんでいるときは、いいところを見つけてほめるようにしています。こういうところがいいですよね、この経験ってすごいです、とか。後は、私が候補者を動かすのではなく、本人が動きたくなるように、言い方に気を付けています。『応募しないとダメ』『落ちますよ』ではなく、『あなたの経験はこの会社で生かせますよ』という風に」

実際に小川と面談をした候補者からは、前向きな気持ちになれたという声が多く寄せられているそう。売り上げだけでなく、NPSスコアも非常に高い。

目標達成率が平均120%の秘訣についてはどうだろう。小川はKPIの最も重要な指標である、面談数や推薦獲得数をまず設定する。そして好調だった月のプロセスを振り返り、KPIに落とし込んでいると明かす。達成が難しそうな月は、気持ちを切り替え、翌月以降に目を向けるのも小川流だ。

「目標の面談数は確実にこなしますが、お会いした全ての方が転職に向けて動いてくれるとは限りません。そこを、無理やりクロージングに持っていきたくない。であれば、無理なものは無理だと切り替え、マイナスを取り返すには来月どれくらい決めればいいか、を考えていきます」

小川が担当するエグゼクティブ層は、面接が2回以上あることが当たり前だ。成約まで時間がかかるため、月の半ばになると、当月の目標が標達成するかどうか、が予測できる。その結果を踏まえた上で、翌月はすでにお会いした候補者、これからお会いする候補者、それぞれ何名決めればいいか、と組み立てていくという。

UCB後にMVPへ返り咲き

こういった取り組みが成果につながり、トップコンサルタントへと成長した小川。だが、さらに飛躍させる転機があった。UCB(アルティメットコンサルティングバトル)という、ロールプレイング形式の勉強会との出会いだ。CAとしての自分なりのスキームは固まりつつあったが、マネージャーの勧めを受けて、新たなチャレンジだと思い参加した。

UCBでは、「意向と性質を柱とするコンサルティング術」を指導している。実際に行ってみた小川は、その難しさに直面することに。

「意向と性質、と聞くと簡単に思えます。けれどやってみると、時間が決められている中で、求職者の意向と性質を聞きだすのが難しい。これはまずい! と思って練習しました」

同僚とロープレをしたり、実際の面談でも意識して意向と性質をヒアリングしたりと、UCBに合わせたトレーニングを積んでいった。そしていざ本番。審査員たちが見守る中、キャンディデイト役の人と実際に面接をし、フィードバックを受けていく。その中で、確実に変化が生まれていったと小川は振り返る。

「これまでは、候補者にどういうキャリアパスを描きたいかを聞いて、それに合わせた求人を紹介していました。UCBに参加してからは、性質を知るために、生い立ちや学生時代、一社目を決めた理由などを聞くようになりました。マッチングも、面談時の印象で感じた人柄をもとにするのではなく、きちんと性質に基づいて行えるようになりましたね」 実はUCBの参加前、売り上げ数字が少し落ちた時期があった。だが、参加後は再びMVPに返り咲いたのだと、小川は笑顔を見せる。

ヒアリング内容を変えたことで、新たな気づきもあった。候補者がよく口にする言葉や言い回しを使うと、刺さることが多い。例えば、「ガツガツ働きたい」という方に、「ここはガツガツ数字を追っている会社ですよ」と紹介すると、反応がよい。そう気づいてから小川は、候補者の言い回しをメモし、意識的に使うようになったという。

パソナを最先端でけん引する存在に

なかなか決まらなかった案件が成約に至ったこともあった。候補者は40代の女性で、子育て中のため時短勤務希望、ブランクが4年ある。書類通過もなかなか難しい状況だった。そこで小川が考えたのは、その方に「どう付加価値をつけるか?」ということ。

「キャリア軸だけでなく、家庭環境という軸もフォローできればと考えました。これまでは推薦状に、『子どものお迎えのため18時30分までの時短希望』という風に記載するだけでした。それを、『旦那様がフレックス勤務のため、18時30分以降になる場合はお迎えをしてくれる』『最長20時まで延長保育が可能』『そもそも4年間ブランクがある理由』などを明確に書いたところ、成約になったんです」

人事として入社が決まったその方は、小川に絶大な信頼を寄せ、自身の所属する人事部で求人がある度にオーダーをしてくれるのだと、笑顔で話した。

小川が担当している管理系のエグゼクティブ層は、パソナとしても特に注力している領域だ。景気に大きく左右されづらく、人材の流動化も進んでいくと予想される。また、人材紹介の介在価値をより発揮できるためでもある。現在ユニットリーダーとして、3名のコンサルタントを率いている小川。まさに同社の戦略の最先端を担っている存在なのだ。

「年収の高い方はもちろん、社長やCXOの動きも変わってくると思います。それに対応できるチームができればいいですね。そのためにも、もっと管理系分野の専門性を身につけていきたいです」

そして、ゆくゆくはマネージャーを目指したい、と小川は意欲を見せる。マネジメント業務をしたいからではなく、管理者の立場として、全員で目標達成できるチームを作りたいからだ。プレイヤーだった頃は、根性論で目標達成をしたこともあった。けれど、そのやり方をメンバーに押し付けるのではなく、楽しく働きながら目標達成できる組織を目指したいと小川は笑顔で言う。

キャリアを模索していた頃、たまたま出会った人材ビジネス業界で花開き、トップコンサルタントへ上り詰めた小川。今後も候補者と向き合いながら、後輩のコンサルタントの育成や、組織作りという役割も担っていく。“トップマネージャー”となる日も遠くないのだろう。