クライアントからのシェアNo.1になることを最重視。
コロナ禍もチャンスに変える真の顧客理解とサービス

四国エリアに特化して、幅広い人材ビジネスを展開しているアビリティーセンター株式会社。コロナ禍で求人数が減る中でも、業績が伸びている理由は、徹底した顧客理解と個社ごとにカスタマイズされたサービスにあることを、三好社長は明かす。今後のビジネス展開や、初の海外進出となるマレーシア展開まで語ってもらった。

求人数減少でも業績が伸びている理由

まず御社と事業の概要について教えてください。

弊社は四国エリアで、4県それぞれに拠点を置いて、総合人材サービスを提供しています。メニューは人材派遣、人材紹介、業務委託、研修、組織開発コンサルタントや外国人の採用支援、グループ会社では障がい者の就労支援など、人に関する課題を総合的に解決できる体制です。特徴は、マーケットインの考えを徹底していること。お客様に向き合い、現場の課題やニーズを細部までくみ取って、最適なサービスを提供しています。そのため同じメニューでも、一律の内容ではなく、地域や個社ごとにカスタマイズされたものになっています。

売上げが最も大きいのは派遣事業で、全体の約8割。近年はBPOにも注力しているのですが、どのサービスというよりも、あくまでお客様の課題解決のためにできることをする、という視点を大事にしています。

新型コロナウイルスは、人材派遣事業にはどのような影響をもたらしているでしょう?

求人数は前年比で2~3割減っています。派遣スタッフの雇用は維持されているものの、増やすまでには至っていません。取引社数も減少しましたが、一社当たりの平均売り上げは増え、結果的に全体の業績は伸びています。その理由は、弊社が業界シェアよりも、クライアント内でのシェア一番を目指してきたことにあると思います。そうすることで、新しい課題が発生したとき、最初に相談してもらえるようになるからです。

今回であれば、コロナ関連の情報連携にはとても気にかけています。例えばスタッフがコロナに罹患したり、濃厚接触者になったとき、いかに迅速な対応をできるかが求められるからです。そのために、各クライアントと協議し、そういった事態が起きたときにはどうするかを、事前に細かく決めてきました。そこで蓄積したノウハウをもとに、企業向けの無料セミナーなども開催しています。

リーマンショックのときもそうでしたが、景気の後退期には、顧客シェアの高い人材会社以外は、お取引を打ち切られてしまいます。トップシェアであれば、今回のように環境が大きく変化するときは、むしろチャンスになりえるのです。

数字で測りづらい指標を最重視

派遣事業で重要視している指標を教えてください。

クライアント企業をいかに深く理解するか、を重視しています。具体的な行動としては、商談回数や提案数、新しく何人の社員と接点を持ったか、など。これらが増えれば、おのずと組織理解が深まるからです。粗利益率も重要視しています。単純な値引きを良しとせず、顧客理解を深めることで、サービス品質を高め、粗利益率の向上につながります。

スタッフの継続率ももちろん見ていますが、100%だったら、無理やり継続させていないか心配になってしまいます(笑)。それよりも長期的な関係を築き、5~10年後にまた相談してもらえるかどうか、家族を紹介してくれるかどうかなど、数字では測りづらいことを大事にしています。

上記以外の細かいKPIは、商談や取引の履歴、日報などをCRMで全員が共有し、拠点ごとに議論しながら都度変えています。どのお客さんを重点的に攻め、どのサービスを提供するか、などはオフィスごとに裁量を持ってもらい、いい事例を共有したり、マネージャー同士で定期ミーティングをしたりすることで、それぞれの組織の発展を目指しています。

顧客理解を重視しているのは、どのような背景があるのでしょう?

近年、クライアントから求められるニーズが細分化しています。以前は同じ会社の中で、ある部署にだけリモートワークやフレックスタイムを導入すると、不公平だという声が上がりがちでした。現在は、部署はもちろん個人によっても、働き方や制度が異なるのは当たり前になっています。その分、求められることが細分化され、人事担当者に話を聞くだけでは十分ではありません。クライアントの色々な方に話を聞き、組織を構造的に理解することで、細かなニーズにも応えられるサービス提案ができるのです。

コロナで働き方が加速的に変化していますが、どのように対応し、サービスに反映させていますか?

弊社の重要なミッションのひとつは、〝多様なキャリアや働き方をお客様と一緒に作っていく〟です。そのためには、自ら新しいことに取り組み、お客様にフィードバックできなければいけません。弊社では、コロナ前からリモートワークやフレックス勤務、HRテックやZoomの活用、外国人採用などを行ってきました。地方の労働環境の柔軟性は、都市部よりも弱いと思います。例えば派遣社員では、リモート勤務に切り替わっているのはごく少数で、お客様からのニーズも伸びていません。都市部の感覚で提案をすると、スピード感が合わないのです。そこで自分たちが実践しながら、いいことも悪いことも正直に伝えたうえで、サービス提案しています。

マレーシア進出と新サービスの背景

御社は2021年1月、マレーシアの人材ビジネス会社の株式を取得しましたが、その狙いについてお聞かせください。

10~20年後を見据え、会社を持続的に成長させるためには、四国以外にもエリア展開していく必要があると以前から考えていました。ただ国内だと、派遣事業は成熟していますし、私たちが事業を行う価値も見出しづらい。そこで国内に限らず、人材ビジネスが未成熟な地域で、地域社会に必要とされるサービスをつくっていきたい、という視点で海外に着手したのです。

マレーシアを選んだのは、縁があって現地の会社と話をするうちに、非常にチャンスのある市場だと感じたからです。理由として、派遣事業がまだ育っておらず、労働者の保護も強いので、介在価値を作りやすい。また政治が安定し、ほかのASEAN地域より経済が成熟していることも理由です。実際、今年最も有望な人材派遣のマーケットとして、マレーシアが世界一という調査会社の発表もありました。

現地でしていくことは、今と同じで、企業の人的課題をいかに解決するかです。日系企業向けのサービスに焦点を合わせようとは思っていません。日本で培ったノウハウや事業モデルがそのまま通用するとは思っていませんが、株式取得した現地企業を支援していくことで地域にとって喜ばれる事業として発展させることができると考えています。

ありがとうございました。最後に今後のビジョンを教えてください。

今後もクライアントの細かなニーズに応え続けていきます。そのためには、サービスの幅を広げる必要があります。その一環として、現在試験的に実施しているのは、個人と農家をつなぐマッチングサービス「農How四国」です。農家は繁閑の波が大きいため、ある時期だけ人手不足になります。そこへ、登録している個人が応募するのです。このサービスも、農家が困っていると、ある農協組合様から相談を受けて始めたものです。

これからも、お客様のために何とかできないかと、新しいサービスを作り続けていきます。結果的に、地域の会社のニーズに応えると同時に、私たちの存在価値にもなっていくのだと思います。