「挑戦者(ばか)が日本を元気にする」を理念に掲げ、ベンチャーに特化した経営幹部の紹介や、タレントシェアリングを行っているBNGパートナーズ。2021年、サブスク型の紹介サービスONBOをローンチした。その背景には、人材紹介の真の成功や、適切な報酬のあり方を問い直し、さらには同社の存在意義を見つめなおした経緯があるという。蔵元社長に、新サービスや人材ビジネスへの思いなどを聞いた。
人材紹介の成功とあるべき報酬制度
最初に御社のビジネス概要を教えてください。
弊社は2009年に創業しました。最初はリファレンス(求職者の経歴照会)が主な事業でしたが、リーマンショックの影響で買い手市場だったため、ベンチャーの経営幹部に特化した人材紹介も並行して行うように。特徴は、タレント(イノベーション・スタートアップ系の人材のBNGパートナーズでの総称)が人生をかけて何をしたいのかヒアリングし、志を重視したマッチングです。とはいえ一回の面談で引き出せるものではないので、すべての面談にコンサルタントが同席し、繰り返し話を聞くようにしています。現在、紹介事業は、ベンチャー×CxO領域でナンバーワンに成長しました。
4年前にはタレントシェアリング事業部を設立。背景として、労働者が多様な働き方を求めるようになり、雇用形態も正規か非正規かはあまり重要ではなくなりました。企業も、正規雇用では採用が難しい人材も、シェアリングモデルであれば獲得できる。この流れがさらに進むと予測して始めたのです。
タレントシェアリングについて、クライアントや紹介するポジションなど、詳しくお聞かせください。
当初、クライアントはベンチャー専門でしたが、現在は大企業のイノベーション領域の支援もしています。現在、200社ほどの大企業に人材を派遣しています。ご紹介するタレントは、ベンチャーであればCEO、新規事業であれば事業責任者が中心ですが、管理者やエンジニアやマーケッターなど、ベンチャーに必要な人材がすべて求められることも多くあります。業務形態は再委託で、一社だけの方も、複数社で働いている方もいます。
2021年8月にONBOという新サービスを始めましたが、どのようなものなのでしょう?
定着成功報酬型の人材紹介です。料金は想定年収の2%を毎月、最長24ヶ月お支払いいただくというもの。途中で退職したら、翌月以降の料金は発生しません。人材業界ではこれまでにないサービスで、順調に伸びています。
背景として、従来の成功報酬制度に対する違和感がずっとありました。入社ではなく、定着と活躍をもって成功と呼ぶのでは、と社内でも議論があったのですが、解を見いだせずにいました。そんな中、「入社して24ヶ月経てばほぼ定着と言えるのでは?」と考え、サブスクをヒントにサービス構築したのです。
理想の生き様に近づくことがキャリア構築
ONBOを通じて実現したいことや、目指したいことをどう考えていますか?
紹介料の単価を上げたい、儲けたいというより、正しいプライシングでサービス提供したい、という思いがまずありました。また候補者に喜んでもらえれば、LTVも上がり、私たちとの接点も点から線に変わります。定着支援のためにコンサルタントがフォローするコストはかかりますが、候補者のLTV向上と相殺できればいいかなと。
ONBOを始めたのは、私たちは何のためにいるのか、見つめなおすことでもありました。世の中の変化に伴い、既存の社会システムやソリューションが、タレントとミスマッチしていることが多々あります。それによるユーザーペインを拾い、解消するためにフットワーク軽く行動することこそ、弊社のような新しい会社の存在価値だと思っています。
そのユーザーペインとは、具体的にどういったものなのでしょう?
