リモート勤務の先の新しい働き方も。
増える選択肢の中で派遣会社がすべきこと

ITエンジニアや女性の就労支援サービスに強みを持つ株式会社キャリアデザインセンター。新型コロナの影響は、当初、同社の派遣事業にも大きな影響をもたらしたが、早期の業績回復のカギとなったのは、同社の派遣事業がIT領域に特化していることで行えた派遣スタッフのリモートワークへの迅速な切り替え対応だった。そのリモートを含め、これまでの派遣の概念や働き方が変わっていく中で、同社が一貫して大事にしていることや、目指すことを中村氏に聞いた。

リモートワークへの切り替えで継続率がアップ

まず御社の事業について教えてください。

弊社は「type」というブランドで、転職メディア事業、人材紹介事業、新卒採用事業、そしてIT派遣事業と4つの事業を展開しています。総合人材会社ではありますが、「キャリア志向の高いエンジニア・女性」という領域を強みとし、首都圏を中心に展開しているのが特徴です。そのような中で、IT派遣事業の売上は現在、会社全体の売上の半分近い規模となっています。

2020年4月、IT派遣を行っていた子会社のキャリアデザインITパートナーズを吸収合併し、同社はキャリアデザインセンターのIT派遣事業部となりました。どのような経緯があったのでしょう?

弊社が派遣事業を立ち上げたのは2010年。派遣事業としては、後発の参入であったため既存の転職メディア事業、人材紹介事業で培ってきたITンジニア領域に特化した人材派遣ということを特徴に事業をスタートし、順調に成長してきました。ただ新型コロナの影響で、IT派遣事業を含め、各事業の成長が一時的に停滞してしまうという状況になりました。これを機に、派遣事業の観点だけではなく、改めて全社の観点からもコスト面や効率面などを鑑み、派遣事業を統合した方がよりシナジーが利き、これから先、派遣事業をはじめ、全社の事業を成長路線に乗せることができるのではないか、という意志や決意で統合しました。

コロナ禍で、派遣事業にはどのくらい影響があったのですか?

2020年4月の時点で、約1000人のスタッフが稼働していましたが、緊急事態宣言を受けて多くが出社できなくなってしまいました。そこで、早い段階でスタッフをリモートワークへ切り替えるために動いていきました。4~6月は派遣先企業や派遣スタッフとリモートワークで仕事をする段取りや条件を詰め、7月からの就業はリモート前提で進めていきました。現在は約1200名超の派遣スタッフのうち、約7割がリモートで働いています。弊社の派遣先にはIT・WEB系企業が多く、企業側のITリテラシーが高いことも功を奏し、リモートワークの設備や文化を柔軟に受け入れてくださったのも、比較的スムーズに切り替えが進んだ要因です。

いち早くリモートワークを導入して、どのようなメリットがありましたか?

継続率が格段に上がりました。スタッフからは、リモートの方が仕事をしやすい、通勤のための時間や手間も無くなり楽になった等、様々なプラスの声が聞かれました。派遣先企業様側でも、スタッフが働きやすいシステム環境を整えたり、オンラインで朝礼をしていただいたり、フォローのための個別ミーティングをしていただいたりと、スタッフとのコミュニケーションにかなり時間を使っていただいています。実際に私たちが見ても、不安や不都合を抱えているスタッフはほぼおりません。リモートが浸透する前は半年ごとなど、一定の周期で就労先を変えていたスタッフもおり、スタッフ側の申し出で離脱してしまうのをなかなか防げませんでしたが、今は、現職場での就労を継続したいというケースが増えています。

多様かつハイブリッドな働き方が増えていく

派遣スタッフのリモートワークは、今後さらに増えていくと思いますか?

リモートワークが成立することは、派遣会社も派遣先企業もスタッフにも浸透しています。場所を選ばないこの働き方は、さらに増えていくと思います。私たちも、スタッフに出社してほしいという企業には、「この時勢なので、リモートワークで就労を可能にしていただいた方が候補者が集まります」「スタッフも安心して働けます」と説明し、できるだけ理解と協力をお願いしています。最近では、リアルなコミュニケーションの機会を混ぜた方がいいと考える企業も出てきており、週4日はリモート、週1日は出社など、ハイブリッドの要素も加わることがあります。派遣でのリモートワークは、副業やフリーランスなどと同じように、多様な働き方のひとつとして定着しつつあるので、新型コロナが収束しても極端に減ることはないでしょう。

登録者・求人企業の開拓方法はどのように行っているのか教えてください。

リモートワークの導入に伴い、登録者も増えつつあります。弊社は首都圏で事業展開しており、事業展開のエリアも基本的には東京23区中心でした。そのため、少し離れた場所にお住まいの方には、登録いただいても、なかなか就労機会を作るのは現実的ではありませんでした。しかしリモートワークの普及に伴い、決められた場所に出社するという概念がなくなりつつあり、スタッフは就業先や働き方の選択肢が増えています。実際に、従来であれば通勤が難しかった登録者にも、就労の機会が広がっています。

企業に対しても、オフィスが23区にあるかどうか限定せず、従来アプローチしていたエリア外にアプローチをかける機会も増えました。

マッチングの最終調整はアナログで

派遣事業はどのような組織体制なのでしょう?

