事業規模やシェアの拡大よりも
ライバル会社への奉仕に力を入れる理由

製造業に特化した人材派遣などを行い、本社を置く愛知県ではトップクラスの規模をほこるMan to Man株式会社。人材サービスに加え、これまでにない求人メディアやデータベースの運営、クライアントのDX化推進、在日外国人のための生活情報サイトなど、幅広い取り組みを行っている。これらすべては、自社の利益ではなく、「派遣業界のため」と手島社長は言い切る。ギブ・アンド・テイクならぬ「ギブ・ギブ・ギブ」の先に、思い描く業界の未来図を聞いた。

製造業はこれから回帰が始まる

御社は人材派遣をはじめとした総合人材サービスを展開しています。事業概要についてまずお聞かせください。

弊社は1991年に設立しました。愛知県を中心に、全国に14の拠点があり、クライアントの99%が製造業です。売上の約9割が人材派遣ですが、利益の約半分を占めるのは、リーマンショック以降に始めた自動車メーカーへの期間工の紹介。元々、派遣事業であった約200億円の売上が、リーマンで減少したのを機に始めた事業で、現在はすべての自動車メーカーとお取引があるほどに拡大しています。

新型コロナでは、事業にどのくらいの影響がありましたか。

コロナ以前は、最大で年間3000人の求職者を職業紹介していましたが、半分ほどに落ち込みました。多くのメーカーで、海外から調達していた部品の流通がストップしてしまい、稼働できなくなっていたのです。弊社のクライアントも、まだ半分くらいしか稼働していませんが、コロナが落ち着きつつあるため、これから製造業は回帰が始まると思います。

弊社が行ったこととしては、まずリモート勤務の導入です。どうしても出勤が必要な社員には、時差出勤をしてもらいました。ただ、クライアントは製造業なので、スタッフは出勤しないといけない。そのため、担当の社員も現場に行く必要がありましたが、その場合はボーナスの増額などでフォローしました。また稼働できなくなったスタッフには、100%の給与補償を行いました。

業界全体にメリットをもたらすサービス

人材派遣専門の求人サイト「GAYA」を運営しています。どのようなサイトなのでしょうか。

業界初となる、派遣の仕事情報だけを検索できるサイトです。ディップさん、マイナビさん、その他優良媒体をクローリングし、求人情報を収集。ユーザーは職種と勤務地をキーワード検索するだけで、希望の求人にたどり着けます。現在もバージョンアップ中で、大手検索エンジンにある機能はすべて実装させる予定です。

GAYAと連携した、派遣専門の求人データベース「Crew」も運営しています。派遣会社は一般的に、媒体に料金を支払い、保有している求人案件の中から、任意のものを掲載しています。それ以外の求人は、自社のWEBサイトなどに載せていることが多いけれど、閲覧されづらい。それを、Crew経由でGAYAに掲載し、応募の入り口を増やせるサービスです。登録できる求人数は無制限で、費用は一企業につき月額1万円~。たくさんの派遣会社さまに御賛同いただけることを見越しての料金設定にしました。

これらのサービスを立ち上げた経緯や思いについて教えてください。

もともとは派遣スタッフの地位向上です。「GAYA」「Crew」を活用することで、派遣会社は広告費を抑えて人材を獲得できる。するとその分、時給を上げられる。派遣スタッフへの教育やキャリアアップも必要ですが、収入が上がれば生活に余裕も出ますし、周囲からも認めてもらえます。そうなってほしいので、GAYAは時給が高い順に表示される仕様にしています。派遣会社は、時給を上げることでクリック率も高くなり、皆にメリットがあるのです。

ですので、GAYAは派遣会社が乗り込む船に見立てており、乗組員を意味するCrewという名称にしています。もっと広めるためにTVCMを検討していて、多くの方に認知、利用されることを願っています。

「不本意型」のスタッフを減らす

派遣スタッフの地位向上を目指されているとのこと、やはりまだまだそうでない現状があるからでしょうか?

