希望と現実の乖離を前向きに導くには
自分を知ることで答えが見えてくる

良い転職先があればいいな。そのくらいの気持ちで面談に訪れた転職希望者が、気づけば意欲的に転職活動を行うように。そんな活動推進力が、髙村茉矢の強みである。もちろん成約数も多く、トップコンサルタントにふさわしい成果を出し続けている。面談や提案の際に心がけていることは何か。さらに、コンサルタントの介在価値や人材紹介の意義とは。テクノロジーの進化や、新型コロナウイルスにより業界が変化する今、彼女の言葉は胸に刺さるに違いない。

MVP5回、目指すは日本一

「困難を困難と感じたことも、仕事のモチベーションが下がったこともありません。高みを目指し続けて、いつか日本一のキャリアアドバイザー(CA)になりたい気持ちがあります」

柔らかな笑顔を浮かべ、しっかりとした口調で、髙村茉矢(28歳)はそう話す。台詞だけ聞くと大胆不敵に思えるかもしれない。だが、髙村の場合は違う。CAの仕事に本気で向き合っている姿勢、自負、成長意欲があり、地に足が付いた状態で、素直に思いを口にしていることが伝わってくる。

髙村はこれまで、部内のMVPを5回獲得した。所属する丸の内オフィスのCAのなかで、トップに輝いたことも。そんな彼女は、4人のメンバーを率いるリーダーでありながら、プレイヤーとしても活躍し続けている。若きトップコンサルタントは、どのように成果を出し続けてきたのか。

転職希望者の転職意欲を高めるには

髙村がCAを志したのは、自身の原体験がきっかけだった。学生時代、したいことや向いていることがわからないまま就活を行っていた。それが、先輩の社会人たちにアドバイスをもらううちに、キャリアの可能性や選択肢が広がっていき、働くことに前向きになれた。自分もこういった存在になりたいと、パーソルキャリアに入社したのだった。

求人広告の法人営業を2年間した後、人材紹介部門へ。晴れてCAとしてのキャリアをスタートさせた。配属は【EMCエレクトロニクス、メカトロニクス、ケミストリー、コスメティックス】業界。20~30歳代が中心のジュニア層を担当している。

「以前はミドル層の転職希望者を担当していたのですが、ご自分の強みやしたいことを把握されていて、市場価値を上げるためや、より良い条件を求めて転職する方が多い印象でした。ジュニア層は、したいことがわからない方も多い。本人が納得するキャリア形成についてとことん向き合うことにこの仕事の意義や面白さを感じています」

髙村の強みは、転職希望者の転職意欲を高める活動推進力だ。担当する転職希望者は、工業高校や専門学校を出て2~3年の若手も多く、自信がなかったり、転職に不安を抱えていたりする人もいる。そのため面談では、転職活動に希望を見出してもらえるようなプロセスを意識している。

また、希望条件や、転職理由などの仕事に関する話だけでなく、普段の価値観や考え方までその方の人となりが理解できるまで深くヒアリングする。そしてなぜ転職したいのか、本質的な想いを把握し、転職希望者と共通認識として掲げたうえで、支援を行っている。転職活動をするなかで、希望条件と本来の転職目的が、ずれてしまっている転職希望者もいるからだ。そのときは、「あなたの転職目的はこうですよね」と原点に立ち返ることで、希望条件に多少そぐわなくても、納得し受け入れてくれる転職希望者が多い。

結果、担当している転職希望者の6~7割がアクティブに転職活動を行い、そのうち約三分の一は、面談から一ヵ月以内の応募につながっている。面談の段階では、いい企業や案件があれば転職したい、くらいの温度感の転職希望者も多いなか、驚異的な数字と言えるだろう。

「自分」「市場」「企業」を知ると希望が見える

ではどのようにして、転職に希望を見出してもらうのか。秘訣について、髙村はこう話す。

「転職希望者の希望した企業・案件を紹介するだけだと、書類選考を通過しないことが大半です。なので希望を踏まえつつ、100%叶えるのは難しいと現実もお伝えし、そのうえでベストな3~5つの選択肢を提示して、比較検討してもらいます。希望と現実の乖離を、後ろ向きでなく、いかに前向きにとらえてもらえるかを大事にしています」