派遣事業に携わっているのは約80人です。その中で、営業、コーディネーター、登録担当の3部門が連携し、新規の稼働をつくるための動きをしています。求人や求職者は日々増えてはいますが、必ずしも求人と求職者の要件が100%マッチする案件はなかなかありません。そこで、営業とコーディネーターと登録担当が、密にコミュニケーションをとることで、企業側の求人要件の調整や求職者側の希望の調整をはかり、できるだけマッチさせるための調整を行っています。例えば、「この求職者はこのスキルは弱いが、変わりにこのスキルが強く、そこで企業側の要望に対応ができるのではないか企業に相談してみる」「この求職者は15時までの勤務を希望しているが、16時まで延ばしたりはできないのか求職者に相談してみる」といったやりとりを頻繁に行っています。こういった部署間のコミュニケーションをしやすいよう事業部内の席のレイアウトも営業やコーディネーターが往来しやすい配置にしています。また、各セクションが自分のセクションの利害に偏って業務を進めてしまうことがないよう、登録から稼働決定までの一連のプロセスの中で、水が上から下に無駄なく・ムラなく流れるようにするために、営業やコーディネーター業務などの役割を熟知したメンバーで構成する担当部門に、常に全体を管掌してもらっています。

テクノロジーの進化で、自動マッチングが進んでいきますが、弊社は最後のチューニングはこのようにアナログで行うことが大事だという考えで取り組んでいます。

営業とコーディネーターが連携しつつ、分業にしているのはどのような理由ですか?

営業は求人開拓、コーディネーターは面談や案件の打診という風に、役割分担するのが最も効率的だと考えています。特に営業は、同じ企業で案件を増やすことも大切にしながら、よりたくさんの新しい企業から求人案件をいただくということも大切にしています。企業数が増えることで、求職者に案内できる選択肢も増やすこともできますので、分業にすることでこれを実現しています。

派遣事業の事業部長である中村さんが、マネージャーたちによく伝えている、大事にすべきことがあれば教えてください。

派遣事業部のマネージメント層は、部長や課長を含めて約15人います。事業が成長していくために、マネージメント層には各役割の中で高いパフォーマンスを求めています。そのために、以下のようなことを伝えています。

①特別凄いことをやるよりも、日々の当たり前のことをしっかりやり続けること。平凡な事を徹底して継続することの中から、非凡な成果が生まれてくる。取引先やスタッフに対しても当たり前の対応を当たり前にやり続けられることが高い信頼を勝ち得ることにつながる。

②物事が成功するかどうかは、施策(計画)2割、実行8割です。どんなに素晴らしい施策を立てても、実行の過程がいい加減だと成果は出ません。そのため常時過程のチェックに力を注ぐこと。

③どんな場面でも、「ちょっとおかしいな」と感じたら、何となくその場面を通り過ぎてしまわず、小さな対応でもよいので対処をすること。その場は、まぁいいかで通りすぎることが出来ても、それが後でとんでもないことになってしまう場合がある。

④自分のメンバーの機微を感じ取って対応できる、ヒューマンスキルを磨いて欲しい。メンバーたちは何に関心を持ち、どんなことで悩んでいるかに敏感になって欲しい。メンバーは必ずしもそういったことを口にはしてくれません。そこを感じ取れる感性を磨くことやメンバーにより興味を持つことが大事です。例えば、メンバーの朝の出社時や何気なくトイレに行くときの、メンバーの表情に気を止めてみてほしい。悩みや不安・不満を持っているメンバーは、仕事中に夢中になっている瞬間よりも、ちょっと気が緩んでいるシーンの表情に心の内面が表れる。

ありがとうございました。最後にこれからの御社の目標をお聞かせください。

現在のスタッフ稼働人数は1200名程度ですが、さらなる事業拡大にあたり、まずは稼働人数を2000人に増やすことを目標にしています。その目標の実現のために、今後は新卒・中途共に採用も強化し、組織も大きくしていきます。