はい。派遣スタッフとして働きたい、と応募してくる方は「本位型」、そうでない方が「不本意型」です。私の感覚では、派遣で働いている方の半分くらいが、この不本意型だと思います。不本意型を減らすことで、人材派遣のネガティブなニュースや印象も少なくなる。そして派遣スタッフたちの時給が上がり、好きな仕事を選べて、私生活も充実すれば、本位型が増えるでしょう。派遣業界を良くして、いいところを発信していくために、GAYAやCrewを活用いただきたいと考えています。

派遣会社やスタッフを含めた、業界全体を良くしたいという思いを感じます。

そうですね。弊社には、クライアントにデジタル推進を行っているチームがいます。昨年はベトナム・ハノイに、オフショアラボ構築サービスを行う「Man to Man Vietnam Co., Ltd.」を設立し、そこで開発も行えます。GAYAやCrewのような、世の中の派遣会社が喜んでくれるシステムやサービスを開発して、派遣業界で展開していきたいですね。

派遣事業では今後、規模やシェアの拡大を目指していくのでしょうか。

そういった気は全くなく、身の丈に合った今のままで十分です。リーマンショックを経験してから、堅実な考え方に変わりました。派遣業界は景気に左右されやすいですが、社員たちにそれなりのお給料を渡せて、会社にも十分なお金が残り、スタッフたちも常に働ける場所があれば、それでいいのかなと思います。

だからこそ、クライアントは選ばせていただいています。まず、派遣スタッフを人として見ずに使おうとしている企業は論外です。法律を遵守しない企業も同様です。2007年まで、製造業への派遣は最長1年でしたが、それ以上継続させるために書類をごまかしてほしい、というクライアントの申し出はお断りしてきました。やはり、対等なパートナーとして、派遣会社を見てくれる企業でないと長続きしません。もちろん、弊社がもっと力をつけることも、よい関係構築のために必要だと考え、努力するようにしています。

日本で暮らす外国人の不便を解消

では今後の展望や、取り組んでいきたいことをお聞かせください。

弊社には日系ブラジル人の社員がいるのですが、その者が中心になって、在日日系ブラジル人の人材派遣を始めました。社員には、日系人ということで安い料金を要求してくる企業とは、絶対に取引するなと伝えています。日本語が全くできないスタッフであれば、金額が多少下がるのは致し方ありませんが、そうでなければ日本人と同じ金額をいただいています。

日本のモノづくりはこれからもなくなりませんが、少子高齢化で労働力が減っていく中、自動化だけでは補えません。外国人の方にお手伝いしていただくしかないのですが、多くの企業は「働かせてやってる」という考えを持っています。そうでなく、「助けていただいている」という意識をもっと広めていきたいんです。

また、日系ブラジル人に働いてもらうのであれば、その人たちの生活のことまで考えなければいけないと考えています。例えば生活情報や緊急の避難指示、最近であればワクチン接種の情報など、外国語では英語、中国語、韓国語くらいしか発信されておらず、日系ブラジル人にとっては非常に不便です。そこで弊社は、ポルトガル語の生活情報サイトを開設し、運営しています。ゆくゆくは仕事情報も組み合わせて、来日したいブラジル人が現地にいながら日本での仕事を探せて、オンラインで面談もでき、住む部屋や頼れる人も探せるようにしたい。さらには日系ブラジル人だけでなく、ほかの言語でも、日本の生活情報と仕事情報を世界に発信しこうと考えています。

雇用や仕事のことだけでなく、生活まで考えてフォローしている派遣会社は、あまりないかと思います。

弊社では外国人スタッフに深く寄り添えるよう、日系ブラジル人、中国人、キルギス人、モンゴル人、ベトナム人の社員を雇用しています。またインターンシップとして、外国人留学生をこれまで百数十人以上受け入れており、外国人目線から「来日後はこんなことに困った」「こんなものがあれば便利」など、新規ビジネスのアイディアも出してもらっています。

外国人の派遣事業での規模拡大は考えていませんが、どうすれば彼ら彼女らが気持ちよく働けて、暮らしていけるか、時間をかけて考えていることが、大きな特徴になっているかもしれません。

最後に人材ビジネス企業の経営者として、大事にされていることを教えてください。

GAYAもCrewもそうですが、ギブ・アンド・テイクではなく、派遣業界全体に対して「ギブ・ギブ・ギブ」の気持ちで始めました。見返りなど求めていません。それは社員に対しても同様です。かつて弊社は、残業があっても固定給で、ボーナスもありませんでした。それを変えたんです。利益があまり出ていない年でも、マネージャーたちにボーナスで100万円を支給したら、泣いて喜ぶ社員もいました。弊社は特別な力はありませんが、マントゥマンという社名のように、人に向き合い続けることを大事にしていきます。