「課題はすべて」だからこそ見えてきた戦略。
成長のために必要な付加価値とアウトプットとは
主婦(夫)や女性に特化した人材サービスを中心に、DXソリューションやハイスキル人材の派遣など、幅広い事業展開をしているビースタイルホールディングス。新型コロナの影響が小さくない中、これからの人材会社に必要な“付加価値”や、利益・売り上げを上げるための戦略は何か。また新規事業への参入に必要なステップ、すべきことは。同社社長の三原氏に聞いた。
付加価値がなければ必要とされない
新型コロナウイルスの収束がまだ見えない中、派遣事業にどのような影響があったかお聞かせください。
弊社のクライアントでは、主に中小規模や、大手でも業種・業態によっては、コロナで大きな影響を受けています。求人が止まり、派遣契約が終了になってしまう企業様もあります。弊社は売り上げの約75%を派遣事業が占めているため、影響は小さくありませんでした。
しかし、そのような状況に直面したからこそ、これから人材ビジネスで重要なのは、「付加価値をどれだけ持てるか」だと改めて気づきました。例えばコロナで求人が減っても、エンジニアの需要はまだ高い。これも付加価値です。サービスや働き方など総合的に見たとき、付加価値がなければ必要とされなくなるでしょう。数年前からそのような流れがありましたが、コロナで一気に進んだ気がします。
御社は派遣事業以外に、DXソリューションなど自動化にも注力しています。先ほどの言葉を借りると、どのような付加価値がありますか?
RPAやAI OCRなど、さまざまなDXソリューションがあります。これまでの人材ビジネスは人がベースでしたが、DXソリューションも同じレベルで提供し、サービス拡充や、企業の生産性向上の支援をしていきたいと考えています。
弊社の優位性として、『Robo Discovery』という自社開発のサーベイツールがあります。これは、クライアントに業務内容のアンケートを取ることで、どの箇所が自動化できるか分析できるもの。その結果をもとに、企業に応じた提案をしています。例えば大手企業には、「自動化することで、これだけコストダウンできます」と提案し、DXソリューションの開発から導入、運用まで行う。中小企業には「予算を抑えて導入できます」と、開発と導入だけ弊社が行い、運用はクライアント自身で行ってもらう。代わりに自社運用の方法を学べるeラーニングを提供する。こういったソリューションも付加価値だと考えています。
女性やハイスキル人材派遣の今とこれから
主婦(夫)の求人に特化した「しゅふJOBパート」の運営など、〝女性の活躍支援〟に注力されてきましたが、昨今は女性の働き方や、人材としてのニーズの変化など感じていますか?
主婦(夫)の雇用は、45~55歳がボリュームゾーンです。この層は、若年の労働人口が減っていく中、これからの10年間でもっとも需要が高くなるでしょう。もともと総合職で働いていた優秀な方も多く、弊社に登録されている方を、多くの派遣会社も活用してくださっています。
ただコロナの影響もあり、産業の変化に伴いニーズも変わっていいます。例えば飲食業からの需要は減り、家事代行の需要は増えている。そういった中で、主婦(夫)が雇用に応えていける存在か、常に考えていく必要はあります。
最近は女性に限らずですが、ライフスタイルの変化に合わせ、時短勤務など多様な働き方を希望される方も多いです。それらを理解し、人材ビジネスのソリューションの一つとしてとらえつつ、一方でESG活動(環境・社会・ガバナンス)とも考えて、女性の活躍支援は継続していきます。ただ今後は、女性というだけでなく、DXソリューションを付加価値として加え、提供していくフェーズだと考えています。
ハイスキル人材の時短・業務委託での派遣事業も行っています。市場のニーズはいかがでしょう?
