転換期にある派遣業界。
自分らしい働き方を実現できるサービスを

新型コロナによる企業やスタッフのニーズはどう変化したのか。その兆しをいち早くとらえてサービスに反映しているのが、(株)リクルートスタッフィングだ。同時に、生活様式やサービスの形が変わっても、普遍的な「人と人が働くこと」を大事にし、派遣会社としての介在価値を高めることも忘れない。具体的な取り組みや、これから目指す事業のあり方について聞いた。

テレワーク派遣、登録~応募までのオンライン化を加速

新型コロナウイルスの影響を受けて、派遣スタッフ・クライアントからのニーズはどう変化していますか?

緊急事態宣言後にテレワークを導入する企業が増え、スタッフも自宅で働きたいというニーズが高まりました。4~5月のピーク時には2万5000名程のスタッフがテレワークを経験。これは弊社就業スタッフの約半数です。2020年11月時点でも、1万5000人以上がテレワークを取り入れて働いています。弊社は2020年1月にリクルートが開催した「トレンド予測」において、『出勤オフ派遣』というキーワードで、派遣スタッフのテレワークが増加することを発表していましたが、不本意ではあるもののコロナで一気に進みました。実際、スタッフの約9割、企業の約8割が、コロナをきっかけに初めてテレワークを実施しています。ただ、クライアントのニーズがどのくらいあるか、コロナが収束してもこのトレンドが継続するのか、などまだ見通しを持ちづらい部分もあるため、状況を見極めながらテレワーク派遣をより拡大するかどうか検討していきます。

新規求人数は、前年から大幅に減った時期もありました。今は徐々に復活していますが、前年と比較すると当時の水準には達しておらず、まだ厳しいのが現状です。一方、登録者は、昨年と変わらず増加傾向で、一案件あたりの応募数も増えています。

御社が提供するサービスの形や内容も、ウィズコロナの働き方や生活様式に合わせて変更しているのでしょうか?

はい。弊社はコロナ感染拡大前からスタッフの方が仕事を見つけるフローにおいて、心地よいカスタマー体験をつくれるようにオンライン化の取組みを進めてきましたが、その動きをさらに強めています。今では、新規スタッフの登録から面談、エントリー、応募中の案件に関する進捗確認まで、一貫してオンラインで行えるよう仕組みを整えました。具体的には、これまで対面でしか行っていなかった登録時の面談サービスを、「オンラインコンシェルジュ」として提供。また、登録スタッフが、給与明細や源泉徴収の手配方法などの疑問を気軽に相談できるよう、チャットボットを設置しました。オンラインセミナーや、オウンドメディア「らしさオンライン」にて、動画で学べるコンテンツの配信も行っています。オンライン化を進めた結果、若年層からの反響が増えるなどの新たな発見もありました。

クライアントとのやり取りにおいても、オンライン化を進めています。ただ派遣契約は煩雑な内容も多いため、まだ直接お会いして対応するケースも多い。オンラインツールの質をより高め、オンライン化を促進していきたいと思っています。

「関係性の質を上げる」ことが介在価値

派遣事業で、これから強化していく取り組みを教えてください。

オンライン化が進んでも、人と人が一緒に働くこと自体は変わりません。スタッフと派遣先の関係の質を上げるために、私たちが介在できることは何か? それを一つの優位性としてサービス化するため、弊社では4年前から、営業担当がスタッフと「就業ふりかえり面談」を行っています。この取り組みを始めた背景としては、スタッフと派遣先の思いに、すれ違いが生まれることがあるからです。スタッフは「こういう仕事にもチャレンジしたい」、派遣先は「こういう仕事を任せてもいいのかな」とお互いが考えているのに、気遣いゆえにうまく伝わらず、「仕事を任せてもらえない」「言わないと動いてくれない」と間違って伝わってしまうことも。そこで面談では、担当業務を振り返りつつ、「派遣先で今後どうなりたいか」「将来どのようなキャリアを歩みたいか」など、長期的な視点でスタッフの希望をヒアリングします。それを派遣先にも共有した上で、スタッフへ「派遣先はあなたのこういった部分を評価している」「こういうことにもトライしてほしい」など派遣先から頂いたフィードバックを行い、すれ違いのないコミュニケーションの支援や成長機会の創出を行っています。

就業ふりかえり面談を行うようになってから、スタッフの満足度はどのように変化しましたか。

定期調査の結果によると、スタッフの満足度は上がっています。有期契約で就業するスタッフは、次の契約更新をしてもらえるか、という不安も抱えています。そのため、スキルアップや待遇改善など目に見える成長はもちろんですが、「安心感」がひとつのキーワードになっています。体系的な評価制度や昇給は、派遣に合わないのでは?というご意見をいただくこともありますが、弊社はスタッフが求めていることと、現実のギャップをいかに埋めるか、を大事にして取り組んでいます。実際、弊社が介在することで、「時給が上がった」「正社員で働けるようになった」など、希望を実現できた実績もあります。

