求職者が求めるのは仕事紹介だけでなく
未来につながるキャリアやスキル

社名の頭文字である、「働く」「遊ぶ」「学ぶ」「暮らす」の領域で事業展開する株式会社ウィルグループ。その中核を支えるのが、専門特化型の人材派遣事業だ。専門領域を選んだ理由や戦略、コロナ禍や労働人口減少など社会課題に合わせた対応、DX導入など、多岐にわたり大原社長に聞いた。

離職率が高い領域だからこそのチャンス

御社が人材派遣ビジネスで、特に注力されている領域を教えてください。

弊社は介護、建設、コールセンター、販売、食品製造などへの人材派遣を主に行い、各領域で業界トップシェアを目指しており、それぞれの領域で選ばれた存在になりたいという思いをもって事業展開をしています。これらの領域は離職率が高く、人が定着しづらいのが課題です。なぜ私たちはこの領域に注力しているかというと、理由は二つあります。

1つ目は、私たちは後発で人材ビジネスに参入したのですが、一番大きなマーケットにはすでに多くの人材会社が参入をしていました。その中で勝っていくためには、どの分野に注力すべきか、業界や競合の動向を見ていたところ、人材の需要と供給にギャップがある領域は、たとえリーマンショック直後のような不景気下であっても影響は小さいことに気が付きました。

2つ目は、需要と供給のギャップが小さい業界でも企業の中でのシェアを高めれば、お客様に価値を感じていただけているということから契約終了もされづらい。この2点から現在の事業領域に参入し、トップシェアを目指すという選択をしました。

スタッフの定着力や顧客シェアを高めるため、どのような工夫や取り組みをされていますか?

人材ビジネス事業を成長させるために、大事なことが二つあります。お客様や求職者と接点の量を増やすことと、接点の質を高めることです。弊社は特定の領域に専門特化することで、求職者に対して多くの求人をご用意し、キャリアアップ支援も行うことで、専門性や定着率を高めています。早期退職を防ぐため、ハイブリッド派遣というサービスも行っています。これは派遣先に弊社の社員が常駐し、業務以外のケアも行うことで、より安心して働ける場所を作るのです。現場のスタッフからの声を受けて、クライアントにも改善の提案をしています。すると、ほかの派遣会社より定着率が高く、サービスも手厚いとクライアントから評価していただき、独占してオーダーをいただけることもある。シェア率が高まれば、派遣スタッフも仲間が増え、さらに安心して働ける……という循環にもつながるのです。

人材派遣でどのような指標を重視していますか?

スタッフの満足度を図る指標で、最も重要視しているのは定着率です。また、NPSを定期的に取得し、スコアをもとにサービス改善しています。  クライアント側では、どれだけ選ばれているかを図る独占オーダー数。そして、各領域に20~30社ほど、ターゲットを決めたクライアントで、どれだけ高いシェアを取れているかを図るロックオンクライアントシェア率です。

有資格者の無期派遣・人材紹介を強化

近年、注力している経営計画を教えてください。

2023年までの中期経営計画として、ワークシフト戦略を掲げています。これは、弊社が上場してから3%前後で推移し、経営課題だった営業利益率を改善することが主な狙いです。具体的には、事業と働き方をシフトさせる戦略です。

まず事業のシフトですが、人材ビジネスを「テンポラリー」と「パーマネント」に分けました。前者は有期雇用、後者は無期雇用の有資格者派遣あるいは人材紹介です。現在私たちは、人材派遣の大半がテンポラリー領域ですが、2023年には全体の粗利率の6割をパーマネント領域で利益を出せるようにシフトさせます。

働き方のシフトは、デジタル活用。テクノロジーで代替できる業務はオートメーション化し、 人は人にしかできない業務をして、クライアントやスタッフとの接点の量を増やし質を高めることに力を入れていきます。

御社が注力している建設、介護などの領域では、有資格者へのニーズが高いのでしょうか?

はい。例えば建設業界では、施工管理の有資格者へのニーズが高いのですが、市場に経験者はあまりいません。そのためまず弊社で採用し、現場で実務経験を積んだり、座学や資格取得スクールで教育を受けてもらったりしながら資格を取得してもらい、有資格者の経験者へと成長してもらいます。介護領域も同じです。

働き方のデジタルシフトは、社内外それぞれで行っているのですか?

