勝てる領域を見つけたことが飛躍のきっかけ
敷かれたレールを拒んだ男がトップコンサルになるまで

歴代のベストレコードを塗り替えてきたような、そういうタイプのトップコンサルタントではない。毎月コンスタントに目標達成し、継続的にトップを走り続けているのが保泉隆廣だ。いかにして道を切り開いてきたかを語るその口調は、実直かつ謙虚だが、ところどころで反骨精神が覗き、内に秘めた情熱の強さを物語る。また競合との消耗戦を避け、ブルーオーシャンを開拓してきた戦略家の面も持ち合わせる。そんな彼の思考・行動に迫った。

空白地帯をいかに見つけるか

「競合他社が多い状況で、アイデムの事業優位性を分析したとき、大手にはスピードや求人数で勝てません。うちには独自のデータベースがあるわけでもない。そこで、ここなら勝てるという領域を見つけて、舵を切ったんです」

2017年、異業種からアイデム社に入社した保泉。薬剤師の紹介チームに配属され、東京エリアの担当になったが、3~4カ月は成果が出なかった。主なクライアントはドラッグストア、調剤薬局、病院だが、大手をはじめとした競合も多いからだった。右も左も分からない新人だった保泉は、必死に戦略を巡らせる。そして、一般企業のクライアントを新規開拓することで、新たな活路を見出した。

「薬局や病院だけを紹介先と考えていては、立ち行かないと気づいたんです。そこで、医薬品メーカーをクライアントに持つ広告代理店やIT企業など、薬剤師の有資格者へのニーズがある一般企業を調べたら、東京だけでも20~30社ありました。うまく開拓もできて、そこから軌道に乗り始めたんです」

業績が認められ、2018年には新たなチームをつくり、リーダーとして4人のメンバーを率いている。同社は面談数と企業開拓数、売上の目標はあるものの、方針はチームリーダーにゆだねられている。そのため、比較的自由な施策が可能なのだ。現在は医療業界だけでなく、医療機器や薬品、バイオやCRO(治験)、不動産や建築などにも領域を拡大。アイデム社の人材紹介事業の中で、保泉のチームは非常に独自性の高い、新規分野の開拓を担う位置づけとなっている。新たな分野に進出する際、保泉が意識しているのは、やはり「勝てる領域」を見つけることだという。

「大手が進出していない空白地帯をいかに見つけるか、を考えています。そのために、注目している分野の企業の株価やIPO、ステージなどのチェックも日々行っています」

起業開拓の際も、オーソドックスとされている手法に加え、必ず自分なりの工夫を加えている。保泉はこんな事例を話してくれた。新規開拓したい企業があったが、すでに大手競合他社と取引を行っており、テレアポも飛び込み訪問もうまくいかない。それでも諦めず、保泉は傘下のグループ会社にアプローチし、人事担当と関係性を築いた。そして、本命である親会社の担当者を紹介してもらい、新規取引につながったという。

短期的・長期的の2つの視点

これまで、保泉は約150名の成約に携わった。保泉の決定金額は2018年は2位、2019年は1位。目標達成できなかった月はわずか2度。チームリーダーになって、マネジメントの比重が増えても、売上数字は落ちていない。

コンスタントに成約を出すために、どういった工夫をしているのか。保泉は常に、短期的・中長期的な視点を意識しているという。

「短期的というのはいわば目先の、アクティブな求職者や企業の1~2カ月くらいの動きを見ることです。中長期的は3~12か月くらいで、ゆくゆく転職を考えている方に対し、時期が来たら転職のご支援をする。またこれまでしてこなかった領域・業界の企業開拓をする、ということです」

この二つの視点を持つようになったのは、新人のころの失敗体験がきっかけだという。その月は成約見込みが一件しかなく、しかも当てが外れて成約ゼロで終わった。このとき、先輩から言われたのが、「ゼロになったのは仕方ないが、見込みが一件しかない状況を作ったことが敗因」という言葉だった。それから短期的・長期的の両方を意識するようになり、常に見込みがある状況を作り、コンスタントな売り上げにつながっている。

