ランスタッド流自律型組織で取り組む、世界のプロフェッショナルとクライアントをつなぐ挑戦

世界最大級の人材サービス企業であるランスタッドの日本法人、ランスタッド株式会社。2022年7月、同社プロフェッショナル事業本部のシニアディレクターであった萩藤国士氏がマネージング・ディレクターに就任した。昇進の経緯や着任の期待感、今後の目標などについて詳しく聞いた。

人集めからスタートしITチームを1名から50名に

ご就任おめでとうございます。改めて、御社の事業内容をお聞かせください。

ランスタッドはオランダに本社を置く世界最大級の人材サービス会社です。NYSEユーロネクスト・アムステルダムに上場しています。日本では、派遣領域のスタッフィング事業部、テクノロジー事業部、クライアントソリューション事業部、そしてハイクラスの人材紹介がメインのプロフェッショナル事業部があります。

萩藤さんはずっと人材業界に従事していらっしゃるのですか?

そうですね。人材コンサルタント歴は18年以上で、派遣と紹介の両方を経験しました。関西学院大学在学中にカナダ留学やウクライナ現地法人でのインターンシップをし、卒業後、人材業界に入りました。

マネージング・ディレクターにご就任された経緯をお聞かせください。

前任のキャメロン・ブレットが、ランスタッド・カナダのプロフェッショナル・アンド・エンジニア事業部のグループ・プレジデントに就任が決まったため、後任として選ばれました。複数の候補者が幾度かの面接をし、上司やチームが納得した上で決まりました。ランスタッドは働く人の能力やパーパス、チャレンジ精神を重視するので、繰り上げ就任の方式はとりません。

なぜご自身が選任されたと思われますか?

ITテクノロジー領域の成長に関わった点は大きいと思います。私は2016年に入社しプロフェッショナルの人材紹介事業部に加わりましたが、当時のITテクノロジーチームメンバーは私だけでした。人集めから任され、現在は約50名のメンバーがいます。また、マニュファクチュアリングチームやSCM(Supply Chain Management)チームの立ち上げも担当し、現在はBtoCチームを担当しています。今年はPCS(Professionals Contract Specialist)というハイエンドのプロフェッショナル派遣も立ち上げました。現在の派遣領域はIT、HR/アカウンティングファイナンスで、今後はリーガルコンプライアンスやSCM領域も広げる予定です。プロフェッショナル派遣の候補者は70~80%が外国人で、プロフェッショナル事業部のメンバーは全員バイリンガルです。

キャメロンやチームメンバーからの評価としては、「現場をよく見ている」という声がありました。おそらく、私は時間さえあればメンバーやクライアントとのミーティングに顔を出していて、個々のプロジェクトの詳細をよく知っているからではないかと思います。

経営やマネジメントをしていると数字だけを見がちになり、数字の裏側まで見なくなることがあります。例えば、ファーストインタビューの目標数が達成しなかったとして、なぜ未達なのか、コンサルタントが求職者の声を聞けていなかったのか、クライアントとの連携がとれていなかったのかなど生の声を確認することが大事で、それには現場を知る必要があります。

プロフェッショナル派遣を通じて高齢化社会に貢献

プロフェッショナル派遣を立ち上げたのは、どのような理由からでしょうか。

主に3つの理由があります。1つはクライアントニーズ。ハイクラス人材の派遣を求める声が増えてきたことです。特にエンジニアは、プログラミング言語は重視しても会話の言語は日本語以外で構わないので、世界各国の人材がいる当社へ期待を持ってくださっています。

2つめは、Aging Society。高齢化社会への取り組みです。今後、日本の労働力人口は減り続けますので、シニアや外国人の採用は喫緊の課題です。ここにプロフェッショナル派遣が貢献できると考えています。シニア世代は、基本的に正社員である必要がありません。一方で、まだまだ元気で働ける、もっと社会貢献したいシニア人材は多く存在します。エグゼクティブクラスで定年まで勤め上げたがまだ働きたいというシニア人材を、我々が派遣を通じてサポートしていきたいと思います。外国人に関しては、日本在住のプロフェッショナルはもちろん、現在マレーシアやインドの支店とタイアップして、日本で働きたい人に研修や資格取得の機会を提供できる仕組みを作り始めました。

3つめに、紹介事業とは、収益構造が異なるビジネスのため、ファイナンシャル面でのリスクヘッジや、激しく変化する社会情勢に対応する企業の体力を保持する意味もあります。

スタッフィング事業部とのシナジーはありますか?

