変革するエグゼクティブ市場、
この先さらなる変化も答えなき答えを一緒に探していけるか?

エグゼクティブ領域の人材紹介で、最大級の規模をほこる株式会社リクルートエグゼクティブエージェント。業界をけん引する同社は、コロナをはじめとした様々な社会状況の変化の中、マーケットの現在とこれからをどう見ているのか。経営者の抱える悩みや求職者の〝ライフ〟に、コンサルタントはどう寄り添っていくべきなのだろうか。今年4月に新社長に就任したばかりの、佐藤学氏に聞いた。

迫られる変革、高まる経営陣の再編成へのニーズ

まず御社の事業概要を教えてください。

弊社は経営幹部に特化したエグゼクティブサーチを行っています。ポジションは代表取締役やCxO、事業部長から部長クラスまで対応。業界は製造業からIT、コンシューマー領域など幅広く、クライアントの規模も超大手からスタートアップまで様々です。国内・外資系問わず対応していますが、どちらかと言うと日系企業の方に強みがあります。

コロナの影響で求人へのニーズはどう変化しているのでしょう?

経済活動が止まり採用活動自体が滞った時期はありましたが、今は回復してきており求人の動きも活発です。理由として、コロナがきっかけとなり各社が、DXをはじめとした戦略や事業ポートフォリオ、コスト構造、ガバナンスや人材マネジメントなどの変革を迫られているからです。その対応のために、経営陣の再編成へのニーズが高まっています。具体的には、社外取締役の増員や、CxOの役割の見直しや体制変更、これから進んでいく領域の専門家や、外部視点で課題を指摘してくれる人材などを経営陣に加えることで、変革に対応しようと考える企業が多いです。

最近は幅広い業界で、ESG・SDGsへの対応を推進し会社の変革をしていく動きがあり、IRから事業での推進者まで経験者を求める企業が増えている実感があります。特にグローバルカンパニーは、SDGsへの対応を取引先にも求めているため、海外企業と取引のある日系企業は、取り組んでいかないと生き残れないのではないでしょうか。

DXに関わる人材のニーズもとても多いです。ただし、企業のDXがどのステージにあるか、どんなスキルを持った人材が必要か、すり合わせ、的確な人材をご提案する必要があります。

多くの経営者は相談相手を求めている

DXなど企業が変革を進める必要性は、潜在的にはコロナ以前からあったのでしょうか。

この5~10年、あらゆる業界で、選ばれる企業と選ばれない企業の差は開いていきました。これまでは、競争戦略の中で、業界内におけるフォロワーの立ち位置でも問題はなかったかもしれませんが、それだけだと事業が生き残れない時代になっていると感じています。しかも、他の業界から参入してきたプレイヤーが、破壊的イノベーションを起こし根こそぎシェアを獲得することも珍しくなく、同じ業界の企業とだけ争う世界ではありません。もともと企業・事業変革が必要な背景があり、コロナで顕在化して、一気に進んでいったのだと思います。

変革を進めなければいけない中で、どういった課題を持っている企業が多いと感じているか、教えてください。

課題をどう整理するか、ビジョンをどう描き直すか、求める人材の要件をどう定義するかなど、悩んでいる経営者が多くいらっしゃいます。ただし、相談できる人が周囲になかなかおらず、弊社のコンサルタントに相談すれば解決してくれるかもしれない、という期待を持って、連絡をくださるケースが多いです。そのためコンサルタントは、経営者からいかに信頼していただくか、が重要です。理想的なのは、携帯の番号を交換していて、何かあればすぐ相談いただける関係性。もちろん、課題解決ができる知識がないといけないので、弊社のコンサルタントはできる者ほど勉強熱心ですし、自己研鑽や自己啓発を欠かしません。

専門領域を持ちつつゼネラルに対応

コンサルタントは高いスキルや経験が求められるかと思いますが、それぞれが特化した業界・領域や、SDGsや、DXなど専門分野をお持ちなのでしょうか?