そんな保泉の前職は、外資系の生命保険会社での個人営業。給料はフルコミッションで、基本給もなければ経費も自腹だった。周囲には年収3000万円クラスの人もいたが、保泉自身は「家賃を払ったら終わりというときもありました」と苦笑して振り返る。その月の売上が良くても、すぐに気持ちを切り替えて、来月のことを考えないといけない。そういったシビアな環境で、数字への強い意識が養われたという。結局2年半ほど従事し、個人営業の経験を生かしつつ、法人営業にもチャレンジしたいと、コンサルタントが一気通貫型のアイデムに入社したのだった。

勉強、勉強、勉強

人一倍の努力と、それを苦と思わないメンタルの強さも、保泉の大きな強みである。企業開拓数とスカウト数は、ほかのコンサルタントたちを圧倒するほど。また知識を深めることにも熱心だ。例えば医療分野で、がんや再生医療やバイオなど、専門的かつ新しい知識を身に付けるための勉強を日々欠かさない。チームの朝礼でも、「IPS細胞」などお題を決め、メンバーが持ち回りで調べて発表することで、知識を深める取り組みもしている。「勉強、勉強、勉強ですね」と保泉は笑う。

また候補者・企業の担当者のタイプによって、コミュニケーション方法を柔軟に変化させている。保泉が取り入れているのは、前職で学んだソーシャルスタイル理論だ。

「人は4つのタイプに分類できます。候補者や担当者と接し、どのようなタイプか判断して、その方に合わせた対応をしています。例えばドライビング(前進型・行動派)の方は、アイスブレイクを入れると信用を失うことがあるので、単刀直入に結論を言うようにしています。エミアブル(温和型・協調派)の方は、意見を押し付けると本音を出しづらくなる傾向があるため、他の人はこうすることが多いですよ、と大衆意見を伝える、などですね」

候補者とのやり取りで、自分の知らない専門用語や知識が出てきたときも、保泉はタイプによって対応を変えている。知らないことを素直に明かし、教えていただくことで信頼が深まる方もいる。逆に、知っているふりをして通した方が良い場合は、そうすることも。候補者は自然と保泉に信頼を寄せ、安心して本音を話せるというわけだ。

伝えるべきことは伝える

だが候補者に対し、必要だと思えば、厳しい意見もしっかり伝えている。38歳で、4度の転職経験がある候補者との間に、こんなことがあった。その候補者はエージェントを何社も使って、十数社にエントリーしたが、コロナ禍もあり書類選考が通らなかった。そこで保泉は、これまでの転職理由を細かくヒアリングし、一貫性が出るように編集。推薦文として送ったところ、書類選考を通過した企業があった。一次、二次面接も通り、次が最終面接。何かできることはないかと、保泉は同席した。

「その面接がうまくいかず、落ちたかもしれない……思っていました。ところが面接後、その候補者が開口一番、『提示年収はどれくらいかな?』と言ったのです。唖然として、『今日の面談はそんなレベルではありません。年収は長く続けて積み上げればいい。まずは内定をもらうことに注力しましょう』と伝えたのです」

すると候補者は反省し、目に見えて意識も変わった。その旨を企業側にも伝えたところ、内定に至ったのだった。伝えるべきことは遠慮せず伝えるのも、保泉流のコミュニケーションだ。ちなみにチームのメンバーにも、アドバイスを送ることがしばしば。オブラートに包まず本音を伝えるため、「心がない」といじられることもあるそうだが、仲間たちの成果や成長を願う気持ちが根底にあるのは言うまでもない。

アイデム社で最初に配属となったのは、薬剤師チーム。実は偶然にも、保泉の家族には薬剤師が多い。敷かれたレールに乗るのが嫌いなため、自身は薬剤師にならなかったが、「それと引き換えに成功しないといけない。だから反骨精神は強いと思います」と力強く語る。そして今、トップコンサルタントとして走り続けている彼だが、まだまだ満足はしていない。力強いまなざしが、そう物語っているようだった。