エンジニア不足解消のカギはテレワーク派遣。
定着・活躍を支援する工夫や取り組みに迫る

IT人材へのニーズが拡大し続ける中、各社がエンジニアの採用に苦戦している。そもそも人材が少ないことに加え、客先常駐など働き方の制約も人材獲得の課題になっているのではないか。そう考え、エンジニアのテレワーク派遣を始めたのがCLINKS株式会社だ。2017年に開始し、コロナ禍を経て一気に需要が拡大したという。サービスの詳細や、テレワークを推進するための工夫や取り組みなどを代表取締役の河原浩介氏に聞いた。

エンジニアが100%在宅勤務の部署も

テレワークを推進する企業として、総務省や東京都などから数々の受賞歴があります。どのような事業・取り組みを行っているのでしょうか?

一つはエンジニアのテレワーク派遣「テレスタ」です。IT業界はエンジニア不足が常態化しているため、テレワークであればエンジニアを確保できるのではと考え、2016年にまず自社でテレワークを試験的に導入し、2017年に「テレスタ」を開始しました。

「テレスタ」の特徴は、テレスタに従事するエンジニアはフルリモートで勤務し、月に1~2度の出社もありません。エンジニアの在宅派遣を行う競合も少ないですし、フルリモートとなるとほかにないサービスなのではと思います。そういった点もあり、リモートワークを希望する優秀なエンジニアの採用が可能になり、「テレスタ」の売り上げ規模はまだ会社全体の5%程度ですが、コロナ禍の影響もあり最も伸びています。

「テレスタ」を始めた2017年はコロナ禍前ですが、エンジニアのリモート派遣について、企業はどのような反応でしたか?

正直、当初はあまり良いものではありませんでした。「在宅ではきちんと働いてくれないのでは」という企業様のご意見がほとんどだったのです。社内でも同じような声が上がったため、まずは自分たちでテレワークを推進するために「社員の20%をリモートワークにする」とノルマを決めました。そのうちに少しずつ理解が進んでいき、現在は受託開発系のエンジニアの約90%がテレワークに従事しています。インフラ系のエンジニアは、どうしても客先に出社する必要がありますが、開発系は臨機応変にリモートに対応できるようになりつつあります。

「テレスタ」を開始後、すぐに導入してくださる企業もありましたが、最初はベンチャー企業が中心。大手企業は、セキュリティポリシーに抵触する、とお断りされることが多かったのです。「派遣という形態ではリモートができない」と言われたこともあります。

一方で、エンジニア不足で困っている企業もたくさんあり、「テレスタ」が解決策の一つであることは確信していました。そこへコロナ禍があり、テレワークや派遣社員のリモート勤務への障壁が少なくなったためか、以前より10倍近く問い合わせが増えたのです。

エンジニアの募集は各社が苦労されていますが、どのように行ったのか教えてください。

IT人材を集めることは大変ですが、在宅なら働けるという方がいます。Uターンで地元に戻ったけれど、地域にはあまり仕事がない方。育児と仕事を両立するため、出社して時短勤務をしていたけれど、在宅であればフルタイムで働ける方など。2017年当時は、フルリモートのエンジニア派遣がなかったこともあり、集まりは良かったです。前年度は約30名を採用した実績があります。

リモートの課題をテクノロジーで解決

エンジニアを採用する際のスキル要件や、スキルチェックはどのように行っているのでしょう。

即戦力で働けることが前提なので、スキル要件は高めに設定しています。それよりも、報連相ができる、自己管理能力があるなど、リモートへの適性を重視しています。また3~4時間かけて、在宅勤務をするにあたっての導入研修を行い、ここでも報連相を徹底して教えています。スキルチェックは、入社後3か月を試用期間とし、問題がなければ正社員として正式採用しています。

フルリモートだと、対面でのコミュニケーションの機会がありませんが、どのようにケアを行っているのか教えてください。

これがテレワークへの取り組みの二つ目で、2021年に自社開発したテレワークサポートツール「ZaiTark(ザイターク)」を活用しています。通話機能を使い、定期的に1on1で、雑談ベースで話す機会を設けています。分報チャットルームも設けていて、ツイッターのように気軽に投稿でき、ほかのメンバーがスタンプやコメントもできるのでコミュニケーションの促進に役立っています。

