業界や企業間のハブとなって、
健康経営で持続可能な経営組織を支える

一般企業からメディカル・保育など有資格者専門領域まで、幅広く人材紹介を行っている株式会社マイナビ。同社が特に注力してきたメディカル領域は、新型コロナウイルス感染症によって市場やニーズが一変した。今後、エージェントに求められるスキルやコンサルティング力は、益々高いものとなる。また超少子高齢化が進む中、企業の関心が高まっているのが健康経営だ。それに関連して同社が開始したサービスや、今後のビジョンを山本氏に聞いた。

市場が一変したメディカル領域

まず御社の紹介事業の概要を教えてください。

あらゆる業界・職種でゼネラル型人材紹介を行う「一般企業領域」と、ドクターや看護師、薬剤師、コメディカル・介護職、保育士などの「メディカル系・有資格者領域」があります。人材紹介会社で、一般企業領域から有資格者専門領域までをこれだけ網羅的に展開している組織は唯一無二で、有事のときは互いの領域をカバーし合うリスクヘッジができています。

規模・売上の過半数を超えているのは、弊社が2002年頃から注力してきたメディカル領域。リーマンショックで、一般企業領域の採用マーケットはシュリンクしましたが、メディカル系法人からは変わらず積極的な採用ニーズをいただき、リーマンショックの厳しい闘いを人員削減なく黒字で乗り越えることができました。その後もメディカルを始め、IT系、メーカー系エンジニアなど、通年型採用の売り手市場を注力しながら、ゼネラル領域を拡大してきました。時間をかけて成長させてきた領域は、規模拡大とともに、業界シェアも確実に伸ばしてきました。

新型コロナの影響は、人材紹介ビジネスにどのように表れていますか?

一般企業領域にもメディカル領域にも、どちらにも影響が出ています。メディカルは求人もあり、多くの現場で人手不足なのですが、コロナ禍の中、他の医療機関から医療従事者を受け入れ難く、選考がストップした時期がありました。また求職者と実際に会って面談したい、あるいは、医療機関の環境をしっかり見てから、入職の意思決定をしてほしい、と考える医療機関が多くあり、オンライン面談の導入が進み難いことも、選考の遅れにつながりました。

市場の変化を実感したのは、薬局・薬剤師マーケットです。コロナ対策によってインフルエンザの患者が激減したり、感染対策で不要不急の患者が病院に行かなくなるなど、医療機関はもとより、薬局の処方箋も激減、経営に大きなダメージが出ました。その結果、これまでのような薬剤師の積極採用ニーズは減退しました。コロナが収束した後も、これまで通りの市場に戻るのは難しいだろうと考えます。

そんな市場変化も踏まえつつ、人材紹介会社に求められることは、質の高いマッチングを追求し続けるとともに、ご紹介した方が、いかに定着して長期的に活躍していただけるかにも拘る「サービスの質」であると、強く実感します。

質の高い情報獲得には対面が重要

サービスの質やマッチングの精度を上げるために、どのようなことが必要だと考えていますか?

紹介会社の資産は情報です。具体的には求人・求職者との信頼関係によって、預けていただく機密情報・本音の情報、そして、その情報の鮮度と精度が肝です。そして、これら精度の高い最新の情報に基づいた、最適なマッチングに注力しなければなりません。

弊社は、企業(法人)・求職者共に直接会うことをモットーにしています。一般企業もメディカルも、対面することで伝わる情報量は、オンラインよりはるかに多いことを実感します。転職を考える方にとって、オンラインで完結するエージェントと、対面を始めとして、様々な選択肢を用意してくれるエージェントでは、安心感が違います。特に、医療機関は、対面を重視する組織であり、弊社の「会う」をモットーとする姿勢に、大きな信頼をいただいています。コロナ禍でオンライン面談が各社で浸透しつつありますが、実際の対面との差異もまた、実感するところであり、アフターコロナでは、対面の価値は非常に高まっていくと考えます。

対面を重視しているとのことですが、オンラインのメリット・デメリットをどのように考えていますか?

オンラインは良いところも難しいところもあります。オンラインでの面談や商談の場合、隙間の短時間でも集まれるスピード感はありますが、対面より情報量が落ちると認識したうえで、後で電話やメールをするなど、複合的に意思確認のフォローをする必要性を感じます。メリットとして、情報のインプットには効果的です。弊社も新卒社員の研修は約1ヵ月もの間、オンラインで実施してきましたが、非常に集中して受講できた効果を、その後のキャッチアップの早さが証明しつつあります。

ただ、中長期的に見れば、コンサルタントの成長には、クライアント・顧客との対面が不可欠です。先輩の一挙手一投足を目の当たりにし、電話で話している営業トークを盗むなど、実際に、視覚的にも、聴覚的にも、360度、周囲の先輩たちの、目の前のお客さんと向き合う姿や言動から学ばせてもらうことで、成長が促されます。特に成長途上の若者は、傍に先輩たちがいる環境が重要。そのため弊社は、完全在宅ではなく、ローテーション出社でしっかりフォローしています。

今後はどういった領域やサービスに注力していくのか教えてください。

手ごたえを感じているのは「マイナビ顧問」です。経営者や役員が、企業のブレーンとして経営サポートをするサービスです。コロナの影響で、一般企業領域の求人は一時的にかなり減りましたが、そんな中、マイナビ顧問には問い合わせが相次いでいました。正社員を積極採用するのはリスクが大きいため、スキルが明確で即戦力である顧問に、ニーズが浮上したと考えています。今後の新たなチャレンジ、あるいは方向転換に、具体的な戦略・戦術を求める企業が多くあり、一業界に精通した専門性の高いアドバイザリー型顧問の引き合いが高いです。