書類選考が通過しなければ、どういった理由で見送りになったかを客観的に伝えて、現実を見つめなおしてもらう。まさに転職希望者と二人三脚で、濃密なコミュニケーションを行う。多ければ、週に10~15時間を転職希望者との電話に費やすことも。そういった積み重ねで、転職希望者の転職意欲が着実に高まっていくのだ。

実はここには、パーソルキャリアが大事にしている“doda体験”を提供したい、という思いがある。doda体験とは、転職活動を通じて、転職希望者一人ひとりに希望を見出すプロセスのこと。「自分自身を知る」「マーケットを知る」「企業を知る」という3つの段階があり、そのすべてが重なると、希望が見えるというものだ。そのなかで、髙村が特に重点を置いているのが、自分自身を知るプロセス。短期離職を繰り返し、30歳で4回転職をしてきた転職希望者とのこんなエピソードがある。

「その転職希望者の方は、これまでの職場で人間関係がうまくいかなかった過去の体験が、トラウマになっていました。転職先の社会環境を非常に気にされて、また同じことにならないか、不安を抱えていたのです」

内定はもらえたが、このままではせっかくの内定を辞退されてしまうのではないか。そこで髙村は一週間、毎日一時間ほどその転職希望者と電話をした。人間関係に悩んだエピソードをじっくりヒアリングし、一つひとつの要素を分解。どのような因果関係でそうなったのか明確にしたうえで、紹介先の職場では起こりえないことを、精神論ではなく構造的に説明していった。そして回答期限の午前10時、8時に出社して連絡を待っていた髙村に届いたのは、転職希望者からの内定承諾の連絡だった。

「いかに転職希望者と関係を構築するかが、この仕事の土台です。そのうえで、一人ひとりの性格に合った伝え方や接し方をしていきます。特に内定前は、気持ちが揺れる方が多いので、表情や声のトーンや反応などに細心の注意を払い、機微に触れるようにしています。もちろんそれだけでなく、定量的な数字も並行して追わないといけない。このふたつをいかにかけ合わせるか、を意識しています」

不況時に求められる提案力

ほかに心がけているのは、面談から入社まで10以上あるプロセスのうち、どこにこだわり注力するかを、市場を見ながら変えていくこと。景気が良いときとそうでないときでは、内定の数や、内定をもらえる企業のレベル感などが異なる。新型コロナウイルス感染症の影響が残る現在(2020年6月)のような時期は、どのプロセスに注力するかで、転職希望者の能力が開花するかどうか、大きく左右されるのだ。

また、CAの提案力もより重要になる。求人が減り、複数の選択肢を提示することが難しくなると、転職希望者の活動推進につながりづらい。そのため、アクティブな採用活動をしている限られた企業のなかから、転職希望者に合った求人をいくつか紹介。その際に、転職希望者が納得感を持って面談に進めるよう、いかに提案するかを意識していると髙村は明かした

このように、さまざまな工夫やノウハウで、成果を出し続けてきた髙村。彼女をトップコンサルタントへ導いたのは、面談ロールプレイング形式のバトル型勉強会UCB(アルティメットコンサルティングバトル)の存在も大きい。髙村は2019年からUCBに参加。その理由は、景気に左右されやすい人材紹介ビジネスで、不況時にも対応できるノウハウを身に付けたい、という思いからだった。UCBは、確実にCAとしての自分を成長させたと、髙村は振り返る。

「転職希望者は十人十色です。いい転職支援とは何だろう? と考えていたとき、『入社後に定着して活躍し続ける人材創出をすること』がその答えだとUCBで学びました。また転職希望者へ提案をする際、『この企業で働く価値は何か』『こんな未来がある』など、わかりやすく端的に伝えるフレームがUCBにはあります。各社の求人をいかに魅力的に提案するか、が私の弱みだったのですが、型を身に付けたことでまったく変わりましたね」

AIによる自動マッチングなどが普及し、コンサルタントの介在価値が問われるようになった昨今。髙村は、転職希望者のキャリアや仕事観を前向きに導くことが、CAのあり方だと考えている。彼女が語ってくれた、「希望と現実の乖離をいかに前向きにとらえてもらえるか」こそが、CAの介在価値なのだ。

「適切な人員配置のご支援をすることで、企業や転職希望者はもちろん、ひいては日本社会も豊かにできる。それが人材紹介ビジネスの意義だと思っています」と髙村は続ける。業界への誇りや愛を、誰よりも持っているからこそ、彼女はトップコンサルタントであり続け、日本一を目指し続けているのかもしれない。