コロナ、AI、人生100年時代。
変革の中で進める新しい事業と働き方とは

新型コロナによって社会も働き方も一変した今、パソナはどのような事業に注力し、自社社員の働く環境をどう整備しているのだろう。また、社会課題をどう捉え、解決に貢献するためどのような事業を進めているのか。本社機能の一部移転先となっている淡路島ではどのような取り組みを行っているのかも気になるところである。同社の中尾社長に、多くのことを語っていただいた。

人生100年時代、介護への対応が課題

新型コロナなどさまざまな社会変化がある中、直近で御社が注力している取り組みを教えてください。

直近では、職を失ってしまった方々のご支援です。パソナでは観光、航空、小売り、アパレル、ブライダルなどコロナの影響を受けた業界から、出向で約1000人以上を受け入れています。航空業界のCAやグランドスタッフは、接遇のプロで英語もできる。ホテルの管理職はシフト管理やイベントのプロ。各々お持ちの経験、知見を活かして活躍いただいており、弊社の事業とシナジーが生まれています。

本社機能の一部を段階的に移転している淡路島でも、未内定の若者、各企業の出向者やシングルマザー、留学生の就労支援を行っています。例えば、コロナで影響を受けたシェフのための集合型のレストラン施設「淡路シェフガーデン」がオープン。発表の機会がなくなった音楽家に、ミュージックカフェの運営や音楽活動をしてもらう「音楽島プロジェクト」など、弊社ならではの仕事と音楽や芸術などの融合を活かして、多様な方に活躍してもらっています。

新型コロナで非対面・非接触が推奨されていますが、社員や派遣スタッフの出社状況はいかがですか?

弊社では出社とテレワークを組み合わせたハイブリッドワークを推奨しています。理由としては、今年の新入社員は大学生活も就活も入社式もリモートで行い、入社後も誰とも会わずに働いている人も多くいます。これは普通ではありません。地方から上京してきた若者が、恐らく狭い部屋にこもって、快適に仕事をできるのか。机がない人は、ベッドなどで仕事をして体を傷めないか。リモートでは顔色もよく見えず、体調がいいのか悪いのかも上司は判断できませんし、気軽な会話もしづらい。弊社では社員や派遣スタッフの、フィジカル・メンタルをふくめた健康を守るためにも、感染対策を行いつつ、フェイストゥフェイスで接することができる環境は何かを常に考えています。その点、弊社の新入社員約160名は淡路島というソーシャルディスタンスの自然環境の中でリアルな研修を行っています。

働き方については、どのような方針を掲げているのでしょう?

人材派遣で働く方は、労働人口の3%以下であり、派遣以外でも多様な選択肢を持つべきです。まずは私たち自身が新しい働き方を見つけて、実践していこうと考えています。弊社では10年以上前からテレワークや複業、地方と都市間の2拠点生活などハイブリッドワークを提唱しています。最近は単なる副業ではなく全てが本業のパラレルワークの方も増え、個人主体で働き方の選択ができるようになっています。これからも新しい働き方がたくさん出てくると思いますが、これから必要不可欠なのは仕事と介護の両立。人生100年時代と言われる中、60歳で定年を迎えても、ご両親が健在の方が多いです。介護をしながらいかに仕事を続けるかなど個人の事情に応じた働き方を考えていかないといけません。そのために弊社がプラットフォームとなり、さまざまな選択肢を提供できる体制をいかに作るか。まずは社内で自分たちが率先して行い、問題点を改善して、サービス展開していきたいと思っています。

コーディネーターは何のためにいるか

コロナ禍において、成長を続けているサービスを教えてください。

ひとつが、株式会社パソナJOBHUBが提供する、フリーランスのプロ人材と企業をマッチングするサービスです。これまで会社員として、昇進、昇格というキャリアしか考えていなかったけれど、今までの経験や能力を活かして社外でも活躍したい、と考える方がコロナを機に増えています。今までは中小企業に対し、大企業での役員経験・ノウハウを持つ方を顧問として紹介していたのですが、新規事業の立ち上げやSDGs推進などのノウハウを持つプロ人材を求める大企業からの引き合いも増えています。

他には、社員の健康を守るメディカル健康経営事業や、BPO事業、再就職支援事業などは、コロナ禍でも二桁成長を続けています。人材派遣は横ばいですが、人材紹介では即戦力のハイキャリア人材へのニーズは落ちていません。

様々な変化の中で、改めてコーディネーターに求められるスキル・マインドをどのようにお考えですか?