顧問紹介によって、多くの経営層の皆さまとのネットワークも順調に拡大し、弊社の「マイナビ健康経営」(【人】という資源を会社の【資本】にするためのソリューション提供を目指す)のシナジーも生まれています。社員が健康でイキイキとやりがいを持って働き、高いパフォーマンスを発揮し続けられる環境づくり(=経営戦略上の投資)、ひいては、企業が高成長をしつづけられる未来を、人材サービスのプロならではのソリューション提供によって、経営層の皆さまをサポートしていければと考えています。

高まる健康経営のニーズ

健康経営を支援する事業は、ほかにどのようなものがあるのでしょう。

 「マイナビ事業承継」です。2025年に、経営者の7割が70歳を超え、その約半数が事業承継できないと言われています。そこで専任部隊を設け、M&Aを含めた事業承継の支援を行っています。地方の薬局やクリニックから特にニーズが多くあります。

「マイナビ出向支援」では、社員が自社に在籍したまま、業界をまたいで、他社の同職種で一定期間働くことを推進します。従業員の雇用を維持するのが難しい企業と、人手不足で、多くの即戦力マンパワーを求めている企業を、お引き合わせします。出向元は社員の雇用を維持でき、出向先は半分の人件費負担で労働力を受け入れられるメリットがあります。

「マイナビ企業間留学」は、自社内で社員に新しいチャレンジや経験をさせられる機会を作れずに困っている企業が、定期的に、目的別に、従業員を他の企業に留学させ、経験や学びを得られる福利厚生サービスで、成長の機会や離職防止にも繋げていきます。一般企業からメディカルまで、あらゆる領域に展開しています。

人材紹介でお取引のある企業様に、これらのサービスを業界横断的に提供しています。先日、経営者向けの健康経営セミナーを開催したところ、300名以上の方に参加いただきました。どの企業も、真剣に健康経営に向き合わないといけないフェーズになっており、ニーズはさらに高まると思います。

またこれら健康経営のサービスは、弊社の若手社員にとっても、企業の目先の採用への提案で終わらず、経営課題全般に対するアンテナを強く持ち、最適な解決策を提案していける教育メニューとしても機能しています。

人材紹介では、これからどの領域が変化していくと予想していますか?

超高齢社会に向けて、介護マーケットが伸びていくでしょう。介護事業者は増えていますが、コロナで入所にストップがかかるなどで、経営が厳しくなり、M&Aで吸収合併される企業も出てきています。サービスの質を担保しつつも、今後、従業員の長時間労働を緩和し、生産性を高めるための方法論が、介護業界の大きなテーマになると思います。

 一方で保育業界は、少子化の影響を受けながら、恐らくこの2~3年でマーケットが縮小していきます。親たちの在宅勤務が進み、0歳児を保育園に預けなくなるなど、コロナの影響による親たちのの働き方の変化が、保育園にも大きな影響を与えつつあります。

一般企業と専門業界・異業種間のハブを目指す

求職者開拓はどのように行っていますか?

多岐にわたる有資格者やスペシャリストに登録していただく必要があるため、集客担当のプロモーションチームにも高い生産性を求めています。営業と連携し、法人・個人の声を吸い上げて、求める人材を明確にしてプロモーション戦略を練ります。特にメディカル領域は、競合度も激しく、求職者の獲得単価の高騰が止まらず、人材獲得の生産性を常に高めていかないと利益創出が厳しくなってしまうマーケットです。我々の組織では、営業(フロント)だけではなく、バックオフィスもミドルオフィスも数字目標を掲げ、達成のためにコミットしています。

人材紹介で重要視しているKPIについても教えてください。

RAは注力する法人の採用の年間計画を設定し、逆算していつまでに何をするか、何名の成約を出せるかを目標設定します。その法人の定例会議に参加したり、複数媒体を使って応募者の母集団を形成し、スカウトや面談を行ったりなど、採用代行のような役割をすることもあります。企業の採用戦略を共に考え、いかに成約率を上げるかにこだわっています。

一方で、成約率には満足いただけることが多いものの、より多くの成約数を求められ続けていることは言うまでもなく、その期待に応えるための体制づくりに注力しています。

ありがとうございました。最後に今後のビジョンについて教えてください。

弊社は若手に強い人材サービス企業と思われがちですが、20~60代まで幅広い求職者にサービス提供するメニューを用意しています。また、サービスの質(成約率等)では、同業比較でNo.1のご評価をいただける機会も増えていますが、それぞれの領域での業界シェアにこだわり、組織拡大していきます。

また異業種間の法人と法人のハブになれればと考えています。例えば医療従事者は専門職で、どの医療機関でも仕事が成立するジョブ型の要素が強いです。しかし、管理職がしっかり組織のマネジメントを行えていないと、離職者が相次いでしまいます。組織マネジメント経験の豊富な、一般企業の様々な経験者が医療機関で求められる場があると考えます。

全く異なるステージのように見える異業種同士が、互いのナレッジやスキルを共有し、協働できれば、M&Aをしなくても、非常に有効な組織変革に繋がるヒントがあります。日本の素晴らしい企業・法人を健全に持続可能な未来にしていけるソリューションを生み出していければと考えています。