ファッション・ビューティー業界のインフラ企業を目指し、
初の創業家外から社長に

1999年にコンサルティング会社として創業し、現在はファッション・ビューティー業界に特化した総合人材サービスを展開する株式会社iDA。同社はこれまで創業家が代表を務めてきたが、2022年3月1日、取締役COOだった堀井謙一郎氏が創業家外から初めての代表取締役社長となった。その背景と、コロナ禍で大きく変わった業界の今後について聞いた。

生涯キャリアを描ける業界に

この度は就任おめでとうございます。改めて事業内容を教えてください。

iDAは、ファッション・ビューティー業界に特化したコンサルティング会社として1999年に誕生しました。クライアント企業や現場で働く人たちと関わる中で雇用と人材の重要性を感じ、人材紹介や派遣、業務委託なども行う総合人材ビジネス企業として今日まで進化してきました。

2012年には前社長の加福真介がワールド・モード・ホールディングス株式会社(WMH)を設立し、ファッション・ビューティー業界に精通した企業やスペシャリストと共に、クライアント企業の業績向上を多角的にサポートする取り組みを開始。iDAは業界を総合的に支えるワールドモードグループの一員として、従事する人たちがファッション・ビューティー業界に夢を持ち続けてもらえる『WORKING DREAM®』をミッションに、事業を展開しています。

創業家外の社長は初めてとのこと。なぜご自身が社長に指名されたとお考えですか?

前社長の加福は、私が「ポジティブを伝播する人だから」と言っていましたが、私はiDAの根本にある「全員経営」というマインドにも起因していると思います。創業家にこだわらず、それぞれの役割に適した人が活躍することで、私を含め、すべての従業員が能力を発揮し経営に参加していくことを、前社長時代から目指しています。私はアパレル企業出身で営業経験があり、ずっと店舗で働く人たちと共に仕事をしてきました。現在も店舗スタッフとのコミュニケーションは欠かさないようにしています。現場を熟知し実感している一人として、全員経営を実現し、伝播し、働く人たちが「生涯キャリア」を描ける業界にすることが、私の目標であり、与えられた使命だと思っています。

コロナが業界を強くした

コロナ禍による業界の変化をどのように見ていますか?

実店舗の営業が厳しくなる一方でECの売上が伸びるなど、販路が大きく変わりました。D2C*企業や実店舗を撤退した企業からポップアップ店舗の業務委託があったり、カスタマーセンターの充実に関する依頼が増えたりするなど、新たな販売戦略を構築するための依頼が増えています。ECシェアの高まりにより、SNSでの動画配信やチャット接客の人材、スキルアップも急務になっています。また、働き方や売り方が多様化したため、人事制度の見直しに関する相談も増加傾向にあります。

*D2C(Direct to Consumer):メーカーがECサイトから直接顧客に販売するビジネスモデル。

ファッション・ビューティー業界はコロナ禍で強くなったと私は思います。確かに服飾雑貨の売り上げは一時的にかなり落ち込み、同時に多くの人材が働く場所を失った時期がありました。一方で、外出できない消費者がオンラインで買い物をするようになり、ECサイトはこれまでの「欲しいものをクリックだけで買い物できる機能的な場所」から「実店舗での買い物の楽しさをオンラインでも味わえる場所」への変革が求められるようになりました。ここで活躍するのが、実店舗の販売員です。販売員にSNSの動画配信やチャット接客を任せて、実店舗と同レベルの接客を提供する販売方法ができるようになりました。オンライン接客は全国どこからでも発信できるので、地方に住む販売員の人材活用にもつながりました。

ECが登場した当時は、実店舗はEC店に敵対意識がありました。店頭で商品を見てネットで購入する消費者が増加したからです。ところが、ライブコマース(オンライン配信・販売)やチャット接客を通じてEC店と実店舗の連携が始まったことで双方の垣根が下がり、相乗効果で売れるようにさえなりました。ビューティーも、店頭でのタッチアップ(メイク)ができなくなったことによる販売機会の喪失がありましたが、同じくライブコマースやチャットでの接客を強化することでカバーできるようになりました。

