徹底した仕組化と現場主義で
満足度を最大化
人材派遣の中でも、軽作業・短期に特化したエントリー社。これまでにない画期的な取り組みの数々で、派遣スタッフやクライアント、自社社員の満足度を高め、拠点拡大を行ってきた。そんな同社は、派遣領域はもちろん、それ以外でも壮大なビジョンを描く。事業拠点も国内にとどまらない。これから目指していくことを、代表の寺本潤氏に聞いた。
フィールドディレクターが現場を活性
御社の派遣事業について教えてください。
短期・単発に特化した人材派遣サービスを行っています。登録者の約7割が学生で、業務領域は物流倉庫での軽作業などが中心です。
特徴はいくつかあり、一つ目は当社スマホアプリから24時間365日、いつでもどこでもWEB登録が可能なこと。登録後は青森県にある登録受付センターで、WEBカメラで面談を行います。面接なし・登録なしの派遣会社も他にはありますが、登録者をお客様先に派遣するのに適切かを確認するため、必ず面談を行っています。登録説明会はWEBだけでなく、各支店でも開催しています。
二つ目は、社名を伏せた上で、全ての求人情報を開示していること。派遣会社は通常、登録スタッフの希望や条件に合った求人情報を紹介していきます。以前、弊社も同じオペレーションを行っていましたが、社員の残業時間が多く月70時間になることも。そこで、登録スタッフが自分で仕事を探せるように、仕組みを変えたのです。社員の平均残業時間は月18時間に減り、離職率も大幅に下がりました。
かなり画期的な取り組みだと感じました。他にはどのような特徴があるのでしょう。
特徴的なものとして二つあります。一つ目はフィールドディレクターという制度です。10~20人が派遣される大型現場における登録スタッフのサポート役として弊社社員が一緒に働くというものです。狙いは大きく二つ。まずはクライアントからの継続的な案件依頼につなげることです。派遣先の担当者は、業務内容をフィールドディレクターに伝えれば、登録スタッフに適切な指示を出してくれるため、時間と労力の面で大きなメリットがあります。他の派遣会社ではこういったサービスを行っていないこともあり、それが弊社に対するクライアントの満足度を高めています。もう一つは、スタッフの継続勤務率の向上です。スタッフも分からないことがあれば、気軽にフィールドディレクターに確認することができます。また休憩時間に、「今の仕事はどう?」とコミュニケーションをとることでスタッフが気持ちよく安心して働ける環境づくりにも一役かっています。
特徴的な取り組みの二つ目としては派遣スタッフが業務を終えた後、対象銀行のATMで曜日や時間帯を気にすることなく、2時間以内に全額給料を送金するシステムを作り上げたことです。登録スタッフが当社で働くことの大きな目的の一つとしてある「給与を出来るだけ早く受け取りたい」という望みを実現できたことです。2017年末にこの制度をスタートしてから、登録スタッフ数が一気に増えましたね。
日本語学校に通う留学生の短期派遣も
売り上げの構造は、基本的に短期派遣事業が中心なのですか。
はい。クライアントから、人材紹介をしてほしい、と依頼されたときのために、紹介免許は取得しています。ただ、売り上げの中心は派遣事業です。日本人だけでなく、留学生支援事業として、日本語学校に通う外国人留学生の短期派遣も行っています。国籍は中国人とベトナム人を中心に、カンボジア人、韓国人、マレーシア人、ネパール人、ミャンマー人などがいます。約3年前に事業を始め、中国人は1万6000人、ベトナム人は1万2000人が登録しています。彼らをフォローする制度として、大卒以上で日本語能力試験がN2以上の外国人社員に、フィールドディレクターとして現場のサポートをしてもらっています。
クライアントの満足度を高める付加価値を
派遣スタッフの集客はどのように行っているのですか。
マイナビ、リクナビ、ディップなどのWEBメディアに求人を出し、そこを経由して応募してもらっています。また、スマホアプリや自社サイトからも集客しています。
派遣スタッフの満足度やモチベーションを上げるための取り組みを教えてください。
「エントリーチップ」というものをお客様に配っています。それを「今日のMVP」として、最も活躍したスタッフに渡してもらいます。3枚貯めると500円を支給。5枚貯めると、時給が50円上がるというものです。
また毎年6月に「エントリーズ大感謝祭」を開催しています。「当社に関わる皆さんに直接的に感謝を伝えたい」との思いから始まった催しです。登録スタッフも参加することができ、ほかに当社アルバイトや内定者、クライアントや取引銀行の担当者などをご招待しています。会場は品川ザ・グランドホールで開催され、セミナーやレクリエーションを織り混ぜた和気あいあいとしたイベントです。
利益拡大のためには、どのようなことをされているのでしょう。
求人掲載のプライオリティサービスとして、追加料金をお支払いいただくことで、求人の上位に固定表示を行っています。コミットメントサービスというものもあり、一定の金額をいただくことで、必ず希望する人数を派遣しています。
法改正に伴う賃金上昇にどう理解をえるか?
