東北エリアの人材市場の現状と可能性。
多様な人材の活用が中小企業を支えていく

東北を中心に、製造業への人材派遣をはじめとした人材ビジネスを展開する東洋ワーク株式会社。リーマンショックや東日本大震災、新型コロナなどの逆風と向き合いながら、いかに成長してきたのか。また、今年45周年を迎え、アフターコロナを見据えたビジョンや取り組み、東北エリアの可能性、人材会社が求められる価値など、猪又社長に聞いた。

東北の経済にはグローバル人材が必須

まず御社の事業展開についてお話しいただけますか?

弊社は東北を拠点に、人材ビジネスを全国で展開しています。領域は製造業への人材派遣と請負が中心。海外ではインドネシアにも2つの法人を有し、技能訓練校として、現地での研修生の派遣と、国内向けの人材の教育・確保を行っています。またグループでは、セキュリティ事業や障がい者雇用の推進も行っています。

新型コロナによる事業への影響と、どのような対応をされたのか教えてください。

2020年2月に神奈川で亡くなった方が出て、またリーマンショックのときのようなことが起こるのではと考え、まず何をおいても資金確保をしようと、銀行の融資枠を確保しました。スタッフの雇用の確保は大前提なので、社員たちみんなで全国の製造メーカーに今の状況や方針など聞き取りをして、どこに人材のニーズがあるか、事業にどの程度の影響が出るか、などシミュレーションしながら動いていきました。営業はリモートでどうクライアントとつながるか、スタッフとの面談はどうするか、なども全員で模索していきました。

クライアントで最も影響を受け、最初に稼働が止まったのは自動車の製造工場。続いてタイヤなど、関連する部品製造現場にも広がっていきました。ただ一方で、食品加工やマスク製造、携帯組み立てなどの工場、健康食品、保険会社などのコールセンターは人が足りない状態。自宅待機のスタッフには100%の給与保証を行いつつ、派遣先を移動して働いていただきました。

製造メーカーの多くも手探りでしたが、完全に稼働を止めた工場は少なかったです。そして、自社の社員や派遣社員の出勤を少しずつ減らして、稼働を維持し続け、雇用を継続した工場が大半。働いている方が一度離れてしまうと、復職してもらうのが難しいと、多くの企業がリーマンショックや東日本大震災で学んでいたようです。

宮城県と連携して、外国人人材の雇用促進も行っています。具体的にどのような取り組みをしているのですか?

東北の経済を支えるためには、グローバル化が外せないテーマです。労働人口の不足を補うだけでなく、企業が生産活動を維持し、増収増益のために新たな商品やマーケットを開発するための人材が求められています。ただコロナの影響で、沿岸部の水産加工工場や農業などの現場に、技能実習生が来られなくなってしまいました。コロナ前からも、留学生が東北で就職できず、首都圏に流れたり、母国に帰ってしまうケースが多く見られました。

そこで宮城県と連携し、東北在住あるいは日本で働きたい外国人と、地元企業のマッチングから定着支援まで行っています。日本在住の方には、地元企業との面談や職場見学のツアーを実施。海外在住の方には、リモートでの会社説明会や、日本の企業で働くためのオンラインセミナーなどを行い、コロナが終息したら実際に職場見学をしてもらう予定です。

全体の労働力をコーディネートする

コロナも含めたさまざまな変化の中、人材会社が求められることはどのように変化すると思いますか?

多様な働き方を求める人が増えているので、一人ひとりに合った仕事の提供や、全体の労働力のコーディネートを含めて行う必要があると考えています。例えば主婦の派遣社員で、フルタイム働ける方のみの募集ではなく、「1日6時間・週2日だけ働きたい」「リモートで働きたい」といった方たちを組み合わせていくようなことです。また、「土日だけ農業を始めてみたい」という方に、仕事のイメージができるように動画などを用いて説明するなど、新しい見せ方も求められていくでしょう。

生産性向上の支援も必要です。会社が大きくなれば、本来業務以外にしなければいけないことも増えていきます。その棚卸をして、本当に必要な仕事だけに絞り込む。さらにツールなども活用すれば、これまで5人で回していた業務が、2人で足りるようになるかもしれない。外れた3人は、適正に合わせて新たなキャリアを進んでもらうのです。個人のキャリアの幅も広がりますし、必要な部署や業務にリソースを投下でき、生産性も向上します。

適材適所の配置を行う際、意識していることはありますか?

私たちは、障がい者の雇用促進に長く携わっています。障がいをお持ちの方は、何か一つでも秀でた能力があれば、どの業務で活躍できるかを見極め、配属しています。ただ、よく考えると、一般の社員でも同じこと。苦手な部分を克服させるより、得意なことに集中できる配置にすることで、業務の効率も品質も上がると思います。

また弊社では、全社員にできるだけ、外勤・内勤など流動的に経験してもらっています。そのため、「事務だけしたい」「営業はできない」という方には、仕事の幅を広げる取り組みを提案し、キャリアチェンジにもチャレンジして頂いております。

東北の中小企業は伸びしろがある

今後、強化していきたい事業領域を教えてください。

コロナ前から取り組んできたこととして、道路や建物などインフラの修繕に携わる、CADや設計ができる日本人・外国人をゼネコンに派遣してきました。ただ人材が不足しているため、育成にも力を入れていこうと考えています。また海外と比較したとき、日本は情報セキュリティが弱いと言われているため、その分野で活躍できる人材も育成していきます。講師は、弊社で採用した専門人材や、クライアントと一緒に行っていく予定です。

改めて、東北を拠点に置く人材会社として、どのようなビジョンを描いているか教えてください。

仙台市は政令都市の中でも、子育てで一度職場を離れたママの現役復帰は低い数字が出ております。また、後継者不足で解散してしまう老舗企業も多い。逆に言うと、東北の中小企業は伸びしろがあるということです。働きたい主婦や高齢者の方もいますし、コロナをきっかけに都市圏から移住を考えている人も増えています。秋田県や岩手県など、人材不足が深刻なエリアにも、首都圏で活躍した人材を採用するチャンスが高まっている。例えば首都圏からの移動希望者が仙台に住んで営業をし、秋田県の会社に週一度通い、後はリモート勤務というハイブリッドな働き方もできます。

また震災後、U・Iターンで多くの若者たちが東北に移住して、地元の企業で働くことで、新しい化学変化も起きました。商品のデザイン性や開発能力が高くなってバリュー上がり、新たな販売方法や海外展開を始めた事例もたくさんあります。多様な人材の活用方法や、企業とのコーディネートも含め、東北の中小企業の支援を行える仕組みを作っていきます。

人材会社として、企業へ提供するサービスの形も変えていきます。これまでは、求められるポジションに対し、最適な人材を提案していました。今後は、企業の課題や伸びしろを私たちが見つけ、そのために必要な組織や人材の提案まで行っていきます。