コロナがもたらした派遣業界への影響と、
新しいワークスタイルで生産性を上げるという使命
人材派遣領域において、国内最大級の規模を誇るパーソルテンプスタッフ(株)。新型コロナが派遣業界に与えた影響や、今後の見通しを、同社代表の和田氏はどのように見ているのか。また、働き方が変化し、業務のあり方が見直されるなか、これから派遣会社が求められる価値とは。同社の取り組みや戦略と併せて聞いた。
販売職以外は大きな影響が出ていない
新型コロナの影響によって、求人や求職者にどのような変化が生じていますか?
3月以降、派遣の案件数は大幅に減少し、例年の半分程度(2020年7月時点)で推移しています。求人企業に状況を聞くと、いつコロナが収束するのか見えないため、採用に向けて動きづらく、今は様子を見ている状態という回答が多くありました。
人材派遣は、新しく稼働する方に加え、すでに稼働している方の契約更新もあります。この4月から同一労働同一賃金がスタートし、派遣スタッフの条件が変更されたため、4月から新しく契約を結びなおした派遣契約が大多数。ですので、4月を基準に区切りとなる3~6ヶ月単位で、大きく状況が動いていくと思います。
直近の4~6月の更新状況はいかがでしょう?
コロナ影響を受けた店舗の販売職などは、終了が目立っています。ただ弊社は事務職が多いので、全体では大きく影響を受けておらず、想定以上に堅調に推移しており、6月末の契約終了率は昨年を下回っているほどです。また、新規登録の面談やキャリア相談などを来社からWEBメインに切り替えたこともあり利便性が上がり、新規の登録者数は順調に推移しています。
派遣業界全体を見ても、派遣先企業が派遣スタッフの雇用をきちんと考えてくださっていることが多く、今のところ大きな変動はない印象です。
年末にかけてはどう影響が表れると見ていますか?
まったく影響がない、ということはないと思います。コロナがいつ収束するのか、経営にどのくらいのダメージを与えるのかが見えづらいため、企業はいつ、どのような人員配置をすればいいのか、予測しづらい。派遣会社としても現時点では提案が難しいので、もう少し様子を見ないと分からないのが正直なところです。
派遣スタッフの在宅勤務の生産性を上げる
御社では、テレワーク導入支援サービス「うちワーク」や法人向け在宅派遣サービス「りもーとテンプ」など、コロナに対応した独自サービスも提供しています。詳細を教えてください。
弊社の強みは、クライアント企業の業務内容を分析し、アウトソーシング含め再構築していけることです。「うちワーク」では、テレワーク可能な業務の抽出から業務フローの整理、承認経路や方法の確認、業務プロセスにおけるボトルネックの洗い出しなどをお客様とともに行います。また、課題解決に必要な仕組みの構築、最適なシステムのご提案、外部リソースの活用に関するアドバイスをして、クライアント企業のテレワーク導入を支援します。
8月から「りもーとテンプ」という、法人向け在宅派遣サービスも始めました。派遣スタッフの在宅勤務も広まりつつありますが、就業管理の不安や仕組みやインフラの整備など派遣先の課題も明らかになっています。「りもーとテンプ」はさまざまなツールの組み合わせにより派遣スタッフの就業管理や環境整備のサポートなどを行い、リモートワークにおける不便さを解消できるサービスです。
「うちワーク」「りもーとテンプ」などのサービスを通じ、実現したいのはどのようなことでしょう。
多くの企業は、社員や派遣スタッフが在宅勤務になっても、出社時と同等以上の作業効率やアウトプットを出してほしい、という要望があります。そこに少しでも近づけ、コロナが収束した後にも企業が求める勤務形態を選択できるよう、在宅勤務でも高い生産性の担保を支援したい思いがあります。また、派遣スタッフが社員とそん色ないアウトプットを出せれば、より派遣の活用が進み、報酬も上がっていくでしょう。そのための評価ツールも用意し、派遣スタッフの働きに対して定期的にフィードバックを行っています。そうすることで、企業には生産性を担保した多様なチームができ、派遣スタッフのパフォーマンスが上がり、より企業の成長につながると考えています。
加速する働き方や業務の見直し
御社はBPO事業も行っています。コロナの影響で、BPOへのニーズは高まっているのでしょうか。