EC店と実店舗の相乗効果は、改めて実店舗の大切さを知る機会にもなりました。どんなにECが進化しても、実店舗でしか提供できない接客サービスがあります。そのため、最近では販売員が兼務していたバックヤード業務を無くして接客に集中させる企業が増え、バックヤード業務の委託の依頼が増えています。このように、コロナ禍は業界に多様な販売スタイルを生み出し、それに見合う雇用、組織、人事制度の再構築につながりました。

人材確保には業界のインフラ整備が必要

人口減少に伴う人材確保についてはどのようにお考えですか?

ファッション・ビューティー業界が安心して生涯キャリアを形成できる職業かと言えば、まだまだ課題はあります。iDAは、働いてくださる皆さんの生涯キャリアに寄り添う会社でありたい、そしてファッション・ビューティーを好きな人が安心して長く働ける業界でありたいと考えています。2022年1月にリテールや地方にも強いリンクスタッフィングの国内派遣事業を譲受したことも、生涯キャリア構築への取り組みにつながっていくと思います。

ファッションやビューティー職に憧れて業界に入った人が、ライフステージが変わっても夢を叶える場所として働き続けられるように、私たちは業界のインフラを整備していくことを使命としています。

出産や育児で業界を離れた人の中には、復帰したくても働く感覚を取り戻せるか不安で、なかなか一歩を踏み出せないことがあります。その場合は、商品モニターから始めて徐々に自信をつけてもらうなどの方法でサポートします。また、全国22カ所の営業拠点を生かし、地方に移住した場合でも同様のサポートが受けられるようにしています。定年前後の人には、取引先ブランドの顧問をお願いすることもあります。

スタッフの社員転籍も促進しており、年間約1,800人がブランドやメーカーの社員になっています。社員化した後もサポートを続けるとともに、2021年11月には、iDA登録者やiDAからブランドへ転籍した卒業者をつなぐコミュニティ「iDAぷらっとラウンジ(iぷら)」を開設、同業界で働く他の人たちと情報交換できる場所をつくりました。

 

これらの積み重ねが、生涯にわたってファッション・ビューティー業界で働きたい人を増やすことになり、人材確保や賃金向上につながります。

iDAの、そして堀井社長の「働く人ファースト」の考えが伝わってきます。

私たちは、働いていただいている立場ですからね。人材ビジネス業界は、働いてくださる人がいて成り立ちますので、人に寄り添う会社でありたいです。人を無視し、効率化だけを求める経営はよくないと思います。目の前の方に寄り添いながら、時間をかけて行う業務と、効率化すべき作業を見極めていきたいと思います。

現在は、コロナに罹患してしまった方には給与を100%支払い、働く人の生活を守ることに注力しています。今回のような有事の際にはどうしても「派遣は労働者としての立場が弱い」というイメージや悪いニュースが出回ります。実際に派遣に関わらず有効求人倍率が大きく下がるなど、働きたい人々にとって苦しい状況だったことは事実ですが、そのような場面においても国の基準を超えてできうる限りの補償を支払ったり、オンライン研修を実施したりと、派遣や社員に関わらず、当社に関係している全ての人に安心して働いてもらえる環境を整えることが社としての誠意であり、務めだと思っています。私たちの事業は働いていただくことで成り立つわけですから、業界のインフラを目指す企業として当たり前だと認識しています。

また、最先端のファッション・ビューティー業界で長く働けることを理解してもらうことで憧れの職として認識してもらいたい。この生涯キャリアへの取り組みは私のライフワークでもあります。

今後の課題は?

ファッション業界は、原価高やコロナ禍などの影響で厳しい状態にあります。インバウンドももうしばらく時間がかかると思います。雇用する側には、賃金や雇用保険の上昇という課題があります。私たちはパートナー企業と膝を突き合わせてこれらの課題と向き合い、人材サービス会社だからできる方法で、働きがいと賃金のバランスが整った、生涯キャリアを形成できる業界づくりに貢献していきます。