リアル×デジタルマーケティングDXの最先端。
購買データの活用と、過疎地での新たなビジネスモデル

消費者が何気なく買い物をする小売店。店頭に並べられた商品の陳列は、お店の考えだけでなく、ラウンダーという人々の働きによって実現したものだ。そのラウンダーのアウトソースをはじめ、消費者の購買データを活用したプロモーションやマーケティング支援、人材サービスなど幅広い事業を展開する株式会社mitoriz。購買データ収集・活用の最先端を行く同社は、この先どのようなビジネスや社会課題の解決を目指しているのか、木名瀬社長に聞いた。

メーカーのマーケティングを支援

今年の1月にソフトブレーン・フィールドから、mitorizへ社名変更されましたが、どのような想いがありますか?

mitorizは、潤いをもたらす水(ミズ)、空高く飛び全体を見渡す鳥(トリ)、そして未来を描く見取り図(ミトリズ)という要素から構成され、生活者と企業をつなぎ、新たな価値を提供し、潤いをもたらす未来を実現したいという想いを込めて社名を変更しました。

御社は、幅広い事業展開をしていますが、主にどのようなものがあるのか教えてください。

前職のアサヒビール時代に、小売店を回り、メーカーの商品が店頭にきちんと並ぶ状態を作る「ラウンダー」の女性たちがとても優秀で、特に優秀な方に一人ひとりついて回り、行動を数値化して、76ものチェック項目を作りました。これをもとに生産性の算出や評価を行いましたところ、生産性がとても高いことが客観的に把握できました。この女性たちの力を活かすべく、社内の独立支援制度を活用して、弊社は2004年に創業しました。

まず「店頭ラウンダーサービス」を始めました。メーカーの営業担当が小売店と本部商談し、どの商品を店舗のどこに置くか決めるのですが、実際は3~4割しか実現されません。そこでメーカーは店舗と直接交渉し、自社商品を注文してもらったり、バックヤードの在庫を並べたりして、お客様に届けられるようにしているのです。その業務のアウトソースからスタートしました。

業界ではこれまで、ラウンダーは時給制の契約社員がほとんどでしたが、弊社は一店舗で約1,500円という訪問単価制です。稼働した分だけ請求できるので明朗ですし、ラウンダーも頑張った分だけ収入になる。一店舗を回るのに15分の人も、1時間の人もおり、主に生産性のいい前者が残ります。経験を積めばよりうまくできるようになり、メーカーの売り上げも増える相関があるのです。

現在、主婦を中心に約10万人のキャスト(登録者)がおり、年間3,000~4,000人が稼働しています。

店頭ラウンダーサービス以外には、どのような事業があるのでしょう?

2013年に始めたマルチプルID-POS「Point of Buy®」があります。消費者は小売店で購入した商品についてどう思うか、再度購入するかどうかは、POSデータ(レジで記録されるデータ)からは見えません。そこで、弊社の全国のキャストや、提携先のポイントカードの会員から、商品を購入した際のレシートとアンケートを投稿してもらう代わりに、ポイントを付与しています。そして会員属性とレシートとアンケート結果を紐づけ、「会員の40代女性は、何曜日の何時にどこの店に行って、何を買った」「買った商品にこんな感想を抱いた」といった購買行動と購買動機データをセットにし、メーカーに提供しています。メーカーは、データをマーケティングに活用するほか、特定の商品を買った方にキャンペーンや広告を打つことで、売り上げを伸ばしているのです。レシートはOCRで自動文字入力し、月間1,500万枚以上、累計100万人のデータが蓄積されています。弊社では、メーカーや小売毎に異なる膨大な品番の商品マスターを独自に作っており、ここが大きな強みとなっています。

また広告代理店やコンサルティング会社、マーケティング会社などとアライアンスし、弊社のデータをもとに、メーカーのプロモーションも行っています。例えば、あるコンビニで特定の商品を購入したら、ポイントが付与される。すると商品が売れて告知にもなる、というモデルです。

登録キャストには様々な活躍の場を提供

人材ビジネスでは、どのような分野・領域で事業展開しているのですか?

