製造業の今とこれから、日本と海外。
顧客満足度とシェア拡大のための戦略は
製造業を中心に、請負と派遣サービスを提供している日本マニュファクチャリングサービス(nms)。国内・海外それぞれで事業展開しているほか、海外拠点で教育した現地人材を他国に紹介するボーダー事業も行っている。そんな同社が特に注力しているのが、製造ノウハウを活かした受託(請負)事業だ。人材ビジネスの多様化を進める鍵となる同事業の特長や取り組み、製造業の今後のニーズの変化など、2022年1月に社長に就任した松本氏に聞いた。
失敗を重ね海外事業を50億円規模に
まず御社の事業概要について教えてください。
国内では製造業に特化した受託(請負)が約55%、人材派遣が45%です。お客様の業種は、半導体・電子部品関連や自動車部品メーカーなどが全体の約60%を占め、最近では物流や医療・ヘルスケア業界のお客様も増えています。業務内容はニーズによって異なりますが、組み立てなどの中間工程を中心に、ときに全工程までを担ってほしいというところもあり、お客様のニーズに合わせて対応しています。
海外事業として、中国・ベトナム・タイに進出しており、それぞれの現地国内で受託(請負)と人材派遣を行っています。顧客は現地に進出している日系企業をはじめ、アジアや欧米の外資系企業。お客様の生産移管に伴い、人材採用・教育から生産工程まで丸ごと任せるというオーダーをいただくことも。ベトナムには、この形態で進出し、一つの成功事例となっています。最近では、日系商社と提携し、その商社が管理する工業団地において、日系企業のベトナムへの生産移管支援事業も強化しています。
ラオスとインドネシアでは、現地の人材を他国の拠点に紹介するボーダー事業を展開。この2国とベトナムでは、現地の人材に日本語と製造業の教育も行っています。
社員数は国内、海外合わせて約8,000人。国内は全員が正社員です。
松本様は社長に就任前、グローバル事業の立ち上げから携わってきましたが、現在に至るまでどのような工夫や苦労をしてきたのでしょう?
私は2011年から海外事業に携わり、ベトナムを皮切りに各国でゼロからビジネスを立ち上げてきました。商慣習や法律の違い、外資系企業に製造や人材派遣のライセンスが解放されていない国もあり、例えばベトナムはそもそも人材派遣という概念もありません。そのなかでライセンスの取得から始めました。最初は10個の事業を立ち上げても、9個はうまくいきませんでしたが、結果として残った事業が育ち、海外事業の売上は50億円強にまで成長しています。
人手不足に強い受託(請負)
直近の海外・国内事業はそれぞれどのような動向がありましたか?
海外事業は、コロナの影響はもちろんありますが、事業拡大のスピードは日本より圧倒的に速いです。派遣・受託(請負)の在籍スタッフも、3年後には2倍になると予想しています。コロナで打撃を受けていた国での事業が軌道に乗れば、おのずと次は新たな国への進出、ということもあると思います。
国内はここ1年、求人はあっても人材が集まりづらい状況です。単価は上がっているのですが、他社とのパイの奪い合いになってしまっている。特にここ2年は、海外から人が入って来られない状況が続いています。3月末からは技能実習生やエンジニアが入国できる見通しなので、足りないポジションに一気に配置していくことができるようになる見通しです。
人手不足に対し、受託(請負)事業をしているからこその強みもあります。2021年はコロナに加え、半導体など部材不足の影響で生産が止まったお客様も多かったですが、働く人たちにとってみれば、安定して長く働け、キャリアアップしていける場を求めている。受託(請負)事業という形態だと、働く人材の組み合わせを、私たちで考えることができます。定年後のエキスパート人材や短時間勤務を希望する人材、副業で働きたい方など、さまざまな人材を柔軟に組み合わせて対応していけるのです。もちろん人材派遣事業は私たちの基盤です。この両輪の質を上げながら今後受託(請負)事業の強化も進めていきたいと思います。
御社の受託(請負)事業は、他社と比較したとき、どのような強みや特徴があるのか教えてください。
ジョブグレードアップ制度を設けて、業務のレベルが上がれば給料がどのくらい増えるか、明示しています。あるレベルに達すれば、管理者に登用して、新人のフォローや工数管理などの業務も任せていく。働く人にとって将来も見えるので、結果的に定着率が上がっています。
海外の請負事業では、例えば中国だと、部品の生産高を給与に反映させるなどを明確にしています。すると頑張る人は頑張るので、結果的に生産性もあがります。現在はタイやベトナムにもこのシステムを導入しています。
また定着率を上げるためには、管理者がどれだけスタッフたちと直接会話し、フォローできるか。会社が良くても、管理者が働いている方たちに雑な対応をしていれば離職してしまいます。弊社では管理者教育でそう伝え、フォローを大事にしています。
また顧客に対して年に2度、満足度調査を行っています。安全や品質やコストなど30項目で評価していただき、顧客が求めていることと、私たちが求めていることに違いがあればすり合わせていく。顧客によっては、生産性はもちろん重要ですが、品質を最重視したいということもあります。部品を大量に作って、世界中に供給するメーカーなどは、もし品質に不備があると、回収に莫大な費用がかかるからです。そういったニーズを把握し、ピンポイントで改善しています。
製造業のファブレス化が進む
今後も請負事業に重点を置いて拡大を目指していくのでしょうか?
海外は特に請負のシェア拡大をしていきます。キーワードは製造業のファブレス化。自社で設計だけ行い、モノを作らないメーカーが増えています。工場も持たず、生産は全て請け負ってほしいという声が多く、今後もこの領域は拡大していくと思います。メーカーでは工場で自社製品しか作れませんが、弊社のベトナムの工場では、5社のメーカーから依頼を受け、工場内でフレキシブルに生産を行っています。中国では大手日系メーカーから生産工程を丸ごと請け負っていますし、日本でも同様のケースが多くあります。メーカーを早期退職した社員を弊社で雇用し、ノウハウを生かして受託事業で活躍してもらうケースもあります。今後も同じようなことがさらに起きてくるでしょう。
また、これまで海外での請負事業は、日本と中国、日本とベトナム、日本とタイ……という風に、対日本でした。現在は中国からベトナム、タイからカンボジアという風に、対日本だけではない生産移管の支援もしています。コロナ下では、メーカーがベトナムに進出する際も駐在員をすぐに現地に派遣することができません。一方、弊社は現地に工場があり、日本人の社員もいるので、顧客に変わって生産移管も実行することができます。生産移管の大きなメリットはコスト。日本から中国、ベトナム、タイ、ラオス、カンボジアという風に、メーカーは人件費が低い国に流れるため、コロナで一時的に停止しているものの、今後はますますニーズは増え、動き出すと予想しています。
ありがとうございました。最後に、これから注力していきたいことがあれば教えてください。
生産革新を、海外のベトナム工場から始めています。現在、あるAIメーカーと組んで実証実験しているのは、生産工程での異常検知をすること。ベトナムの工場では何千名もの人が働いており、人が手作業で行っている工程で、資材や音や人の動きなどで、不良品が出たら検知するというものです。大きな工場では、妊婦の方が200名、ライン作業をしていることも。そういった方たちの負担を減らすためにも、DXで現場での生産性を上げていきます。製造現場のDXは、海外の方が早く導入が進んでいくと思います。その技術を、ゆくゆくは日本の製造業の顧客にも提供し、モノづくり業界に貢献していければと考えています。