9年連続増収に近道はない。
あるのはニーズに対応し続ける地道な企業努力

2022年7月に社名変更と本社・新宿支店の移転を実施したトランスコスモスパートナーズ。トランスコスモスのグループ企業で、13年から9年連続増収中の成長企業だ。成長の背景やグループ企業ならではの差別化、社内活性化の取り組みなどについて、代表取締役社長の瀧本一哉氏に詳しく聞いた。

国内67、海外103の拠点を活かし
人材とノウハウのグローバルな交流を

社名変更の経緯をお聞かせください。

当社は2007年にトランスコスモスの100%出資グループ会社としてトランスコスモスフィールドマーケティングを設立しました。当時は、親会社であるトランスコスモスのコールセンターをはじめとした非対面の既存顧客向けサービス事業に対し、当社はショップ販売や店頭ブースなど、対面での新規顧客獲得業務を促進するフィールド領域事業に注力しました。これによりグループ全体で新規獲得からアフターサービスまでをトータルサポートすることが可能になりました。その後、オフィスワーカーの派遣数も増加するなどフィールド以外の領域が拡大したことから、この度の社名変更となり、合わせてオフィスを拡大移転しました。

瀧本社長は今日まで人材業界一筋でいらしたのですか?

人材業界は20年以上になりますが、初めて入った会社は住宅メーカーでした。そこで入社2年目から教育担当を任されるようになると、徐々に「人を育てる業界で働きたい」と思うようになり、3年半後に人材業界へ転職しました。その後、トランスコスモスグループの人材会社へ転職すると、04年にコールセンターの採用・人事の責任者として沖縄へ行き、センター長を務めた後、13年に東京へ戻りました。17年から現社に着任、現在6年目です。

グループ企業としての強み、シナジーは?

国内67、海外103の拠点を活かした事業拡大ができる点はグループの強みといえます。23年度からの中期三カ年計画では、東南アジアを皮切りに各国のグループ会社と連携した人材サービス事業を策定する予定です。現地での派遣や日本から海外への派遣、外国人採用、ノウハウやマーケティングの輸出入など、グローバルな新サービスを生みだせると思います。国が変われば法律も文化も異なるので、トライアンドエラーは必至です。グループ内であれば、挑戦しやすく成功例や失敗例の共有もできます。

現在の派遣と業務委託の比率は?

派遣が約85%、業務委託他が約15%です。元々はコールセンターに特化していましたが、ここ1~2年でITやバックオフィスへの派遣が急速に伸びるなど、業種や職種の幅がかなり広がりました。うち親会社への派遣は50%です。親会社の成長に当社も貢献したいですし、親会社から自社サービスに対するフィードバックを得て外部クライアントに活かせるメリットも有意義ですので、バランス的には50%が妥当な比率と考えています。

13年から9年連続増収中ですが、要因は領域の拡大でしょうか。

領域の拡大は一因としてありますが、大きな要素としては、その時々のニーズに合わせ迅速に対応することを地道に積み重ねた結果だと思います。それはコロナ禍でも変わりません。例えば、最初の緊急事態宣言が出された20年の春、求人がピタッと止まると同時に短期の仕事を探す求職者が急増する現象が起きました。このとき、国が政策を打ち出した時点で対応し、短期で働ける場所と人をつなぐ業務に集中するなど適宜対応しました。

新卒の4月一括採用を通年採用にシフトする秘策

今後、注力していく分野を教えてください。

まず、派遣業界のスキルを活かし、採用業務のアウトソーシング事業を強化したいと考えています。いかに多くの人を集め、会社の魅力を伝え、ミスマッチの少ない採用をするか。採用の人手が足りなかったり必要数の採用ができなかったりする企業をサポートするサービスです。