具体的に、派遣スタッフの希望するキャリアを実現した事例を教えてください。

販売職をしていた20代の女性は、結婚を控えてライフスタイルを見直された際に、土日勤務という時間的な制約や、体力的な面を考慮し、「事務職に転職したい」と希望をされました。そこで、事務未経験の方向けの無期雇用派遣サービス「キャリアウィンク」を活用し、キャリアチェンジを目指され、事務経験を積みながら希望のライフスタイルを実現されています。

また「ZIP WORK」は、経理や広報、マーケティングなど専門職としてキャリアを積んできた方が、その専門性を活かしながら、育児や介護、副業などと両立して、時短で働けるサービスです。このサービスを使って、「育児と介護をしながら、週3日だけ働きたい」というスタッフの方の希望を実現したこともあります。ほかにも、ITエンジニア・WEBクリエイター向けの在宅派遣サービスも提供しています。今後もこういった取り組みを通じ、派遣スタッフの望むキャリア形成を支援することはもちろん、その方が大切にしていることをしっかりと把握しながら、自分らしく働ける社会を実現していきたいと考えています。

事業成長に必要な指標と経営戦略

派遣事業ではどのようなKPIを設定していますか?

弊社の経営理念は、「就業機会の創出によって、社会に貢献する」です。新たな就業機会に必要なクライアントからの派遣依頼数や紹介実績、またクライアントの再利用意向、派遣スタッフの再就業意向も重要なKPIとしており、NPSサーベイを定期的に実施しています。

また、弊社では組織をユニットという子集団に分け、一つのユニットを小さな会社と見立て権限委譲する、「ユニット経営」を行っています。ユニット長が年次・月次の売上・営業利益の目標を設定するのですが、その達成に必要なKPI目標に加え、ユニットごとに独自の戦略KPIを設定しています。ポイントは、マーケットの見立てと意思決定スピード。マーケットに即した戦略を立案し、ユニット長がスピーディに判断してPDCAを回しています。定期的に行う経営会議では、ユニットごとにマーケットの見立てや戦略方針を発表してもらい、振り返りの中で、ベストプラクティスや失敗例を共有して学びあっています。

戦略や施策で、大事にしていることを教えてください。

当たり前ですが、派遣スタッフのための施策なのか、派遣先のための施策なのかというポイントはとても大事にしています。派遣事業を営む上で絶対に忘れてはならないのは、どんな時でも派遣スタッフの給与支給を止めてはいけないこと。そのために、ユニットには、常に営業利益率を意識し、生産性を改善することを求めています。ただし、いかに社内の生産性が上がる取り組みだとしても、派遣スタッフや派遣先にしわ寄せが行く仕組みになっていないのかは、厳しく見ています。例えば、オンラインやテクノロジーの導入は、対面によるサービスよりも、顧客のセルフサービスが伴う企画がどうしても多くなる傾向があります。それは弊社が楽になるだけではないか? 本当に顧客に支持されるサービスになるのか?という問いかけは常に意識しています。

生産性を改善するために、何が有効だと考えていますか?

適正なコストコントロールとROI(投資利益率)です。新しい取り組みに投資をするとき、その費用をねん出するためには、全体のコストコントロールが必要になります。投資しないと拡大できない事業と、投資しなくても売上が保てる事業を見極め、必要な事業に必要な投資額を用意できるか、がポイントです。

また、従業員の働く環境も重要なポイントだと、奇しくもコロナの影響で再認識しました。4月の緊急事態宣言後、弊社ではほぼすべての社員に在宅勤務をお願いしました。出社しなくては業務ができない部署や業務はもちろんゼロではありませんでしたが、例えば私の担当している部署では、現在でも約8割のメンバーがフル在宅勤務を続けています。当初はコミュニケーションの取り方など慣れない部分もありましたが、緊急事態宣言解除後も、部長たちと意思をもってリモートワークを継続することを決め、工夫を重ねてきました。あきらめていた部署のキックオフもオンラインで開催し、リアルイベントではなかなか参加できなかった時短勤務の社員も参加できたことで、これまで以上に組織理解が深まったという声も聞いています。

最後に、派遣市場はこれからどう変化していくか、考えをお聞かせください。

派遣ビジネスは転換期にあります。事業者側が、自社のことだけでなく、マーケット全体のことを考えていかなくてはいけません。マッチする仕事を紹介するだけの業態では、様々なサービスが出てくる中、私たちの存在価値にはなりません。自分らしい働き方を実現できる社会を目指して、一人ひとりのライフスタイルやニーズに、よりフレキシブルに応えられる派遣サービスを目指していきます。