介護・医療業界に特化した20年の専門力が導き出した
人材サービス成長の要は「事業者理解」
介護・医療業界に特化した人材サービス事業を展開するツクイスタッフは、介護大手のツクイホールディングスの子会社として2016年に設立設立された。業界特化や介護グループ企業ならではのメリットや気づきを、取締役の下村光輝氏に聞いた。
まずは事業内容をお聞かせください。
ツクイスタッフは、ツクイグループのミッションである「超高齢社会の課題に向き合い、人生100年幸福に生きる時代を創る」ために、はたらく幸せを求める人と、超高齢社会に貢献する組織をつなぐとともに、人に関わる業務を一貫して支援する介護・医療業界に特化した人材サービスを提供しています。
優秀な人材を安定的に確保することは介護業界の長年の課題ですが、そのために主力事業である人材派遣と人材紹介、さらに介護施設の従業員を対象とした教育研修を全国で展開しています。また採用業務の代行サービスであるRPOも昨年より展開を始めました。介護業界は小規模の事業者も多く、担当者がケアや送迎に入っていると求職者応募に対するレスポンスに時間がかかり、結果採用率が下がってしまいます。
その歩留まりを改善させるために応募受付、スクリーニング、面接設定までを代行するサービスを始めました。
主な取引先はツクイグループですか?
派遣・紹介業の売上に占めるツクイグループのシェアは1~2%です。もともと当社は株式会社ツクイの一事業部として人材事業を展開していたので、分社化した現在もシェアは高くありません。グループ以外のクライアント構成比で最も高いのは地域福祉を支えている社会福祉法人です。全国展開を早くから手掛けていて、古くから地域の介護事業者と信頼関係を築き上げてきました。そういった地域密着の姿勢は大切にしていきたいです。
異業種転職のミスマッチ防止は、リーマン・ショックをヒントに
コロナ禍で事業者や求職者にどのような変化がありましたか?
国内の感染者が報道され始めた頃は介護業界への影響は限定的と考えていましたが、介護施設内のクラスターが頻発し、通所系や短期入所のサービスは休業を余儀なくされたり、また衛生用品などの感染対策コストが増加し、介護事業者の経営にも打撃が出ました。雇用情勢においては、先のサービス休業による需要の縮小や、異業種から介護業界への転職が進み新規求人数は減少、高い水準で上昇していた介護業界の有効求人倍率も緊急事態宣言以降は前年割れが続いています。求職者ニーズについては、コロナ禍で介護業界全体の離職率がやや改善し、転職の動きは鈍化したものの、異業種からの応募は増加しました。当社の資格取得支援制度の利用もコロナ以前と比較すると急増しています。
実は、リーマン・ショック時にも介護業界への異業種流入は進みました。当時は製造業からの転職者が多く、職業適性のミスマッチによる離職が多く発生しました。一方、コロナ禍ではサービス業からの流入が比較的多く、介護職員と同様に対人スキルが職業適性として求められることもあって、ミスマッチはリーマン・ショック時ほどではなかったと思います。また、リーマン・ショックを経験したコーディネーターが当時の経験を共有し、適性を見極める対策をとった点も、ミスマッチの減少につながったと思います。
コロナ禍で事業者や派遣スタッフへどのようなサポートをされましたか?