コロナ禍では、採用のミスマッチに悩む企業が増加しました。それは求職者も同じで、20年度は4月時点での派遣登録が激増しました。それだけ、オンライン面接ではお互いに見えない点が多いということでしょう。当社では、これを機に新卒の4月一括採用を通年採用にできないか模索しています。就職直後の退職により、転職活動に対して慎重になってしまう第二新卒を紹介予定派遣することで、ミスマッチを減らした上で採用時期を通年化できるのではないかと考えています。日本ではまだ、転職回数の多さがマイナス評価されるケースがあります。求職者が転職数を増やさずに新たな道を探せることもメリットになります。慎重に就職先を決めたい求職者と、従業員を長く大切にしたい企業側それぞれの課題を解決できるサービスになると思います。

コロナ禍は、働く場所や時間、雇用形態など、働き方の概念を変えました。Withコロナ時代に合う、個々の働きやすい環境を見つけてもらうため、22年4月には仕事検索サイト「ワクプレfit」をスタートしました。「ワクプレ」とは、Work(仕事)・pleasant(心地良い)・place(居場所)を掛け合わせた造語で「仕事以外の時間も心地よく過ごすための職探し」に寄り添ったサイトです。

他に、新たな雇用スタイルとしてフリーランスにも注力していきます。フリーランスには主に3パターンあり、1つは個人事業主として問題なく自立しているケース、2つめは高いスキルを持ちながら介護や育児などで時間制限があるケース、3つめは独立したいけれど仕事があるか不安で踏み込めないケースです。このうち2と3に該当する人を当社で仲介し、活躍の場を提供していくプランを設け、国内だけでなく、海外企業への紹介も視野に入れていきます。また、トランスコスモスグループから独立したい社員の受け皿としても、活用して欲しいと思います。その上で、やはりトランスコスモスに戻りたいと思えば「ただいま」「おかえり」と言い合える環境づくりを目指します。

DX分野の事業計画はありますか?

データアナリストの育成、派遣をシステマティックに実施できるよう計画中です。慢性的な人不足分野ですので、未経験でも素質がある人材を育て、新たな道を提案していくことも必要だと感じています。

社員の意見で「派遣スタッフ」の呼称を「パートナースタッフ」へ

新サービスの立案は従業員からのアイデアも積極的に採用するそうですね。

私1人で考えられることなど、たかが知れています。よいアイデアはどんどん活かし形にしていくことで、社内が活性化していくと思います。そのために私ができることは、従業員が会社に意見を言ったり相談したりしやすい環境づくりです。まず、2ヶ月ほどかけて100人を超える従業員一人ひとりと面談しました。その中で、私の採用担当の経験から個々の適正や長所を見極め、それぞれがもっとも輝ける場所で働けるよう、場合によっては部署変更の提案をすることもありました。実は、事業企画開発部の社員も、事務職だった社員の中から広報・PR職向きと感じた人にお願いした経緯があります。結果、さまざまな新サービス展開につながりました。

実際に採用したアイデアの一つとして、派遣スタッフの呼称をパートナースタッフに変更したことが挙げられます。派遣スタッフを「派遣」と略して呼ぶ習慣に違和感を覚えていた社員からの提案でした。パートナースタッフ、クライアント、そして派遣会社の三者は対等であるべきですし、対等を保つことも私たちの役割です。「派遣」と呼ぶことは、どこか上から指示している感覚がありますが、古くからの習慣で世間的にも慣れてしまっていたのですね。呼び名変更の提案に、ハッとさせられました。号令初日から全従業員、誰も間違わずにパートナースタッフと呼ぶようになったのは驚きでした。同時に、皆がパートナースタッフの皆さんを大事にしていることを、誇らしく思いました。

他にも、従業員からの提案で、パートナースタッフ向けサービスを採用しました。当社のパートナースタッフは女性が多く、かつ家事や育児を担いながら働く人の比率が高い。働く女性の家事・育児負担を軽減するため、Oisix(オイシックス)やCaSy(カジー)などのサービスを格安で受けられるようにしたところ、社内外から大好評でした。正直、このような発想は私では思いつきません。このような提案がどんどん出てくるようにするため、当社内では役職名を付けた呼称を禁止し、全員一律「さん」付けで呼び合うことで立場を超えて話しやすい雰囲気にしています。

このように、私は人に恵まれ助けられながら生きてきました。私も、できる限り多くの人の助けになりたいと常に考え、その気持ちを大切にしながら、事業展開を進めています。