変革するファッション業界で
WORKING DREAM®を実現する
ファッション業界に特化した総合人材サービスを行っている株式会社iDA。1999年にコンサルティング会社として創業した同社は、人材に限らず、ブランドが抱えるあらゆる課題解決の支援を行っている。教育力も特徴で、SDGsやDXなどへ対応できる、次世代販売員の育成にも積極的だ。人材派遣に固執しない事業展開で、業界に貢献し、派遣スタッフの夢も実現する。そんな思いを持つ同社の戦略・取り組みに迫った。
派遣先での正社員化を推進する理由
まず御社と人材事業の特徴について教えてください。
弊社は「専門性」「全国展開」「教育力」が特徴の人材会社です。創業時から、ファッション・ビューティ業界を専門に、販売員の人材派遣・紹介を展開してきました。2012年にはワールド・モード・ホールディングスを設立し、グループ会社を増やしながら、多様なソリューションとともに人材サービスを提供するようになりました。その結果、新しいクライアントやオフィス系の専門職など、人材サービスを提供する先が拡大しました。また、店舗の課題解決やダイレクトリクルーティングに加え、ウェブを使ったオンラインのサービスにも力を入れています。
理念に掲げているのは「WORKING DREAM ®」。ともに働く仲間が仕事を通じて、夢を実現することを何より大事にしています。だからこそ人材派遣に固執はせず、派遣先ブランドの社員になりたいスタッフがいれば後押ししますし、派遣先にも同じように表明。実際、年間1800人のスタッフがクライアントの社員になっています。また一方で、社員として弊社で雇用し、ブランドに派遣する「アンバサダー制度」も推進しています。この働き方は、安定した雇用のもと、当社の研修プログラムによってスキルアップを継続しながら、年齢やライフスタイルに合わせてキャリアを構築していけるメリットがあります。彼ら彼女らが、就業先で表彰されるなど活躍してくれることで、他のスタッフへの刺激や業界での信用にもつながっています。
同一労働同一賃金の対応では、アンバサダーに限らず全スタッフを対象に、業績に応じた賞与や退職金を支払う仕組みを導入しました。
「全国展開」は、事業にどのようなメリットをもたらしているのでしょう。
東京に本社を置き、全国に店舗展開するブランドが数多くあります。弊社は全国に22の拠点があるため、地方店舗に配属となったスタッフとも顔を合わせ、フォローや研修を行えます。ブランドの年間の採用育成計画から共有いただき、パートナーシップをもって対応させていただくこともできています。
また、ブランド店舗の店長や社員には、弊社の元スタッフが多くいます。営業担当が百貨店や商業施設を訪ねると、新店舗や採用ニーズに関する情報が入ってきやすい。こういったつながりが全国にあるのも強みです。
教育体制についてもお聞かせください。
販売員が覚えることはたくさんあり、例えば春と夏では販売方法が全く異なります。そこでiDAカレッジという教育機関を整え、素材の知識、皮膚理論の知識、メイクアップのテクニック、販売テクニック、VMD※、接客語学まで様々な講座を準備しています。最近ではSDGs研修も実施しています。消費者の多くは近年、商品の製造過程で自然環境や生態系などが犠牲になっていないか考えてから購入するなど、サステナビリティへの意識が高まっています。またブランドも製品づくりでの配慮はもちろん、環境保護団体への寄付などの活動を積極的に行っています。SDGs研修は販売員のマインドや知識を高めることで、このような消費者とブランドの信頼関係をより強くする役割を果たすことが目的で、ほかのファッション系人材会社にはない取り組みです。
DXへの対応としては、オンライン接客研修に力を入れています。販売員によるコーディネートのSNS投稿、How to動画の展開、ビデオ通話やチャットによる接客、ライブコマースなど、販売員の接客力がオンラインで活かされる動きが活発になってきました。このような流れは、販売員の活躍の場を増やすだけでなく、在宅勤務など多様な働き方を可能にし、キャリアの可能性を拡げていくものだと考えています。
また、弊社では「次世代販売員プロジェクト」として、今夏から来春にかけて、未来のリテールを担う人材を育成し、業界に輩出していくため、新卒・第二新卒を300名採用する計画です。販売員のオンライン接客や、ECの進展によるカスタマーセンターの対応が重要視されるようになっています。そんな中、次世代のリテールを見据えて、販売員がシームレスに活躍できるよう、採用・育成を行うプロジェクトです。
※VMD:ビジュアル・マーチャン・ダイジング
苦しい時こそ理念に立ち返る
新型コロナウイルスの影響で、人材派遣の求人数や、クライアントの売上はどのように変化していますか?
店舗での販売員に限定すると、やはり求人数は減っています。ただ、カスタマーセンターやオンライン接客など、販売員がスキルを生かして活躍できる新領域の求人は増えており、オフィスや専門職の依頼も増えているため、業績は回復してきています。
クライアントの売上に関しては、百貨店やモールなど休業店舗でなければ、全体としてコロナ以前の約8割ほどです。一方で、コロナ禍での可処分所得がショッピングに向いていることもあるようで、一部のハイブランドでは前年比10~20%増のところもあります。ただ、高級品や嗜好品は、おしゃれをして店舗に行き、楽しい体験とともに買い物をしたい、というニーズがありますので、ECの売上が伸びつつも店舗販売のシェアが高く、休業はダイレクトにクライアントの業績に影響が出ています。
ウィズコロナの環境下で、どのようなことに注力していますか?