両事業部はターゲットが全く違うため連携の頻度は少ないですが、ワンストップのシナジーは生まれています。例えば、スタッフィング事業部のクライアントがCFOやCHROをスポットで探しているときにプロフェッショナル事業部のPCSサービスを利用していただくなどです。

シナジーという意味では、プロフェッショナル派遣を始めたことで、紹介の候補者として登録している人を派遣できるようになった点があります。プロジェクト単位の短期発注に応えられるようになりました。派遣から正社員になったケースもあります。

テクノロジーは人に寄り添うために活用する

DX面で直近に取り組まれたことがあれば教えてください。

RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)※ や、求職者がおこなう各種登録作業をPCでなくスマホでできる仕組みは実装済です。派遣スタッフに対しては「心の診断アプリ」の提供を開始しました。その日の気持ちを診断し、状態によってはコンサルタントがフォローをしています。事務作業的な問い合わせはチャットボットやLINEでスムーズに、不安や心の相談は人に。ランスタッドのモットーであるTech. & Touch (テック&タッチ)の一環として、DXを進めることで人に寄り添う機会の創出をしています。

他にも、人を大切にする取り組みとして、派遣スタッフへ感謝を伝えるサンキューイベントをスタッフィング事業部で開催しています。今年はすでに全国で50回以上開催しました。

※ 事務作業などをロボットに代行させること

自律した働き方の尊重で離職率5%を実現

御社は社員の離職率がかなり低いと聞きました。その要因は?

人材業界の離職率は一般的に30%といわれますが、当社は5%程度です。要因をひと言でいうと、自由な働き方ができる居心地のよさでしょうか。社員をプロフェッショナルとして尊重し、労働時間や場所にとらわれず、パフォーマンスで評価します。それは単に成果主義を指すのではなく、オートノミー(自律)・パーパス(働く意義)・プログレス(向上)を確立させて成果を出しましょうという意味です。成果が出ずPIP(Performance Improvement Plan/業績改善プログラム)が出る状態になっても見捨てず、再トレーニングの機会が与えられます。実際に、再トレーニングを受けたことで目覚ましい成長を遂げた人がいます。このように自律した自由な働き方ができる職場環境が、離職率の低さにつながっていると思います。

PIPは誰もが通る道です。私も前職で経験しました。PIPは自分の弱点を知り改善して成長するチャンスだと思います。そのため我々はPIPではなく、PTA(Performance Turn Around/業績好転機会)と呼んでいます。

3年で3倍の成長目標は野望に終わらせない

萩藤さんは、過去の勤務先で年間通期MVPや2年連続年間売上No.1などの賞を獲得されています。ご自身のスキルアップのコツを教えてください。

私はいつも、80%の力で120%のパフォーマンスを出すように心がけています。100%出し切ってしまうと、トラブルが発生したときの余力がないからです。80%の力で120%のパフォーマンスを出すためには、固定観念を壊す必要があります。例えば、面接は本当に3回も必要か考え、1回でも問題ない方法を探します。スピード重視の面接など1回のほうがいい場合もありますよね。他にも、よく四半期で目標を立てますが、4カ月も待たず1カ月で達成してもいいわけです。社内のAIR(answer in the room/答えはその部屋の中にある)というミーティングでも、皆でこのような話をします。合わせて、自分の技術に自信を持つことや、勝ちぐせをつけることも意識しています。勝ちぐせは、人と比べるのではなく自分に勝ち続けるという意味です。

個人的には、事業部を3年で3倍にする野望があります。数値目標というより、関わる全ての人が成長し、成功し、ハッピーになって、その結果として業績が3倍になるイメージです。この「人ありき」「人を大切にする」カルチャーはキャメロンが作り上げてくれたもので、私はこれを継承し、育てたいと思っています。