大転換を迎えた社会と人材ビジネス。
今、ブランドプロミスを掲げる大きな意義

保険事業を中核とした東京海上グループで、総合人材サービスを提供している東京海上日動キャリアサービス。現在を社会の大変革期と捉え、未来へ向けてさまざまな施策・取り組みを始めている。その具体的な内容や、社員や社風に生じた良い影響など、同社の田﨑社長に聞いた。

社会も人材ビジネスも大転換していく

新型コロナをはじめとした様々な社会の変化の中で、労働市場や人材ビジネス業界はどう変わっていくと思われますか?

グローバルな技術革新によるDX化が進む中、デジタルの活用により、多様な人材が生産的かつ創造的に、時間や場所に縛られない働き方を実現できる時代が到来しています。一方で労働人口の減少や環境問題に待ったなしの対応を迫られ、新型コロナウィルスのパンデミックが世界の構造を一変し、人々の間に心理的・物理的な距離感を生じさせています。不透明な先行きに誰もが不安を抱え、政治経済、科学技術、文化、社会などあらゆる構図が大転換する中で、過去が通用しない、予測できない事象に立ち向かっていかなければなりません。

働く視点では、正規や非正規、正社員や派遣社員、フルタイムやパート、年齢や就労時間・期間などの区分が意味を失い、単なるワークスタイルとして捉えられるようになっています。日本型の雇用環境の重要性が下がっている中、一人ひとりが仕事を通じて、どのように社会参加するかが重要視され、評価される時代になります。

人材ビジネス市場は、派遣や紹介、請負やメディアのボーダーレス化が進み、参入障壁が低くなり、新しいプレイヤーが登場しています。〝働く〟が多様化する、こうした変化にどのように対応していくのか。「経験がない、実績がない」ではだめで、「なければ創る」という発想を持つことが必要であり、だからこそ、事業としての揺るがない軸とでもいうようなものがとても重要になってきます。

そのような状況の中で、御社が目指す人材ビジネス企業のあり方を教えてください。

2018年に、「働く人、社会からの期待に応えていくこと=社会課題解決への貢献」が当社の存在意義であり、それは「従業員一人ひとりが、お客様のお役に立ち社会に貢献することを通じて、自らも成長し充実していく」ことで実現されていくものと定義し、新たな働き方の創造を目指す社内活動をスタートさせました。

そして、2019年秋から、組織・事業・従業員が一体となってステージアップしようという全社活動、「STAGE UP プロジェクト」を推し進めてきました。プロジェクトは、①仕事を通じた、自分らしい人生、を中心に ②事業戦略 ③事業スピード ④組織制度/人事制度 ⑤仕事の目的・進め方 ⑥働く環境、の6つの視点を繋げた五芒星のような星形を概念図として、具体的な取り組みを進めています。全てが相互に作用していて、一つだけ突出しても欠けても「その輝き=効果」は失なわれます。

昨年、事業としてのゆるぎない軸を、ブランドプロミス「ひとりひとりの『働き方』に寄り添う力」と言語化し、自らの誓い、社会への約束として宣言しました。

東京海上グループの総合力を活かし、総合人材サービス事業として、ブランドプロミスの実現に挑み続けていく、正に、東京海上グループの存在意義の実現に繋がってくと考えています。

ブランドプロミスから生まれた事業や取り組み

ブランドプロミスの具現化のために、具体的に始めた事業はありますか?

「働く」を求める人へ幅広く「働く」を提供する、新たな挑戦として、4つの新しい事業を立ち上げました。

一つめは、コロナ禍もあって困窮しているシングルマザーの方々への就労支援です。シングルマザーの方々は、おひとりお一人バックグラウンドが異なります。NPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」と提携し、無償の教育研修プログラムを提供しながら、様々な制約を極小化して、働くことに繋げていきます。

二つ目は、「意志ある寄付で社会を変える」を使命に活動されている、パブリックリソース財団と協働し、「働く力応援基金」を設立しました。働くことに困難を抱えた方の就労を支援するNPO団体の活動をサポートし、新たな社会創造にチャレンジしていきます。

三つ目がプロ人材のマッチングサービス「PRODOR」。経験豊富で専門スキルを持つミドル・シニア層のプロ人材と、経営課題を抱えた企業をマッチングします。時間や場所、雇用形態に捉われない、ひとり一人に合った働き方をどう実現するのか。経験豊かで専門性を持った人材の活躍を目指します。  四つ目は、「ライフスキルトレーニングプログラム」。競技力を高める能力は、社会で求められる能力そのものです。アスリートの競技力向上と社会的な自立の両立を支援します。

この四つに共通すること、それは「寄り添う」です。実際にソリューションを発想し提供していくことは決して簡単ではありませんが、「寄り添う心」を持つことは努力次第で出来ると信じています。まずは一人ひとりが「寄り添う心」を持つことが、全てのスタートになると考えています。

社内環境や働き方ではどのようなことを導入したのでしょう?