現在、「今の会社で昇進したい」「給料を上げたい」などを目標に働いている人は、多くないのではないでしょうか。人生100年時代と言われ、80歳まで働くと考えると、柔軟なキャリア設計をすることが重要です。ビジネス寿命は短くなり、成功したサービスでも10年、長くても20年しかもちません。雇用の慣習や価値観も変わっていく中、働く人は企業やビジネスを渡り歩くことを見据えてキャリア構築しないといけない。そのキャリア構築を、かつては転職一択だったのが、「ライフステージ」という発想に変えていく必要があると思っています。
ライフステージという概念を詳しくお聞かせください。
弊社ではライフステージを、「エクスプローラー(探求する)」「クレジットアーナー(信用を築く)」「ミッションワーカー(使命のために働く)」に分け、経済状況などに応じて3つを行き来するものだと定義しました。例えば一般的に、40~50歳までは子どもを養うコストが主眼に置かれます。子どもが成長したら、自分のしたいことを探求するステージに行く。そしてある程度のクレジットが形成できたら、ミッションワーカーに移行する、という風に。
そのため弊社の人材紹介では、年収や役職を上げるためでなく、ミッションワーカーになるため、つまり生き様をタレントの望む形に近づけるにはどうすればいいか、と考えてキャリア構築の支援をしてきました。ONBOではこういった概念を意識し、サービスのブラッシュアップをし続けています。例を挙げると、対応する職種の絞り込み。営業職のフォローアップは、人脈の紹介や精神論でのアドバイスになりがちで難しい。一方でエンジニアや管理部門は、業務が定量的なのでサポートしやすく、メンタルヘルスケアやヘルスケアなど、必要なことも明確です。こういった調整をしながら、ONBOはスケールよりも、私たちが目指すサービスにすることを現在は優先しています。
サブスク型により定着支援を実現
入社後の定着支援は、どんな取り組みをしているのでしょう?
月一回以上、コンサルタントが面談やアンケート調査を行い、就労状況を把握するようにしています。課題が見つかれば、解決のお手伝いをします。ただ何かあるとしても、大体が企業とのミスコミュニケーションなので、コンサルタントが間に入ることでほぼ解消できます。実務に課題がある場合、幅広い領域に特化したアドバイザーやメンターがいるので、相談して解決方法を見出したり、サポートしたりしています。
タレントが活躍することを、もちろん企業もエージェントも願っています。ただ、採用成功報酬のように、キャッシュポイントが一つだけだと、エージェント側は定着支援に力を入れなくなりがちです。サブスクにすることで、関わっているさまざまな人が手を取り合って、定着・活躍を目指していけるのです。フィーを一括で支払う必要もないため、採用時の企業のコスト負担が減るというメリットもあります。
コロナ禍で、人材紹介事業に影響はありましたか?
弊社はアッパー層に特化した人材紹介をしているので、あまり影響はありませんでした。ただオンライン化が進んだことで、旧来の進め方がしづらくなってしまいました。具体的には、クライアントと会食に行くこと。会議室やオンラインでのコミュニケーションと、お酒を飲みながらのコミュニケーションは全く違います。後者は本音を引き出しやすくなり、本当に求めているものも理解できるのです。そのようにして良いパートナーシップが結べなければ、志を重視したマッチングは難しい。ただ、会食に変わるソリューションはないので、もう一度弊社らしさは何かを認識し、進めるべきDX化は何か、精査しています。
愚直で誠実でマメであれ
求人・求職者の開拓はどのように行っているのか教えてください。
求人はすべて、口コミやクライアント・候補者の紹介などインバウンドで、新規営業はしていません。そのため営業も、問い合わせ対応をする一人だけです。件数は月200件以上あり、一部はお断りさせていただいている状態です。
求職者開拓は自社データベース、媒体データベース、自社HP、口コミなどが主です。また、各マーケットのキープレイヤー約200名にアンバサダーを務めていただき、候補者を紹介いただいて、決定したら謝礼をお渡しする、ということもしています。
コンサルタントの採用や育成で、工夫している取り組みはありますか?
現在、30人強のコンサルタントがいます。両面型で、採用は新卒と中途が半分ずつ。若手が多いので、知識や経験を身に付けてもらうため、外部講師による研修を週一回行っていますが、最も重視しているのは愚直さや誠実さやマメさです。面接に同席したり、クライアントと会食したりと、そこまでする必要があるのかと経験者は思うかもしれませんが、一方でこのやり方に共感し、大手から転職してくる人もいます。
コロナ禍でも基本的に出社してもらい、2時間おきに手洗いやうがいなど、感染対策を徹底しています。一人暮らしの人など、部屋にこもっていると、病んでしまいかねませんから。わからないことを上長に直接聞けるのも、若手からは喜ばれています。もともと、顔を合わせてコミュニケーションすることが多い文化なので、賑やかな社風ですね。
ありがとうございました。最後に、これから注力していくことや、会社として目指すことを教えてください。
弊社のミッションは「挑戦のすぐそばに」。チャレンジャーファーストで、ユーザーペインを解消するのが理念です。そのための新しいプロダクトの準備も進めています。
会社としては、もちろん規模拡大を目指し、売り上げ目標もありますが、それよりも自分たちの存在意義やあり方を大事にしていきます。