領域やインダストリーごとにスペシャリティがあった上で、ゼネラルに対応できるメンバーがほとんどです。他にも上場企業かスタートアップか、オーナー企業かそうでないか、などでもコンサルタントの得意分野があるので、何かしら人に負けない強みを持つことを推進しています。若手のコンサルタントでも、リクルートグループや他社の人材紹介事業で経験豊富だったり、業界未経験でも何かしらの専門分野を持っていたりします。

基本は両面型ですが、コンサルタントがそれぞれの強みを生かし、ナレッジ共有をしつつ、ペアリングしながら進めています。拠点は東京、東海、関西、九州にあり、コンサルタントは50名を超えています。エグゼクティブ領域でこの人数を抱えている紹介会社は他にない規模です。

コロナ禍で、コンサルタントの働き方はどのようにされていますか?

基本的には在宅勤務ですが、全体の出社比率は抑えつつも、可能なタイミングであれば出社し、先輩と同じ空間で、リアルな業務を見たり、会話を聞いたり、ちょっとした相談をしたりと、五感を通して学ぶことも大切ではないかと話をしています。また経営者やエグゼクティブ領域の求職者から、直接会って相談したいという声もいただくため、お客様の要望や状況に合わせて、対面、オンラインを組み合わせながら、ご相談に乗るようにしています。

企業開拓・求職者へのアプローチはそれぞれどのように行っているのでしょう?

企業は、ご紹介いただくことが圧倒的に多いです。弊社を指名いただくこともあれば、コンサルタント個人に声がかかることもあります。力のあるコンサルタントは、ずっと相談が途切れません。また、ステークホルダーであるファンドやコンサルファームなどから話が来ることもあります。

求職者の方へは、自社データベースや他社データベースからスカウトを送ったり、WEBマーケティングに注力したりなど、さまざまなアプローチをしています。ここでも、ご紹介いただくことを大事にしています。求職者の方のご紹介はもちろん、お取引させていただいている企業の方が、友人などに弊社を勧めてくださることもあります。究極は、弊社やコンサルタントが主体的に動かなくても、常に声がかかるような状態を目指しています。

正解は何か?一緒に探すことが求められる

これからエグゼクティブ領域の紹介マーケットは、どのように変化していくと思いますか?

企業に関しては、トランスフォームへ向けて動き出した企業は、ニーズが尽きないでしょう。あるステージにおいてはこの人材が必要、次のステージではこの人材が必要と、常に異なる人材を求めるようになるからです。個人にとっても、長くひとつの企業で働くのがいいとは限りません。例えば、企業がDXの一環としてBRPを導入する際、業務の可視化や整理で力を発揮できる人材は、役割を果たした後にどうするか。その会社にとどまらず、同じ課題を抱えている他社に転職することで、さらに高い評価をされるかもしれません。

特に日系企業で長く働いてきたエグゼクティブの方は、転職は一生に一度のこと、と考えている方が少なくありません。転職に積極的な方と、そうでない方がはっきりしているのです。一方で30~40代は、転職が当たり前で、副業やパラレルワーク、起業も珍しくありません。そういった方がエグゼクティブになるこの10年くらいで、私たちの市場は大きく変わると考えています。

ありがとうございました。最後に、これからの時代のコンサルタントには、どのようなスキルや対応が求められるようになるか、考えをお聞かせください。

働く方はキャリアを自分で考えようとすると、選択肢も情報も多いため迷ってしまいがちです。人の集合体である企業も経営者も同様です。そのため我々は、個人や企業が意思決定をすることに、プレゼンスを発揮していく必要がある。それが弊社やコンサルタントの存在価値になると考えています。

環境も課題も激しく変化し、何が正解か分からない今の時代においては、アジャイル的に動く必要があります。頻度高く、粒度細かくコミュニケーションを取り、企業や求職者に寄り添って、一緒に正解を探していけることが求められます。

また求職者のキャリアだけでなく、ライフも考える必要があります。コロナで住む場所や働き方の選択肢も広がり、家庭や育児や介護など個々の状況も考慮する必要がある。以前のようにキャリアだけ考え、より高いポジションや年収だけに目を向けるのではなく、その求職者にとっていい会社の定義は何か、考えないといけません。そういったライフも含めて相談いただけるような関係性をつくるには、コンサルタントの力量や、知るべき情報の深さ・広さがさらに問われるようになるでしょう。