在宅勤務など働き方の変化だけでなく、業務の見直しへの意識が高まっていたところ、コロナで一気に加速したという認識です。また同一労働同一賃金の影響で、研修を充実させたり交通費の支給が開始され、派遣スタッフを活用するコストが上がっています。その分のパフォーマンスをいかに上げるか、もテーマです。業務そのものを見直して、例えば10人でしていたことを、8人でできるようになれば、コスト増の部分は補えます。そのための手段のひとつがBPOなのです。
弊社には、業務の見直しや再設計ができる、BPO専門のコンサルタントが15名います。このコンサルタントたちが、企業が業務を在宅に移管する過程で、どの部分を切り出すかを可視化していきます。そして機械でできること、人にしかできないことを整理し、AIやRPAを入れたり、Excelのマクロを組み合わせたりすることで、人数の削減につなげるのです。削減した人員は、企画や経営に近い業務にスライドすれば、成長戦略を実現できます。将来的には、企業の業務の8割を弊社が担い、残り2割の企画・経営の領域を自社で行うような世界を目指しています。
働き方の見直しの一環で、RPAのニーズも高まっています。御社ではどのような取り組みを行っているのか教えてください。
弊社ではグループ一体となりRPAの推進も積極的に行っています。取り組みのひとつは、「RPAアソシエイツ」という派遣スタッフ向けサービスです。一ヶ月ほどの研修で、RPAのツールの基礎から業務設計まで学んでもらい、その後はRPAオペレーターとして就業するというもの。研修は有償ですが、時給は大抵数百円上がっています。グループ会社のパーソルプロセス&テクノロジー(株)は、代理店として複数のRPAツールを販売しています。製品ごとの特長も熟知し、業務内容に応じた提案もできるRPAのプロたち。そこの担当者が、研修の講師を行い、就業後、実務において悩んだり迷った派遣スタッフのサポートも行っています。
このサービスの背景として、事務業務を担う派遣スタッフは業務の流れを把握しているケースが多く、RPAを導入する業務とその前後の業務を含め、最適な形を作り出すことが可能だと考えています。「どのデータがどこに流れ、どことつながるか、どう使われるか」を熟知していると懸念すべきポイントも分かるので、RPAオペレーターに最適なのです。新たなスキルの習得により、派遣スタッフのスキルアップを応援したいという思いも、背景にあります。
派遣会社に求められるこれからの時代の価値
派遣やBPO事業拡大のために、組織として行っていることはありますか。
派遣スタッフを含めた個人からいかに支持いただけるかを、「ファン指標」と定義し、高めることにチャレンジしています。具体的には、派遣スタッフの思いや我々に求めることなど、忌憚ない声を定期的にヒアリングし、積極的に改善しています。また、働く意欲があり、努力もしていける方には、すべからく働く場所と機会を提供していきたいと考えています。例えば、一日5時間しか働けない方、子育てや介護と両立したい方など、一人ひとりに合った仕事や働き方を提供するのが我々の使命です。そこで企業と交渉し、制限があっても高いパフォーマンスを出せるよう支援して、最適な就業機会を提供し続けていきます。実際に、BPO領域では、プロジェクトに従事しているメンバーの約3割が時短などのパートタイム勤務。それでも高い生産性を出しているので、クライアントに自信を持って提案できています。
そのほか、派遣スタッフがやりがいを持って働けて、派遣先から期待される労働環境、働きに対し適切な評価がされ、見合った報酬を得られることなど、総合的に支援しています。仮に派遣先の都合で契約が終了しても、「またパーソルテンプスタッフで仕事をしたい」と、就業し続けてもらえることを目指しています。
最後に今後の取り組みについて教えてください。
働き方や業務内容の見直しなど、企業が進んでいく流れは変わりませんが、そのスピードは確かに早くなっています。そこについていけないと、派遣会社は取り残されてしまいます。派遣とBPOの組み合わせなど、適切な人材ポートフォリオを企業に提供し、生産性向上に役立つことができて、初めて価値あるサービスだと認識してもらえるのです。そのためにも、企業の業務内容や、派遣スタッフの働き方をきちんと知り、最適な外部リソースの活用方法をご提案して、より役に立つ存在になっていきます。