業界全体が大変な時期ですので、クライアントに寄り添った対応ができるように全社方針を決めました。社員自らの発案で1000社以上の取引先数をいかした、コロナ対応に関する情報共有の機会を創ったり、既存サービスの一部を無償で提供したり。クライアントの在庫を集めて販売する期間限定ストアの企画・運営、ブランドの資金調達を支えるためのクラウドファンディング立上げサポートなど、2020年以降は常に複数のプロジェクトが社内のどこかで立ち上がり、実行されています。
また、スタッフを何が何でも守るという考えが社内に浸透しており、健康面の不安、生活の不安、自宅待機の中で感じるキャリアの不安など、様々な不安を少しでも取り除けるように対応しています。雇用と生活水準の維持のために、給与の法定通り以上の補償が必要でしたので、昨年は赤字を受け入れることにしました。今年は社員の努力により、販管費のセーブと、取引先拡大によって緊急事態宣言の影響を緩和できたことで、赤字を回避できそうです。解雇を行わない姿勢は社内のモチベーションを高め、店舗再開時のクライアントの依頼へ迅速に対応することにつながっています。
緊急態宣言に伴い、自宅待機となっている多くの販売員を応援する活動の一環として、特設サイト「販売員応援プロジェクト」を立ち上げました。こちらはコロナで休業している店舗の販売員に向けて、アフターコロナに向けたスキルアップを在宅でできるように、社内外の専門家によるトレーニングコンテンツを提供しています。もともと、弊社のスタッフや販売員のためのアイデアだったのですが、クライアントも自社の販売員のサポートをしている中で役に立つと思ったため、当社スタッフでなくても利用できるよう、一般に開放しています。
最近では、クライアントからアフターコロナに向けて準備を進めようという話を聞く機会が増えてきており、中止になった海外展開の準備を再開する動きもあります。ここからはクライアントやスタッフと力を合わせて、ファッション業界の回復に向けた活動をスピードアップしていきたいと思っています。
ファッション業界の人と企業に愛され続けるために
御社はワールド・モード・ホールディングスグループの人材サービス企業ですが、グループ内には、コンサルティング、マーケティング、VMD、リテールテック、ストアマネジメント、トレーニング、海外事業などさまざまな会社がありますが、人材ビジネスとのシナジーを教えてください。
人材ビジネス企業の使命は、そのサービスの提供によって企業のビジネスゴールを達成することです。それは人にも企業にも長期的に貢献することに繋がります。例えばマーケティングやVMDが不十分だと、来店するお客様の数は増えません。ブランドが成功しないと、働く人材も幸せになれない。そのため弊社は、ファッション業界に精通したスペシャリスト集団をグループに置き、チームを組むことで、ブランドごとに最適なソリューションを提供しています。そうすることで顧客との対話が深まり、質の高い人材サービスが提供できます。
最近の事例として、大手商業施設の売り場の立ち上げから運営までお手伝いさせていただきました。トレンドであるソーシャルマーケティングを活用するコンセプトで、店舗のデザイン・施工からお手伝いし、販売員がインフルエンサーになって、ライブコマースで集客・販売につなげながら、マーケティング会社がサポートを行っています。グループ会社に様々な専門家がいることは、お客様のご支援はもちろん、派遣スタッフへの教育にも活かしています。
最後に今後の業界を取り巻く環境変化を踏まえて、ビジョンを教えてください。
ファッション業界全体が変革していく中で働く人に新たなスキルが求められ、新たな職種ができることに繋がり、世の中全体では副業がもっと一般的になると考えています。その中で「ELF(リテール人材キャリア応援プロジェクト)」を中心とした研修事業や、「My BRANDS」を中心とした転職支援サービスにさらに力を入れていきます。また、短時間就業のマッチングサービス「Usmo」や、インフルエンサー活動の評価システムなど、副業を支援するサービスも推進していきます。
ファッション業界の構造が変化する中で、そこにサービスを提供する人材ビジネスも変わらないといけません。営業担当者は、もっとクライアント担当者との間で、店舗や事業の成功について議論し、コンサルテーションを提供できるスキルが必要になると考えています。求職者は企業に依存するのではなく、自らキャリアを構築していくことが求められるようになるため、人材コーディネーターは業界知識やキャリアコンサルティング力がますます求められるようになると考えています。人材ビジネス業界でもDXが進んでいくと考えていますが、このようなコンサルテーション力やトレーニングといった人ならではの機能が、人材ビジネス業界において人が介在する価値として、引き続き必要とされていくと考えています。専門家が多く在籍するグループの一員である特長を活かし、専門性を磨いていくことで差別化を図っていきます。象徴的な例として、2019年からはじめた覆面調査員が店舗のCS・ESを調査するクラウドサービス「SEEP」は順調に推移しており、当社の専門性を高めています。
少子高齢化、労働人口の不足などが今後予測されていますので、海外展開を進めていきます。日本の人と企業が世界市場に挑戦していくことや、世界の人と企業が日本市場を盛り上げていくことをサポートしていきたいと考えています。
人は当社の財産です。人が活躍し夢を実現していける業界、会社であるために、仲間とともにビジョンを描き、実現していきたいと思っています。