またZaiTarkはメンバーそれぞれの枠に、パソコンに現在表示されている画面もしくは顔を30秒ごとにキャプチャし、表示させることができ、休憩中の場合は「休憩中」と表示されます。これにより、ほかのメンバーが何をしているかわかりますし、「忙しそうだから話しかけないでおこう」「画面が同じままだから煮詰まっているのかな」と判断することができるのです。会話をしたいメンバーにはワンクリックでチャットや通話ができ、誰かがやり取りしている中に加わることも可能。通話がかかってきたときに忙しければ「後ほどお願いします」と自動表示されるので、チャットでその旨を伝えたり、スケジュール調整を改めてしたりする必要がなくなるのです。

 「ZaiTark」を通じてテレワークの孤立感を無くし、モチベーションの低下につながらないよう、円滑なコミュニケーションを支えています。

開発で苦労した箇所があれば教えてください。

テレワークでもパフォーマンスを上げる、という目的はある程度達成していました。ただ、仕事を怠けてしまう社員も中にはおり、管理面で課題を感じていました。対策として、オンラインミーティングツールなどを常時接続していまいしたが、サーバへの負荷が高く、メンバーも常に監視されているように感じてストレスになってしまいます。それを解決するために、ZaiTarkでは30秒に一回、画面もしくは顔を表示する機能を付けました。画像の解像度も低くして、画面をはっきりとは見えないようにし、セキュリティ対策も実施しました。その結果、程良い緊張感が生まれ、怠ける社員は少なくなりました。

ZaiTarkは自社エンジニアのリモートワークや、「テレスタ」を提供するうえでの課題解決のために開発したのですが、良い製品とご評価いただくことが多く、クライアントにも提供しております。

SESに代わるRESとは

そのほか、在宅勤務のエンジニアが長期的に活躍できるための取り組みはありますか?

オンラインでイベントを積極的に行っています。ハロウィン、怖い話大会、すべらない話大会、人狼ゲームなど。新入社員の歓迎会は、120~130人が参加します。社員同士でオンライン飲みをしたら、ひとりにつき1,000円支給、というオンラインコミュニケーション手当という補助制度もあります。

今後の事業展開を教えてください。

開発系のSES(システム・エンジニアリング・サービス)は、ゆくゆくは全面的にリモートにしたいと考えています。ZaiTarkなどを活用することで、今後はSESをRES(リモート・エンジニアリング・サービス)と呼べるように変えていきたいと考えています。SESの分野では、DXやAI関連、中でも画像認識と自動運転は市場のニーズが高い。リモートのおかげで優秀なエンジニアも採用できたので、よりシェアを拡大していきます。

また、勤怠管理システムの「キンクラ」を昨年リリースしました。これまでSESに従事するエンジニアは客先と自社の勤怠を管理する必要があり、システムの利用が難しく、エクセルで管理を強いられてきました。一日7時間30分、8時間、24時間など勤務時間が異なれば、日勤・夜勤もある。既存の勤怠管理システムでは対応できなかったのです。客先常駐の場合は、自社と派遣先の勤務表を突き合わせる必要がある。36協定もあり、残業時間の上限や年5日以上の有給休暇取得など遵守すべき法律がありますが、エクセルでの管理だと勤怠状況がわかるのは月末に勤怠を締めた後で、リアルタイムでの把握ができませんでした。そこで、全てのニーズを満たすために自社で開発したのです。客先常駐がメインの企業で、弊社のように困っていた企業の助けになればと思います。

ありがとうございます。最後に改めて、テレワーク推進への思いをお聞かせください。

私は前職で、習志野から新橋まで通勤し、一日に2時間も満員電車で神経をすり減らしていました。そんな経験から、「テレワークを日本の働き方のスタンダードへ」という理念を掲げています。またリモートワークだけでなく、業務や時間の制約にもとらわれない働き方を実現したい。エンジニアが得意なことだけを、好きな時間にできる仕組みづくりにもチャレンジしていきます。