組織の垣根を超えた情報交換やコラボレーション、アイデアの創出、生産性・クオリティ向上、そして、イノベーションを起こす環境を創ることを目指して、2018年から「オフィスイノベーション2020」を始めました。

このプロジェクトを進めていたところ、2020年に新型コロナウィルスが発生。感染が出た場合に経路がたどれないことから、フリーアドレスを見直すべきという声もありましたが、従業員同士が対面で座る従来のデスク配置では、むしろ感染リスクが高まります。ならば、アクリル板を置くなどして、感染症対策を徹底として推し進めつつ、フリーアドレスなどの利点を引き出して、コロナ禍の閉塞感を乗り越えようと試みました。

守る部分は守りつつ、逆境をポジティブに捉え、前向きに考え行動しなければ、私たちは閉塞感に押しつぶされてしまいます。この「会社に来たくなる、オフィスづくり」も未来に向かってポジティブに工夫をしていく大切な取り組みです。

一連の取り組みで、社員たちのステージアップを実感していますか?

様々な局面で実感しています。例えばシングルマザーの就労支援は、子ども食堂がコロナで開催され、どうにかできないかという思いがきっかけでしたが、子どもの困窮を解決するには、親の就労支援が問題解決の本質だと気づいたことから始まりました。正に、子供の困窮の先にあるお母さんの就労に解決を求める、「一つ先の、想像力・創造力」の結果です。 

ここで、特に触れておきたいおきたいことは、ステージアップは新しいことへの挑戦だけではないということです。コロナ禍でリアルなコミュケーションは制限されていますが、この状態を何とかしようと、ITインフラを整備・強化しつつ、従業員自らの発想で全社・従業員を「つなぐ」取り組みが進んでいます。社内報のアプリ化による社内情報のタイムリーな共有や全社オンラインミーティングなど、これまでにないやり方が生み出されました。また、これまでになかったスピードで、社内ルールの見直しやマニュアルのデジタル化、ペーパレス化、事例共有など、日々の業務改善にも創意工夫が起きています。

足元のステージアップで次のステージアップを目指す、こう考える社員が増えれば、永続的な成長が実現し、〝いい会社〟になっていくと信じています。

3年連続で顧客満足度1位の秘訣

派遣事業がオリコン顧客満足度調査で、3年連続1位に輝きました。その秘訣を教えてください。

従業員の皆さんに聞くと、共通していることは「相手の立場になって寄り添う姿勢」でした。コロナ禍で直接会うことが難しい中、あらためて、「寄り添う」という言葉の重要性を感じ、一つひとつの接点を大切にしてきました。そこを評価いただけたのかと思います。

当然のことながら、厳しいご指摘・ご要望もあります。「本当に、私は今、寄り添えているか」を立ち止まって問い直し、改善に活かしていこうと、みんなで声を掛け合っています。

1位と言っても、各社の差はほとんどありません。派遣業界全体が、派遣社員に真摯に向き合い、みんなで高め合っていければと考えています。

派遣事業では、どのようなKPIや目標を設定していますか?

一般的な経営指標は掲げていますが、売上高や収益率などからだけでは、弊社の存在意義が社会に届き、高まっているのかをうまく測ることはできません。事業が社会課題の解決にどのように貢献しているのかを、データで追っていくことが出来るようなKPIにはどのようなものがあるのか、模索中です。

別の観点で一つだけ決めているのは、2021年は会社全体の出力を10%上げよう、ということです。何を10%上げるのかは自由ですが、例えば営業目標10%増であれば、オーダーをどれくらい増やさないといけないか、自分たちで考え行動してもらっています。事務改善の提案を20%増やして、効率を10%高めようという挑戦でも構いません。

ただし、出力を上げるためにはインプットが必要です。一人ひとりが業務知識に留まらず広く社会に学ぶことが大切ですし、会社としてもそのバックアップをしていかなければなりません。社内報等で好取組事例の継続的な共有を行ったり、これまでとは違った「研修=気づきのプログラム」を用意したり、社内横断のプロジェクトを展開したり、仕組みを創り環境を整え、一人ひとりの意識を高めるアプローチを行っています。

コロナ禍でなかなかポジティブにはなれない厳しい状況が続いています。「インプットなくして、アウトプットなし」、明るい未来を描いて、プラスのエネルギーを高めていきたいという経営としての想いです。

ありがとうございました。最後に今後、中長期的にどのような組織を目指していくのかお聞かせください。

これまでもお話ししていますが、「一つ先の、想像力と創造力」を一人ひとりが発揮できるようになると、社会全体の前向きな力に作用して、連鎖的に付加価値が増していくのではないかと思います。これこそが私たちが目指すこと、東京海上日動キャリアサービスの強み=「寄り添う力」です。

従業員一人ひとりが圧倒的な当事者意識を持ち、社会と関わりながら課題解決へ向けて、仕事や働き方に関することを一生懸命プロデュースする。規模で社会をリードすることはできませんが、「共感の起点」でありたいと思っています。

舞台演劇のように序章、第一幕、第二幕と進み、フィナーレにはそうなれればと思います。そのために、プランドプロミスも「STAGE UPプロジェクト」も、そして新規事業も、そして日々の業務のすべてが、素晴らしいフィナーレにつながっていると働く仲間に語り続け、その実現をバックアップし、リードしていくことが、私たち経営陣の役割だと考えています。