人材派遣と人材紹介を行っており、人材が不足している企業に、登録キャストから適切な方を紹介しています。職種は営業系をメインにさまざまです。

弊社の登録キャストには、薬剤師や栄養士、建築士や簿記、フォークリフトや英検やカラーコーディネーターなど、さまざまな資格をお持ちの方がいますので、消費財メーカーのラウンダー以外にもできることはたくさんあります。

また登録キャストの主婦たちの中には、育児や子育てなどで働く時間が限られがちな方も多くいます。けれどお子さんが大きくなれば、時間的な余裕もできて、もっと働きたいという方もいます。訪問単価制だけでは、安定的に働く機会を創出しきれないので、それ以外の働き方を提供するようになったのです。現在、毎月安定したお給料を受け取れるラウンダー契約社員が約500名、派遣社員が約100名います。

コロナ禍で、事業にはどのような影響があったのか教えてください。

2020年4~6月、一度目の緊急事態宣言が出てからはラウンダーの活動が止まり、売り上げも厳しく、利益もなくなりました。キャストの離脱を防ぐため、クライアントの協力も得て、休業中も給与を支払いました。緊急事態宣言が解除になった後は、ラウンダーが店頭に行かないと、メーカーは商品を並べられないので、真っ先に復活。まん延防止等重点措置が出てもこの流れは止まっていません。ただ消費者の動向は変化し、都心部のコンビニから人が減り、郊外のスーパーで増えました。一方で、推奨販売(試食などのデモンストレーション販売)はまだ復活していませんが、コロナ禍における消費者の購買行動の変化に適したデジタルプロモーション事業は増収になり、売り上げの1割近くを占めるほどになりました。こういったデータも蓄積し、先が見えづらい中でも適切な施策を行えるよう、DXにより力を入れていきます。

過疎化が進む地方の社会課題を解決

2022年1月に社名変更と共に新たにミッション・ビジョン・バリューを設定されました。ミッションは「必要とする人に、仕事とモノをつなぐインフラを創る。」ビジョンは「つながりが、人に潤いをもたらす未来へ。」とされました。どのような取り組みで実現を目指していくのでしょう?

すでに行っている取り組みとしては、在庫が余って賞味期限も近付いた商品をメーカーから買い取り、全国のキャストネットワークを活用して、安く販売し、廃棄ロスの削減に取り組んでいます。

日本は少子高齢化で、地方の過疎化が進んでいます。地方の店舗は客数が減ると維持できず、撤退していく。住民のセーフティネットを保持する必要があるのです。

今後の展開として、キャストが、地域のお年寄りの買い物を支援するサービスを考えています。例えば遠くにある店舗まで行けないお年寄りが、公民館にあるタッチパネルで欲しいものを注文すると、キャストに通知が届く。キャストはリースした軽自動車で品物を買いに行って、お年寄りの自宅まで届けるという、リアルとEコマースの中間にあるビジネスモデルです。ほかにもキャストたちの口コミ力を活用して、商品を地域の人々に案内していければ、広告ビジネスにもなるでしょう。

タッチパネルを使ったこの仕組みやノウハウを、東南アジアに横展開すれば、現地の貧困層の人々の自立支援にもなるかもしれません。

ありがとうございました。最後にデータ活用やDX化を強化する中で目指すビジョンをお聞かせください。

これからはマーケティング部門だけでなく、メーカーの営業企画のデータ分析・活用が進んでいくと思われます。私たちの購買データを営業企画にも提供していきたいと思います。現在、営業企画の多くは、アンケート業者などから購入したデータを、「市場調査」として活用しています。弊社のデータは「店頭で売り上げを増やすため」のもの。消費者からの直接の声として、より精度の高い検証ができるため、私たちの購買データの活用領域も増えていくでしょう。また、マーケティングデータやPOSデータを扱っている企業との提携も進めていきます。

個人情報保護法の改正でCookieに規制が入ることを見越して、それに変わる広告配信の基準を、弊社の消費者購買データをもとに作れないかとネット系の広告代理店と検証を進めています。弊社の登録キャスト、提携しているポイント会員は合わせて約100万人ですが、ネット広告の配信対象は数千万人います。例えば弊社会員の中で、ビールをよく購買する人が5万人いたとします。その5万人をペルソナ分析やセグメント分けし、数千万人の中で属性の近い人に配信する仕組みを、サービス化できるよう進めています。

今後は、100万人の会員数をもっと増やしていきたいです。データは多いほど価値が高まりますし、現状の規模では足りない要素もある。Eコマース企業などアライアンス先を増やし、会員数500万人、1億枚のレシートが貯まるようになれば、POSデータよりも完全な、あらゆるチェーンのデータベースになっていくでしょう。