AIによるマッチングが進んでいますが、AIは伸びしろや成長期待を測れません。一人ひとりが持つ、自分では気づいていないスキルや強みをコンサルタントが見出し、引き出すことが必要です。また、モチベーションが下がっているときは、自信や元気を与えてポジティブになってもらう、カウンセリングスキルも求められます。

また営業は、スタッフの給料や処遇の交渉も行います。普通、社員の処遇に関する権限を持っているのは、企業であれば経営層であり、それと同じくらいの権限を持っている、スタッフの処遇を左右する非常に重要な仕事であるという認識が必要です。スタッフの言いづらいことも企業との間に立ち交渉してくれる、というメリットを、強く感じてもらう必要があり、それが我々の存在価値だと思うのです。

スタッフのキャリア支援でも、スタッフの派遣契約の継続が業績に繋がるという自分たちの論理ではなく、スタッフがどんな働き方や生活を望んでいるか考え、伴走しながら支えることが大事です。特に派遣という働き方は、いわゆるジョブ型雇用のため、そのままでは待遇が変わらない。スキルや経験がついてきたら、レベルアップした業務や正社員や起業などの選択肢を提案し、次のステージへ背中を押すこともコーディネーターの役割です。

そういった思いをコーディネーターに浸透させるために、どのような工夫や取り組みをされているのでしょう?

コロナ前にはスタッフとクライアントを招待し、運動会やクリスマス、ハロウィン、ニューイヤーパーティーなどスタッフご本人だけでなく、ご友人やご家族を連れてのイベントも頻繁に行っていました。ご家族と接点を持つだけで、スタッフの背景を知るだけでも身内意識を持ち、自分の家族と同様に、このスタッフのために頑張ろうと、私たちの気持ちも大きく変わります。このように、自分たちが意識変化を自発的に起こす仕組みをたくさん作るようにしています。

65歳以降のキャリアをどう築くか

スタッフを大事にする思いも、とても強いと感じます。福利厚生はどのようなものを用意されているのですか?

社内にスタッフ向けのネイルサロンやアロマサロン、ジム、リラクゼーションスペースなどを設置し、格安で利用できるようにしています。スタッフはもちろん、企業の担当者も気軽に来てくださっています。また保育所もあり、社員とスタッフは無料で使えます。また、24時間仕事やプライベートの相談ができる窓口や、グループ会社に福利厚生代行最大手のベネフィット・ワンがあるため、多様な福利厚生メニューを提供しています。

これから注力していこうと考えている事業・サービスがあれば教えてください。

株式会社パソナマスターズという65歳以上の方専門の派遣会社が伸びています。大企業のOB・OGのプラットフォームとしてたくさんのシニアの方が活躍されています。

また、人生100年時代、同じ企業で定年まで働く人も減っていくでしょう。そのため、40~50代からキャリアを再構築するための、在籍型の転身支援サービス「セーフプレースメント・トータルサービス」をスタートしました。

このサービスの本来の目的は、定年後も同じ企業で活躍してもらうための支援です。会社に残るか、社外で活躍するか。同じ〝残る〟でも、選択肢があって自ら選んだのか、そうでないかでは全く違います。専任のコンサルタントが、会社からの期待値を伝え、いかに活躍するかをご本人と伴走してアドバイスしていくのです。外で力を発揮したい方には、転身の支援も行います。このサービスはニーズが大きく、大企業を中心に100社以上に提供しています。

多様な働き方やキャリア、ライフスタイルの支援をし続けている御社は、どのように文化が醸成されているのかお聞かせください。

グループ代表の南部靖之は、大学生のときにパソナを起業しました。そのため、ベンチャーマインド、チャレンジしていくという強い発想があります。そのため、新しく事業を立ち上げたい社員を後押しするため、年一回「チャレンジの日」という新規事業提案制度があり、毎年2000件以上の応募があります。採択されたら、社内ファンドが伴走して起業を支援する仕組みです。

またシャドーキャビネット(政府や行政と同じ目線で社会の問題点を議論し、企業の立場からソリューションを社会提言する社内組織)では、社会課題毎にさまざまな省庁を設け、社会問題の原因追及や解決策などを、シャドーキャビネット国会で議論し、政府に提言したり、事業を立ち上げたりもしています。企業や組織に依存する体質にならないよう、互助の精神で、自立した個人がイキイキと活躍できる真に豊かな社会を目指す文化を醸成していくことが大事だと考えています。