同一労働同一賃金などの法改正には、どのように対応していますか。
顧問社労士を置き、法改正に関する情報収集及びその対応はタイムリーに行っています。ただ今回の法改正の影響で、利益率はある程度下がる見通しとしています。特に地方では、元々の賃金が低い分、値上げが厳しいと感じている企業も多くあります。苦労しているのは、同法改正による値上げをクライアントに納得して頂くこと。時給が低いということはスタッフにとって魅力度が下がってしまうという背景も丁寧に説明しながら、クライアント企業の理解を得る努力をしています。また併せて私からの手紙を添える取り組みなどもしています。
現在の拠点数と、社員の人数を教えてください。
現在、全国に33拠点あります。社員は約220名で、契約社員やアルバイト、コーディネーターを合わせると約420名です。新卒採用が多く、平均年齢も28歳と非常に勢いのある組織です。
全ての求人情報を開示することで、社員の負担を軽減し残業時間を削減したとのことですが、そのほかに社員の定着率を高める工夫はされていますか。
新入社員のご両親を訪ねる家庭訪問を行っています。彼らの小さい頃の話を伺うと、思い入れがより深くなり、距離感も近くなります。また、ご両親にしか話せない会社への不満などもそっと聞くことで、より社員一人一人を理解し、またご両親にも当社を理解して頂く機会にもなります。
また、新入社員は、入社式が終わった後、山奥の合宿施設で、4泊5日の研修をします。9時から18時まで携帯にも一切触れず、全員が一つの部屋に泊まり、掃除も自分たちで行います。すると同期の絆も強まり、相手を思いやる気持ちや配慮する豊かさが備えられると実感しています。
ほかには、社員同士で感謝したい人にありがとうと伝えるカードを送る仕組みを作ったり、全社員でFacebookグループを作り、日報を共有したりしています。内容はその日の目標や達成率、その日の業務内容などさまざま。「今日のMVP」も設けています。また私も、グループを活用して毎朝全社員に向けたメッセージを書いています。またクリスマスやお正月などにはケーキやおせちを社員にプレゼントしたりしています。
私は仕組化だけでなくデジタルとアナログの両輪で人と人の繋がりも大切にしたいと考えて実践しています。
国内・海外でそれぞれ描くビジョン
今後のビジョンについて教えてください。
2020年からの5カ年計画として、軽作業派遣の中でも、派遣分野を飲食や小売にも広げていきます。この領域で、短期に特化した競合他社はあまりないので、新しい試みになりチャンスがあると思っています。また、これまでの約70万人の登録スタッフのデータベースを活用していきたいと思います。例えば、コンビニAでアルバイト歴のあるスタッフを、一日限定でそのコンビニに派遣すれば、マニュアルを理解しているのですぐ活躍できる。サービス業は人手不足が続いているため多くの需要があると考えています。また、国内の拠点も100にまで拡大していきます。派遣先の事業分野と、活動拠点を広げる二本柱ですね。その先は、農業とロボット事業にも参入を考えています。また今年は海外事業を始める準備もしています。
海外事業の詳細についてもお聞かせください。
2020年9月を目途にハノイに拠点を出します。そこでやりたいことは大きく三つあります。 一つ目は、ベトナム人を対象とした日系企業への人材紹介事業の展開。日本語学校に通う学生は、2年で国に戻らないといけません。そこで、弊社が現地の日系企業に紹介をするのです。弊社は2年前から、ベトナム国家大学ハノイ校、ベトナム貿易大学の学生を3人ずつインターン生として当社に迎え入れています。日本語ができ日本文化も理解しているその学生たちに、帰国後、ベトナムでの人材紹介事業を担当してもらう予定でいます。
二つ目は、ベトナムにある日系の物流企業などへ日本と同じ短期人材派遣ビジネスの展開。当社の目指す人材ビジネスは今後、カンボジアやミャンマー・インド・そしてナイジェリア・南アフリカまで広げていく予定です。
三つ目は、シェアリングエコノミーの展開。具体的には家具の組み立てやグッズ購入の並び代行などです。日本人は慎重ですから知らない者をプライベートな空間に入れたがらない、他方、海外の方は早く普及するのではないかと考えています。まずはベトナムより始めインドネシア・タイ・シンガポール・マレーシア・ミャンマーなどでの展開を目指していきます。
このような当社の海外展開の大きな目的は、その国の格差社会の是正です。ベトナムにも短期人材派遣はありますが、企業側が支払った給料に中間手数料などが多く発生することにより、働いたスタッフは2~3割しか収入が得られない実態があります。そこで我々が日本で作り上げてきた「働く仕組み」を展開し、彼らが正当な対価を得られるようにしていきたいのです。