エッセンシャルワーカーである介護職はほとんどテレワークができず、家族にコロナ陽性反応が出れば勤務が出来ません。クラスター発生などで派遣先が休業した場合は休業補償がなされましたが、自宅待機による休職に対しては収入が確保できる様に、特別有給休暇の制度を設けて対応しました。
また事業者に対しては、大手介護業界団体からの要請で、クラスターが発生した介護事業所に対し、介護事業所間で人材を融通しあう互助の仕組みDCAT (Disaster Care Assistance Team 読み:ディーキャット)を構築しました。またクラスター対策のノウハウがない法人に対して、グループ内の事例やノウハウを提供できたことは当社ならではの支援だったと思います。
他にも、介護・医療の研修を中心としたeラーニングサービス「E care labo」(読み:イーケアラボ)の新型コロナウイルス感染症予防等の研修動画を無償提供するなど、コロナ禍でご尽力いただいている事業者やエッセンシャルワーカーの方々への支援もしてまいりました。
20年以上の実績とグループリソースがサービス品質を高めた
御社の強みを教えてください。
当社の強みは、主に3点あります。1点目は、介護・医療業界に特化した人材サービスとして20年以上、地域密着型サービスを継続してきたことです。介護施設で働く人は職場の近所にお住いの方が多く、サポートの良い派遣会社であればその地域で求職している人に口コミで紹介してくれます。おかげさまで、現在はエントリールートの第二位が派遣スタッフからの口コミ(一位はウェブサイト)で、本当に地域の方々に支えていただいていることを実感します。長年の実績を評価されているからこそと思いますが、この点も大切にしていきたいです。
2点目は、質の高い人材を派遣できることです。派遣スタッフは有資格者が大半を占めており、介護スタッフの約半数が介護福祉士の資格を有しています。質の高いスタッフを派遣できることが、クライアントとの信頼関係をより強化していると思います。
3点目は、大手介護グループの組織力です。グループリソースを活用して当社の人材サービスを徹底的に磨き込むことで、介護業界全体へ高品質なサービスを提供できると考えています。またグループ内の人材交流を活発化させることで、介護業界の情報やノウハウ、リアルな課題感がより共有されます。私自身も介護現場に一時期異動していましたが、そこで得た経験や知識、また感覚は代えがたい財産となっていて、今も生かされています。そうしたキャリアパスもグループ内で活発化させていきたいと思います。
KPI設定で改善点を見つけ、転換率アップを目指す
顧客満足度を高めるための取り組みを教えてください。
派遣スタッフのES(従業員満足度)を測る上で定着率は重要です。そのためにはコーディネーターが職場環境を十分把握した上で、派遣スタッフに寄り添い一緒になって悩みや課題を解決することが必要です。その支援の質はコーディネーター自身の満足度にも影響されます。当社では、従業員が働きやすい職場環境づくりや女性活躍推進が活発で、2021年8月に「えるぼし(3段階目)」認定企業*となりました。現在、代表をはじめ役員の半数は女性です。労働人口の減少や多様性を尊重した働き方の観点から、女性の活躍推進は一層求められます。また、介護職の約70%以上が女性ですので、女性が働きやすい職場環境づくりは今後も最重要テーマと捉えています。
*女性活躍推進に関する状況が優良である等、一定要件を満たした企業が取得できる、厚生労働大臣による認定。
これから注力する分野はありますか?
超高齢社会を見据えて厚生労働省が推進している「地域包括ケアシステム」への貢献は目下の課題です。地域包括ケアシステムは、高齢者が住み慣れた地域で最後まで自分らしく暮らし続けることを目的としていますが、そのための重要な担い手である訪問介護や訪問看護の人材不足が深刻化しており、訪問介護の有効求人倍率は15倍(2019年度時点)という現状です。様々な理由がありますが、この社会問題を支援する仕組みをツクイグループとして構築できないか、検討を始めています。
また事業管理の観点からは、「PORTERS」の導入を機にKPIを可視化できるようになりましたので、今後転換率を上げていきたいと考えています。特に重要視しているのが、エントリーから推薦の転換率です。介護業界においてキャリア支援の専門性を高めるために最も重要なものは事業者理解、職場理解です。条件マッチングだけでは必ずひずみが生じます。コーディネーターがその地域のスペシャリストとして職場環境を深く理解し、求職者の共感と信頼が得られるレベルの提案ができるか。それが推薦への転換率に現れると考えています。
超高齢化が進行する日本において、安心して快適な生活環境を維持するためにも、介護事業者やその働き手に期待される役割はますます高まります。今後も事業者・働き手双方への理解を深めながら、専門特化型のメリットを生かした人材サービスを提供してまいります。