WEBサービスのプロを業務委託で紹介する「ビズ・ディレクターズ」や、ハイスキル人材を時短で採用したい企業向けの「スマートキャリア」などを提供しています。市場に優秀なフリーランスが増えたため、企業のビジネスの仕方も大きく変っています。例えば新しい分野で事業を立ち上げる際、優秀な人材にアドバイスをもらえるなら、一日だけの単発稼働でも非常に有用です。そもそも、企業から管理職も減っていくと思います。部下のトレーニングやキャリア開発ができない管理職は不要だからです。また、YouTubeやビジネス系WEBメディアで優秀なビジネスパーソンの考えに触れられる時代なので、すぐ比較されますし、実力がなければ見抜かれる。年齢を重ねればなおさらです。
人材側も、ライフスタイルに沿った中で、テーマを決めて働く時代になっていくと思います。かつては50歳になると定年退職の準備を始めていましたが、今はそんなことありません。70歳になってようやく、リタイヤが見えてくるのではないでしょうか。こういったさまざまな要因で、ハイスキルの派遣領域はこれからも増えていくでしょう。
新規事業へ参入するポイント
御社は2020年4月、株式会社ビースタイルホールディングスを設立して、各事業を5つの会社に吸収分割し、持ち株会社体制になりました。その背景を教えてください。
ホールディング全体でビジョンを目指していくためです。ホールディングスを設立する際、「遠心力的」「非遠心力的」という選択肢があります。前者はグループ各社が個々に事業を伸ばし、その遠心力で上場など、全体の規模拡大を目指すもの。後者はその反対で、各社が協力し合い、全体でビジョンを目指していくもの。私たちの狙いは後者に該当します。そのため評価制度も行動規範も基本的にはひとつ。人事異動やキャリアステップも、横断的かつフレキシブルに行えるようにしています。
派遣以外にも複数の事業展開をしていますが、参入する分野や事業領域、最終判断はどのように見極めているのでしょう。
〝これまで〟と〝これから〟では変わってきます。これまでは、新規事業を始めるまでに9つのステップがあるとしたら、いきなり4から始めていました。そして、勝ち筋が見えたら大きく投資をする、という流れでした。これからは、ステップ1から細かく進めて、7で初めて投資をする、というくらい慎重に進めます。
事業内容は、既存ビジネス以上に伸びて、市場でトップになるものでないといけない、と考えています。日々お客様と接する中で、どの業種・業界のクライアントが伸びているか、肌で感じるようにしています。そのうえで、5~10年後の市場規模や、どのプレイヤーが覇者か、弊社はトップになれるか、などを見極める。そして仮説のもと戦略立案し、検証しながら実行していく必要があります。新しい市場は、拡大スピードが急に上がらないので、緩やかに見つつ取り組みますが、勝ち筋が見えなければ撤退しますし、実際にそうした事業もあります。
“アウトプット”と“発想”への転換を図るべき
派遣事業では、どのような点を課題と考え、どういった戦略で取り組んでいきますか。
課題は全てです。派遣事業は、新しいポジションの決定数をどれだけ増やせるか、椅子取りゲームに近い構造です。サービスに強みがあれば差別化できますが、他社と変わらないのなら、営業力やマーケティング力、人選力など総合的に強化しないといけないと考えており、弊社もそこを目指しています。
同時に、社内の生産性向上も行っていきます。生産性には「インプット」「アウトプット」の2つがあり、これまではインプット、つまりコストダウンが重視されていました。しかし、それだけだと競争力優位にはなりません。これからは営業のスキルアップなどを通じ、一人ひとりの稼ぐ力を上げて、アウトプットを強化していく必要がある。投資対効果としても、間違いなくアウトプットの方が大きいので、こちらにシフトさせていきます。
最後にこれからの時代、派遣会社が売り上げや利益を上げていくためにどうすべきか、考えをお聞かせください。
社員一人につき、月間で約160時間働いています。その時間と仕事を、成果の出るところに正しく向けることです。実はこれをきちんとできているのは、大企業です。中小企業の多くは、うまくできず、成果につながりづらいのが現実です。人材面であれば、自社社員にどこでどのように働いてもらうか、派遣社員をいかに活用するか、などを見直すことで、売上や利益につながるでしょう。
また、これまでの企業戦略は論理思考が重要で、生産性や効率を追求することが一般的でした。しかし、効率を求めると、答えが一つになってしまいがちで、他社との差別化がしづらくなる。そのため〝発想〟へシフトしていき、いかに付加価値を生み出して提供できるか、がポイントになると考えています。