はい。派遣業界は契約書や勤務シートも紙で出力することが多いので、クライアントと協力をしながらデジタル化を進めています。またスタッフには、弊社が開発した専用アプリを提供して、仕事の検索や有給休暇の申請、源泉徴収票のやり取りなど、アプリ内で完結できるようにしています。チャットボットも備え、スタッフの疑問にAIがすぐ回答することで、不安やストレスも軽減しています。

近年はコロナウイルスによって、弊社のバック・ミドルオフィスはほぼリモートワークになりました。スタッフの登録やカウンセリングなども、オンラインがメインです。コロナ以前からリモート登録会はしていたのですが、一気に進んだ形です。コロナ収束後も、リモートが一般的になるでしょう。

ただデジタルシフトに伴い、お客様との接点の質を落としては意味がありません。社員同士でも同様です。そこをいかに解消するか考えながら、デジタルシフトを進めていきます。

ビジネスとしての観点から、デジタル領域でのサービスを強化させていくことはお考えでしょうか?

建設や介護分野でのテック領域に進出したいと考えています。例えば、顧客やスタッフのペインを改善するためのプロダクトを開発し、SaaS型で提供をしていくなどを検討しています。2030年くらいには、これらのテック領域でグループ全体の利益に対し1割以上の規模にまで成長させられるようチャレンジしていきたいと考えています。

これから求職者に選ばれる人材会社

コロナ禍で、新たにリリースしたサービスを教えてください。

大きく二つあります。一つは、「ZaITact(ザイタクト)」という、在宅型コンタクトセンターサービス。弊社は全国に50以上の支店があります。そこに登録しているコールセンター経験者が、在宅でコールセンター業務を行うというもの。クライアントのBCPや、コロナ禍でのニーズを受けて開始しました。コールセンターの拠点を1か所に構えると、人材を確保する必要があり、集めたとしても能力や経験にもばらつきがあります。そこで、全国の経験者たち一人ひとりに、コールセンター業務をアウトソースできるサービスです。

もう一つは「Seiyaku(セイヤク)」という営業代行。多くの企業は、コロナ禍で新しい拠点も出しづらく、出張にも行きづらい状況です。このサービスは、全国にある弊社の拠点と営業経験のある社員のスキルを活かして、地方で商品やサービスを営業代行するのです。スタートアップから大手までニーズがあり、単月で数億円の売上に成長しました。

今後、労働人口の減少や働き方の多様化などには、どう対応していくのかお聞かせください。

マクロな視点では、これから人手不足はさらに加速し、特に離職率が高い領域では顕著になります。一方で働く方たちは、テクノロジーに仕事を奪われる不安などもあり、企業に所属するという漠然とした安心感より、今の仕事が将来にどうつながるかを意識するようになるでしょう。また、バラエティのある仕事を紹介できるのはもちろん、いかにキャリアを積み上げられるのかというキャリアパスを提示し、資格取得などスキルアップ支援もできる派遣会社に人材が集まると思います。リモートや副業など、個の望む働き方も加速していくので、できる限り応え、ともにスタッフの未来を作っていきます。

海外でも事業展開されていますが、どのような展望を描いているのでしょう。

人材紹介や派遣を中心に、約 400億円を海外グループが売り上げています。これまではM&Aを中心に海外成長を促進してきましたが、今後は海外のグループブランドを作り、各社のシナジーを生み出すことにシフトしていきます。

ありがとうございました。最後に派遣ビジネスの動向予測と、御社のビジョンを教えてください。

国内の派遣市場は、マーケット全体が一気に拡大することは考えづらいです。その代わり、二桁成長している領域に新規参入が増え、競争が激化すると思います。また、それぞれ別の専門領域で人材派遣をしている企業が、新たな領域への進出を目指して、企業統合や合併をするケースが増えていくでしょう。

弊社は変わらず、人材の需要と供給のギャップが大きい領域に注力していきます。ここへ、他業種から新たな求職者の方々に来ていただき、我々がスキルアップやキャリアアップ支援を行っていきます。日本人だけでなく、外国人も同様です。仕事紹介のほか、日本で安心して暮らせるサポートもサービス展開し、日本経済の発展に貢献していきます。