パーソルキャリア(旧インテリジェンス)が2022年4月1日付で社長交代を発表した。新社長には、同社主力事業である転職サービス「doda」の最高責任者だった瀬野尾裕(せのお・ゆう)氏が就任、新経営執行体制へ移行した理由と、未来のビジョンについて聞いた。

だれもが等しく持つ可能性を信じる会社でありたい

社長ご就任、おめでとうございます。あらためて事業内容を教えてください。

パーソルキャリアは転職サービス「doda」をはじめとする、人材紹介や求人広告、新卒採用支援サービスなど、人材分野における幅広い領域に対してサービスを提供しています。

また、副業やフリーランス領域に対するサービス強化も進めています。今年5月には、プロフェッショナル人材の総合活用支援ブランドである「HiPro(ハイプロ)」を発表しました。

当社は「人々に『はたらく』を自分のものにする力を」をミッションに掲げています。これは働くすべての人が、自らの可能性を信じ、選択・行動すること、つまり「キャリアオーナーシップ」を持つということ意味しています。我々は今後も、キャリアオーナーシップを育む社会の実現に向けて、サービス提供を行っていきます。

自社の王道「転職・採用」を軸にさらなる進化を

今後の注力分野を教えてください。

もちろん転職・採用支援は我々の事業の根幹です。当社の試算では、2030年には転職率が2倍になります。また、終身雇用からジョブ型雇用への転換などの過程において、労働市場はさらに変化していくでしょう。人材業界のリーディングカンパニーとして、転職・採用といった「はたらく」を支援する役割を担っていくことは、今後も変わりありません。

ただ、ここ数年で、働き方や「はたらく」の価値観は多様化し、新型コロナを機にこの動向はさらに加速しています。アルバイト・パートから正社員、副業・フリーランスまで、働き方は、今後ますますシームレスになっていくでしょう。

このような現状を踏まえ、今後の注力分野としては大きく2つあります。まずは、副業・フリーランス領域の強化です。キャリアオーナーシップを育む社会の実現に向け、さらには、本領域を強化していくというパーソルグループの方針のもと、同グループ傘下のパーソルイノベーションで提供していた地方特化型副業マッチングプラットフォーム「Loino(ロイノ)」とフリーランス・副業管理システム「エクスチーム」を当社に移管しました。

さらに、サービス体制を強化するために本領域を「タレントシェアリング事業」と位置付け、5月には「HiPro(ハイプロ)」のもとで、新サービスである、副業・フリーランス 人材マッチングプラットフォームサービス「HiPro Direct(ハイプロダイレクト)」を発表し、7月よりサービス提供を開始しました。

「HiPro Direct」のサービス提供に至った背景には、個人の副業のニーズが高まる一方で、企業の副業・フリーランス人材の活用実態はわずか12.3%(※)にとどまっているという実態があります。これを妨げているのは、「自社ニーズにマッチしたサービスの選択・活用が難しい」「事業課題に対してどんなプロ人材を活用したらいいかわからない」といった企業が抱える課題です。そこで「HiPro Direct」は、当社が持つ100万件以上の求人データを駆使した独自のジョブコードで、企業が簡単かつスピーディに、依頼したい業務において実態に沿った形で、プロ人材を活用する仕組みを実現しました。

(※)東京都産業労働局「都内企業における兼業・副業に関する実態調査」(対象:都内中小企業9,000 社・都内大企業1,000 社)

2つ目は、DX強化です。当社では、700万人近い登録者を誇る「doda」の有するデータを利活用したサービス開発を行っています。転職マーケットに即した求人要件を作成できるサービス「HR forecaster(エイチアール フォーキャスター)」や、ジョブごとの報酬水準を企業へ提供する「Salaries(サラリーズ)」などを提供しており、さらなるサービス展開のために、約400名のエンジニアやデザイナー、Webディレクターなどが所属するテクノロジー本部の強化も進めてまいります。

4月より、専任CxO職を設置された経緯を教えてください。

CxOは、先にお話しした、我々が今注力すべき領域を強化するために設置しました。CBO(Chief Branding Officer)は、当社が掲げるミッションをそれぞれのサービスに接続し、より満足度の高い顧客体験の提供を目指します。CTO(Chief Technology Officer)は、テクノロジー本部の取りまとめはもちろん、技術の力で「はたらく」の事業戦略を進化させます。CIO(Chief Information Officer)は、当社が情報セキュリティーやデータガバナンスを重視する企業であることを世に発信し、より先進的なIT活用を進めていきます。そして、彼らは横断的に関わり合い、総合的に顧客満足度を高めていきます。

誰もが活躍できる社会へ。まずは自社の働き方を多様化

社内の働き方の多様化についてはどのようにお考えですか?

社内は、市場と同じ流動性があるべきです。お客様に働き方の多様化への対応を提案する以上、当社が多様な働き方を率先していなければ説得力がありません。また、先行き不明な時代に、キャリアオーナーシップを持ってほしいという思いは、当社の社員に対しても同じです。育休取得の推進、副業解禁、女性管理職比率の向上などを、トップダウンで推進しながら、具体的な施策をボトムアップで提案してもらい、実行に移しています。

例えば、男性育休の1カ月以上の取得を推奨した際には、子どもがいる男性管理職と、いない男性管理職がペアとなり、家事・育児をワンオペで体験するという取り組みを採用しました。17時で仕事を終え、子どものお迎えに行って家事をして…、という一連の育児を男性にも体感してもらいました。家事や育児の大変さを、身を持って体験したことで、制限のあるは働き方をする社員たちが活躍できる環境について考えるきっかけとなり、社内で本質的な議論が始まっています。この行動や意識の変容こそが、本当の意味での働き方改革であると思います。

また、昨今の転職希望者の条件キーワードは「在宅勤務」「リモートワーク」、そして「副業可」です。世の中の働き方が多様化していく中で、働き手はよりフレキシブルな働き方ができる企業を選ぶようになっていくでしょう。副業を認めると人材が流出すると考える企業も多くいますが、副業を認めないほうが流出につながると、私は思います。当社では2018年に副業を一部解禁し、現在では全社員に解禁しています。今後さらに多くの社員に副業にチャレンジしてもらい、社外からも新たな気づきや学びを得て、それを本業に活かすと同時に、自らの今後のキャリアについて考えるきっかけにしてもらえたらと思っています。

それぞれの働き方で輝ける社会をつくることが使命

ご就任に際しての意気込みを教えてください

働き方の多様化に対するサービス提供をけん引し、キャリアオーナーシップを育む社会を実現するために、今後もさまざまなチャレンジを重ねていく予定です。キャリアオーナーシップという言葉は、ともすれば、いわゆる意識高い系の言葉のようにも感じられるかもしれない。常に皆がキャリアアップを目指さなければいけないようにも聞こえるかもしれない。しかし、そうではありません。当社が思い描くキャリアオーナーシップは、どのような状況下においても、個人が自らの働き方を選択でき、その環境(時間軸)の中で可能性を発揮し、自らの思い描く幸せを実現することです。

私が携わってきた派遣事業の経験や、アルバイト求人情報サービス「an」の幕を閉じた際の断腸の思いの中で、働き方を変えなければいけない人やその家族の気持ちと、そこに寄り添う大切さを痛感しています。当社はいま、誰もがそれぞれの働き方で輝ける社会を創るフェーズにいて、その実現こそが私の使命だと考えています。